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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

彼女が「勇者」と呼ばれるまで

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リィズ

 正直、VRギアを外すのが怖かった。
 過去に在ったVRでの事故の例だとか、もしかしたら既に強盗が侵入していて体を刺されているんじゃないかとか。
 そんな想像が頭の中でぐるぐると回る。
 でも、腹の上に感じる重みと体温は覚えがあるもので――。

「……理世。何してんだ」

 VRギアを外した俺の前には、薄手のルームウェアを着た妹の姿が。
 風呂上りなのか、ホカホカと暖かく入浴剤の良い香りがする。
 頬も上気しており、何故か瞳も少し潤んでいる。

「兄さん……おやすみの一言もないなんて、酷いじゃありませんか」
「あっ……悪い。うっかりしてた」

 我が家では、普段は十一時位に一言交わしてから寝るのが習慣だ。
 そりゃあ、姿を見なければ変だと思う訳で……。
 未祐の言う通り、部屋に鍵は掛けていなかった。
 しかしこの体勢……俺の腹に理世が足を開いて、しっかりと跨っているんだが。
 そこはかとなく危険な気配を感じる。

「取り敢えず降りてくれ」
「……これ、ゲームですよね? 何時の間にこんな、高そうな機械を……」
「降りろっつってんの! 何で俺の周りの人間は話を聞いてくれないんだ!」

 俺は理世をどかす為、強引に両脇に手を差し込み「んっ」変な声を出すな!
 ベッドの足元側の方に降ろした。
 軽いな、ちゃんと三食摂らせているのに……背が低いからか?
 自分も枕側で上体を起こして、理世と向き合って座る。

「このギアは未祐にプレゼントしてもらったんだ。それで久々にゲームをやったもんだから、つい夢中になっちまった。すまん」
「そうですか……未祐さんが……ふふっ、ふふふふ……」
「何その邪悪な笑い。そういえば、理世はゲーム嫌いだったっけ?」
「別に嫌いじゃありませんよ? ただ……ゲームをやっている間は、兄さんが私に構ってくれなくなるので……」
「ああ……そういう理由だったのか。悪かった。これからは、もう少し時間を加減して――」
「いいえ、むしろ兄さんは働き過ぎです。ゲームが息抜きになるのでしたら……私が止める権利は、何一つありませんから」
「理世……」

 良い子に育ってくれて、兄さんは嬉しい。
 確かに父さんが亡くなってから今日まで、趣味に割く時間なんてほとんど無かったもんな……。
 今では家事のスピードも上がり、多少は暇な時間というのも作れるようになった。

「ありがとな。でも、今後はおやすみの挨拶くらいはちゃんとするからさ」
「大丈夫ですよ、気にしなくても。ちなみにですけど……兄さんは、何という名前のゲームをやっているんですか?」
「ん? トレイルブレイザーってタイトルだな」
「では、このゲーム機の名前は? 最近、何かと話題になっていた商品ですよね?」
「VRX3500――って、そんなの聞いてどうするんだ?」
「いいえ……では、おやすみなさい。兄さん」
「お、おう。おやすみ……?」

 理世が部屋から出て行く。
 何だったんだ? 今の質問……。
 あっと、未祐に連絡を入れとかないと。



「とまあ、理世が俺に触ったからVRギアが緊急停止したみたいだ。VR使用中って、随分と精密な身体保護機能が働いているんだな。知らなかったよ」

 翌日、珍しく夜まで話す機会が少なかった未祐にTB内で改めて説明する。
 時間は昨日と同じ午後十時、バイトと家事が終わってからのスタートだ。
 平日はやっぱり時間的に結構きついな……それでもログインしてしまった訳だけど。
 土日のどっちかは、纏まった時間でゆっくりとやりたいもんだ。

「やはりな。次からは部屋の鍵を閉め、夕食に睡眠薬を盛り、妹が眠ったのを確認してから始めるがいい!」
「犯罪だ!? そこまでする必要が何処にある!?」
「私にとっては貴重な時間なんだ! 邪魔者には死を!」
「過激だな! それも無意味に!」
「本当ですねぇ……野蛮な人はこれだから。怖い怖い。ね、兄さん」
「そうだなぁ……ん?」
「んん?」

 おかしいな……TB内で聞こえる筈の無い声が聞こえた気が……。
 俺とユーミルは顔を見合わせた後、声がした方に同時に振り向いた。

「理世!?」
「な……貴様、どうして!?」 

 そこには、TBでの初期装備に身を包んだ妹の姿が。
 動揺と疑問とで頭が埋め尽くされる。
 理世は俺に寄り添うように立つと、ユーミルに向けて歪んだ笑みを見せた。

「随分と汚い真似をなさるんですねぇ……ゲームを餌に、私と兄さんとの時間を奪おうだなんて」
「そんな打算で動くのは貴様だけだ! 私は純粋に亘と――」
「ゆ、ユーミル。本名呼びはなるべく避けろって言ったのはお前だぞ? 俺も今、振り向いた時に思いっきり本名で呼んじまったけど」
「む! しまっ――」
「自分で言った事も守れないんですか? なんて残念な人……」
「ムガーーーーッ!! 貴様という奴は! 貴様という奴は本当にっ!!」

 ユーミルの叫びに、広場の視線が一斉にこちらに集まる。

「す、すみません! 何でもないですから! ――ほら、お前ら取り敢えず移動だ、移動! 落ち着けユーミル!」
「離せハインド! 今日という今日は許さん!」
「騒がしい人ですねぇ……兄さんが迷惑するでしょう?」
「貴様ーっ!!」

