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第45話 開花

 相手は突然の襲撃に面喰らっていたが、さすがに奥様がいる尖塔入り口の見張りを任されているだけあり、魔術師だった。


 彼らは反射的に抵抗陣を構築する。

 熟練度から少なくとも魔術師B級以上の実力者達だろう。


 だが構わずオレはフル・オートを選択肢し、引鉄(トリガー)を絞る!

 マズルフラッシュ! 発砲音! 跳ね上がりそうになる衝撃を抑え、相手の足を狙う!

 右の男は抵抗陣を構築していたがあっさりと貫通。


「ぎゃぁッ!」


 敵の足から鮮血が舞い上がる。


 目を強化していたお陰で減速する視界の中、スノーが担当する左の男へS&Wリボルバー(38スペシャル(9mm))を発砲したが、抵抗陣で食い止められていることを気づけた。

 瞬時にそこそこの魔力を放出して強固に作ったらしい。


 まったく用心深い男だ。


 オレはAK47の引鉄(トリガー)を絞ったまま、横へとスライドさせる。弾がフル・オートで吐き出され、敵に吸い込まれていく。


「ぐっがぁッ……ッ!!!」


 38スペシャル(9mm)を防げても、7.62mm×ロシアンショートは無理だった。あっさり抵抗陣を貫通し、左の男の足をずたずたにする。


「き、貴様ら! どこから入ってき――ばぁッ!?」


 オレが最初に撃った相手が叫び声をあげるが、すぐさまスノーが顎を蹴り抜き気絶させた。

 反対側の男も同様に蹴って意識を奪う。


 もちろん、オレは彼女が動いていることに気付いて発砲はすでに止めている。

 孤児院に同じ日に捨てられ、一緒に育った幼なじみ同士――阿吽の呼吸はお手の物だ。


 スノーはシリンダーから空薬莢を吐き出し、スピードローターで弾倉を交換しながら声をかけてくる。


「リュートくん! 解錠お願い!」

「任せろ!」


『なんだ、今の音は!?』

『侵入者か!? おい、外の奴らは何をやってやがる!』

『塔だ! 塔を押さえろ!』


 城の内外から男達の声が響き渡る。

 やかましい音(発砲音)、肉体強化術で魔力を使っていることから侵入者の存在に気付いている。

 侵入者の狙いが尖塔の奥様だと言うことは、百も承知だろう。

 こんな厳重に警戒している城へ、金品目的で侵入する馬鹿はいない。


 しかし、すぐに扉を開け尖塔に行ければいいのだが……問題は扉にある。

 扉は分厚い金属製で、子供の腕ぐらいあるごつい鉄棒で閉められた鍵がかかっている。扉回りの煉瓦はもちろん反魔術煉瓦だ。


 普通は門番が鍵を持っているが、侵入者対策のためダミーの鍵を複数同時に持っていることが多い。

 1つずつ試している時間は無い。


 つまり、この扉を鍵無しで短時間に破ろうとしたら分厚い金属製の扉か、反魔術煉瓦を破壊するほどの魔術が必要になる。

 だが、そんなものを唱えている時間は無い。

 第一、下手な魔術では扉を破壊出来ても、威力を高めすぎて周辺が崩れ落ち、通路が埋もれてしまう。結局入れなくなる。


 魔術以外で鍵を破ろうとした場合は、剣術で切断するにも力と技術が必要になる。

 扉は金属製で分厚く、鍵も丈夫に作られている。


 名剣を持った達人クラスでなんとかなるかもしれない、というレベルだ。

そんな技術を持った人物はオレ達の周りにはいない。

 もしくは重い斧で肉体強化術を使い身体を補助、強引に断ち切るぐらいだ。一度戻って金属甲冑から戦斧を奪ってくるという手はあるが……そんなことをしている間に警備員達が集合してしまう。


 だがオレの手にはAK47がある。

 NIJ規格(NIJ=National Institute of Justice.国立司法研究所のこと)の防弾ランク・『レベルⅢA++』の防弾チョッキを貫通する威力だ。


 通常弾頭では分厚い金属製の扉を貫通させるのは無理でも、鍵ぐらいなら吹き飛ばすのは難しくない。


 オレは鍵へ向けてセミ・オートで発砲。


 ダン!


