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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

彼女が「勇者」と呼ばれるまで

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イベント終了

 イベント開始の演出が用意されているなら、終了もまた然り。
 という訳で木曜午前九時~午後三時のメンテナンス明けに、運営の公式ページに終了の演出を行う旨が発表された。
 予定では前回と同じ十時半からだそうだ。

 この情報を受けて、掲示板の「魔王ちゃんを応援するスレ」は大盛り上がりだったと秀平が話していた。
 イベントで張り切り過ぎた俺達は、この日はその終了演出だけ見たらログアウトする予定だ。
 但し、今日も長くプレイするというトビを除いてだが。

 ヒースローの街の酒場に集まって、アップデートで実装された満腹度を試しながら終了演出までの時間を待つ。
 TBで俺達が最初に注文した料理は、ライ麦パンにハムとチーズを挟んだサンドイッチ、それにミルクの三品である。

「うーん……私は普通だと思うが」
「そうでござるか? マスタードがピリリと効いていて、悪くない味だと思うのでござるが」
「この人は、舌が肥えている自覚が無いんですよ。忌々(いまいま)しくも毎日ハインドさんの料理を食べているんですから」
「普通って言ってる割には食べるの早いしな。ほら、こぼれてるって」
「ん!」

 ユーミルがこぼしたパンくずを拾い、空いた皿の上へ。
 これを作ったここのマスターは……あの渋くて細身のナイスミドルか。
 昨日まではカウンターの中に立って会話しているだけだったのに、今日になって急に忙しく調理を行っている。

 未成年でなければ飲酒も可能だそうで、疑似的に酔うことも出来るのだとか。
 ちなみにTB内での食事だが、現実での満腹中枢を刺激しないのだそうで。
 ゲーム内で食べ過ぎた所為せいで現実で食事を摂れない、などということは起きないらしいので安心だ。

「店ごとに味に差はあるんだろうか? TBのAIの性能を考えると、味に個性があったとしても驚かないが」
「あるとしたら、お気に入りの店を探す楽しみというのも発生しますね。ハインドさんはTB内でも料理をなさるんですか?」
「ああ、するよ。どうも自分で作った方が、買うよりも安く済みそうだからな」
「ゲームの中でも倹約でござるか……」
「こいつは徹頭徹尾こうだぞ? ゲーム開始直後からこの調子だ」

 そう俺を評してくるユーミルの頭上には、プレイヤーネームが表示されていない。
 ダメージランキングで桁違いの数字を出してしまった為、不正を疑うプレイヤーに絡まれない様に――というか、既にユーミルがログイン直後に絡まれた。
 かなりソフトな表現で要約するとこんな感じで。

「騎士が一位なんて不正チートに決まってる! あんなダメージはおかしい!」
「それとも運営とグルなのか? あ?」

 実際はもっと口汚い言葉を大量に使ってののしってきたので、GMコールの末に丁重にお引き取り願ったが。
 TBのGMはプレイヤーに混じって巡回している場合も多いらしく、運が良ければ通報から直ぐに駆けつけてくれるそうだ。
 俺達の通報にも髭のオジサンが即座に駆けつけ、暴言を吐いて来たプレイヤーに厳重注意して去って行った。
 暴言の場合は二回目でアカウント凍結、一定期間ゲームができなくなるのだそうだ。
 そんな訳で、そのGMさんの助言もあってランキングに名前が載っているユーミルだけ非表示にしておくということに。

 ネームの非表示設定はPK行為等をしていない青いネームのプレイヤーだけがオプションで変更可能な機能で、PK及びNPCへの犯罪行為を行った履歴があるプレイヤーは非表示にはできない。
 ネームを非表示にしているプレイヤーは少なくないので、特にユーミルだけが悪目立ちなどするということもないだろう。
 ついでに俺達全員がメールの受付設定を「フレンドのみ」に変更。
 これでプレイヤーネームを知られるだけで、脅迫状紛いのメールを送られる心配が無くなった。
 ユーミル宛に届いたその手のメールも全て通報済みだ。

 ユーミルは恥じるところが無いのにコソコソするのは気に食わないと言っていたが、運営がランキング一位のリプレイを動画公開するらしいのでそれまでの辛抱だ。
 ついさっき、運営からメールでパーティ全員に動画を公開するか否かの確認がされたが、絡まれたこともあって全員一致で怒りの承認。
 疑われたままでは、今後TBで何をやっても楽しくないだろうからな。
 リプレイ動画はイベント終了演出の後にアップロードされる予定とのこと。

「おっ、字幕が来たでござるよ皆の衆! いざ、魔王ちゃんに会いに!」
「トビ、お前ああいうのが好きなの?」
「ロリコンなのか?」
「変態なんですか?」
「無情なお言葉の数々に涙! って、違うでござるよ! ロリとか関係なくて、こう……思わず守ってあげたくなるというか、そういう可愛らしさが拙者の琴線に――」
「よーし、外に出るかー」
「待って! 置いていかないで!」

