挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

彼女が「勇者」と呼ばれるまで

10/89

エリアボス

「早速スキルを試そう!」
「言うと思ったよ……つっても、既に北エリア以外の敵は一撃だからな。ここで試すしかないのか……」
「そういえばそうだな!」
「なら、余り群れてないゴブリンを探そうぜ。アルミラージだと、このレベルでも結局は一撃だろうから、捨て身を試すにしても――」
「ヒャッハー! 新鮮なモンスターだぁ!」
「聞けよ!」

 ユーミルがアルミラージに向かって突進していく。
 良かった、一匹だ……一応、半分くらいは話を聞いていたらしい。
 ただ、スキルを発動しても意味はないけどな!
 ユーミルが捨て身を発動してアルミラージに斬りかかる。
 防御を下げるだけの無駄な行為になっとる……縛りプレイかな?

「このっ!」
 外れ。
「くらえっ!」
 ミス。
「何でっ!」
 当たらない。

 アルミラージもレベル上昇と共に素早さが高くなっているようで、ユーミルは速度を完全に見誤っている。
 昨日、経験値稼ぎの為に優先的且つ大量にアルミラージを狙って狩ったので、感覚が低レベルの方に合ってしまっているのだろう。
 手間取っている内に複数のアルミラージが集まっていき――。

「ぎょえーーっっ!!」
「うわ……」

 ユーミルは多数のアルミラージの角攻撃を一斉に受けた。
 全身のあちこちを串刺しにされ、一瞬で体力が消し飛ぶ。
 まあ実際の痛覚的には、指であちこちを軽く突かれた程度に抑えられているんだけど。
 それでも見た目の上では結構、ショッキングな絵面だ。
 なんというか、回復も補助魔法も掛ける暇が全くなかったぞ……。
 今回は敵に一撃もダメージを与えていないので、俺はアルミラージの群れが去るのを動かずにじっと待った。
 ……もういいかな?

「立ったまま死んでるし……お前は武蔵坊弁慶か」

 聖水の瓶を開け、頭の上からふりかけていく。
 段々と死に芸みたいになってきてんな……そもそも死ぬなって話だが。

「――はっ!」
「起きたか。無駄に死んだ気分はどうだ?」
「モフモフこわい……モフモフこわい……わーくん、つののはえたモフモフが……」
「幼児退行!? ってお前、そうやって今の失態を誤魔化す気だろう! さっさと聖水を無駄にした分を稼ぐんだよ、早くしろや!」
「ちっ、バレたか……」

 懐かしい呼び名まで持ち出しやがって……。
 しかし、もう聖水は一本しかないんだぞ。
 どうするんだ、これから先。

「なぁ、ハインド。孤立したモンスターを素早く倒せれば、効率はいいか?」

 悩む俺に対して、ユーミルが意外な提案をしてきた。

「うん? そうだな……素早くって事は、お前の捨て身を使って敵が集まる前に一体ずつ狩るってことか?」
「そうそう」
「他のプレイヤーも少ないけど居るし、ちっと索敵さくてきに時間は掛かるが……まあ、悪くはないな。確かに命中すれば二倍だから、ゴブリンでも二発以内で確殺だろうし。お前も被弾を一発以内に収めれば、死なない訳だから」
「だったらやってみないか? 戻るのも面倒だし、私はここで粘ってみたい」
「うーむ……ユーミルにしてはまともな提案……」
「そうだろう! ……ん? 今、私は馬鹿にされなかったか?」
「気のせい気のせい」

 このゲーム、フィールドが結構広いんだよな……移動が手間と言えばその通りで。
 ユーミルの弁にも一理ある。
 戻らずに済むならそれに越したことはない。

「じゃあこうしよう。一回でも死んで、聖水が尽きたらそこで撤退。それまではここで粘るってことで。どうだ?」
「おお! ならば私次第ということだな!」
「アルミラージなら俺でも一撃で倒せるからな。それを念頭に置いて戦ってくれ」
「うむ、心得た!」

 その後のユーミルは、先程の不注意を帳消しにするような活躍を見せた。
 ゴブリンに対して完璧なヒット&アウェイを繰り返し、直ぐにアルミラージの速度にも適応していく。
 レベル13、14、15……気が付くと、レベル16を目前にして武器の耐久値がギリギリになるまで、どちらも死なずに敵を倒し続けることに成功した。
 レベル15になってからは囲まれても対応出来るくらいのステータスになったので、普通に群れと戦って稼ぐことができた。
 インベントリ内の取得したドロップアイテムを整理しつつ、ダメージの回復も終えて二人で一息つく。

「やり遂げやがった……すげえ」
「ふふん! 見たか!」
「お前のこういう時の集中力は、目を見張るものがあるよな」

 実は、密かに俺が未祐に対して昔から尊敬している部分でもある。
 底力というか、プレッシャーが掛かる大事な場面ほど力を発揮するというか。
 絶対に口に出しては言わないけども。
 その分、普段のミスだったり抜けている部分が余りにも多過ぎるしな……。