 鍵はあっさり弾け飛ぶ。


 オレとスノーは飛び込むように扉の内側へ入り込む。

 スノーが押し開きの扉を閉めると、愛銃をしまい両手を扉に向ける。


「我が呼び声にこたえよ氷雪の竜。氷河の世界を我の前に創り出せ! 永久凍土!」


 氷、氷の複合魔術。

 初級が1種類。

 中級が2種類混合。

 上級が3種類以上の混合になる。


 内側から扉を氷付けにする。

 これで鍵が壊れていても、外側から入ってくるのは難しくなるだろう。

 時間稼ぎには十分だ。


 オレは背後でスノーの声を聞きながら、もう1つの扉の鍵を破壊し終える。

 丁度、マガジンが切れたため交換。

 弾倉に新たな弾丸を詰め込む。


 扉を開き、スノーを入れて強化した脚力で螺旋階段を一気に駆け上がる。


 1分もかからず、奥様が捕らえられている最上階の扉へと辿り着く。

 扉は丈夫そうだが、下の2つとは違って丁寧な細工が施されている。

 普通の扉のため、ぶち破るのは難しくない。


「奥様、ご無事ですか! リュートです!」

『リュート!? 貴方が1人で助けに来てくれたの!』

「詳しいお話は後で! とにかく扉から離れててください。前に立つのは危険なので端によっててくださいね!」

『分かったわ!』


 肉体強化術で身体能力を強化した肩で、一気に突き破る。

 扉は蝶番ごと、部屋の中に吹き飛んだ。

 部屋にはカレンのサプライズパーティー以来、数ヶ月ぶりに会うセラス・ゲート・ブラッド夫人が居た。


 パジャマのような飾り付けのないワンピース型の洋服。

 運動不足のせいかほんの少しだけ丸みを帯びた輪郭。

 さらに胸が大きくなっている気がする。


 だが、見える範囲で怪我も、拷問の痕もない。

 オレは胸を撫で下ろし安堵する。


「リュート、まさか貴方が助けに来てくれるなんて!」

「お、奥様!?」


 奥様は感極まったのか、初めて出逢った日のように正面から抱き締めてくる。

 ふくよかになった胸に顔が埋もれる。

 気持ちいいし、スノーやお嬢様とは違う女性の匂いに頭がクラクラした。


 奥様はパッと手を離しオレを解放すると、今度はスノーに興味を示す。


「あら、こちらの方は?」

「自分の婚約者のスノーです」

「リュートに婚約者がいたなんて初耳だわ! 初めまして、わたくしはセラス・ゲート・ブラッド。ご助力頂きまして誠に感謝いたしますわ」

「初めまして、リュートくんの婚約者のスノーです。奥様にはリュートくんの命をお救い頂きましてこちらこそ感謝しています」

「いえいえ、むしろ彼にはわたくしたちが感謝してるわ。良い買い物だって主人も言ってて。ところで下で強い魔力を感じたのだけど、あれはスノーさんのよね? 失礼でなければ教えて欲しいのだけど、級はどれぐらいかしら?」

「Aマイナス級です。2つ名は、魔術師S級の氷結の魔女様から、『氷雪の魔女』を賜りました」

「あらまぁ、凄いわ。その年でAマイナス級だなんて。しかもあの魔術師S級の氷結の魔女様から2つ名を頂くなんて。王侯貴族でも不可能なことよ」

「わたしとしては名前負けしていると思うんですけど。色々あって付けて頂いたんです」

「もしお時間あったらお話聞かせてくれるかしら。わたくしそういう冒険譚が大好きで。主人――ダン・ゲート・ブラッドも色々楽しい冒険譚を作る人で。面白いのだと、ダンジョンに眠っていた――」

