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軍オタが魔法世界に転生したら、現代兵器で軍隊ハーレムを作っちゃいました!? 作者:明鏡シスイ

3章

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第44話 突入

――第三者視点――



 魔人大陸にあるブラッド伯爵城。
 そこにはつい数ヶ月前までダン・ゲート・ブラッド一家とその使用人達が住んでいた。
 しかし彼らはヴァンパイア当主の罠に嵌り、一家は離散。使用人達も多くは城を離れている。

 現在はヴァンパイア族当主である長兄ピュルッケネン・ブラッドと、その弟であるラビノが住んでいた。

 彼らの嫁や娘、息子達家族は本家に住んだままだ。
 ピュルッケネンとラビノはブラッド伯爵城に住み着きながら、資産を調べ上げている最中だった。事業資金、利権、家財道具一式、他金になる物全部を調べている。
 そのためブラッド伯爵城に住むことが便利だった。

 ブラッド伯爵城の尖塔最上階にはダン伯爵の妻、セラス・ゲート・ブラッド婦人を捕らえている。
 その見張りのためにいるという面もある。

 元ブラッド伯爵家使用人達が、セラスを奪いに来ることも警戒して城の警備を元警備長のギギに担当させている。一番、この城の内部や外部の地理に詳しい人材だからだ。
 他にも念のため、ヴァンパイア族の魔術師Bマイナス級以上の魔術師30人ほどを防備させている。裏切り者であるギギだけに任せるほどピュルッケネンは愚かでは無い。

 賃金はすべてダン・ゲート・ブラッド伯爵の資産から支払っているため、2人の懐はまったく痛まない。

 何を考えているのか、いつもの無愛想な表情でギギが食堂へ通じる部屋をノックする。

「……失礼します」

 部屋に入ると、ヴァンパイア族当主ピュルッケネン・ブラッドと次男のラビノが、肉料理を『くちゃくちゃ』音を立て貪っていた。長兄は丸々と太り、次男は対照的に細くひょろ長い。

 かつてここではダン伯爵、夫人のセラス、娘のクリスが使用人達に囲まれ和やかに食事を楽しんでいた。
 ギギはその穏やかな空気と楽しげな会話があった頃を知っている。

 それ故、今目の前の豚のように汚く食事を貪る2人とのギャップを一番感じているはずだ。しかしそれを顔におくびにも出さず、警備長としての役割を果たす。

「今日の分のセラス・ゲート・ブラッド夫人の報告に参りました。よろしいですか?」
「構わん、続けろ」

 ピュルッケネンの許可で報告を続ける。

「食事はいつも通り全て摂り、体調は万全。あえて言えば運動不足気味かと。暴れることも少なくなり、大人しく従っていますが目の力は衰えていないそうです。恐らく逃げ出すための好機を狙い力を溜め込んでいるかと」
「ふん、女の癖に生意気な。まったく愚弟は本当に女の見る目も無いとは、つくづく呆れるわ」
「まったくです、兄者」

 次男が追従の言葉を告げる。

「また、無事にダン・ゲート・ブラッドの移送が完了したと奴隷館からの報告がありました」

 ギギは反応を見せず、報告を続行する。

「ふん、これで奴は二度と生きて魔人大陸の土を踏むことは無いだろう。一応、愚弟とはいえ血の繋がった兄弟だから、命まではこの手で取らずにおいてやったんだ。感謝されてもいいぐらいだな」
「まったくです、兄者」

 実際は、側に置いたダンが魔術防止首輪を自力で解錠し自分達に復讐してくるかもしれないという恐怖を感じていたがさりとて自身の手で殺す勇気もなく、そのため奴隷として売り払った、というのが真相だ。

