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軍オタが魔法世界に転生したら、現代兵器で軍隊ハーレムを作っちゃいました!? 作者:明鏡シスイ

3章

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第46話 ライフルマンの誓い

 はるか遠く、約500メートル先――クリスが膝立ち姿勢で黒く長い筒状の武器らしき物を抱えている。
 ギギはそれを魔術で強化した視力で確認し、味方に指示を出そうとするが、

 ――ダンッ。

「がぁぁあッ!」

 再び破裂音。
 ほぼ同時にリュート達の後を駆け出したヴァンパイアの1人が腹を抱えて倒れ込む。
 弾丸による攻撃。

(これで確定だ。どんな魔術か魔術道具か分からないが、星明かりもない暗闇の中、500メートル先から攻撃出来るらしいな)

 ギギは冷静に分析して、その驚異的な射程の長さ、精密さ、魔力を感じないのに致死的な攻撃を放つ脅威に戦慄する。

(クソ! あんな凶悪な物、長く生きてきて初めて見たぞ。今はクリスお嬢様が手加減してくれているから足や腹で済んでいるが、これが頭部だったら1発で即死。自分が死んだと認識する暇もなく殺される)

 しかもギギがどれだけ意識を集中しても、魔力の流れ・発生を感知出来ない。これでは魔術師でも不意を突かれたら気付かずに殺すことができる。

 極悪過ぎる武器にギギは背筋を震わせた。

 幸いなことに連射は出来ないらしい。
 破裂音が響く度に、クリスが手を動かし何かレバーのような物を前後させている。
 また間隔を開け破裂音が響いてくるのが証拠だ。

 ギギはすぐさま指示を飛ばす。

「敵の攻撃、約500m先! 攻撃方法は未知の魔術か、魔術道具によるもの! 連射は不可能! 半数は負傷者の救護。半数は俺に続け!」

 警備担当者ギギの指示に、プロである彼らもすぐさま行動する。

 指示通り半数は救護に周り、半数はリュート達の追撃に回る。

 追撃者の人数は獣人&ヴァンパイアで10数人ほど。
 全員が修羅場を潜ってきた魔術師Bマイナス級以上の猛者達だ。

「狙いを絞らせるな、回避運動をとりながら前進せよ!」

 ギギの指示に矢を回避するように左右に動きながら、リュート達の後を追う。
 相手との距離は200~250mほど。
 ギギ達は狙いを絞らせないためジグザグ運動で進んでいるため差は進行形で開いているが、今からでも十分追いつくことは可能な距離だ。

 さらに、森の中は夜目が利く獣人やヴァンパイアのほうが有利。
 しかもセラスの首には魔術防止首輪が嵌められている。
 これが付いている間はどこにいるのか位置を把握することができるし、専用の鍵以外で外そうとしたら相手が死ぬ魔術が込められている。

 いくら一時距離を離されたとしても、セラスを取り逃がすことは無い。
 しかも相手の戦力はリュート、クリス、白い魔術師――スノー。

 ギギは長年の勘から、スノーが内に秘める魔力、魔術師としての立ち振る舞いからだいたいの実力値を割り出していた。
 厄介そうな相手だが、集団で襲えば倒すことは不可能ではない。

 リュート、クリスには魔術師としての才能がないが、妙な魔術道具で武装している。

(確かに不可視の攻撃を放つ魔術道具は厄介。だが、あれほどの強力さ。そう何度も使えるとは思えん)

 ギギの予想通り、リュート&クリスには弾数の制限がある。
 彼は自分達の魔力量で強引にねじ伏せるのはそう難しくないと確信していた。

 また相手に予備戦力があったとしても、その時は足止めに専念すればいい。
 負傷から回復した仲間が集まるまでの時間稼ぎをすればいいのだ。

(つまりこの逃走劇は、最初から俺達の勝ちが決まっている鬼ごっこのようなものか)