「奥様! スノー! そういう話は後にしてください。マジで時間がないので!」


 下の階でも騒ぎが大きくなっている。

 オレでも感じられるほどの強い魔力を発し始めていた。


 スノーは背負っていたザックを降ろすと、真っ白な粘土のような塊を取り出す。


「奥様、少ししゃがんでもらっていいですか?」


 スノーの指示に従う。

 彼女は奥様の首に巻かれた魔術防止首輪を粘土のような物で覆い始める。


 魔術防止首輪には3つ機能がある。

 1つ――権限を与えられた者が目視出来る範囲であれば、首輪を縮め窒息させることが出来る。

 2つ――首輪を嵌めている者の位置情報を把握することが出来る。

 3つ――無理に首輪を取ろうとすると、首輪に施されていた魔術の力により装着者は死亡する。


 この粘土のような物は1つ目の力を封じるものだ。

 メイヤから渡された物で、効果は彼女が保証している。


 またこの首輪が付いている限り、奥様を連れ出しても位置がばれて追われ続ける。下手に弄れば死なせてしまう。


 だがメイヤ曰く、専門の道具と時間、技術があれば魔術防止首輪を外すのは難しくないらしい。

 そこでオレ達は奥様を連れて、城裏手にある約1キロ先の森を越えて街道に用意してある幌馬車に乗り込む手筈になっている。

 幌馬車内にはメイヤが運び込んだ専門の解錠道具が揃えてある。


 そこには当然、魔術防止首輪を解錠できる腕を持つ天才魔術道具開発者のメイヤがスタンバイしている。

 後は解錠出来るまで逃げ切ればいい。


 オレはスノーのザックからソフトボール大の玉を1つ取り出し、脇に置く。

 AK47のマガジンを外して、右腰脇にあるマガジンポーチのと入れ替える。

 こちらは今回のために用意した特別製の物だ。


「リュートくん、準備終わったよ」

「こっちも準備終わったぞ。それじゃスノー、打ち合わせ通り頼む」

「了解!」


 スノーはザックをそのままに肉体強化術の魔力量を増やす。


「奥様、失礼しますね」

「あらあら」


 奥様はスノーにお姫様抱っこされる。

 抱えられた奥様にオレが指示を出す。


「奥様、苦しいかもしれませんが、自分が声をかけたら息を止めていてください」

「ふふふ、こうしてると夫に初めて抱っこしてもらったことを思い出すわ……。そう、あれはわたくし達が初めて船の上で出会った夜。わたくし達は一目惚れしてその日の夜のうちに」

「奥様!」

「うふふ、分かってるわ。リュートに合図されたら息を止めればいいのね」

「お願いします。それじゃ行くぞスノー!」

「うん、いつでもいいよ!」


 オレは肉体強化術で身体を補助!

 AK47をフル・オートで積み上げられた煉瓦の壁に打ち込んでいく。

 マガジンが切れると、2本目を取り出し、さらにフル・オート射撃!


 フル・オートで撃った弾薬(カートリッジ)は特別製――徹甲弾だ。


 いつもの弾芯(ブレットコア)は疑似鉛を使用している。だが、今回は疑似タングステンの周りを疑似鉛で包み弾芯(ブレットコア)にする。その上に被甲(ジャケット)を薄く被せ弾薬(カートリッジ)を作り出す。


 徹甲弾は固い鉄板などを打ち抜くための弾丸だ。


 いくら反魔術煉瓦でも、鉄板も貫く徹甲弾に耐えきれる筈が無い。

 ちょうど人が通れるほどの大きさに弾痕が穿たれる。


「せーのォ!」


 オレは10秒だけ体中を魔力で覆う。そして、そのまま回し蹴り!


