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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

彼女が「勇者」と呼ばれるまで

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レザークラフト

「はーい。今日はまず防具を作りまーす」

 場所はそのまま、見張り台の下。
 そこに俺は、インベントリに大量に存在するアルミラージの皮を広げて並べていく。
 以前にも触れたが、このゲームには解体や素材化の概念が無いので既になめした状態の皮――というか「革」が、目の前に転がっている。

 さすがに何時いつまでも初期装備の防具のままでは弱いので、今回は最初に防具を作ろうという訳だ。
 地べたなのでちょっと作業に向かないが、他に場所もないので仕方ない。
 ……ゲーム内のホームっていくら位の値段がするんだろうか?

「はい! ハインド先生! 作っている間、私はひまなんですが!」
「うむ、ユーミル君。キミはどっかに行っててよし! と言いたい所だが……直ぐに済むからちょっと待ってろ。現実で防具を作るほどの手間は掛からないからさ」
「ハインドさん、私は何か手伝いましょうか?」
「リィズはゲーム知識が皆無だろ? 俺が防具を作る間、ユーミルに気になることがあれば聞いておいてくれ。ユーミルも、いいな?」
「えー」

 えーって……暇って言ったばかりじゃないか。
 それなら俺にも考えがある。

「……鍛冶で作れるキラービーの甲殻を使ったアーマーもあるけど、そっちにするか? すげえ肩とかトゲトゲしてる上に、黄色と黒の警戒色が――」
「やらせて頂きます!」
「うん。頼んだ」

 防具を作る際の手順は、裁縫さいほうセットに入っている『型紙』と『設計図』で指定された通りに作れば良いという事になっている。
 この『設計図』、必要な素材をインベントリ内に一つでも所持していると出現するという実にゲームらしい仕様をしているのが特徴だ。
 レアな素材を手に入れた時は、この『設計図』を確認すると残りの必要な素材も分かるので非常に便利。

 但し、当然ながら裁縫のカテゴリーに限る訳だが。
 鍛冶の方で作る防具にも『設計図』は存在しており、そちらの場合は『鍛冶セット』の中にそれが現れるという事になっている。
 まあ、この二つに関してはカテゴリー分けがされているだけで仕様は一緒だ。
 ただ防具は裁縫・鍛冶のどちらかなので、両方を確認した方が漏れが出ないよ、というだけで。

「はあ? 四時間で朝・昼・晩と巡るのに、どうして日付進行は現実と同じになるんですか? しかも夜はやけに短いですし」
「細かいなお前は! ゲームなんだから、そういうものなんだ!」
「大体、四時間という事は地球だったら誕生直後並の自転速度ですよ? ここが地球と同じような星であると想定するなら、とても人が住める環境ではないと――」
「絶っっっ対に開発者もそこまで考えとらんわ! 馬鹿かお前は!」
「馬鹿とは何ですか! 貴女にだけは言われたくないです!」

 防具も武器と同様にプレイヤーがアレンジを加える事が可能だが、今回は設計図通りに進める。
 革製品は布製品よりも扱いが難しいので、武器と一緒で素材が乏しい序盤では冒険したくない。
 ちなみにユーミルの体型に合わせて作る必要は無く、設計図通りに作れば後からゲーム側が体型に合わせて変化させてくれる。
 アレンジする場合は例外で、本人の体型に合わせて作らなければならないので手間が全く変わってくる……これは後々だな。

 まず最初……革に印を付ける罫書けがきを行っていく。
 ここがズレると、後々大変なことになる……鉛筆で丁寧に……よし、転写完了。

 次は裁断さいだんだが――皮裁かわだち包丁を使うのも久しぶりだな。
 レザークラフトは、普通の裁縫に比べてやる機会が随分と少ないからな。
 母さんに財布をプレゼントしたのが最後だったかな? 確か去年か?
 うーん……最後にやった日がいつかは覚えていないが、一時期は節約の為にバッグなんかも作った。
 なので、やっている内に徐々に思い出すだろう。

