スライムが来た春
春。
春が来た。
今年の目標は水路の完成。
寝床の小屋を新築。
あと、これまで後回しにしてきたのがトイレの地下、排泄物を貯める場所の清掃。
塵も積もれば山となるを理解した。
ルーやティアの魔法でなんとかならないかと相談したが、厳しいらしい。
だが、醗酵させて分解するのは可能とのことだ。
それで行こうと魔法で醗酵させてもらうと、凄い臭いになって近づけなくなった。
困った。
臭いは上の便座部分でもするので、早急な対策が必要となる。
そこで出された案が、スライムだった。
「ああいった物を消化吸収するから、都市部とかでは活用されているわよ」
なるほど。
そんな生物も居るのか。
スライム。
ファンタジー世界なら珍しくないが、その凶暴性は作品によって異なる。
勇者の初期の訓練相手なら構わないが、迷宮での初見殺しだったりすると近付きたくない。
だが、この世界のスライムは便利な下水清掃員らしい。
「スライムって、どこで捕まえるんだ?」
「沼とか池の近くに居ると思うけど……」
「捕まえてこれるか?」
「私に任せてください。
十日で捕まえてきます」
ティアが自信満々に言うので任せることにした。
「頼んだぞ」
そして、俺は現在のトイレを放棄。
臭いが出る穴を塞ぎ、別の場所にトイレを建設することにした。
十日もあの臭いに耐えるのは厳しい。
トイレは穴を掘るだけで、建物は流用したので簡単だった。
一安心。
ティアが連れ帰ったスライムは小さかった。
一匹が拳ぐらいの大きさだ。
「これが平均サイズ?」
「野生種ですから、こんなものです」
俺のイメージでは、もう少し大きいと思っていたが……
柔らかい野球の球のような感じだ。
「死骸や排泄物を食べますので、森の掃除屋、平原の掃除屋、ダンジョンの掃除屋などと呼ばれています」
そんなスライムを、壷に何十匹も入れて持ち帰ってきてくれた。
「放置で良いのか?」
「基本、そうですけど……その」
ティアが言い難そうにする。
「なんだ?」
「クロさんたちやザブトンさんたちが、食べてしまわないかと……捕まえている時に気付きました」
捕まえに出掛ける際は、トイレの臭いで思考力が低下していたのかもしれない。
「むー……」
とりあえず、クロとザブトンを呼ぶ。
「食べる?」
俺の質問に、クロとザブトンがNOを示した。
雰囲気的に、他に美味い物があるのに、スライムを食べる必要は無いといった感じだ。
スライムはマズいのだろうか?
まあ、食べている物が食べている物だから、食用にしたいとは思わないか。
「じゃあ、新しい住人だ。
仲良くやってほしい。
あと、子供たちにも伝えておいて」
クロとザブトンが了承を示した。
うん、賢い。
ティアが持ち帰ったスライムは全部で十七匹。
新しいトイレと、リアたちのトイレに二匹づつ。
犬エリアに指定したクロたちのトイレ場所に三匹。
残り十匹を、封鎖した旧トイレの穴を開き、そこに放り込んだ。
穴を開いた際の臭いで、強い罪悪感を覚えたが……俺は自分が可愛い。
よろしくお願いします。
スライムの弊害。
下にスライムが居るとわかったトイレで用を足すのは、なかなか勇気が必要だった。
他の者たちは何も思わないようで、俺だけが慣れるまで少し苦労した。