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096:実況見分

 そろそろ解散しようかという雰囲気のタイミングでヘルツが駆け込んできた。

「あちゃー、遅かったかぁ・・・」

「訓練は終わりましたよ。というか、ヘルツさん講義とかなかったんですか?」

「ああ、ちょっと出向元でゴタゴタがあってな」

「子爵家の件ですか?」

「なんだ、もう知っていたのか」


 ヘルツは学園に連絡が来た後、子爵家で起きた事件の実況見分の手伝いをしていたらしい。

元冒険者であり犯行現場の異常さから、化け物の仕業だろうと推測されたからだ。

元子爵だった者は近衛により【ガーゴイル】のようだと表現されていた。

【ガーゴイル】の特徴としては鋭い爪や悪魔をイメージさせる容姿と翼があり、よくダンジョンを守護する存在として石像に化けて冒険者に被害を与えている。


【ガーゴイル】と元子爵だった者との違いは、翼から放たれた闇状の何かと血液を消し去った事だろう。

後で救援に来た協会関係者の言葉を借りるなら、「悪意の塊にあてられた」という事だった。

逆に言えば聖光に弱い存在だとも言われている、血液をもし吸いだしているならアンデットの可能性もあると示唆していた。


 ルオンの事件でもそうだが、アンデットなどの穢れに被害を受けた者はアンデットになりやすい事もあり特別な焼却をして処理する事が普通だった。ところが、今回一家惨殺ということで死体の引き取り手がなく、騎士も協会関係者も処理に困っていた。

今の子爵領の代官は子爵家の遠縁で、王国から人員は出すものの領内の運営は問題ない事から、爵位を下げてこの代官を当主とする事が内々に決まったようだ。今から連絡して戻ってきたらアンデットになってましたでは済まされないのだ。


「リュージ、お前神聖魔法使えるって聞いたんだが」

「ええ、そんなに得意ではないですが」

「ちょっとなぁ、正直困ってるんだよ。いっそその場でアンデットになったなら討伐出来るんだが、そのまま保管って訳にもいかなくてな」

「協会に牢屋って・・・、ないですよね」

「ああ、ないな。あったら怖いな」

「最悪遺髪だけ取って処理したらどうでしょう」

「そうだな、さすがにお前を連れて行くのも問題だしなぁ」


「ヘルツ、まだ学生なのだから安全を確保出来ない案件なら認められんぞ」

「学園長、相手は死体ですよ」

「安全ならこんな話にはならんのだろ」

「はぁ、協会の上の方は秘密裏に処理したがるし、数日間四六時中見張るというのも騎士は嫌がるし。出向した俺まで巻き込むなよと言いたい。折角面白い見世物があったのに・・・」

周囲から冷たい視線で見られているヘルツはため息をひとつついた。


「もー、仕方ないですね。見るだけでいいなら付き添いますよ」

「お、来てくれるか?なるべく時間を取らせないようにするからな」

「分かりました、後で協会関係者から文句が出ないようにお願いしますよ」

「勿論だ、迷惑はかけねぇよ」

「おい、リュージ。少しでも危険が考えられるなら俺もいくぞ」

「ヴァイスはこの後予定ないの?」

「ああ、さっきの戦闘を見てから少しうずうずしているしな。何もないならそれが一番だよ」

「じゃあ、お願いしたい。神聖魔法を使うならその間に守ってくれる人が欲しいからね」

「大丈夫さ、そう何度も何度も王都でアンデットが出てたまるか」


 退出しようとしたら隊長から「武器の鎌を持ってるのか?」と聞かれた。

これからも持つつもりはなかったので「ないです」と答えると、練習で使っていた木製の両手鎌を持っていくように言われた。「何もないよりはマシだからな」と言う隊長に「備品なのに良いんですか?」と聞くと人気がないからずっと使うようにと言われてしまう。さりげなく頷く学園長も止めて欲しかった。

木製の両手鎌を収納に仕舞い、3人は死体が安置されている公然の秘密である協会火葬場へ向かった。


 この世界の協会とは互助組織だ。元々は宗教だけをやっていた『教会』の方を重視していたようだけど、力を持つにつれて資産が増え武力を持つようになった。また善良なシスター等は冠婚葬祭や教育に走り、穢れを扱う対アンデット組織は自然と秘密主義になっていった経緯がある。旅に出た宗教家も多かったようだ。


 王家も貴族も特定の団体も偏った力を持つ事は好まれない、『教会』の活動をしてた者は自然と互助組織である協会に所属し、力を削がれながらも王家や貴族からの支援により運営される事になった。