 ギギは奥歯を噛みしめ、前を走る背中を睨み付けた。

 リュート、スノー&セラスが森へと入る。
 少し遅れてクリスが狙撃を中断し、後に続いた。

 約200メートル遅れてギギ達が森へと入り込む。
 リュート達にとってそこは知り尽くしている森の中だが、ギギ達にとってもそこは勝手知ったる庭のような場所だ。

 森が側にあるのに把握していないプロがいる筈が無い。

「ぐあぁ!」

 しかし最初の悲鳴は追撃者の中から上がる。

「どうした!?」
「あ、足が! 足に何か刺さりやがった!」

 獣人の革靴を貫通し、釣り針のように返しが付いた細い刃が臑の半分が埋まる程度の落とし穴に設置されていた。
 細いが頑丈で、体重と勢いで楽に靴底と足を貫通している。

「ぐげぇ!?」
「こ、こっちも! ダルダが喉を押さえてのたうっている! こ、これは……細い金属の糸が張ってあるぞ!?」
「ちくしょう! 奴ら! この森を罠だらけに変えやがッたんだ!」

 ダルダと呼ばれたヴァンパイア族の若い男が、喉から鮮血を流し地面に転がり藻掻く。
 仲間が慌てて治癒魔術をかけるが、銀が含まれているようだ。

 仲間が反銀薬アンチシルバードラッグを慌てて飲ませる。
 10メートルも進まないうちに負傷者は2名。

 勝手を知っていた筈の森は、まるでベトナムのジャングルのように罠が多数張り巡らされていた。
 狼狽える部下達にギギが叱責を飛ばす。

「落ち着け! 素人の罠だ! 注意して進めばひっかかることはない!」

 彼らも昔やったことも、やられたこともある手。
 進路上に罠を張り相手の進行を遅らせるのだ。
 ギギ達は慎重な足取りで、罠を回避しながら進む。

 ――ダンッ。

「ぐがぁ!」

 慎重に罠を探り解除していた男が、『7・62mm×51 NATO弾』で肩を撃ち砕かれ倒れる。

「伏せろ! さっきと同じ不可視の攻撃だ! 伏せろ!」

 ギギの指示に男達がその場に這い蹲るが、悲鳴は止まない。

 ――ダンッ。

「ああぁッ!」

 ――ダンッ。

「がぁッ!」

「どうして! 伏せているのにどうして攻撃が当たるんだよ!」

 ギギの側にいた男が半狂乱で喚き出す。

(恐らくお嬢様は自分達より高い位置にいて、見下ろしているんだ)

 森は緩やかな丘を描き傾斜がある。
 例え伏せても高い位置から狙われれば弾丸を当てることは難しくない。

(分からないのは星明かりも無い暗い森の中、どうして自分達の位置がこうまで正確に把握されているかだ……)

 ギギの脳内を落雷に似た閃きが走り抜ける。

「!? 肉体強化術を解除しろ! 魔力を探知されて狙われているんだ!」

 ギギの言葉に男達はすぐさま術を解除する。
 冷静に考えれば分かる理由だ。
 クリスの魔力は距離が離れているのと、使用量が小さいため感知が曖昧。ギギの側から位置を把握するのは難しい。

 ギギと部下達は再び立ち上がり、罠に気を付けながら前進する……が、

 ――ダンッ。

「ぐあぁあッ!」

 ギギの側にいた男の肩を砕き、鮮血を撒き散らす。

「痛い! 痛い! どうして! 俺は確かに魔術を切ったのに! どうして!?」
「落ち着け! 落ち着いて治癒魔術に専念しろ!」
「んぎぎぎぎ――」

 男は意識を集中しようとする。
 ギギの鼻先を背筋が氷る風切り音が聞こえた。

「あぁぁッ!」

 治癒魔術を施そうとした男の足が跳ねる。
 太股を撃ち抜かれたのだ。

 ――ダンッ。

「あああぁ!!!」

 次は反対側の足を撃ち抜かれる。

「ちくしょう! チクショウ!!! どうして俺だけぇぇッ! 止めてくれよぉ!」

 男は涙、鼻水、涎でぐちょぐちょになりながら今まで味わったことがない痛みに悶絶する。

 恐怖が伝染した。
 クリスがその気になればこんな風になぶり殺しにすることだってできるのだ――と、目の前で悶絶する男を使って森に入ったギギを含めた全員に警告しているのだ。
 そうするだけの理由も彼女には十分ある。

 男達の士気が目に見えて低下する。

 ギギは額に冷たい汗を流しながら、必死にある疑問を考えていた。

(なぜ彼女は星明かりも無い暗闇の中、自分達の位置を正確に把握して攻撃をしかけられるんだ?)