 単純にヴァンパイア当主であるピュルッケネンと次男のラビノが小物なだけだ。

 元執事のメリー達もダンが奴隷として売られたことをすでに知っている。
 救出しようとして失敗もした。
 だが、彼らはまだ諦めていない。

 監禁され人質になっているセラスさえ救い出せば、ダンなら自力で自分達の元に戻ってくる、と。
 メリー達は信じているのだ。

 だから彼らは躍起になって奪還しようと、昼夜関係無く襲撃をしかけているが全て失敗に終わっている。

「そんな奴らの心を叩き折るためには、クリスが必要だ」
「まったくです、兄者」

 単純に、救出対象が2人になればそれだけクリア条件が厳しくなる。
 また母親であるセラスを言いなりにするためには、子供ほど有効なものはない。
 さらに万が一ダンが戻って来たとしても、子供さえ抑えていれば自分達には絶対に手を出せない。

「それでクリスの行方はいい加減、掴めたのか?」
「……いえ、それが」
「まだ見付からないのか!? どうして子供1人、しかも魔術もろくにつかえない出来損ないを捕まえることができないんだ!」
「恐らく何者かの手によって、大陸外に出てしまっているのでは……」
「だったら、世界中を探し回っててでも捕まえて来い! この無能が!」

 ピュルッケネンは食べかけの肉の皿を掴み、ギギへ叩き付ける。

 彼の顔と衣服に当主の食べかけ肉がべったりと付く。だが、ギギは表情をまったく動かさなかった。

 ピュルッケネンが怒鳴り散らす。

「いいか、今、貴様の居場所はここしかないんだ。私達が放り出したら、貴様を恨んでいる元使用人達に背後からぶっすり刺し殺されるかもしれんのだぞ。そうなりたくなければ結果を出せ! 成果をあげろ! 分かったか!」
「……了解致しました。かならず当主様の前にクリスお嬢様を連れて参ります」

 ギギはゆっくりと頭を下げた。
 そんなやりとりをしている最中、ノックが響き渡る。

 部屋にはギギの直部下である獣人種族の男が、1人部屋に入って来た。
 彼はギギに耳打ちする。

「……当主様。どうやら港街に、メリー達が大規模な救助計画を行うため多人数で集まっている模様です」
「チッ、またあの無能共か……ギギ、貴様の部下達を連れてメリー達を殺して来い。他の一族が手を出してこないよう上手く処理しろよ」
「当主様、これは陽動の可能性があります。今まで襲撃はあったものの、ここまで露骨に分かりやすいのは初めてです。警備が手薄になった所を、別働隊が襲うという罠かと」

「何度も言わせるな! 我が城はヴァンパイア族の魔術師達が内外を固めておる! いいから貴様は部下を連れて奴らをぶっ殺して来い! それとも今すぐこの城から叩き出されたいか!」
「……失礼しました。早急に部下を連れて向かいます」

 ギギは丁寧に頭を下げ、部下の男を連れて食堂を後にした。



▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



――リュート視点――



 草木も静まりかえる深夜1時。
 城の外を中心に警備が敷かれている。
 敵は『外からの襲撃を警戒してます』と宣伝しているようなものだ。

 ここまでは狙い通り。

 メリーさん達が港街で集まっているのは、敵の目を反らす陽動だ。
 そして予定通り、彼らは外に警戒心を向けている。
 オレとスノーは城の内側に通じる抜け道を使い中へ侵入、奥様を救い出す作戦だ。

 警戒されていたメリーさん達への連絡は、お嬢様の親友の1人――ラミア族、ミューア・ヘッドにお願いした。

 カレン曰く、どうやら彼女は人目を盗んで行動するのが得意らしい。
 やっぱり蛇だからか?

 お陰でメリーさん達に無事、詳細な作戦を伝えることが出来た。

「でも、もう少し人員をメリーさん側に割くと思ったんだけどな。まぁこれぐらいなら想定内か」

 獣人種族系の人達が角馬に乗り城外へ。
 港街方面へと進んで行った。

 城に残ったのは恐らくヴァンパイア族――魔術師と、腕に覚えのある男達だろう。

 現在、オレ達が居る場所は城の裏手にある森の中だ。
 オレはギリギリまで城に接近し、様子を窺っている最中だった。用事は終わったため、森の中にある丸太小屋まで引き返す。



 約1時間かけ小屋がある場所まで戻る。
 丸太小屋の中にはすでにスノーとメイヤが待っていた。
 仲が悪い2人(スノーが嫌っているだけだが……)だけだったため、微妙に空気が悪い。