 完全に他のプレイヤーの注目を集めてしまったので、興奮するユーミルを宥めながら俺達は移動を開始した。



 村の外縁部、見張り台の下で俺達はようやく腰を落ち着けた。
 この辺は店も何もないので、プレイヤーもNPCもどちらも少ない。
 聞きたいことは色々あるが、まずは……。

「取り敢えず、いつまでも本名呼びは良くない。プレイヤーネームは……リィズか。ここではリィズって呼ぶからな?」
「はい、兄さん」

 頭の上のプレイヤーネームを確認する。
 これ、表示が小さくて良く見ないと確認できないんだよな……。
 距離が遠いプレイヤー、素早く移動しているプレイヤーなんかは情報がほとんど見えない。
 リィズのアバターは俺と同じく、特に変更を加えていない様子だった。
 要は、普段から見慣れた妹の姿そのままである。

「一応、俺の事もゲーム内では兄と呼ばないでくれ」
「では、ハインドさんと。仮名とはいえ、名前で呼び合うと少しドキドキしますね?」
「そ、そうか……?」

 リィズの言葉に戸惑う俺を、ユーミルが睨みつけてくる。
 これは早く話を進めろという催促か……分かったよ。

「じゃあリィズ。家計を預かる身として、これは避けられない質問なんだが……VRギアの購入費用、一体何処から捻出した?」
「にい……ハインドさんが下さっているお小遣いからですよ? 毎月、高校生として不自由しない充分な金額を渡してくれているじゃありませんか」
「ん!? 待て待て! あれは服を買ったり化粧品を買ったり――とにかく、そういうのに使えって言ってあるだろ!? もちろん、嗜好品の類を買うなとは言ってないが!」
「私……そんなに酷い見た目をしていますか? これでも、身嗜みには気を使っているつもりなのですけど……」

 そう言われるとな……。
 頻繁に男子生徒から告白を受けている女子を、美人じゃないと断じるのは自分の美的感覚がおかしいと認めているようなもんだし。
 それに、兄の贔屓目を抜いたとしても……って、これ言わなきゃダメか?
 ……そんなに悲しそうな顔をするなよ! 分かったよ!

「――じゅ、充分以上に綺麗だぞ? 間違いなく。自信を持っていい」
「本当ですか? 兄さんに褒めてもらえるのが、一番嬉しいです……」
「ふんっ、ぶりっ子小動物が」

 ユーミルの悪態に対しては、リィズは聞こえないフリで無視を決め込んでいる。
 それが却って火に油を注ぐんだが……わざとだろうなぁ……。
 ……ん? あれ? 今って、何の話をしてたんだっけ……あ!

「っていうか、論点がすり替わってるだろ! 素材が良ければ着飾らなくていいって訳じゃないだろうが! 買えよ、服! 俺のお下がりを女性用にアレンジするにも限界があるだろ!?」
「服よりも、兄さんと一緒に居る時間を私は買ったんですよ? これって、そんなにいけない事なんでしょうか……?」
「ああ言えばこう言うのな! はぁ、もういい……お前の小遣いなんだから、お前の好きに使えよ……」
「ありがとうございます、兄さん」
「結局、お前が甘いからこいつがつけあがるんじゃないのか……?」

 うっさいやい、自覚はあるわ。
 それに、別に悪い事をした訳じゃないからな……自分の小遣いの範囲内だし。
 でも、高額な買い物なんだから一言くらい相談して欲しかった……そんな兄心。

「それにしても、今の時期によくVRX3500を入手できたな。どこも品薄だったろ?」
「楓ちゃんにお願いしました」
「ああ……あの電気屋のか。余り無茶なことさせるなよ?」
「むう……私はあんなに長時間並んだというのに……」
「いいじゃないか。俺は感謝してるぞ? TBのサービス開始初日の雰囲気は、言葉では表せない特別なものだったしな」
「……お前がそう言うのなら」

 しかし、町の電気屋さんでも入荷してたのか……大手量販店ではとっくに売り切れ、もしくは極度の品薄になっているのに。
 それと、今日は塾が無いのに理世の帰りが遅かったのはそのせいか。

「後は、そうだな……どうやってあの人混みの中から俺達を見つけられたんだ? 偶然に頼るにしても、プレイヤーの数が余りにも多過ぎるだろ?」
「私が、にい……ハインドさんを見間違えるはずがありませんから。何処に居ても、どれだけ離れていても分かります。分かるんです」
「答えになっていないんだが……」
「放っておけ、ハインド。どうせ理解できんし……したくもない」

 ユーミルの呆れたような顔に、リィズが少しむっとする。
 が、気を取り直したように一言。

「つまりは、愛です」
「愛!? どういう理屈!? 俺は余計に分からなくなったんだが!」
「愛というよりは哀だがな! 今の私の気分は!」
「そう言いつつも帰れとは言わないんですね、ユーミルさん。貴女のそういう所だけは、嫌いじゃありませんよ」
「来てしまったものは仕方あるまい……ゲームは全力で楽しまなければ損だ。例え一緒にやるのがお前でも」
「おー、いいね二人とも。その調子で口喧嘩も止めてくれると――」
「こいつが生意気な口を利かなくなったら考えてやろう」
「この人がもっと上品になったら考えます。まあ、無理でしょうけど」
「……そーかい」

 こういう時だけ息がぴったりなのが納得いかない。
 しかし例によって口喧嘩以上には発展しそうもないので、今日から三人でゲームをプレイすることになった。
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