034:課題
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女湯もお湯が出るようになったので不用意に自分が入る必要がないことに安心した。
周りの拍手もレンへの賞賛で、神聖な雰囲気についてはみんな感じることが出来ないようだった。
不用意な発言はこの先の人生まで変えてしまう可能性があるのでひとまず黙っておくことにする。
食事が終わると今日はお風呂タイムになった。
談話室に風呂を使う人を集められるだけ集めると説明会を開く。
前に購入していた陶器に入った液状石鹸を見せ男湯用と女湯用に半分ずつ分けると風呂の使い方を説明する。
風呂の習慣があったのはレンだけでヴァイスは知識だけはあったようだ。
「からだを洗う時にこの液状石鹸を少しだけ使ってみてください。汚れは落ちるけど少し草の匂いが強いので使用量はお任せします」と話すとザクスとティーナが「お湯があるならからだを拭くだけじゃダメなの?」と質問してくる。
「勿論それだけでもいいけど浸かるとからだの疲れが取れるよ。とりあえず今日試してみて次からは自由でいいんじゃないかな?」と提案してみた。
とりあえず風呂当番として自分とレンが朝と帰宅後に沸かして朝錬の後と夕方入りたい人だけ利用することを決める。「それにしてもこの液状石鹸は・・・」とザクスが考えこむ、それはかなりの緊急課題だと自分でも思った。
タオルを持つとザクスとヴァイスと一緒に風呂に向かう。
執事も本日の仕事が終わったようなので誘うと「少し経ったら行きます」と風呂に入る準備に行った。
まず大きなタライに湯船から小さな桶で湯を汲み洗い場まで滑らせるように言うとザクスとヴァイスが準備する。そして少量の液状石鹸でからだを洗うように言うとこちらの動きを見ながら頭を洗ったりからだを拭いたりしていた。大体洗い終わるとよく濯いで湯船に浸かるように話すと執事が「私も大丈夫ですか?」と入ってくる。
服を脱いで執事と同じタイミングで今の流れをもう一度実演を交えて説明をする。
この後もしかしたら調理場の人が入ってくるかもしれないので、その際は執事に説明してもらうようお願いをした。
「あああぁぁぁぁぁ、なんかいいなぁぁぁぁ」ヴァイスがおっさんくさく声をだしていた。
「後は石鹸関係なんだよね、出来れば良い匂いの石鹸が安く手に入るか湯船に柑橘類を浮かべれば良い香りがすると思うんだけど」と言うとザクスが「それはうちの分野だなぁ、ん?ところで柑橘類って何かな?」と何か考えにこんでいた。後で説明をすると伝えると「今はお風呂を堪能しよう」と皆の顔を見る、どの顔も満足しているように見えた。
お風呂を出ると調理場の人達が俺達もいいのか?と聞いてくる。
執事が言うには基本的にこの寮はみんなが同じ施設を使えるとのこと、ただ優先順位が少しだけ発生するのでお風呂も問題なく使えるそうだった。使い方の案内は執事に任せて談話室でお風呂について話していると女子グループが戻ってくる。レンとティーナと侍女二人が一緒に入っていたようだ。
やっぱり風呂の習慣がないこの世界はあまりこちら方面の商品が発達していないようで【グリーンフレグランス】という店で液状石鹸を買った事を話すとザクスとレンが興味を示した。
翌日は朝錬も気合が入る、事前に湯を入れてからストレッチ・ランニングをして武器の素振りに入る。
徐々に慣らしていこうということでヴァイスとティーナはがっつり訓練というような感じだったが、三人は体を目覚めさせる程度に留めておいた。朝錬が終わると風呂に入る、これもさっと汗を流す程度の人もいればふやける程浸かる人もいた。
本日の講義は【魔法理論2】【四大属性魔法2】【瞑想】を受講することにした。
一度魔法関係の講義を全部受けてから戦闘にどう活かそうか考えることにする。
精霊に聞いた魔法の使い方はある意味天才型だった、実際にやってみて覚えられるならそれでOKで無理ならまだ早いという「ある意味、擬音で説明して感覚で理解しろ」という印象だった。
ところがこの学園では魔法使いの知識の蓄積がある、それを系統立てて何をどういう風に構築するかという努力型の講義だった。
二通りの説明を受けると次々にあれはどうなんだ?これはこうなるかな?という疑問や出来そうなことが浮かんでくる。
いつも最後には質疑応答の時間が設けており、この時間で間に合わない内容の場合は違う講義を勧められる。
午前の講義が終わって食堂に行くとレンが先にいたらしく手招きをされた。
今日は一人で昼食をしていたようで食事をもって一緒の席に着く。
午後の予定を聞かれたのでサリアル教授のグループに行った後、届出を持って行くよと告げると、とても嬉しそうだった。
「そういえば昨日の事だけど、もしかしてレンって神聖魔法使える?」と聞いてみる。
「え?もちろん使えないよ」と不思議そうな顔をしていたけど一度【瞑想】の授業を受けるといいよと話すと少し微妙な顔をした。
「神聖魔法って・・・」とレンが呟くと少しずつ話してくれた。
まずレンの家が治める領地はラースに劣らず農業をするには厳しい土地らしい。