 会計を済ませ、頭を下げてくるマスターに背を向けて外に出る。
 今回は事前に公式から告知があったので、前回よりも大勢のプレイヤーが外に集まっていた。



 空間が軋みを上げて歪む。
 不安定な像は徐々にその輪郭を結んでいき、やがて空へとその姿が投影された。
 ただし皆が期待していた可愛い魔王ちゃんの姿はなく――そこには魔王軍No2である、口元を歪めてニヤリと笑うサマエルの姿が。

『ハッハッハッハッ! 一週間ぶりであるな、愚民共よ! ――待て待て、石を投げるな、魔法を撃つな、矢を射るな! まずは私の話を聞けぇ! その後で魔王様が貴様らに御言葉を下さる!』

 もう苦笑いしか出ない。
 ちなみにトビは皆に混じって石を投げまくっていた。
 魔王ちゃんも出ると聞かされると、ようやく周囲が静かになる。
 ……良く聞くとうっすらと、サマエルの声の後ろで舌っ足らずな様子で発声練習をしている声が混じっている。
 あいうえおあお、みたいな……俺の気のせいか?

『ウオッホン! 貴様らの戦いぶり、遠く魔王城からしかと見せて貰った。その結果を踏まえ、特に我等の敵として見込みありと認められる者には、我等から戦いに役立つ品を贈ることとしよう!』

 サマエルが言っているのはランキング報酬の話だろう。
 まだ『勇者のオーラ』はユーミルの手元には届いていないので、この終了演出が終わると同時に渡されるという流れのようだ。

『それらを用いて更に血にまみれ、戦い、戦い! 強者となって我らの前に立つのだ! 魔王様が直々に素養を認めた者の名を、これから順に呼ぶ。光栄に思うのだな! ――さっ、魔王様。出番ですよ』
『さ、し、す、せ、そ、さ、そ――えっ、もう!? 待って待って!』

 ガタガタ、バサバサという物音が暫く続き、焦った様子の魔王ちゃんが空へと映り込んだ。
 プレイヤー達――特に男性プレイヤーは大盛り上がりだ。
 魔王ちゃん……前回、盛大に嚙んだのを気にしていたのか……。

「「「魔王ちゃーん!!!」」」
「うぉぉぉぉ! 魔王ちゃぁぁーーん! で、ござるぅぅぅ!」
「「……」」

 俺とリィズはトビの様子にドン引きだ。
 こいつ、こんな一面があったのか……知らなかった。
 ユーミルは報酬が楽しみで仕方ないのか、無視してじっと魔王ちゃんの方を凝視している。

『ま、まず、もっともタートルの急所を抉った非情な者の名は、盗賊エドワード! ……である! きちゃ――貴様には、星の首飾りをくれてやろう! ありがたく受け取るがいい! 続いて――』

 つっかえながら噛みながら、たどたどしく魔王ちゃんが各ランキング一位のプレイヤーの名を順番に読み上げていく。
 その健気な様子に、プレイヤー達は更に盛り上がった。
 野太い声援って、圧迫感が凄いよね……リィズが少し嫌そうな顔をしている。

 今呼ばれたクリティカルランキング一位のプレイヤーはこの近くに居たらしく、報酬アイテムよりも魔王ちゃんに名前を呼ばれたことを大喜びしている様子だ。
 頭上に光を放つアイテムが出現し、手を差し出すとその上に首飾りがポトリと落ちた。
 なるほど、そういう……って、オーラなんて実体の無いものはどうやって受け取るんだ?
 ログインしていないプレイヤーも居るだろうし、直接インベントリに入れられる?

 その後もランキングの結果が次々と発表され、遂にアタックランキングの番が回ってきた。

『最後に! 今回我が最も注視していた、天に轟く一撃をエルダータートルに叩き込んだ者。その者を、我は好敵手である勇者として認めようではないか! 但し、貴様には我から何も贈らん! 既に貴様の身には、相応ふさわしき力の波動が宿っていることだろう! 我は、魔王城にて貴様の到着を待っているぞ、勇者ユーミルよ! ハーハッハッハッハッハッハ! ――けほっ、けほっ!』
『み、水! 誰か魔王様に水をっ! 大丈夫ですか魔王様! ――は、話は以上である! 暫しの別れだ、愚民共よ!』

 石を投げられる前に、むせた魔王ちゃんを庇いながらさっさとサマエルが投影を終了した。
 あの……オーラは?
 ユーミルも魔王の言葉の意味が分からなかったのか、俺と一緒に首を傾げるのだった。
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