 魔術を使って探られている気配は無し。
 自分達も魔術は使っていないから探知されることもないはず……

(!? そうか、単純な目視でこちらの位置を把握しているのか!?)

 ギギは知っている。
 クリスの視力は、ヴァンパイアの中でも飛び抜けて高いことを。
 過去、弓で暗闇の中舞う大蝙蝠を撃ち落としたほどの天才、天凜、天賦の持ち主。
 あの不可視の長距離攻撃を可能とする魔術道具を持った彼女は、まさに水を得た魚だ。

 ギギは今更ながら心底肝を冷やす。

(お嬢様に才能が無い? 冗談じゃない! 旦那様よりやっかいだぞ!)

 ダン・ゲート・ブラッドは確かに強い。
 だが、ただ強いだけだ。
 もしギギが正面からダンと戦うことになったら、全力で逃げればいい。

 逃げて、姿を隠せば殺される心配は無い。
 ダンから――一握りの天才が辿り着ける魔術師A級から逃げるだけの強さが自分にはあると自負している。

(しかしお嬢様の才能、強さはそれ以上だ……!)

 魔力を察知できず、遠距離から即死させるほどの力を持った攻撃ができる。
 自分が何時、死んだのかも分からないほどの!
 どれほど強くても、どれだけの距離を逃げても、気を抜いた刹那に赤苺を潰したように頭部が飛び散る可能性がある。

 つまり、クリスと戦った場合、例えその場から逃げられたとしても何時殺されるか分からない恐怖に震えなければならない。
 どちらが怖いかなど一目瞭然だ。

 その事実にギギのみではなく、部下達も気付き震え上がる。
 何時、彼女が気まぐれを起こし、頭部に穴が空くか分からない。

 死神の手が、その場にいる全員の頬を優しく撫でる。



 雲間が途切れ星明かりが、まるでスポットライトのように森の一角を照らし出す。



 その光の下、クリス・ゲート・ブラッドがM700Pを抱え立っていた。
 ギギ達から距離にして約200メートル以上ある。

 彼女はM700Pを抱き締め、トラウマで喋れなくなった喉を懸命に動かし歌を紡ぐように唇を動かしていた。

 声は聞こえない。
 ただその場にいる男達全員が彼女に目を奪われ、動きを止めた。

 クリスは喉と唇を動かし続ける。

 ギギ達は知らない。
 今、彼女が口ずさんでいるのは、リュートから教わったアメリカ海兵隊で唱えられている『Rifleman’s Creed《ライフルマンの誓い》』だということを。

 前世、堀田葉太だった頃、リュートは英語が苦手科目だった。
 しかし、この『Rifleman’s Creed《ライフルマンの誓い》』だけは、格好良いと惚れ込んで一生懸命暗記したのだ。

 それをクリスに聞かせた所、彼女も妙に気に入って覚えてしまった。
 彼女はイジメのトラウマで声を発することは出来ないが、この『Rifleman’s Creed《ライフルマンの誓い》』を口ずさむと集中力が増し、命中率が向上すると彼女は力説したのだった。

 彼女は口ずさむ。

『これぞ我がライフル。世に多くの似たものあれど、これぞ我唯一のもの《This is my rifle. There are many like it, but this one is mine》』

『我がライフルこそ、我が親友、そして我が命。我は己の命を統べるかのようにそれを意のままとする《My rifle is my best friend. It is my life. I must master it as I must master my life》』

『我がライフルは我無くしては無意味。ライフルを持たぬ我も無意味。我は正しくライフルを解き放つべし。我は我を殺めんとする敵よりも正しくその身を射貫くべし。我は敵を撃つべし、敵が我を討つその前に《My rifle, without me, is useless. Without my rifle, I am useless. I must fire my rifle true. I must shoot straighter than my enemy who is trying to kill me. I must shoot him before he shoots me. I will……》』

『我がライフルと我は知る、この戦争にて大切なものは、我々が放った弾丸、我々が起こした爆発音、我々によって作られた煙、その何れでも無いことを。我々は理解する――それは数発の命中であるということを《My rifle and myself know that what counts in this war is not the rounds we fire, the noise of our burst, nor the smoke we make. We know that it is the hits that count. We will hit……》』