 オレが現れると2人とも色んな意味で表情を明るくする。

「お帰りなさいませ! リュート様!」
「お帰りなさい、リュートくん。お城の様子はどうだった?」

「ただいま。予定通り、奴らはエサに食いついたよ。そっちの準備は?」
「森に最後の罠をしかけ終わったよ。クリスちゃんも準備万端だって」
「わたくしの方の準備も完璧ですわ。いつでも行けます」

「了解。それじゃスノー、オレ達も準備に取り掛かろうか」
「うん、分かったよ」

 オレとスノーは粗末な机の上に置かれていた装備品を手際よく身に付けていく。

 オレ達はすでに黒一色の衣服に袖を通していた。

 オレはAK47のバナナマガジン×2を両腰ベルトに下げたマガジンポーチに2つずつ入れる。
 胸のベストに付けたマガジンポーチにも1つずつ入れておく。
 AK47にマガジンを装填。コッキングハンドルを引き、薬室(チェンバー)にまず弾を1発移動。
 腰にナイフを装備した。

 前世、軍隊の兵士が突撃銃(アサルトライフル)の予備弾倉を持っていく数は、『銃についている弾倉1つ』+『予備6つ』程度らしい。

 オレは銃についている弾倉1、予備6で合計7つ。
 だいたい平均ぐらいだ。

 スノーは『S&W M10 4インチ』&『S&W M10 2インチ』リボルバーを腰と胸に下げたホルスターに押し込む。
 もちろんシリンダーには全弾詰め込み済み。
 スナイパーライフル製作にかかりっきりで、彼女専用のAK47を作る暇がなかったため、オレのリボルバーを手渡した。
 これでスノーは2丁拳銃になる。

 スノーは両ポケットにはスピードローダー2個(6発×2。ちなみにスピードローダーとは、円形に弾を配置した補充用の弾+台座のことで、短時間でリボルバーに弾を再装填することが出来る)。
 オレと同じように着込んだベストの胸には、『スピードストリップ』と呼ばれるローダーが押し込まれている。
 スピードローダーがシリンダーのように丸く弾薬(カートリッジ)を固定しているのに対して、『スピードストリップ』は雷管(プライマー)を下に6発単位で並び固定されている。

 スピードストリップは嵩張るという概念を覆した製品だ。お陰で自動拳銃のマガジンレベルに薄くなり、携帯にも適している。欠点としては装填の時間が遅くなることだが、そこはスピードローダーで補えば良い。

 またスノーも腰にナイフを装備する。
 彼女は他にも小型のザックを背負った。

 オレ達の弾丸は一部を除いて、弾頭に薄く銀を付着させている。
 ヴァンパイアにとって銀は猛毒。

 2人の装備を合わせれば、単純計算上では城の警備員を皆殺し出来るだけの弾数だ。
 しかしあくまでオレ達の目的は奥様の奪還。城の警備員を皆殺しにするつもりは毛頭無い。

 空は曇って星明かりは無し。
 雨が降る気配も無い。
 絶好の奇襲日和だ。

 オレは丸太小屋の暖炉に手を伸ばす。
 小屋に到着してすぐ、隠し通路を開くためのギミックは調査済みだ。

 オレは暖炉内部の壁一部を力強く押す。
 屋敷の暖炉のように床に敷き詰められた煉瓦のひとつが持ち上がる。それを丁寧に取り上げると、鉄製の取っ手が姿を現した。

 オレは取っ手を掴み、力を入れて隠し通路の蓋を開く。

 最初に顔だけ入れて中の様子を確認。

「…………よし、問題無いみたいだ」

 積もった埃には城から歩いて来たオレの足跡しか無い。この隠し通路を使った人物がオレ以外いないことを示している。
 ヴァンパイア族当主達はこの隠し通路に気付いていないのだ。