 煉瓦の塊が暗闇に舞い、落下する。

 落下音が城中に響いた。


 この時点でオレは魔力を半分ほど使い切っている。


 オレは弾倉を変えて、脇に置いていたソフトボール大の玉を拾い尖塔に空いた穴から城壁に向かって飛び出す。

 スノーは奥様を抱えてだ。

 もちろんスノーの魔法で減速・肉体強化術済み。


 下は暗闇だが、微かに見える城壁、その上に飛び乗る。

 ぐずぐずしている暇は無いが、城壁の下にはもちろん外を見張っていた警備員達が集まっている。


 あれだけ派手に脱出口を作っていれば当然だ。

 ここで準備した玉が役に立つ。


「奥様! 息を止めていてください」


 オレは城壁から飛び降りる直前、奥様に指示を出す。

 下には待ち構えている警備員達がいる。オレは持っていた玉を勢いよく投げつけた。


 玉が地面に激突し、破裂。

 大量の煙が巻き上がる。


「煙幕か!? 無意味なこの程度、すぐにげほ! ごほ!?」

「か、体が」

「これは銀か!?」


 煙に銀粉が混ざっている。

 銀はヴァンパイアにとっては猛毒。

 呼吸するだけで肺に銀が入る。


 オレ達は着地すると、混乱する中を一気に突っ走った。


 目指すのは約1キロ先にある森。

 あそこに入り込めばオレ達の勝ちだ。

 残り500メートル。


「!? リュートくん! わたしの後ろに隠れて!」


 スノーの警告。

 オレ達の行く手を遮るように炎の剣、氷の槍、雷の斧が踊る。

 スノーはオレを背後に隠すと、奥様を抱えたまま抵抗陣を展開。

 魔術の攻撃を全て防ぐ。


 魔術が放たれた影から、十数人の男たちが姿を現す。


「……ッ!?」

「なるほど、首謀者はリュートだったのか。メリーにしては狡猾な手だと思っていたが」


 約数ヶ月ぶりの再会。

 ギギさんの姿はまったく変わっていない。

 お嬢様がトラウマを懸命に乗り越えようとして、外に出たことを喜んでいたあの頃とまったくだ。


 そんな変わらない筈のギギさんが、いつも通り淡々とミスを指摘してくる。


「だがまだ甘い。陽動を仕掛けるには演技が過剰すぎる。情報は相手に考えさせ、詮索させその上で掴ませるのが上。なぜなら相手は自分が苦労して手に入れた情報を頭から信じるからだ」


 彼の背後に扇状に獣人種族がメインの男達が包囲するように広がる。

 彼らはギギさんが管理する直属の部下達なんだろう。

 目には絶対に奥様を逃がそうとはしない、雇われたプロの光が輝いていた。


 そんな彼らをギギさんが率いて、オレ達の妨害をしている。

 目の前に敵として立っている筈なのに、まだオレは嘘偽り、偽物なんじゃないかと考えてしまっている。


「……どうしてギギさんがそっちにいるんですか? どんな理由があって旦那様、奥様、メリーさん達使用人やお嬢様を裏切ったんですかッ」


 数ヶ月振りに再会して初めて出てきた言葉は、罵詈雑言ではなく理由を問い詰めるものだった。

 きっと、知り合いや友人を人質に取られて無理矢理、裏切させられているんだ。


 ギギさんは、無口で見た目は怖いがブラッド家を誰よりも大切に思っている1人。

 お嬢様の心配をして色々策を講じたり、付き添ったりした。そんな彼が本当に裏切るはずが無い!


 だが、彼の返答は相変わらず抑揚の無い淡々としたものだった。


「話すのはかまわんが、いいのか? 敵は俺達だけではないだろう」


 ギギさんが後ろを指す。

 煙幕はすでに晴れ、煙に巻き込まれていなかったヴァンパイア達が距離を詰めてくる。

 前門の狼、後門のヴァンパイアか。


「リュートくん……」

「……そうですね。理由を聞く前にやることがありますよね。まずはここを無事抜けて、奥様を安全な場所へお連れしないと」

「出来れば、だがな」


 ギギさん&部下達は油断ない構えを取る。

 背後には煙から逃れていたヴァンパイア達が追いつき塞いでいた。


 普通に考えれば、オレ達の逃げ場は無い。


 だが、オレはまったく焦らず左腕を高く上げ、ぐるぐると回し合図を送る。


 オレとスノー以外は意図が分からず、疑問の表情を浮かべた。


「なんだ、降参の合図か? だったらそうじゃなくてまず抱えている人質をだな――んぎゃぁああぁッ!」


 何かの破裂音。

 同時にギギさんの側に立っていた獣人の男が突然、その場に倒れる。

 左足の太股に穴が空き血を撒き散らす。


 ダンッ。


「がぁあッ!?」


 さらに隣の男も同様に倒れ込み足を押さえる。

 今度は右足の太股だ。


「スノー!」

「了解!」


 オレとスノーだけが、困惑せず男達が倒れて出来た穴を素早く突っ切り包囲網を脱出する。


「追え! 絶対に逃がすな!」


 唯一、ギギさんだけが突然の事態に反応して、逃げるオレ達の背を追うよう指示を出すが――


 ダンッ。


 その指示に反射的に反応して走り出した男が、足を抱えて倒れ込む。


 再び不可視の攻撃。


 ギギさんはまず攻撃の正体を探るため目に魔力を集中しているようだ。


「!? あれはお嬢様か!」


 そして気付く。

 はるか遠く、約500メートル先――森と平地の境界線。


 魔術で強化した視力でしか確認できない距離に。

 お嬢様が膝立ち姿勢で黒く長い筒状の武器らしき物を抱えている。


 膝射(しっしゃ)という射撃姿勢だ。

 発砲する度、初速約838m/秒の『7・62mm×51 NATO弾』が襲いかかる。


 彼らは知らない。

 今自分達がどれほど恐ろしい怪物の前に立っているのかを……。


 オレ達側の切り札――クリス・ゲート・ブラッドの才能が花開く――!




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明日、12月31日、21時更新予定です。

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