040:精霊の園
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今は11月最終週の火曜日、地球換算で言ったほうがわかりやすいのでこの表現を使うことにする。
基礎魔法グループはサリアル教授の指導を受けた後は個人訓練となった。
教授はあまり魔法を使うのが得意ではなかったらしく、努力と集中力で無属性魔法をかなりのところまで修めたらしい。
現在の称号を持つ常春さまに師事しており、属性に恵まれなかったが着火という魔法を覚えることが出来た。
そして今年招聘された魔法使いとはサリアル教授のことだった。
着火と言っても実際に火をつける訳ではなく、後一歩で魔法が使える状態または魔道具を使えるように魔力を導くのがサリアル教授の使う着火という魔法だった。
この教授の教育方針は「理論を教え環境を整えるが、努力しないものには魔法を使う資格がない」とグループ内で教え、講義では魔法の優位性と出来ることを教えている。
土地を管理し民を守る王族貴族・食を司る農民・交易により暮らしを豊かにする商人・技術を持つ職人・そして並列にあるのが冒険者であり魔法使いである。
絶え間ない努力は他人に言われて出来る訳ではなく、今何が必要か?何が足りないか?を分かっていない人には魔法を使いこなすことは出来ないらしい。
サリアル教授は温室の隅っこでおじいちゃんと話していても咎めることはしない。
今こうして雑談しているのが瞑想しているより魔力を練るよりよっぽど密度の高い勉強をしていると思っているようだった。時たまこちらをチラチラ見てるのが気になったので、精霊の皆さんに呼んでもいいか確認した所OKを貰った。
「教授ちょっといいですか?」と声をかけるとこちらに歩いてくる。
手の中に魔力を込めると大きめのエナジーボールを作り出す、するとおじいちゃんと緑の精霊が飛び込んできた。
「リュージ君・・・、そこにどなたかいらっしゃいますね」
魔力を吸収しても完全に実体化している訳でもないようで、ただエナジーボールだけではない魔力の何かを感じたサリアル教授が首を傾げて近づいてきた。
「土の精霊さまと植物の精霊さまがいらっしゃいます。以前お世話になった方で、この温室を見かけて遊びにきたようです」と言うと薄っすらいる場所が分かるのか丁寧に挨拶をしていた。
声は聞こえていないらしく、おじいちゃんは「良い先生に出会えて嬉しいのじゃ」と言うと先生の魔力を見たいとリクエストしてくる。そのままの言葉を伝えると「それでは失礼します」と言い杖の先にエナジーボールを灯す。
「滑らかな魔力と見事な集中力じゃ」とおじいちゃんがエナジーボールを指でちょんっと突っつくと、急に魔力が収縮し土の属性が小さくうまれる。
「あ・・・教授、土の精霊さまが・・・」と言うと「前にリュージに教えた内容を思い出して教えてみるのじゃ」おじいちゃんがいつの間にか両手杖を持ってビシっとかっこつけていた。
「教授、そのまま維持しながら中心の土の魔力を堆積するようにクルクル回転させながら大きくしてください」
するとあっという間にサンドボールが出来上がる。
「飲み込みが早いのじゃ」と言うと「ありがとうございます」と土の精霊に向かってお辞儀をする。
どうやら存在もはっきり確認できた上に声も聞こえたようだった。
「魔法とは想像力じゃ、先生ならわかっていると思うがの。今後もリュージを頼むのじゃ」と言うとまた縁側に戻りお茶を飲みだす土の精霊、どうやらシリアスシーンは5分くらいしか持たないようだった。
少しするとこちらに団体さんがやってきた、「リュージー、入っていいかーい?」ザクスが収穫を終えたようだ。
「いいよー、多分入れると思う」ザクスとレンが教授二人とグループの二人を連れてきた。