 最初にオレが降りて、次にスノーが続く。
 メイヤはオレ達が降りきると、隠し通路の蓋を改めて閉め直し、自身の持ち場へと向かう手筈だ。

「それじゃ行くか、スノー。もし異変に気付いたら教えてくれ」
「うん、分かったよリュートくん」

 オレ達は声を掛け合い隠し通路を城へ向かって歩き出す。



▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 前回はお嬢様を抱え、歩いて片道約1時間ほどかかった。
 オレとスノーの足で約50分ほど。
 地上の警備員に気付かれる可能性があったため、肉体強化術は使っていない。

 魔術師は魔力に反応する。
 そのため魔術師を魔術で襲撃、奇襲をかけて殺害するのは難しい。
 襲う前に魔力の流れに気付かれてしまうからだ。

 ここで使って万が一、地上の警備員に気付かれたら奇襲は失敗する。

 肉体強化術は使えなかったが、普通の徒歩移動なので疲労は殆ど無い。

 終点に辿り着くと、スノーに階段を上がってもらい扉外の様子を窺ってもらう。
 彼女は白狼族のため人種族より鼻、耳が利く。
 扉越しに、その先に人気が無いか確認してもらっているのだ。

 スノーが人差し指と親指を付け、他の指を広げる。
『OK』のハンドサインだ。
 ここからは喋らず、ハンドサインで意思を伝えると事前に決めておいた。

 そのためにスノーにはハンドサインを覚えて貰った。
 これはそのひとつ。

 オレが入れ替わり隠し通路の扉を押し上げる。
 AK47はスノーに一時手渡す。
 肉体強化術を使わず単純な腕力で開けるため、オレが適任だ。
 ゴトリ、やけに大きな音が響いた気がした。

 オレが先頭でまず顔を出し、様子を目視で確認する。

 ……見える範囲で人影は無し。
 数ヶ月前まで見慣れていた食堂が目の前に広がっていた。

 極力音を立てないように蓋を持ち上げ、城内部に侵入する。
 蓋を置き、スノーを手招く。
 彼女が食堂に入ると、AK47を受け取る。

 今度はスノーがオレより先行し、扉越しで人の気配、音を窺う。
 城内の移動はスノーに先行してもらう。彼女の方が夜目が利き、鼻や耳で気配をいち早く察知することが出来るからだ。

 オレとお嬢様で城の設計図を細かく書き、スノーに覚えてもらった。
 場合によってはオレが先頭になり、ルートを調整すると取り決めてある。

 オレは念のため暖炉の蓋を再度閉めた。

 スノーは使い慣れた自身の『S&W M10 2インチ』リボルバーを手に、廊下に通じる扉を開け左右を確認。手招きする。

 廊下を2人で慎重に歩くが、足音は殆どしない。
 この日のために作った特注のブーツだ。

 靴音が最小限になるよう、靴底に柔らかい魔物の素材を貼り付けている。爪先には魔術液体金属で作った鉄板が入っており、安全靴状態にもなっていた。
 走ったりすればさすがに足音は響くが、歩く分には静かな物だ。離れていればまず気付かれないだろう。

 オレ達は周囲を気にしながら尖塔を目指す。
 奥様が捕らえられている尖塔への入り口は、食堂とはほぼ反対側だ。

 尖塔の入り口は地下にある。
 城内の階段で一度地下に降りて、扉を開けて進むと奥にまた扉があり、そこを開けて塔の螺旋階段を登って最上階の扉を開ければ、奥様が捕らえられている貴賓室になる。

 元々、王族や上流階級者、貴族の捕虜を捕らえておくための部屋だったらしい。
 尖塔に使われている煉瓦は特別製で、魔術協会が製造した反魔術煉瓦だ。

 一定以上の魔術を弾く煉瓦らしい。
 魔術協会独占技術のため、通常の煉瓦より数倍値段が高い。

 そのため外部から塔を魔術で破壊して、中の人質を助け出すのはほぼ不可能。

 もし仮に破壊しようとしたら、反魔術煉瓦を上回る程の大規模な魔術を使用しなければならない。
 中の人質ごと消し飛ばす威力が必要になる。
 口封じに暗殺するなら問題無いが、救助となると話は別だ。