特に飢えるほどではないにしろ季節要因に大きく影響され、作物にはいつも苦労している領地を見ていた。
代々当主が王都で国の仕事を担当し、子供がある程度の年齢になると領地の経営をしていた。
レンには兄と妹がいる、兄は体が弱く両親は早くから王都での暮らしをさせていた。
領地にいても王都にいてもいつも調子が悪そうな兄にレンはいつも神様への祈りを欠かさなかった。
毎年定期的に重症化する兄に協会付の医者は「今年こそ危ないかもしれない」といつも平然と言う。
神様も何もしてくれない・・・ただ祈るしかない無力な自分にいつも打ちひしがれていた。
今は代官を置いているけど領地を治めるのはやはりその家の者がいる必要がある。
そこで白羽の矢が立ったのがローレル教授とレンだった。
基本的にはレンが婿を取り領地を治めて欲しいという話があがり、学園を卒業するまでの猶予期間を貰った。
自由人なローレル教授は「事情は分かっているけど直系が管理するのが筋」だと思っている。
レンにとっては祈っても応えてくれない神様の力を借りる神聖魔法はある意味矛盾の象徴だった。
「神聖魔法で何が出来るか把握はできてないけど使えるカードは多い方がいいよ」と話すと考えてみると笑顔を返してきた。
「そうだ、忘れてた。明日は午後から寮にゲストが来るんだ」と説明を受ける。
今日は週末で明日と明後日は学園がお休み、寮には定期的にゲストが来るようだった。
貴族だったり文官だったりどこかのギルマスなどが来て青田買いのようなお客もたまに尋ねてくる。
基本的に居て欲しい人は指名が来るので、それ以外に予定がある人は出掛けても大丈夫なようだ。
明日来るのはサティス家のセレアというお嬢様、レンと昔から仲良くしていた親友のような立場だった。
格式ばらないお茶会で「色々な人のお話を聞きたい」と好奇心旺盛な性格で良かったら紹介したいらしい。
出来れば午前に「この前もらったクッキーを一緒に作れませんか?」と聞かれたので材料さえあれば大丈夫だよと了承する。お菓子の材料を伝えるとちょっと待ってと羊皮紙に書き込んでいった。
いったんレンと別れて午後はサリアル教授のグループに行く。
基礎魔法グループの教室に挨拶に行くとようやくサリアル教授に会うことが出来た。
まず今週参加した講義について報告する、大抵は生徒の自主性に任せて初年度にある程度の方向性を進路指導の先生と相談し、不足している部分は違う講義を勧められる。
「まずは魔法と名前のつくものは全部受ける事を勧めます、ただ大分修めている魔法もあるようなのでこのやり取りで次に受ける講義を勧めることもできます」と週末に相談することを約束する。
冒険者になるなら最低限の戦闘動作を覚える事も勧められた。
このグループでも定期的に戦闘訓練もしていますのでと届出書を出されたのですぐに名前を書いて提出する。
また品種改良グループの届出も出す予定だと話すと「若いうちは何でもチャレンジすることです」と大きく頷いていた。
一つ魔法を見せましょうとサリアル教授はフレアを呼ぶ、随分従順な感じでフレアは駆け足でやってきた。
グループ全員がこのグループの戦闘訓練の場所に行くとサリアル教授はフレアに魔法を撃つように言う。昨日教室に入り辛そうな姿を見てからすぐの指示なので指導が良い具合に出来たのだろう。
それにしてもすぐにすぐ成果を見せろという姿勢はスパルタだとは思った。
フレアがゆっくり魔力を練り大きな動作でファイアボールを唱える。
そしてサリアル目掛けてゆっくりまっすぐ飛んでいくファイアボール。
「そう、最初はゆっくりでいいのです」と教授が言うと「シールド」と短く詠唱して魔力を開放する
マイクロが前回の戦闘で装備していた木盾くらいの淡い光がサリアル教授の左手側に発生する。
「盾や鎧をうまく使うコツは角度です、そしてなるべく衝撃を逃がせるようにどう動かすか?それが次の動作の妨げにならないか常に考える事です」と言うと真っ直ぐ飛んできたファイアボールに盾をぶつけて跳ね上げる。
上空に飛んでいったファイアボールは不発した花火のように小さい煙とともにボンと音がした。
フレアに対しては「まずは威嚇・陽動より確実にダメージを与えられる事です、当たらないダメージ魔法は怖くはありません」と正確性を求め、その後には素早さ応用と進めていけば火の属性魔法使いとしてどのパーティーからも求められるでしょうと告げる。
具体的にはファイアボールを細かく数を増やせばアロー・ニードルになり、上から落とせばレインに盾に当たった時点で爆発させるようにすればシールドでも防ぎきれないかもしれないと今後を示すとフレアはやる気をみせた。
「ただ、その場合はシールドじゃない魔法を使いますけどね」という言葉は見逃せなかったけど黙っておいた。
サリアル教授は「シールドを練習してみると今後の役に立つでしょう」と言うと折角の機会なのでと他の部員の指導に入る。「週末はなるべく戦闘訓練を入れるので参加すると色々指導できます」と段々サリアル教授のやる気があがっていくのが分かった。
残った部員の無事を祈り今日は品種改良グループに顔を出す事を告げるとこの場を後にした。