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戦術改善と暫定到達点

 結論から言うと、俺たちが撤退したのはあの『アイスワイバーン』を倒してすぐのことだった。


「鹿が止まらないでござるぅぅぅ!」

「ユーミル、左、左! 抜けてるっ!」

「ど、どこだ!? 熊が邪魔で見えんぞ!?」


 結局、また失敗の原因となったのはあの『シャープディア』だ。

 ワイバーンを倒したことで気が抜けてしまった面も大いにあるだろうが、数を増した集団に紛れてくる鹿が抜ける抜ける。

 リィズの『グラビトンウェーブ』を使えなかったのも痛い。

 奮戦も虚しく、あっという間に壁がボロボロになっていく。


「――仕方ない、撤退! 撤退だ!」

「何だとっ!? まだ私はやれる!」

「お前はよくても壁が悲鳴を上げてんの! 下がるぞ!」

「おのれぇぇぇ!」


 毎ウェーブのミスが積み重なり、壁の耐久ゲージがミリになったところで撤退。

 歯軋りをしつつ粘ろうとするユーミルは、俺が引きずっていった。

 急いで全員で門に触れ、一応は記録を残すことに成功。

 落ち着いた後で、都市内で確認したその時点での順位はなんと……。


「パーティ順位15位!? 高いぞ! 私の個人順位は43位だが……」

「おお、中々にいい……とはいえ、これは予想できたことだけど」

「そうですね。掲示板にはワ――こほん。あのレベル50のボスに関する情報は一切ありませんでしたから」

「シャープディアの話題ばかりでござったしなぁ……それにしても、あの移動速度は本当に厄介な」

「うん。でも、ミスを減らせばまだ上を目指せそうだね。どうしようか?」


 東門の人混みから僅かに離れて、俺たちはコソコソと会話を交わす。

 門の前であれだけ大量のプレイヤーがたむろしている理由が分かった。

 イベント戦は連続トライも可能なのだが、それを選択した場合は一切の間を置かずに再戦となる。

 こうやって状況確認や前戦の反省・改善など、落ち着いて話し合いをしたい時は一度戻らなければならない。

 セレーネさんの言葉に、ユーミルが頷いて答える。


「もちろん、もう一度だ! 料理のバフ効果が残っている内に行こう! さあ!」

「そういや今の戦闘、所要時間ってどのくらいだった? リィズ」

「三十分弱……でしょうかね」


 そうなると、挑戦回数は残り二回か三回。

 ギリギリでバフ効果が時間切れになるのは怖いので、安定を取るなら二回か。


「よし。じゃあ、早目に行くか」

「ハインド殿、ユーミル殿の撃破数稼ぎはどうなさるので?」

「そうだな……大体、敵レベル40くらいまではどうにかなりそうか。そこまでは積極的に集めて、40のスノーゴーレムから先は気にせず全力で。リィズ、ダメージ計算は任せていいか?」