 前を進むスノーが左腕を目一杯伸ばし手のひらを広げる。
 止まれの合図だ。

 次にスノーはリボルバーを持つ右手首を、他の指は広げたまま左手の人差し指、親指で掴む。敵の合図だ。
 左手を手首から離し、指を2本立てる。
 つまりこちらに向かって2人の警邏らしき人物達が向かって来ているらしい。

 彼女は交戦を示す合図で問いかけてくる。
 オレは首を振った。

 オレ達は警邏をやり過ごすため、物陰に息を潜める選択をする。
 オレは花瓶が置かれた机の下。
 スノーは金属製の全身甲冑の陰にそれぞれ隠れる。

「……たく、やってらんねぇよ。こんな遅くまで警邏なんてよ」
「まぁそう愚痴るな。これも仕事のうちじゃないか。金の払いはいいんだし」
「確かに金払いはいいかもしれないけどさ。人使い荒すぎるだろ」

 角を曲がり愚痴をこぼす2人組が姿を現す。
 ここまで来るとオレの耳でも彼らの会話を聞くことが出来た。

「まぁまぁ。今度、金が入ったら飲みにでも行こうぜ。良い店を見付けたからさ」
「良い店ね。オマエの良い店って大抵ギャンブルが出来るかどうかだしな」
「そう言うなよ。1人じゃ行き辛くてさ。一杯奢るし」
「1人で行き辛いってオマエは子供かよ」

 男達が笑いながら通り過ぎ、次の角を曲がる。
 暫くして再び静寂が耳に痛くなってから、オレ達は物陰から這い出す。

「!?」

 スノーが出る時、金属製の甲冑に軽く腕をぶつけてしまう。
 その拍子で甲冑が持っていた長大な戦斧がぐらりと傾き、床に向かって落ちていく。

 オレはAK47を背中に回して、ダイビング!
 ギリギリの所で、戦斧が床に落ち激しい金属音を響かせる前に掴むことができた。
 オレ達はほっと溜息を漏らす。

 斧を元の位置に戻すと、オレはスノーの獣耳を軽く引っ張った。
 彼女は申し訳なさそうに両手を合わせる。

 気を取り直してさらに進む。



 スノーの停止命令。
 そこはなんてことのない一本道の通路だ。
 この先を真っ直ぐ進み右へ曲がり、さらに進んで左に曲がれば塔へ入れる地下の入り口がある。

 スノーはハンドサインでは無く耳を貸すよう手招きした。

(リュートくん、この通路に結界が張ってある)
(結界?)
(旅で野営する時、ぐるりと寝床を囲む魔術道具があるの。外部の生物が、魔術道具で結んだ結界を越えると大きな音を立てたり、使用者のみに知らせたりする魔術道具だよ)

 確か約3年前、あの偽冒険者達も野営をする時に杭のような魔術道具を地面に立てていた。
 嫌なトラウマを思い出す。

 だが念のためスノーを先行させておいてよかった。
 魔術トラップが仕掛けられていたら、オレじゃ絶対に気付かなかった。

(解除は出来そうか?)
(大丈夫。けど、ちょっと時間かかるけど平気かな?)
(時間ってどれぐらいだ)
(たぶん5分ぐらいだと思う)
(まぁそのぐらいなら……魔力は使うなよ。気付かれるから)
(もちろん分かってるよ)

 スノーはリボルバーの撃鉄を戻すと、愛銃を胸のホルスターにしまう。
 罠解除のため床の一角へ這い蹲った。

 左右の壁に杭のような物が置かれている。
 どうやらそれがスノーの言う結界装置らしい。

 ……罠解除を初めて3分ほど経った頃、スノーが急に体を起こす。
 右手首を左手で掴み、2本指を立てる――城を見回っている警邏がこちらへ向かっているのだ!

