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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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061:エントの魔法講座

 エントが教材として出したのは二つの鳥の模型だった。
「ここに取り出したるは二羽の鳥でござい、片方は一刀で滑空する姿を模した木彫りの猛禽類。どうだ見事だろう、そしてもう一羽は俺が作った中身が空洞で羽が上下に動く機構がついた猛禽類だ。おっと、俺の作ったほうにツッコミ入れんじゃねーぞ」受講者から笑いが起きる、それを教卓の上に置くと二つの宝石を取り出した。

「お嬢ちゃん、技術を教わりたいんだったな。残念ながら俺は今日だけの臨時講師だ、この技術を教えちまったら明日から飯がくえなくなっちまうわ。お嬢ちゃん、俺を養ってくれるかい?」
「え・・・無理です」
「本気にされても困るがね、そんなお嬢ちゃんに手伝って貰いたいんだが・・・」サリアル教授に目線を送るエント。
「わ、私は魔法を使えません」
「丁度いいな、ちなみにこの講義に出てるって事は魔法科の生徒じゃねえのかい?」
「私は落ちこぼれなんです」
「いいえ、私の指導が足りていないだけですよ」サリアル教授が会話に割り込んだ。

「お互いに庇い合う師弟愛はその辺でいいや、という事は瞑想や魔力を感じるくらいまでは出来るよな」
「はい、漠然としたものは」
「ああ、十分だ。ちょっと前に出てくれ」女生徒が前に出ると全員に説明と注意を始めた。
まず、この方法は絶対に取らない事。そして、もし試したい場合は必ず指導教官に相談して欲しいと約束をさせられた。

「これは乱暴な方法だ、よくて大怪我悪ければ・・・まあ、言わない方が花だな。軽く説明するぞ、想像してみて欲しい」
手元に青い布があるとしてそれを染めようとしている、手元には黄色い染料が10個あり2個も使えば緑色に染められると教えてくれる人から聞いた。手早く染めなくては色が入っていかなく何時まで経っても青いままだ。
いっぱい染料を使うと疲れてしまう、さあどうするという問題だった。

「お前ならどうする?」
「勿論、指導の通り2個使います」
「模範的な答えだな、君は二個入れたつもりになった。そして色は染まった気がしなかった、青にも色々あるからな。もしかするとこれは黒に近い青かもしれない。さあ、続けてどうする?」
「え・・・、じゃあ更に二個使います」
「ふむ、では結果は変わらなかった。これは青に見えるけど実は黒かもしれないと思うようになった、お前ならどうする?」
「え・・・、じゃあ三個使います」
「普段慣れていない作業でもたついてしまった、そして色は変わらなかった。ここまでくるとおかしいと思うよな」
「はい、染料が悪いか布が悪いかもしれません」
「残りは染料三個だどうする?」
「ダメでもともと三個使います」
「ふむ、思いの他頑張り屋だな。ただ三個全部使うと倒れて明日は仕事にならないから二個にしてくれや」
「わかりました」残念ながら結果は変わらなかったようだ。
念の為、同じ布と同じ染料で指導者が試したらきちんと緑色になったという。

「感想をどうぞ」
「理不尽です、そして私にはそれが出来る技術はないようです」
「お嬢ちゃんは今回頑張ったな。だがな、もし指導者がいない場合はどう考える?」
「この染料でこの布を染めるのは不可能です」
「そこでだ、翌日に染物をまったく知らない俺がきてこう言うんだ『そんなもん最初から染料を8~9個ぶちこんじまえ』と」

「エント、止めなさい」サリアル教授が叫ぶ。
「まあ、気付くよな。お嬢ちゃん手伝いありがとよ、もう席につきな」
「このまま同じ事をしても無理です、可能性があるなら藁にも縋ります」
「席に戻りなさい」更にサリアル教授が叫ぶ。
「私は染料の大部分を入れます、その布はどうなりますか?」
「試してみるか?」

 サリアル教授を学園長が止め、要請によりエントと女生徒にプロテクションを唱える。
エントと女生徒のすぐ近くにサリアル教授と一緒に待機すると実験を再開する。
「手伝い悪ぃな。教えるからには絶対守る、まずは信じる事だ。こんなおっさんだけど、もし崖の上でその手を差し伸べられたら絶対離さねぇ。最悪救えなかったら一緒に落ちてやるよ」
「わかりました、覚悟を決めます」頬が軽く赤くなっているのは高揚しているからだろうか?

 薄く淡い青色の宝石を女生徒の親指と人差し指で摘む。
エントは女生徒の後ろに立ち、左手を女生徒の左肩に置くそして魔力を宝石に全力で注ぎ込むように説明した。
「まずは瞑想だ。そして魔力をどこからでもいい、感じたならその右手に集めるんだ」
体に流れる血から・大気に広がる空気から・エントからでも感じる魔力を纏め上げ、魔法を使おうと考えずに魔力を右手にある宝石に流すようにと。

 女生徒が目を閉じると雰囲気が少し変わったように感じる。
「何も考えるな、どんな布だって数倍の染料があれば何かは変わるはずだぜ。いっそ黄色に染めちまってもいいぞ」
軽く吹き出すと、余計な力が抜けて魔力がスムーズに流れてきたような気がする。
「宝石に魔力が集まったなら声を出せ、どんな声でもいいぞ」
「ハァッ」軽くつまんでいた宝石にピシッっと皹が入った。

