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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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095:覚悟

「今回は一本勝負だ、とくに取り決めはないが二人ともいいか?それでは開始線に立って・・・、はじめ」
ティーナは自然体でバトルフラッグを持ち、「はじめ」の合図を聞いてからグルグル手首を回すと布の部分が棒に巻きついていく。
念の為、木の両手鎌を右上から左下にと、右から左に振ってみても何も変化は起きなかった。

「準備は出来たかな?最初の攻撃は譲ってあげるよ」
「よし、じゃあ降参で」
「それが最初の攻撃でいいの?勿論ダメだけど」
「ザクスなら勝てる可能性があったからやったのに」
「勝てる相手と戦ってちゃ伸びないよ」
「じゃあお手柔らかにお願いします」
「それは考えておく」

バトルフラッグはポールウェポンに属している、こちらの両手鎌は若干リーチが短いけど殺傷力で言えばこちらのほうが上だ。
両手鎌は大きな振りで恐怖を与え、一撃で刈り取る攻撃が特徴的だ。
初手は譲ってくれると言っていたので、ジリジリと近づき大振りで右上から左下に袈裟懸けに振り下ろす。
ブゥゥンと風を斬る音がしてティーナが軽く後ろに飛ぶ、余裕で見切られたように感じたがティーナは驚いた顔をしていた。

「リュージ、凄いね。二つの意味でだけど」
バトルフラッグを腰や肩の辺りでクルクル回して、槍を構えるようにピタッと中腰の姿勢で武器の先端をこちらに向けた。
チャレンジャーは自分から攻めるものだと思い、少し斜めの位置から刃とは逆の弧の部分を脇腹めがけ突く。
ティーナは梃子のように勢いが乗る前の弧の部分を跳ね上げると、返す力で逆にこちらの脇腹を水平に狙ってきた。

跳ね上げられた鎌の反動を大げさに受け、後ろに下がりティーナの攻撃を避けると足元がワタワタしてしまっていた。
すかさず突っ込んで来るティーナにまだ上部にあった鎌をブゥゥンと振り下ろすと、今度は回避ではなくフラッグの先端で受けに入られた。結構な勢いがあったしフラッグの先なら結構な衝撃がティーナの手にかかってるはずだと確認してみると、どうやら絶妙な手首と腕の使い方で衝撃を吸収されていたようだ。
両手鎌なら正面から受け止めたらザックリと刺さるからね、自分だったらこんな武器と戦いたくないと思った。

「リュージ、今魔法使った?」
「いや、今日は武器での戦闘訓練で考えているんで使ってないよ」
「おっかしいなぁ。まあいいや、リュージ今日はとっても面白いから頑張って」
「面白いって・・・」

正直この大きな鎌を扱うのは難しかった。例えるなら野球でもゴルフでも素振りをするなら、右利き用の振りしかできないってことだ。ゲームとかでよく見る十字に斬ったり×印に斬ったり、乱舞や2連続で同じ方向から斬れるものではない。
人相手に鎌の部分を振り下ろすのも嫌な感じがするし、棒の部分で戦う武器でもなかった。
本当に扱い辛い、ある意味罰ゲームに近いものを感じていた。

「ザクス、本当にやらなくってよかったね」
「だろ、あれは人を殺したことのある目だよ・・・」
「冗談は置いといて、さすがティーナだね。あれを受け続けるのは正直嫌だなぁ」
「ヴァイスでもそう思う?」
「ああ、今でもリュージは素人だとは思うよ。戦い方ならいくつか手はあるけど、あの鎌持ったリュージは嫌だな」
「何か言っている事に矛盾ない?リュージは強いの?弱いの?」
「それはこれからティーナが見せてくれるよ」

攻めあぐねている姿を見られると、ティーナはギリギリ避けられるくらいの勢いで突いてきた。
3連激の初段を下がって避け、二段目は鎌で弾き、三段目は気の抜けた突きだったのでこちらも鎌で弾く。
バトルフラッグと両手鎌の木の部分がぶつかったのに、二回とも火花が散ったように感じた。
ティーナは首を傾げ気合と共に大きく二回フラッグを振ると納得した顔をした。

それからは一方的にティーナが攻撃してくる、これがまたギリギリ捌ける威力とスピードなので防戦しながらどう攻撃しようか考える事になった。武器と武器がぶつかる回数が増え、たまにティーナの動きが落ちて気合と共にスピードが戻る。
そんな合間を縫いながら弧の部分で防護が厚い脇腹を狙う、フラッグで捌かれるというような事を繰り返すとメッセージが流れてきた。

《New:両手鎌【鎖】スキルのレベルが上がりました》

武器と武器が交錯すると、今度ははっきりと見えるものがあった。
こちらの武器が当たった位置を中心に、鎖が同じ長さで一周巻きつき、その重さで微妙に変わった重量を気合と共に振り払うティーナがいた。

「リュージは本当に面白い。でも、覚悟が足りないの。圧倒的技術差がある訓練なら別だけど、今のままリュージを前衛として連れて行くなら私はパスするかな」
「鎌を使っても失格・・・なのかな?」
「武器はどうでもいいの、戦う姿勢というか決意というか。ヴァイスを見たら分かるけど絶対守るっていう意思でもいいの。今リュージは仕事でも学校でも充実してるんじゃない?冒険に出る必要性がわからないわ」
「それを言われるときついな。でも、王都へ来たのは冒険者になる為だよ。その為に訓練をしているんだから」
「じゃあ、その鎌で最高の攻撃をしてみなよ。そんな鎌の一撃じゃ私は倒れないから」