『我がライフルは我と同じく人である。それは我が命そのもの、そして我が兄弟。我は、その弱さ、その強さ、その部品、その付属品、その照準器、そして銃身――それら全てを知るであろう。我は我自身をそうするように、ライフルを清潔にし万全に保ち、我らは互いにその一部となる《My rifle is human, even as I, because it is my life. Thus, I will learn it as a brother. I will learn its weaknesses, its strength, its parts, its accessories, its sights and its barrel. I will keep my rifle clean and ready. We will become part of each other. We will》』

『神の前に、我は我が信仰を誓う。我がライフルそして我は我が家の守護者なり。我々は敵を打ち倒す者、我が命の救済者なり《Before God, I swear this creed. My rifle and I are the defenders of my family. We are the masters of our enemy. We are the saviors of my life》』

『そう、勝利は我々のもの。そして我々の勝利の後、敵なき世界が訪れるであろう《So be it, until victory is ours and there is no enemy》』



 自分達に死を与えるかもしれない少女が声無く囀る。

 彼らには、少女が何を囁いているのか解らない。
 星明かりに輝く金髪は美しく、子供特有のあどけない表情は庇護欲を掻き立てるほど可愛らしい。
 なのに自分達を一瞬で肉塊に出来る真っ黒な魔術道具を、我が子のように大切に抱きかかえている。

 白と黒。
 光と闇。
 生と死。

 この世の全てがあの場に存在すると錯覚してしまうほど幻想的で、畏怖的だった。

「ひゃぁぁあぁぁぁッ!!!」

 恐怖に耐えきれず、1人の男が背を向け駆け出す。

「や、やってられるか! こんなのいくら金を積まれても割にあわねぇよ!」

 肉体強化術で全開まで補強した足で森を抜け出そうとするが、

 ――ダンッ!

「がぁあああッ!」

 クリスは容赦なく、背後から太股を撃ち抜く。
 いくら肉体強化術で駆け出しても、音速の約2倍に達する弾丸から逃れる術は無い。

 クリスがボルトを前後。
 チン――っと、空薬莢が偶然、地面に埋まった石にぶつかり清んだ金属音が幕を閉じるベルのように鳴る。

 分厚い雲が再び星明かりを閉ざす。
 クリスの姿は闇に溶けて消えた。

 暫しの静寂。
 これをチャンスと捉え、また1人ギギの部下が無謀にも逃走を試みる。

「……ぎゃぁあッ!!!」

 肉体強化術で素早く矢のように走り出したというのに、まるで糸で結ばれたように弾丸が腹部を貫く。
 クリスはここから逃げることすら許さない。

 しかも、破裂音は先程よりさらに遠くなっている。
 クリスは後退しながらも、自分達に睨みを利かせているのだ。

「ふっ、ふっ、ふっ……」

 ギギ達の呼吸が短く荒くなる。
 恐怖を感じているのだ。

 勝ちが決まった鬼ごっこなどではない。
 自分達はまんまと怪物の口の中、死地へと誘い込まれたのだ。

(だが、まだ俺達の負けじゃない。最終的に奥様の身柄を押さえれば俺達の勝ちなんだ)

 魔術防止首輪が付いている限り、いつでもギギ達はセラスの居場所を把握することができる。

(まずはどうにかしてここを抜け出す。そして奥様の現在地を把握して襲撃をかけるんだ――ッ)

 ギギは折れかけた気持ちを立て直し、意識を切り替える。

 どうやって森から出るか思案していると、天高くあがり破裂する光。
 リュートによる『首輪を外した』という、クリスに知らせる撤退の合図だとはギギ達には分からなかった。

 暫くしてクリスの気配が完全に消える。
 そしてギギ達がその事に気付いたのは、30分ほど経った後だった。


ここまで読んでくださってありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
明日、1月1日、21時更新予定です。

今年は色々ありましたが、こうして皆さんに読んで貰い感想を頂き、本当に嬉しく思っております。
来年も頑張って更新しますので、是非『軍オタ』を宜しくお願いします。
それでは、よいお年を
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