年末にあった冬越しの施設もその絡みで、ダイアナとガレリアが協力していた経緯がある。


 ところが全部が全部公表されている訳でもない、特にこの対アンデット組織は独自の人脈作りと組織運営があり、協会に属していながら別部門から干渉されない独立独歩を歩んでいる組織だった。

穢れに近いので魂が汚染されやすいとか、怪我や病に近いから近付かないで欲しいとか言われてしまう部門なので所属を隠している職員も多いらしい。


 火葬場へ行くと早速職員から苦情がヘルツ宛にきた。

今は死体安置所に5体置かれてて、その部屋の外に騎士が二名常駐していた。

火葬場とは文字通り死体を火により葬る場所だ、アンデットなど多く出る訳でもなくその処理をする高位の司祭も常駐している訳ではない。とりあえず置いておいて保管する場所ではないので、苦情が出るのも仕方がない事だろう。


 今日だけは保管して貰い、明日に焼却出来るように手配するのでと職員にお願いすると何とか納得してもらった。

二人の騎士には引き続き監視をお願いしていた。

「じゃあ、念の為実況見分だ。リュージとヴァイス大丈夫か?」

「見たことないので分かりません」

「ああ、俺は大丈夫です。まあ、そういうの見たことあるんで」

やっぱり異世界だと死は身近にあるのかなと少し考えた、なるべく自分の周りの人にはそういうのがなければ良いなと思う。


 ヘルツを先頭に部屋に入ると5体の死体が安置されていた。

1名は侍女で細い何かで咽が切り裂かれてた、他の4体は子爵家の者らしく鳩尾に近い場所に細く鋭い何かに刺されてたのは事前に聞いていた通りだ。苦悶の表情には白い布がかけられていて、そっと外したけどすぐに元に戻した。


「ここでお前達に質問だ、犯人は十中八九元子爵だった男だ」

「「はい」」

「この子爵は化け物になった訳だが、人としての記憶や考えはあると思うか?」

「うーん、あると思います」

「ヴァイスはどうだ?」

「俺もあると思います、まずこの侍女の殺害ですが咽を斬っている点です」

「ほう」

「子爵はここに戻りたかった、そして多分空から進入し二階から進入しようと・・・、そう多分ノックをしたんだと思います」

「窓を開けた侍女が叫ぼうとした所、咽を斬り裂かれたんだな」


 慎重に屋敷に入り家族に何かを伝えたかったんだと思った。

その為には外にいる騎士に気付かれる訳にはいかず、侍女に騒がれるのは得策ではないという頭が働いたと思う。

ということは人としての知恵があった、そして騒がれる事なく家族と対面しているという事は、ホラーのように各個撃破したか人間としての姿で対面したに違いない。


「殺し方が違うという事は何をしたかったんですかね?」

「こういう時は仲間を増やすってのがよくある行動だな、アンデットによく見られる特性だ」

「ということは・・・」

「リュージ、動かれる前に聖光を当ててみろ」

「これがやらせたかった事なんですね」

「ああ、正直ここの連中は信用ならないからな。見張りの騎士がやられるのも目覚めが悪いわ」


 死体があるだけでこの部屋が陰気な感じなのは仕方がない、ヘルツとヴァイスに壁になってもらいまず最初に自分を含めた3人にホーリープロテクションを唱えた。精神を集中して自分を中心に聖光がゆるやかに室内を覆っていく。


 トゥクン・・・、5体のうちのどれかに変化が起きたようだった。

「おい、出入り口を開けとけ。何か動きがあるが逃がすなよ」ヘルツが騎士二人に注意を促した。

5体あるうち1体に動きが出てどれか探していると、息子らしき男の死体が胸の辺りから跳ね上がった。

ヘルツは短剣を二本出して、ヴァイスは剣と盾を持ってきていた。


「こういう室内では剣は向かないな、リュージは一番得意な武器を出しとけよ」

これはフリなのだろうか?持っていけと言われた手前、木製の両手鎌を取り出したらヘルツとヴァイスにふかれた。

「これって宿命なんですかね」

「な、魔法使いが武器持つと碌な事にならないだろ」

「遊んでいないで早く制圧してください」

「んじゃ、ヴァイス行くか」

「はい」


 聖光が満ちた部屋でアンデットの動きは緩慢になっている。

起き上がったアンデットはヴァイスの盾に抑えられた後、ヘルツの二本の短剣に縫い付けられホーリープロテクションの効いている拳で数箇所殴ると再び生命活動を停止した。

職員に事情を説明すると、この動いた一体だけ冒険者ギルドで解剖をする事になった。扉を念入りに施錠して、騎士の二人にくれぐれも宜しくとお願いしていたようだ。


 自分は何でこの武器を出したんだろう・・・、完全にスルーされているのが恥ずかしくなってそっと収納に仕舞うのであった。




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