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最終条件・ネタスキルを取得する覚悟

「イベント最終日がぁ…………キターーーー!」

「ユーミルうるせえ。何でお前はそんなに元気なんだ」

「そういうハインドは元気が無いな。腹でも壊したか?」

「壊すか。俺はダサかろうと寝る時は腹巻きを着けてる」


 手編みであったかいんだぞ?

 って、今はそんなのどうでもいい話だ。

 今はイベント最終日である水曜、午後十時。

 イベントは木曜の0時きっかりで終了するので、残りは実質二時間だ。

 その追い込みでごった返すプレイヤー達を掻き分け、俺達四人はホーマ平原を西へ。


「ハインドさん。今夜は早めにログインしていたみたいですけど、何をなさっていたんですか?」

「ああ。ちょっとインベントリの整理と、銀行に所持金を預けにな。ゲーム内とはいえ、不必要に金を持ち歩くのは落ち着かなくてな」

「そう……なのですか?」

「そうだよ」


 リィズは俺の行動に少し疑問を持ったようだったが、それ以上は追及してこなかった。

 トビは……ああ、こりゃ勘付いてる顔だな。

 二人よりもTBの情報も熱心に収集してるから、それも当然か。

 俺の肩に腕を回すと、コソコソと二人に背を向けて聞こえない様に話し掛けてくる。


「ハインド殿……まさか取ったのでござるか? 例のスキル。昨夜の解散後、気になって神官のスキルツリーを確認したのでござるが……」

「取った。スキルポイントの書を使ったらギリギリ足りた。ただ、その所為せいで取りたかった他のスキルは全部お預けになったけどな」

「おおう……構わないのでござるか? 今回は良くとも、今後の戦闘で他のプレイヤーよりも遅れを取ることに……」

「しゃーない。二人には終わるまでは言うなよ? 気ぃ使ってちゃんと動けなくなるだろうから」

「……男でござるな! ハインド殿は!」

「お前は大袈裟なんだよ。これはゲームだぞ?」


 男二人で笑い合っていると、ユーミルとリィズが同じタイミングで首を傾げた。

 いや、動きがシンクロした程度でそんなに嫌そうな顔をするなよ……お互いに。

 ガンを飛ばし合うな。

 最後にもう一度、メニューを開いてランキングを確認しておく。


イベントアタックランキング ※リアルタイム更新

1位:傭兵アルベルト(重戦士) 9978Pt

2位:ユーミル(騎士) 8893Pt

3位;ヒポポタマス(重戦士) 8354Pt

4位:( ゜Д゜)(重戦士) 8210Pt

5位:パンダ・ザ・グレート(重戦士) 8122Pt

         ・

         ・

         ・


 三位が入れ替わって、一位が昨夜よりも更にダメージを伸ばしているな……。

 特にこの一位の人は凄い、ぶっちぎりじゃないか。

 ――が、この数値はある意味では分かり易い。

 要は、一万ダメージを超えてみせればいいんだろう?


「じゃあ、行くかね」


 俺のゆるっとした号令に、三人が一斉に頷いた。




 それから約三十分後、午後十時半。

 激しく暴れていた『エルダータートル』がようやく高速スピンを止める。

 同時に、それはHPが残り少ない事を示しているのと同じだ。


「よし、ユーミル!」

「待て待て、ハインド! これでは昨日と同じだぞ!?」

「いいから。俺を信じろよ」


 ユーミルは俺の真意を測りかねている様子だったが、やがて首を縦に振った。

 ま、何も教えていないから仕方ないな。


「……分かった!」


 ユーミルが剣を持ち替えた直後、新スキルの詠唱を開始。

 大魔法の演出である巨大な白い魔法陣が足元に浮かび、周囲を眩く照らしていく。

 長い詠唱が完了し、俺は――『サクリファイス』という魔法をユーミルに向けて発動した。

 すると、ユーミルの体が金色の光を帯びて輝く。


「おおっ! この金色のオーラは、勝利フラグという奴だな! 気が高まる……溢れるぅ……!」

「ば、馬鹿言ってないで、早く! 何コレめっちゃ体痛い! うぎぎぎぎぎ!」


 毒や火傷のスリップダメージとは比較にならない速度で、俺のHPが減少していく。

 それはいい、このスキルの仕様だ。

 己の身を神へと捧げ、引き換えに加護を願う――そんなスキル。

 しかし、この体がバラバラになりそうな痛みは完全に誤算だっ!


