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第37話 竜人大陸へ

第34話、第35話、第36話、第37話の計4話を連続で更新しました。


『私は逃げません。リュートお兄ちゃん、戦ってお父様とお母様を2人で助け出しましょう! 徹底抗戦です!』


 オレの間の抜けた返答に、お嬢様はさらにミニ黒板を主張するように突き付けてくる。

 学校でイジメられて、引き籠もり外に出るのも怖がっていた少女が、まさか両親を助けるため徹底抗戦を言い出すなんて……。

 お嬢様の心の成長を喜ぶべきか、旦那様&奥様の娘らしい意外にも猪突猛進な性格を憂うべきか判断に迷う。


 とりあえずオレはお嬢様を落ち着かせることにした。


「お嬢様のお気持ちは分かりますが、自分達だけで旦那様方を助けるのは不可能です」

『やってみなければ分かりません!』

「分かります。戦力差を考えてください。魔術師を50人以上擁するヴァンパイア族本家当主を相手に、非魔術師である自分達2人が挑んでも旦那様方を救える可能性は0です」

 冷静な反論にお嬢様は苦い顔をする。

 だが一歩も引かない。


『自分もリュートお兄ちゃんがゴブリンから大切な人達を守ったように、私も大切な人達を……家族を守りたいんです!』


 前にゴブリンから子供達や大切な人を守ったことを話した。

 お陰でお嬢様が訓練に興味を持ち、引き籠もりから脱する切っ掛けとなる。

 それが今、こんな形で足を引っ張るとは夢にも思わなかった。


 お嬢様は鼻息荒く続ける。


『では竜人大陸に行く旅費で、お兄ちゃんの言ってた魔術道具を! AK47を買いましょう! お父様に傷が付くかも知れないと言ってたから、よっぽど凄い魔術道具なんですよね?』

「確かに威力はありますが……、ですから珍しい魔術道具でこの辺には売っていないんですよ。だから買うことなんてできません」

『だったら売っている場所へ行きましょう! そしてお父様やお母様、メリーさんやメルセさん――家族のみんなを私が助けるんです!』


 お嬢様は鼻息荒く、血気盛んに拳を握り締める。


 お嬢様がここまで好戦的な性格を隠し持っているとは思わなかった。

 あぁ、AK47の話なんてするんじゃなかった――あの時、話しても問題無いだろうとか思ったオレ自身を殴りつけたい。


「すまないが、お嬢さんの言う『AK47』というのは、『破裂の魔術で小さな金属片を遠距離に飛ばして相手を殺傷する』魔術道具のことかい?」


 オレ達の会話に意外にもラーノが食いついてくる。

 しかもどうやらその口ぶりでは『AK47』という名称を知っているようだ!

 嘘だろ!?

 この異世界でどうして彼が『AK47』の名称を知っているんだ!?


 オレ達の反応を見てラーノが勝手に話をし始める。


「お2人は『魔石姫(ませきひめ)』をご存知かな」

「魔石姫?」


 オレは首を傾げる。

 一時、魔術道具の道に進もうとしていたお嬢様が説明してくれる。


『魔術師にして、魔術道具開発の天才ですね。彼女が竜人大陸の魔術大学在籍中に開発した『七色剣(ななしょくけん)』は、魔石の常識を覆す画期的な発明品です』


 七色剣とは――火、水、風などの魔石を入れ替えることで属性を切り替えられる剣のことだ。


 当時の常識では、属性魔石を入れ替えることは出来ないというのが定説だった。

 魔石姫はその定説を覆し、魔石を入れ替え属性を切り替えられる魔剣を作り出してしまった。


 以来、彼女のことを人々は魔石を扱うプロフェッショナルから『魔石姫』と呼ぶようになったらしい。


「最近の発明では魔石の魔力充填を30日から15日に短縮する『魔力集束充填方式』を開発し、さらにその名声を高めていますね」


 お嬢様はラーノの話を聞いて驚きの表情を作る。

 魔術道具開発を目指した彼女だけに、期間を半数にするのがどれほど難しいのか理解できるのだろう。


 オレはラーノに話を促した。


「それでその『魔石姫』の話と『AK47』がどう繋がるんですか?」


「その方が商人中に『金属片を飛ばす魔術道具』『AK47』や『M10』に関しての情報、その物があったら言い値で買い取ると御触れを出していてね。商人達は目の色を変えてこぞってそれらの情報やそれだろうと思う品物を集めて彼女を訪ねているんだが、大抵違う物で謝礼を貰うどころか、お怒りの言葉を貰っているらしいんだ」


 ラーノが困ったように頭を撫でる。


「うちでも情報を色々集めたんだが、どうやら他の商人が唯一それっぽい物を持っている子を妖人大陸の魔術師学校で見付けたらしいんだ。けど、この子がいくら金銭を積んでも絶対にその『金属片を飛ばす魔術道具』を手放さなくて。でも、その情報だけでかなりの額を手に入れたらしい」


「もしかして、その魔術師学校の生徒って『スノー』という名前じゃないですか?」


「そうそう。やっぱり何か知ってるんだね。もし知ってるなら、教えてくれないか? 上手くすればそのスノーって子から、品物を買い取れるかもしれないからね。もし上手く買い取れたら謝礼は弾むよ。むしろ妖人大陸まで2人をタダで運んだっていい。それぐらい魔石姫から頂ける謝礼金額は多いから十分元は取れるしね」


「知ってるも何もスノーは僕の婚約者ですから」

「こ、婚約者! それは本当かい!?」


 オレの返事にラーノは驚いた表情をする。


『……リュートお兄ちゃんには、婚約者さんがいたのですか?』

「はい、孤児院で一緒に育った幼なじみです」


 返答を聞くとなぜかお嬢様は先程まであった戦闘熱を鎮火させ、胸をギュッと握り締め俯いてしまう。


 オレはお嬢様に声をかけようとしたが、ラーノの興奮気味な問いかけに出鼻を挫かれた。


「もしリュートの話が本当なら、なんてワタシは幸運なんだ! リュートを魔石姫の元へお連れするだけでかなりの謝礼金が貰えるぞ」

「いいえ、きっとそれ以上の額を必ず支払って貰えますよ」


 ラーノの独り言をオレは否定する。


「何せその『金属片を飛ばす魔術道具』を作り出したのは僕なんですから」




 こうしてオレとお嬢様の行く先は決まった。

 竜人大陸に住む魔石姫の元へと――。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明日、12月23日、21時更新予定です。

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