 この辺は真っ直ぐな廊下で、隠れ潜める部屋など無い。
 唯一あるのは子供2人ぐらいなら入れる大きな壺だ。

 オレ達に選択肢は無く、急いで壺の中に身を潜ませた。
 子供2人が身を隠せると言っても、所詮壺の中。
 広さは無く、スノーと正面から抱き合う形になる。

 彼女の成長した柔らかな胸の感触が、ベスト&弾薬(カートリッジ)越しに感じられる。

 感触をしっかり堪能している暇は無く、足音と会話が壺の中でも聞こえてくる。

「本当に人影なんて見たのか?」
「ああ、目には自信があるんだ。ちらっとだが動く物を確かに見た」
「しかし外は魔術師や仲間達が固めてネズミ1匹入って来られないはずだぞ。どうやって入って来たんだよ」
「俺が知るかよ」

 2人組は会話を続ける。
 気配から一応奇襲を警戒しているようだ。
 だが、どこにも人影1つ無い。

「……どうやらオマエの勘違いみたいだったな」
「確かに動く影みたいなのを見たんだけどな」

 どうやら無事、切り抜けられそうだ。
 オレは思わず安堵の溜息をつく。

 ふと――抱き合う形のスノーと目が合った。彼女の桜色の唇が目の前にある。甘い吐息の匂い、真珠色の真っ白な歯。あまりに魅力的過ぎて胸を高鳴らせ、思わず首を後ろに下げ距離を取ってしまった。

 コツン――

「誰だ!」
『『!?』』

 目測を誤り後頭部が壺に当たり微かな音を鳴らしてしまう!
 さすがに警邏の2人も気付き、声を上げる。
 スノーの批難する視線が痛い。

 彼らは音のした方向――壺に向かって声をかけてくる。

「おい、そこに誰か入っているのか?」

 近づいてくる足音。

 スノーが視線で問う。
『ここでやる?』かと。
 だが、さすがにまだ尖塔入り口まで遠い。しかし、このままでは確実に見付かってしまう。一か八かやるしかないのか……?

 足音がさらに近づいてきた。

「チュウ」
「おわ! なんだ……コマネズミか?」

 どうやらコマネズミが壺の裏側から姿を現し、走り去ったらしい。
 男達の間に漂っていた緊張感が弛む。

「どうやらオマエが見たのはネズミの影だったらしいな。目が良すぎるのも考えもんだな」
「ははは、確かに。だがネズミ1匹通すなっていう上からの指示だ。俺達は真面目に仕事しているってことだろ?」
「確かに」

 男達は笑いながら、再び警邏へと戻る。
 オレとスノーは2人同時に安堵の溜息を漏らす。

 まさか本当にコマネズミに恩を返して貰えるとは思わなかった。お陰で首の皮一枚で繋がった。

 十分距離が開いたことを確認して、スノーが出てもいいと合図を送ってくる。
 オレ達は慎重に音を立てず壺から抜け出す。

 スノーが今度はお返しとばかりに耳を引っ張ってくる。
 オレは両手を合わせ、先程の彼女のように謝罪した。
 そしてスノーは改めて再度結界解除のため動き出す。

 彼女は改めて作業に取り掛かり約3分ほどかかって結界を無効化。
 野営に使われる安物だったため構造自体がシンプルで、無効化はそこまで難しくなかったらしい。
 値の張る室内向けのセキュリティーじゃなかったのが幸いした。

 オレ達は気を入れ直し尖塔入り口を目指す。
 右に曲がって、真っ直ぐ進んで左の門へ。

 スノーが立ち止まる。
 彼女がハンドサインで教えてくれる。
 匂いで数は2人。男。恐らく魔術師の力を増幅(ブースト)させる杖を持っている。特殊な木の匂いで判断したようだ。

 オレは彼女にここから一気に突入することをハンドサインで知らせる。
 見張りの男は左がスノー、右はオレが担当する。

 事前に決めていた通り、ここからは魔力全開、一気呵成に駆け上がる。
 時間との勝負だ。

 スノーが愛銃を握り締める。
 オレもAK47のストックの握りを確かめ、左手でカウントダウンを開始する。

 5、4、3、2、1――

「GO!」
「「!?」」

 オレ達はすぐさま肉体強化術で身体を補助!
 廊下の影から飛び出し、AK47とS&Wリボルバーの銃口を男達へとそれぞれ向けた。


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明日、12月30日、21時更新予定です。
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