「は、ハインドさん!? 物凄い勢いでHPが削れてますよ! 今、回復を――」

「待てリィズ、ポーションはいい! このスキルは使用中回復不可なんだ! イダダダダ! トビィ!」

「はっ!? ゆ、ユーミル殿! いざ!」

「うむ! 足止めを頼む!」


 トビが影縫いを、ユーミルが前へ。

 そして長かったイベントの最後の一撃が、気合の声と共にエルダータートルに振り下ろされた。

 轟音、四方に飛んで行く土砂、更には凄まじい風圧が周囲に撒き散らされる。


 表示ダメージ――『17437』。

 それを見届けた瞬間、俺のHPは0になった。

 あ……れ? 地面が、こんなに近くに……。


「兄さん? 兄さん!? いやぁぁぁぁっ!」


 ちょっ――リィズ、これはゲームだから。

 だから、そんなに悲壮な叫び声を上げなくても……。

 あー、聖水もったいないって。

 蘇生も不可能だからさ、これ……。

 やがて周囲の物音も聞こえなくなり、視界が灰色に染まっていく。

 体が言う事を聞かない、力が入らない。

 体温が、大事な熱がスーッと抜けていくのが感覚で分かる。

 ダメージを見てはしゃいでいたユーミルが、慌ててこちらに駆け寄ってくる……その姿を見たのを最後に、俺の意識はぷっつりと途切れた。













「怖っ! 怖ぁっ!? 何この無駄なリアリティー!?」


 意識が戻った瞬間、俺は思わず叫んだ。

 近くに居たNPCが大声にびくりと肩を竦ませる。

 あ、ごめんなさい。

 ここは……ヒースローの街か?

 確か、死に戻る場所は最後に訪れた街か村だとトビが――


「神官の……ソロで……かな?」

「……ないと……の、ばか……だろ?」


 ひそひそと男女のプレイヤー二人組から陰口を叩かれているのを感じる。

 リスポーン地点でわざわざ観察してるお前らの方が馬鹿だよ! バーカ!

 ソロで突っ込んで死に戻ったんじゃないっての、畜生……いてて。

 筋肉痛みたいにスキルの後遺症が残ってるし、気分は最悪だ。

 俺は何時いつもの酒場で待っていると三人にメールを出してから、移動を開始した。




 事前に預けていた所持金を銀行のNPCを通じて引き出し、耐久値の減った装備品を修理してから酒場へ。

 これで残るデスペナルティは能力値低下だけだが……終わるまで全部で二十分なのか。

 買い物などの雑事を済ませても余るし、絶妙に邪魔な時間だ。

 今夜はもう関係ないだろうけど。

 あのダメージなら、二位以下に抜かれることは万に一つもないだろう。


「ハインドさん!」


 丁度四人掛けの席が空いていたので確保しておくと、酒場に転がる様に入ってきたリィズが抱き着いてくる。

 遅れて入ってきたトビは済まなそうな顔を、ユーミルは腕組みをして怒りを発散しているのが分かった。

 ああ、もしかしなくても、トビが全部話しちゃったのか。

 ――これは、場所選びを失敗したかな……。


「と、取り敢えず外に出ようか……」


 やっかみと冷やかしが入り混じった視線を浴びながら、抱き着いたままのリィズを連れて外へ。


 


 街外れの花壇の傍のベンチで、俺達は腰を落ち着けた。

 ええと……まずはリィズか。

 何時いつまで俺にしがみついてんだ?