グループの二人が小さなバスケットいっぱいにラベンダーを詰めて持ってきたようだ。
「こんな感じで問題ないかい?」と予め摘み方を教えていたので確認しにきたらしい。
バスケットを開けると「もしかして、これが新しい植物?」と植物の精霊が飛んでくる。
「うわぁぁ、すごい良い香り」とうっとりした顔をする植物の精霊に「これはこちらの世界ではない植物なんですか?」と聞くと小刻みに何回も頷いていた。
「一回見れば育てるなり召喚したり出来るんだ」と胸を張り凄いだろうと自慢してくる。
「一個もらっていい?」と植物の精霊が聞いてきたのでザクスとレンにそのまま伝える。
すると「ここに精霊さまがいるの?」とキョロキョロしだす6名、ザクスは「精霊さまが言うんじゃ断れないね」と笑うと「さすが僕達の祝福持ちだね」と植物の精霊が大きく頷いた。「あ、彼には秘密ね」と植物の精霊が口に指をあてシーというポーズを取った。
ひとつ摘み植物の精霊に渡すとまたまたうっとりする。
「リュージも見学していく?これから香りを取り出してみる予定だけど」とお誘いを受けたが、ここが心配だったので今日はここにいることを告げる。
「じゃあ、ちょっと教室にもど・・・」6人が後ろを見て唖然としていた。
後ろを向くといつの間にか水の精霊さまも来ていた、これはみんなには見えてないから問題ない。
植物の精霊が持っているので宙に浮かんでいるように見えるラベンダーが、一瞬のうちに人が持つ花束くらいの量になった。
「精霊が集まれば何でもできるのじゃ」おじいちゃんが言うと再びやってきたサリアル教授がうんうんと頷いていた。
ラベンダーが球状になって蒸気が薄っすらと上部に溜まる、そしてその上に水の魔力で球状のものがうまれる。
ボールが二個上下に重なった状態で下から細い筒状のものが上の玉に突き刺さる。
「あぁ、これコーヒーのサイフォンだ」蒸気が上に集まると筒の脇に水分として溜まる、そして薄っすらと上部に浮いているのがエッセンスだった。
「今の魔法はリュージ君がやったのかい?」ローレル教授が聞いてきたけど「まさか」としか言えなかった。
「お久しぶりね、リュージ。二つお願いがあるの、まず魔力を頂戴」リクエストがあったので魔力をささげる。
「後、何か入れ物があったらお願い」とエッセンスと香りを閉じ込めた水を分離しようとしていた。
収納を探すとこの間買った香水瓶があったのを思い出し5本取り出すと蓋を開けた。
一本にエッセンスを残り4本に香水を入れると、水の精霊は植物の精霊に頷いて「全部もっていっていいわよ」と言ってくる。
植物の精霊は球状になったラベンダーを元の一本の花に戻しうっとりしていた。
「水の精霊さま、一本だけで申し訳ございませんがどうぞ」と香水の方を瓶ごと渡した。
「これは私達が作る必要がなくなったね」と言う基礎薬科グループ顧問に「精霊さまが作って切れたのは一回だけですよ、次回以降に作れないと詰んでしまいます」とまだ終わってない事を確認する。
「ザクス、完成見本があるといいだろ?」とエッセンスと香水瓶を一本ずつ渡すと「これに負けないものを作って見せるよ」とやる気を見せていた。6名はああしようこうしようと言いながら教室に戻っていった。
「随分良い環境で勉強してきたのですね」とサリアル教授が言うと水の精霊が感心していた。
「滑らかな魔力ね、水で例えるなら凪のような感じね」と言うと「リュージの先生なのじゃ」とおじいちゃんが説明してくれた。「リュージもこんな魔法が使えるようになってるし、良い先生なのね」と縁側に座り片肘をついて評価していた。
「水の精霊さまも遊びにきてくれたようです」と話すと、なんとなくいるだろう方向に挨拶していた。
「まるでこの世界のどこかにある精霊の園のようですね」と教授が話すと水の精霊が補足してくれた。