「しかし、武器の耐久値がもう限界だな。村に戻って武器屋のオヤジに修理してもらわないと」
「そうだな。それにしてもハインド、ここはどの辺だ? 敵を倒すのに夢中になって、随分と奥まで来てしまった気がするが」
「確かに。ここはさっさと引き返して――」

 ズンッ……ズンッ……

「……なあ、ユーミル。俺は非常に嫌な予感がするんだが」
「奇遇だなハインド、私もだ。楽しみだとはいったが、それは万全な状態の話で――」

 音が近付いてくる。
 明らかに大型生物のソレだと分かる地響き。
 ゴブリンやアルミラージが発するモノでは決してない。

「グアァァァァァッ!」
「出たぁぁぁ! オーガ!? レベル20!? 無理無理無理無理!」
「てっ、撤退! 撤退ぃぃぃ!」

 三メートルはある巨大な『鬼』が、鉄の塊を振り下ろして襲い掛かってくる。
 平原の柔らかな地は抉れ、盛大に土砂が撒き散らされ――

「あだだだだ!? ら、ライフが! 飛んできた土砂にもダメージ判定があんのか!?」
「ハインド! 私の方が足が速い、囮に!」
「あっ、馬鹿やめろ!」
「一太刀なら耐久も持つ! はず! チェストォ!」

 ユーミルの『スラッシュ』がオーガの腕に食い込む。
 敵の体力が僅かに削れるが、剣が抜けずにユーミルがそのまま宙づりになる。

「あ、あれ?」
「剣から手を放せっ!」

 俺は急いでユーミルに『ガードアップ』の魔法を掛ける。
 オーガが斬られた腕を振り回し、その反動で剣ごと放り出されたユーミルに向け――

「ガアッ!」

 棍棒を振り抜いた。
 当然、空中で避ける術がある訳もなく。

「ぎにゃぁぁぁぁ!!」
「何やってんだ!?」

 ユーミルが剣を持ったまま吹っ飛ぶ。
 って、一撃で即死か!? 体力ゲージ0で地面を派手に転がっていく。
 補助魔法が全く意味を為さなかった……って、そんな場合じゃない!
 ユーミルが吹っ飛ばされた方向は、都合が良い事に逃げていた方向だ。
 最後の聖水を投げつけ、立ち上がるのにもたついているユーミルを抱えて走る。

「痛い痛い! ハインド、持ち方が雑じゃないか!?」
「うるせー! 丁寧に抱えてる暇なんかあるか! ――ひぇっ! 怖ぁっ!」

 真横の地面に棍棒が叩きつけられる。
 俺達はそのまま逃げ続け……中央エリアに入ったところでようやくオーガから解放された。
 ――行動限界、北エリア全域かよ……広過ぎるだろ……。
 逃走経路に他のプレイヤーが居なくて、本当に良かった。
 平均的なプレイヤーの進み具合はまだドンデリーの森~ホーマ平原南部のようだ。

「殺意に満ち溢れた設定だったな……ハインド」
「ぜぇ、ぜぇ……あそこで一回は死んでおけ! という運営の悪意が透けて見えたな……初見殺しにも程がある」
「ま、私は運営の意図通りに一回死んだ訳だが!」
「威張んな! 剣を手放せば死ななかっただろ!? どうして――」
「お前が初めて作った武器を捨てられるか! 私は死んでも放さんぞ!」
「えっ……そんな理由だったのか? ……はぁ、全く。所詮はゲームのデータだっていうのにこいつは……」
「うん? 今、最後の方になんと呟いたのだ? ハインド」
「何でもねーよ。気にすんな」
「?」

 義理堅い奴だな……そんな理由を聞かされたら、もう何も言えないじゃないか。
 ……それにしても、初日に劣らずドタバタした戦いだった。
 アイテムも枯渇、武器の耐久値もないので、そのまま俺達は村へと戻ることにした。



 そして、例によって『アルトロワの村』の広場。
 時刻は十二時近く、そろそろ寝ないと明日に響くな。
 ユーミルも名残惜しそうにしながらも、時間を気にして終わるかどうかを俺に聞いてくる。

「今日はここまでか? ハインド」
「そうだな。でも、忘れない内に武器の修理だけしてから――」

 ビー、ビー、ビー! 使用者の体に異常が生じています!
 5秒後にVRX3500を強制終了します。
 5、4、……
 何だ何だ!? 異常!?

「ゆ、ユーミル!? なんかVRギアから警告が!」
「は? ……まさかとは思うが亘、お前、部屋の鍵を――」

 閉めてない、そう答えようとした直後だった。
 ――接続を終了します。
 そんなメッセージが流れた後、俺の意識はTBの世界から切り離された。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