 ずっとくっついたままで、そのまま一緒にベンチに座ってしまったのだが……。


「あー、その、リィズ……?」

「嫌なんです……」

「な、何が?」


 顔を胸の辺りに押し付けながら、くぐもった声で話してくる。

 不意に顔を離すと、目の端に涙を浮かべて俺の顔を両手で挟んできた。

 あの、兄さんは非常に恥ずかしいのですが、この体勢……。


「例えゲームだと分かっていても、兄さんが死ぬところを見るのは嫌なんです……! もう二度と、あのスキルは使わないで下さい!」

「む……で――」

「でもは禁止です! 兄さん!!」

「……。ま、まあ、スキル中は体が痛いし? 死に戻りの時も妙に心細かったし? うん。しんどいからもうやらんよ。だから泣くなって……」


 泣いていることに気付いていなかったのか、俺が指で涙を拭おうとすると、顔を赤くして帽子を深く被ってしまった。

 それでようやく体が離れる。

 こんなにリィズに過剰な反応をされるとは思わなかった……少し反省。


「あ、あー……しかし、本当に心細いでござるよな! 死に戻りの時は!」

「お、おう。トビも体験済みだったな。徐々に体から生命力が抜けていく感じが怖いよな! 余り何度も経験したいもんじゃないぜ!」

「全くでござるな!」


 トビにも気を遣わせてしまっている。

 すまん、今度学校でジュースおごるから……。

 ぎこちない笑顔を交わしていると、先程から腕組みを解かないユーミルが俺の前に威圧するように立った。


「ハインド。私への弁明がまだだぞ?」

「そ……そう、でした。あ、あのう……」

「全てトビから聞いた。あれはスキルポイントを10も消費する、誰も取らないようなネタスキルだと。……お前を犠牲にするような勝ち方をして、私が喜ぶとでも思ったのか!?」

「……確かに俺のスキルポイントまでサクリファイスしたけど、イベントでの勝ちは確定したようなもんだからいいじゃないか。ハッハッハッ!」

「全然笑えないんだが」

「はいすみません」


 スキルの取得に必要なポイントは通常1~2、大技でも精々3といった所だ。

 この『サクリファイス』を取得したことで、俺のスキル構成はレベル30の神官としてはボロボロのグダグダだ。

 必要なスキルを全然取得できていない。

 『ヒーリング』の上位互換である『ヒーリング・プラス』、パーティ全体を小回復する『エリアヒール』等々……。

 スキルは基本的にポイントの振り直しが不可なので、今日のような事態を見越して取得していなかった有用なスキルの数々だ。


 対して『サクリファイス』ときたら、もたらす効果こそあのように絶大だが回復不可・蘇生不可になった上で必ず使用者が死ぬ正にネタスキルである。

 パーティの回復役が真っ先に死ぬ、蘇生不可で必ずデスペナルティを受ける、神官本人には何の得もないという三重苦のスキルだ。

 ユーミルの怒りももっともなので、俺は慎重に言葉を選んだ。


「それでも、俺は報酬を受け取って喜ぶお前の顔が見たかったんだけど……駄目だったか?」

「なっ……!?」


 ユーミルの顔が朱に染まる。

 あれ、予想していた反応と違うな……。

 横目に見えるトビのにやけ面が妙に鬱陶しい。


「うひひひ。ユーミル殿、真っ赤でござるな!」

「トビは黙ってろ! は、ハインド、おま、お前……っ!」

「補填にスキルポイントの書も使ったし、余り気にするなよ。相談も無しに勝手にやった事だしな。それに、俺自身もランキングで負けたくないと思ったのは確かだから。全部が全部、お前の為って訳でも無いさ」

「そ、そういう事なら……」

「そんなどうでも良い事より、もっと素直に喜んでいいんだぞ。1位確定の上に、17437ダメージだぞ? ん?」

「お、おお……」


 じわじわと一位という事実が染み込んで来たのか、ユーミルの顔がニヤニヤと嬉しそうなものに変わる。

 そうそう、それで良いんだよ。

 それから俺の腕を掴んで強引に立たせると、諸共に手を上げて元気良くこう叫んだ。


「私達の勝ちだぁー!」

「あー、はいはい」

「こんな時まで淡泊だな!?」

「体が痛くてな……大声を出す気になれん」


「り、リィズ殿!? 状況が気に入らないからって、拙者を殴らないで!? やめ、やめてぇ!」

「――! ――!」


 イベントの時間はまだ残っていたが、全員一致の意見で今夜はもう戦わないことに決定。

 そのまま雑談をしながら日付が変わり、イベントの最終結果は以下のようになった。


イベントアタックランキング ※リアルタイム更新

1位:ユーミル(騎士) 17437Pt

2位:傭兵アルベルト(重戦士) 9978Pt

3位;ヒポポタマス(重戦士) 8354Pt

4位:( ゜Д゜)(重戦士) 8210Pt

5位:パンダ・ザ・グレート(重戦士) 8122Pt

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[一言] ユーミルは怒る資格は無い 調べれば出てくるスキルツリーの、正式に存在するスキルを調べもせず、出来るかどうかの計算もしないで、他人任せに全てをした上で、『こんなことになるなら』とか、言う資…
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