この世界では基本的に精霊は精霊界にいる、それはこの世界と平行世界にあり【この地にあってこの地にない場所】と言うのが正しい表現だった。
属性ごとに精霊界が存在し、この地にいる場合はそれぞれ住みやすい所に留まったり休眠する事が多い。
水の精霊なら海や川や湖に、風の精霊なら渓谷や山に、火の精霊なら火山といった具合だ。
つまり基本的には別の場所にいるはずの精霊が集まることは稀なはずだった。
そんな稀な状況でごく限られた条件が合致した場合に魔法界の理想郷として表現されている場所がある。
「その名を【精霊の園】と呼んでいるのです」サリアル教授は興奮気味に教えてくれた。
「いつまでこの温室が持つかわかりませんが畑用に作ったので、やっぱり何か植物を植えたいと思います」と教授に話すと後ろで植物の精霊が喜んでいた。「わしらもその意見に賛成なのじゃ」土の精霊と水の精霊も頷いていた。
休眠するしかない季節に素晴らしい魔力に満ちた暖かい空間を見つけて嬉しくなって来てしまったようだ。
ちなみにこの温室は持続時間が48時間のようで、明日の午前には魔力切れで空間が消滅するらしい。
精霊達は今日中に移動するようだった。
基礎魔法グループの皆にも精霊さまに並んで貰って紹介をしてみる。
「さすが王都なのじゃ、努力すれば見込みがある子もいるのじゃ」と評価するおじいちゃんにサリアル教授は感動していた。
「ちなみにどの子です?」とこっそり聞くと「さっきここに集まっていた6人の中の女の子じゃ」と教えてくれた。
どうやらレンのようで土の精霊の祝福を受けているようだ「秘密なのじゃ」と口止めを約束させられたので了承する。
「よく先生の言うことを聞くのじゃ」とおじいちゃんが言うと三人の精霊は縁側でお茶を飲んでいた。
今いるメンバーには明日のお昼前にはここの空間が消滅することを話し、精霊は今日中に帰ることを告げる。
明日のグループはいつもの場所でやる事をお願いした。
ギリギリまでグループ活動をしているといつも瞑想をしているグループの生徒が、急にエナジーボールを使ったり土の属性魔法を使ったりする生徒まで出てきた。
どうやら双子の精霊や浮かんでいる精霊の魔力に触発されて使えるようになった生徒がいたようだ。
ここでいまいち動けていない生徒はフレアだった。
攻撃魔法禁止で魔力のコントロールが甘く、こらえ性がないフレアは基本的に大雑把だ。
魔法使いには圧倒的に向いてないのだが、性格的に火の精霊と相性が良いらしい。
間もなくグループ活動が終わる時間になり、ずっとお茶を飲んでいるこちらに少し焦った様子で「精霊さまに何かヒントを貰えないだろうか?」と頭を下げてくる。
サリアル教授の指導はゆっくりとだが順調にフレアを成長させている。ただ、あまりに時間がかかるので焦っていたようだった。
「僕の一番の得意魔法はファイアボールなんですが、コントロールをもっとなんとかしたいのです。精霊さま、何かアドバイスをください」とこちらの視線の先に向けて土下座してくる。
「こういう子苦手なのよね」と苦笑する水の精霊に「0距離ならはずせないのじゃ」というおじいちゃん。
「当たらないなら導火線のようなものを使ったら?」と植物の精霊が良いコメントを言う。
「植物の精霊さまから導火線のようなものを使ったらどうか?というアドバイスが出たよ」とフレアに伝える。
サリアル教授も呼んで理論を説明する、魔力を糸のような状態にして杖と着地点を結び、その通りに魔力をぶつけられるか?と教授に確認すると「なるほど、理論的にも可能ですしその方が魔力操作も難しくなさそうですね」と感心していた。
「明日試してみましょう」とフレアを諭すと精霊さま達に今日のお礼をする教授。
基礎魔法グループとして今日は有意義な一日になったようだった。