特待生特有のやれば出来てしまう、やらずとも出来てしまうという姿勢を同じ特待生から指摘されてしまった。
戦うと言う事は生き残る意思・守り抜く意思・相手に敬意を払う事だ、真剣みが足りないと言われても仕方がない。
ティーナは開始の時とは逆にクルクル手首を回しながら、バトルフラッグの旗の部分を展開していく。
二人とも一旦開始線まで下がり、ティーナは集中しながらこちらの様子を伺っていた。

二回右上から左下に素振りをすると密かにセットをした。
ティーナの出方を伺いながら集中を切らさず少しずつ距離を縮めていく。後一歩でティーナの距離だけどこちらの戦闘距離まで待ってくれたようで、【夢幻二刃】と小さくつぶやき馬鹿正直に今までの最高の軌道で鎌を右上から左下に振り下ろした。
振り下ろされる直前の刃に向けて旗の部分を絡めてくるティーナ、旗に触れた箇所の布には鎖が巻きつき棒の部分に中途半端に収納された形になった。
1激目の刃の実態が幻のように消えると、同じ方向から二激目として振り下ろされる。
最後まで目を閉じないティーナの肩口に当たる直前で鎌を制御して止めると、隊長から「それまで」の言葉が聞こえた。

観客全員から拍手を貰うと、ティーナに手を差し伸べて起き上がるように促す。
「やっぱり戦うには優し過ぎるね、そのまま強くなるならもっと努力が必要だよ」
「ありがとう、ティーナ。思いっきり手加減されていたよね」
「わかった?」
「そりゃわかるよ。隊長だって勝者って言わなかったし」
「じゃあ、明日からは実践戦闘グループで訓練だね。楽しみだなぁ」
「それはお断りします」

隊長からの指導が終わると、学園長から4月末から5月初くらいに特待生に向けて特別講義がある事が告げられた。本当は今すぐにでも依頼も兼ねて出せる講義だったのだが、王国で起きた事件の関係で今動くのは得策ではないと教授達の総意で中断している案件だった。
ダメ元で今起きている事件の事を聞くと、ヘタに動かれる前に危険を理解してもらうという建前で教えて貰った。

ワイン事件により三名の貴族による報告を受けている最中に、ノルド子爵家当主が事件の関与を仄めかした。
その後ノルド子爵家当主は黒い何かを口にすると、背から翼が生え異形と化した。
警備を呼び包囲をすると騎士に酸のような黒い霧状のものを浴びせ、包囲網を突破して窓を破り逃げられたようだ。

男爵家と伯爵家はその日の帰宅を禁じられ、翌日から数名の騎士が警護の名目で別邸へ行くと1週間の謹慎となった。
ノルド子爵家にいた者は逆に保護という名目で捕まり、王城で上位者より当主が王家に反意を示したことを告げられた。
認める事も納得もいかない妻と息子は当主本人からの言葉か、亡骸がなければ納得いかないと反論した。
王城で王家に反意を示して生き残れる程、優しい国ではないという意識があったのだろう。
ここでお前の家の当主は背中から翼を生やして飛んでいったと言っても信じるほうがおかしいというものだ。

結果、昨日まで男爵家と伯爵家には何も起こらなかった。
問題は日曜に帰宅を許された子爵家だった。昨日まで何も起きていなかったはずが、朝あまりに静かすぎる為、騎士が別邸へ入ると二階では侍女の首が細く斬られていてリビングでは一家惨殺されていた。
鋭く細い何かが心の臓へ一突きされていて、苦悶の表情を浮かべていたらしい。
死因と死体の数を考えると驚く程血の跡がなく、リビングはとてもきれいだったのが印象的だったと騎士が証言していた。

子爵は現在指名手配中で、酔っ払いの証言でやたら大きな羽音をした鳥の影を見たとか見てないとかあったようだ。
警吏の者もいちいち酔っ払いの戯言を真に受ける事はしない、この情報が上まであがったのは偏にその上司が情報通で有能だからだった。その次の日に再度聞き込みに行った上司は、「あまり覚えてないけどよ、あっち方面に飛んでいったと思う」と方角を聞き出し子爵領へ戻ったようだと報告した。
これが今の最新情報だった、王都に潜伏している可能性も加味し貴族家には警備の強化を要請していた。

「皆もあまり出歩かないように、出掛ける時は周囲を注意するように」
「「「「「「「はい」」」」」」」
「ローラさま、学園以外は控えてくださいね」隊長から注意を受けるとローラは素直に頷いた。

「もう一つ困った事があってな、王子がこの時期に王族の勤めに出ると公言しているようだ」
「王族の勤めですか?」
「主に各領の視察でな、ルートは選ぶ事が出来るし数名なら供の者をつける事が出来るらしい」
「この時期にですか・・・」
「そう、時期も悪いのだが更に頭が痛い案件が追加されたのだ」
「それって・・・」
「どうやらラース村へ行く事は内々に決まっていたようで、その事を婚約者のセレーネに話したらしい。すると是非私もお会いしたい方がいると・・・」
「ああぁ、マザーですね」
「この王族の勤めは旅の期間の自衛と視察という二つの目的があるのです、お兄様も自分だけなら身を守る事も出来るでしょうが、セレーネさままで連れて行くとなると・・・」
「囮って考えはないのかな?」
「ティーナ、さすがにそんな事はしないでしょ」

これは王族に関わる慣わしだし依頼が来た訳ではない、結婚を控えている事やセレーネが叔母に会いたい気持ちも分かる。
王国もきちんと考えると思うので、今は出来る事を精一杯やろうと思った。

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