 確か革を切る時は、思い切りが大事だったな。
 力を入れて、一気に直線に――ぬんっ!
 おっ、綺麗な裁断面。

「インベントリというものも不思議ですよね。こんな小さなウェストポーチに大量の物が出入り……しかも、重さも何も無く……」
「おい、まさか一々そうやって難癖をつけて回る気か? キリが無いぞ」
「いいえ、あるがままを受け入れる……そういう姿勢も、ゲームを行う上では大事なのだと……」
「そ、そうか! ようやく貴様も素直に――」
「ハインドさんが言っていました」
「なる訳がなかったな。知っていた」
「それよりもユーミルさん。私、このインベントリを使って試したいことがあるんですけど」
「……何だ? どうせろくでもないことだろうが、聞くだけ聞いてやる」

 次に、結構面倒な下処理の工程なんだが……おお、何もしていないのに裁断面のへりが勝手に落ちていく。
 床面処理も、コバの処理も、あっと言う間に進み――いやー、これは実に楽。
 鍛冶と同じで、部分的な作業の精度で出来を判定するシステムのようだ。
 この分だと裁断・縫い・仕上げの三つだろうか? 主に防具の性能に関係してくるのは。

「このインベントリ……どんな大きな物でも入るのであれば、人間も入れられるのではないかと思いまして」
「お、おい、まさか……」
「ねぇ、ユーミルさん……中に入ってみませんかぁ……?」
「貴様、止めろ! プレイヤーがインベントリに入る訳がないだろうが!」
「入る訳がないのなら、どうして怯えているんです? 試したことがないから、不安なのでしょう……? もし万が一、入ってしまったとしたら……どうしましょうねぇ?」
「く、来るな! 近寄るな!」
「さあ、ハインドさんにたかるお邪魔虫は――インベントリにしまっちゃいましょうねぇ」
「ひいいいい!」

 やっぱりか。
 部品を手で合わせただけで接着され、更にい穴まで空いていく。
 だったら次は、いよいよ縫いの作業だな。
 糸はドロップアイテムの『キャタピラーの糸』、これにロウ引きをして二本の革用の針に通す。
 布の裁縫とは糸の通し方が違うので注意だ。

 ……よし、準備完了。
 二本の針を使って交互にクロスするように縫っていく。
 チクチク、チクチクと……さすがに、ここからは少し時間が掛かるか?
 そろそろ胴体部の一辺は縫い終わるけど――おっ! おおっ!

 驚いた事に、糸が勝手にシュルシュルと縫い穴に入っていく。
 どうやら一辺を縫い終わった時点で、作業精度の判定が入るようだ。
 つーか、急に持ってた針まで動き出すから刺さりそうで危なかったんだが!

 そして最後に、形になった革の防具の仕上げに入る。
 革が重なって出っ張った部分を豆カンナ、ヤスリで削って均等に整える。
 すると――

「光った!」
「な、なんだ!?」
「あら……?」

 革鎧が光をまとって宙に浮かび、その中からドサドサと完成した防具一式が落ちてくる。
 明らかに作っていない部分まで含まれているのが、少し納得いかない気もするが。
 色は素材状態の時と同じ明るめの茶、見た目もそれほど悪くない。
 さて、性能は……と。

「おおー! ハインド、それ私のか!? 私の防具なのか!?」
「そうだが、まずは製作者に性能を確認させろよ。近い近い! 鼻息荒いって」
「ちっ、時間切れですか……」

 鎧に触れて情報を表示させる。
 防御力41……これは防具全体の合計値で、パーツ毎の数値は設定されていないような感じ。
 名前は『極上のアルミラージアーマー+8』か。
 ん? 極上?

「早速装備する!」
「あ、ああ。防具に触れて所持登録すると、体型に合わせて防具が変化するから」
「なるほど……よし、完了だ! 初期装備ともこれでおさらばだな!」

 ユーミルがはしゃぎながらメニューを開き、防具を装備する。
 しかし、俺はどうも釈然としない気持ちを抱えていた。

「……ハインドさん、何か気になる事でも?」
「いや、後で調べれば分かる事さ。次はリィズの防具を作るよ」
「本当ですか? ありがとうございます」

 セレーネさんの武器でも『上質な○○+10』までしか無かったのに。
 防具は判定が緩い? それとも運が絡んでいる? 分からないな……。
 そこまで作業の精度に差があったとは思えないのだが。

 まあ、この件に関しては後でセレーネさんにメールで連絡してみよう。
 あの人は頭が良いから、何か分かるかもしれない。
 さて、今度はリィズの防具と、自分の防具もさっさと作らないとな。
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