「はい。お任せください」


 敵のダメージコントロールは、数字に強いリィズに任せる。

 他にも前戦の反省などを少々。

 そうして現時点で言いたいことは全て言い合ったので、後は挑戦を積み重ねるだけだ。




 今回のイベント、俺たちの調子は非常に良いと言える。

 懸念材料だったユーミルとトビの連携も、長い戦闘が功を奏したのか改善傾向だ。

 本日二戦目は『アイスワイバーン』の処理に失敗して防衛戦線が崩壊してしまったが、続く三戦目。

 まずはその序盤……。


「……焙烙玉、二です!」

「トビ、一発目! ユーミル、続いて二発目!」

「承知いたした!」

「分かった!」


 重力波が解けた直後に爆発が二つ続き、敵が残らず消滅した。

 中盤、敵の数が範囲魔法と焙烙玉で覆い切れないほどになるとセレーネさんの出番が増える。


「――ハインド君、撃ち漏らしが三体! 左はお願い!」

「はい!」


 ユーミルの個人撃破数稼ぎは順調に進み、壁もノーダメージ。

 そして一戦目、『アイスワイバーン』にスキルを注ぎ込むことで息切れしていた問題もとある手段を用いることで解決した。

 その手段というのは、実にシンプル。


「着地狩りだぁぁぁ!」

「ユーミル、やっちまえ! 倒し切れれば長いインターバルをゲットできる!」


 ワイバーンの登場直後に、リィズのデバフに加えてデバフアイテムを投げ――能力ダウンが成功した直後に、攻撃スキルが一斉に放たれる。

 こいつは飛んでいる時間が長いので、最初に必ず地上にいる時間……つまり登場直後に畳みかけることで、討伐時間を大幅に短縮。

 ウェーブの時間は一定なので、早目に倒してしまえばそれだけWTを回復させる余裕ができる。


「おおっと、逃がさんでござるよ!」

「ナイスだ、トビ!」

「今の内に!」


 飛び立つ寸前のワイバーンにトビが影縫いを使い、三人が追撃をかける。

 同時に俺が『クイック』を使ってトビが『影縫い』を二連発、この方法なら撃破を安定させることが可能だ。

 こうして『アイスワイバーン』の出落ちが完成、スキルのWTを消化するいとまが生まれる。

 パーティにも束の間、弛緩した空気が発生した。


「ふぅー、ここまではいい感じだな……ワイバーンの処理も上手く行って何より」

「うむ、これは更なる高順位を狙えるな! 私の個人成績も!」

「序盤から中盤までは、八割方ユーミル殿に撃破を回したでござるからなぁ」

「ええ。しっかり1位を取ってもらわないと困ります」

「焙烙玉を沢山用意しておいてよかったよね。ユーミルさんの範囲攻撃、バーストエッジだけじゃ厳しいもの」


 後はどれくらい先に進めるかによって、ユーミルの記録も変わってくるだろうが……。

 やがてレベル51のウェーブが到来し、パーティメンバーが一斉に動き出した。




「あ、お帰りなさーい。随分とギリギリまで粘りましたね、先輩たち」


 酒場『カエルラ』に戻ると、既にヒナ鳥パーティが戻って寛いでいた。

 店主も慣れてしまったのか、俺たちが自由に出入りをしてもほとんど反応を返さない。

 入って真っ先に声をかけてきたのはシエスタちゃんだ。

 先頭のユーミルが椅子に腰かけながら応じる。


「そういうお前たちは、何戦したのだ?」

「連続で四戦ですかねぇ」

「多いな!?」

「最初の二戦は、序盤でこけましたから。リコが、物理的に」

「ゆ、雪が滑るんですよぅ! 後の二戦はちゃんと転ばずに頑張りましたし!」


 あー。防御型ガードタイプだけあってかなりの重武装だしなぁ、リコリスちゃん。

 一応全員、足元は雪を考慮した装備に変えてあるのだが……。

 それでも、あの斜面で転んでしまったらしい。

 ユーミルに続いて、渡り鳥は店内の椅子に座っていく。

 サイネリアちゃんが後を引き継ぐように、自分たちの戦果を補足して教えてくれた。


「最終的には、レベル54が終わったところで撤退しました」

「うん、レベル50から先は敵が強いよな――って、しれっと好成績……」

「ほう、やるな。私たちの方が成績は上だがな! 余裕で一個上のレベル55まで行ったぞ! な、セッちゃん!」

「ゆ、ユーミルさん、そんなにはっきりと……それに、僅差だよ? 壁だけじゃなくて、自分たちのHPもボロボロのギリギリだったし。レベル55の中ボスが出た瞬間に、全員で一目散に逃げたじゃない」

「ば、バラすなセッちゃん! 後輩とライバルたちの前で、見栄くらい張らせくれてもよいではないか!」

「あ、あはは……先輩たちには敵わなかったみたいですけど、こちらはアルベルトさんとフィリアちゃんが大活躍でした。もちろんデバフアイテム込みですが、あのワイバーンが一瞬で……群れに対してもお強くて」

「おお! さすがでござるな、兄貴たち!」


 アルベルトが微かな笑みを浮かべ、フィリアちゃんは無表情でピースサインを作った。

 重戦士は範囲攻撃が豊富だからなぁ……それにしたって本当に、さすがとしか。

 即席パーティとは思えない戦果だもんな。

 ユーミルがリコリスちゃんの前で大人げなく胸を張り、リコリスちゃんは両手を振り回して悔しがっている。


「そういう先輩たちはどうだったんです? リコが、順位は一緒に確認しようって」

「あ、はい。まだ見てません。一緒に見ましょう!」

「そうなの? じゃあ、早速見ようか」


 俺がメニュー画面を開くと、アルベルト親子を含めたみんなが一斉に寄って来る。

 狭っ! 一緒ってそういう意味なの!?

 仕方ないので、画面を最大まで拡大してイベントページを開いた。


イベント討伐数ランキング(一戦)・パーティ部門 ※リアルタイム更新


1位:ユーミル(騎)・トビ(軽)・セレーネ(弓)・リィズ(魔)・ハインド(神) 1054体

2位:リコリス(騎)・傭兵アルベルト(重)・フィリア(重)・サイネリア(弓)・シエスタ(神) 1004体

3位:弦月(弓)・アルクス(弓)・エイミー(弓)・アーロン(弓)・矢羽根(弓) 954体

4位:プロムス(軽)・ワルター(武)・ヘルシャフト(魔)・アンキッラ(魔)・カーム(神) 926体

5位:ラント(魔)・ヴノ(魔)・永遠の中二病(魔)・アンタレス(魔)・F(魔) 918体

6位:トルエノ(騎)・ソルダ(重)・アルク(弓)・レーヴ(魔)・サージュ(神) 904体

                   ・

                   ・

                   ・


 基準としては、ワイバーンを倒した時点で撃破数が中ボス4体、群れが800体の合計804体となっている。

 そこから先が1ウェーブ50体の敵で、自分たちよりもレベルが上の敵となる。

 ランキングに知り合いの名前が多いな……しかし、注目すべきはまず自分たちの順位か。

 ユーミルが俺の肩を片手で掴んだまま、もう片方の手で準備を指して飛び跳ねる。


「1位!? 1位なのか!? 初めてじゃないか? イベント序盤で1位は!」

「ああ、確かに初めてだな。いつも終盤でめくるって展開だったから」

「私たちも2位です!」

「うむ! 最高の滑り出しだな!」


 肝心の『勇者のオーラ』が報酬になっている個人討伐数の方を見ると、予想通りほとんどパーティと連動した順位だった。

 ユーミルが1位、アルベルトが2位だ。

 初の追われる展開でもあるのだが、ここからどう逃げ切るべきか……。

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