文体は作品の持ち味になる
この項目では文体について取り扱います。説明がやや複雑になるため、最初から中級者〜上級者向けの書き方をしています。わからない部分は読み飛ばして下さい。
文体とは「文章にどういう特徴があるか」を示す、若干定義の曖昧な言葉です。
小説の文章には作者固有のリズムやルールがあり、それぞれがその作者と作品の味になります。
執筆歴の長い作家さんは自分の味が完成しているので、作品が切り替わっても文体が変わることは滅多にありません。またシリーズものを書いている最中に、意味もなく突然文体が切り替わることはまずありえません。文体は作品の雰囲気を形作る重要なファクターなので、わざと雰囲気を変える目的がある場合を除いて突然の変更は避けるべきだと考えられているからです。
ただし、まだ自分の味が見つからないうちはできるだけ色々な文体で小説を書いてみましょう。そのぶん飛躍的な技術向上が期待でき、最終的には自分にぴったりの文体が見つかるはずです。
それでは、文章のどういった特徴が文体を左右するのでしょうか。
具体的に特徴の例を見ていきましょう。
◆語り口の特徴
・文語調(書き言葉)か口語調(話し言葉)か
・常体(である調)か敬体(ですます調)か
◆文章のリズム
・平均的な一文の長さ
・読点の位置と量
・改行のタイミング
・体言止めの多用
・一つの場面が長い、短い
◆内容上の特徴
・心理描写、情景描写、説明文、会話文の量や配置バランスの偏り
・使われている単語や漢字の難しさ
・頻繁に使われている比喩が直喩か暗喩か
・擬音語や擬態語の質と量
・登場人物が全員、同じような特徴のある喋り方をする
・漢字にカタカナで格好良いルビ(振り仮名)がついている
・場面問わず暗い雰囲気/陽気な雰囲気の描写ばかりをする
このような特徴を意識して極端な方向へ偏らせると、非常に味のある、悪く言えば癖の強い文体ができあがります。それとは逆に平均的な文体をキープすると味が薄くなりますが、万人に読みやすい文章を書くことができるでしょう。
しかし小説はストーリーの説明書きでもレポートでもないので、文章にわざと癖をつけることで独自の味つけをして物語の面白さを演出するのが原則です。そこでどんな癖をつけるのか、きちんと考えないといけません。
メルヘンなファンタジー世界で進行する恋愛物語なのに、堅苦しい論文のような分析ばかりの描写で読み手は楽しめるでしょうか? 科学的な物語なのに、ハイテンションな擬音語を多用した説明文不足の文章で読み手に理解できるでしょうか?
少なくとも私はそんなの嫌です……。メルヘンな恋愛では感覚的な情景描写や心理描写が読みたいですし、学問が重要な意味を持つ話なら、ちゃんとその理屈がわかるように書いてほしいものです。
作品の雰囲気を形作るのは文体ですので、きちんとその作品に合った文体を用いるようにしましょう。
ちなみにあえて平均に近い文体にして、淡泊な味付けをキープしている作品も存在します。それでもその作品が面白いのは、それがその物語の雰囲気にピッタリはまっているからです。この場合は特徴が無いことが特徴になりますので、それも作者の武器となります。 M