 一瞬眩暈が起きたのか崩れ落ちる女生徒を抱きとめるエント。
すぐ気がついた女生徒はエントにお礼を言うと席に戻った。
「驚いたぞ、大抵発光するか熱を帯びるもんだがな。まさか肉体強化系に出るとは・・・」
「この方法は推奨できません、本日の講義を受けた皆は口外しないように」サリアル教授が釘を刺した。
「嬢ちゃん悪かったな、忘れないうちに魔法に名前をつけときな。名前はなんでもいいさ、後はサリアルがうまくやってくれるはずさ」悪びれもなくアドバイスをしていた。

「さて、ここからは技術の時間だ」教卓に置かれていた二つの鳥を掴む。
「この一刀彫の鳥は滑空している姿を模してる、ただしこのまま投げても良いが多分飛ばねぇ」みんなが頷く。
「鳥は何故飛べると思うか?答えは簡単だよ。飛べないと思ってないからだ。ところがこの前提がなかなか俺らには受け入れられねえ、そこで知恵を出して後付で考えていくんだ」
ある者は『翼を持つから飛べる』と言い、ある者は『体が軽いから飛べる』と言う、またある者は『風の精霊の加護を受けているから飛べる』と言った。じゃあ作ってみるかと『俺が考えたのがこいつだ』と言って、指を差したのは中身が空洞で羽が上下に動く機構がついているものだった。

 全体は木で作られているが胴体の重量は可能な限り抑えているらしい、また羽も可能な限り軽量化されている。
もし仮に風の精霊の力を羽で受けて飛ぶなら木では力不足もいい所だろう。
「勿論このままでは飛ばない。投げた瞬間落ちて壊れるのが関の山だろう。魔法をかけるとしたら何をどう唱える?」男子生徒・自分・サリアル教授へ質問を投げかけてくる。男子生徒は空を飛ぶ魔法と答え、自分は重量を軽くする魔法と答えた。
「サリアル、ガレリア教授の口癖覚えてるか?」その言葉でピンときたサリアル教授。
「「困ったら進め」」エントとハモって答えを出した。

「俺達、魔道具職人や付与魔法使いには難しい魔法は使えねえ、もし空を飛べる魔法が使えたら鳥の研究なんてしねえな。重量を軽くするだとか翼に風の魔法を付与するなんて回答も正解っちゃ正解だ。ただな、それだって使える以上、俺達に言わせればエリートなんだわ。ガレリア教授はよく言ってたよ『迷ったら進め、困ったら進め』とね」
魔道具の基本はどうやら『進めと止まれ』らしい。

「これさえ分かれば後は技術と研究よ」と言うと、エメラルドを取り出し背中に魔力を流しながら埋め込む。
自作の鳥の模型を肩の位置まで持ってくると、紙飛行機を投げるように軽く押し出して手を離す。
カタカタカタと多少からくり人形のような音を出しながらも斜めに落ちていく、多分滑空に近い羽の動きも真似して組み込んでいると感じるような飛行だった。

「機能はシンプルに、何をしたいか何をさせたいかは技術として集約する。それが元魔法科OBから送る落ちこぼれなりのあがき方だ。ちなみに騎士科の優等生で、魔法に魅せられて落ちこぼれから這い上がった教授もいるから落ちこぼれも悪くないぜ」咳払いをするサリアルに、エントはニヤニヤ笑いかけていた。

「技術的な事は別の努力だ、その他について質問があるようなら今ここで聞いとくぜ」エントが周りを見回すと特に手を上げている人はいない、専門的というか感覚的な面が強すぎて何を聞いたらいいか分からないからだ。
そこに先ほど魔法の実験台になった女生徒が手を上げた。

「エント先生の工房にはお弟子さんが何名くらいいますか?また、奥さんはいらっしゃいますか?」何やら変わった質問に一瞬生徒からざわざわっと声が漏れる。
「あー、うちか?最近ようやく一人前になった2人の弟子が、兄弟弟子の修行を受けてるから最近は小間使いが1人だな。嫁は研究とかに没頭してたら婚期を逃してたわ。こんな答えでいいか?」
「ありがとうございます、読み書き計算が出来る商家の女性とかはいりませんか?店番も出来ますし魔道具作りも勉強します」
「おいおいおい・・・」エントはサリアルを見るとニヤニヤ笑われていた。

「おーい、担任先生よ。そろそろ割り込んでくれねえか?」
「はいはいはい、あなたはこれから今日覚えた強化系魔法をもっと上達させるべきです。魔法は一つ覚えると他に通ずるものも出てくるでしょう。これは1年くらいほっといても嫁がやってくるとは思えませんよ」
「サリアルよ、そりゃーねえだろ」周囲から爆笑が起きる。

「学生のうちは学生しとけや、いずれ嫌でも大人になり仕事なり子育てなりをしなきゃいけねえ。特待生がいる時期は穏やかには過ごせないものだぜ。経験は必ず後になって生きてくる、だから安心して学業に励みな。ああぁ、後同学年と恋もしとけよ」そう言い残すとそそくさと荷物をまとめ、エントは「これにておしまい」と言い残し退出して行った。
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