016:報酬
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この小説で無双したら面白いかな?。
孤児院の朝は早い。
田舎では娯楽が多い訳でもなく、仕事がある時は早くから働き夕暮れ前には終わらせる。
自然と早く起きて働く習慣が出来ている。
前日は久しぶりに惰眠を貪ろうかと思っていたけど、まだ無一文だった事を思い出した。
日課の花壇に行くとトマトが大分生長していた。
完成予定のトマトは中玉の大きさなので、もうちょっとしたら摘果という作業をしようと思う。
多くの実をつけすぎて栄養を分散させるより、程よい量で美味しさが凝縮されるほうが良いからだ。
今日も花壇に薄く魔力を流す、パンジーのほうは順調に成長していた。
こちらのほうは観賞用なので自然の成長に任せても問題ないだろう。
食事が終わると開墾予定地に鍬を担いで向かった。
1番の畑に着くとマイクロさんと短剣使いの兵士が端の方でストレッチをしていた。
少し離れた場所には村長と数人の男性がいた。
昨日の食事会に来た農家の方々だった。
各方面に挨拶すると1番を普通に耕していく。
主に小石をどける感じで薄く軽く鍬を入れていく。
「ほぉ」という感心が「おぉ」という関心になり「おおぉぉ」という感嘆になっていく。
どの村人や兵士も一度はこの村の開墾作業を経験し必ず挫折していった。
そんな簡単に耕せるはずがないと思っていたのだ。
それが開墾を申し出た少年が頑張っていると聞き、冷やかし半分・応援半分の本職農家が見に来たのだ。
半分も耕すとわらわらと集まってきて「兄ちゃん、ちょっといいか」と男性が聞いてくる。
一人は耕された土を見ている、一人は鍬を見ている。
「これは見事な土だな・・・もうちょっと手を加えればすぐにでも使えるだろう」と言う。
マイクロさん達も来て賞賛していた。
男性は持っている農具で3番の畑に行き振りかぶり振り下ろす。
一発で当たりを引いたらしくジィィィィィィィィィンと動きを止めていた。
「おい、見学するなら少し下がってろ」とマイクロさんの言葉で作業を再開し、無事1番の開墾作業は終了した。
石を全部端に寄せると村長さんが最終確認に入る。
「これは見事じゃの、ここにいる皆が証人じゃ」と代官さんの所へ報告に行き、報酬の手続きを今日中にやると村長さんが言った。
「坊主が金貨2枚かぁ、これは実質開墾不可能って意味なんだよな」と男性が言う。
「何にせよ金貨2枚以上の利益が村に入るんじゃ。さすがのあの代官でも文句のつけようがないんじゃの」
少しずつ活気付く村に満足気な村長であった。
それから2番を軽く耕し作業風景を印象付ける。
多分今いる人の他に監視している人もいるはずなので、この作業はフェイクとして必要だと思う。
後で聞いたら「小さいのに良い動きだ」とか「うちの子にも見習わせたい」とか言っていたらしい。
周りが今日の仕事に戻っていくと1番に戻り、サンドボールを数個こっそり作って砕き土の栄養を増やしていく。
更によく土をかき混ぜ完成系へと畑の価値を高めていく。
帰る間際に一箇所に集められた小さい石はウエストポーチに仕舞った。
お昼前に孤児院に戻るとマザーからお話しがあるのでとシスターから案内される。
シスターの後を歩き、ある部屋の前でシスターが食事の準備をしてきますと退席する。
ノックをするとマザーから返事があった。
「お呼びでしょうか?」の言葉から他愛もない話が始まる。
困った事はありませんかとか、この村に慣れましたかとか、そして本題に入った。
「あなたに与えられたのは旅立ちの部屋です。現在はまだ守られる子として過ごしていれば良いのですが、間もなく冬が来て春が来ます。あなたは今後どうする予定ですか?」と。
「えーと、実は今日開墾予定地の一部を開墾してきました」
「それは・・・すごいですね」
「この村では色々な人に暖かくして頂きました。一部には・・・まぁ」と言うとマザーが苦笑する。
この村の開墾予定地を全部使える状態にしたい事、孤児院の庭にあるトマトとパンジーを子供達と見たい事、そして返せる恩を全部返したら王都へ向かい冒険者になりたい事を告げる。
「あなたならきっと出来ることでしょう」と言うと席を立ち机から袋を持ってテーブルの前に置く。
「これは?」と聞くと「この孤児院で旅立ちの部屋を卒業した子に贈るものです」と言い袋を開くマザー。
中身は銀貨がジャラッと入っていた。
「子供達には秘密ですよ、銀貨50枚入っています。一日で全て使ってもずっと使わなくても自由です」とマザーが収めるように言う。
「これは貰えません、今でさえお客様みたいな立場で返せるものがないのに」と答える。
「まず、あの花壇ですがとても素晴らしいものでした。植えたものがまだどうなるか分かりませんが、子供達の笑顔を見れば分かります。また、あのように成長が早い植物と言うことは特別高価な種なのかもしれませんね」
「特別に買ったものではないですよ」と言ってもマザーは引き下がらなかった。
「あなたは損得を考えずに一生懸命動いていましたね。子供への愛情はその後に続くための種であり光なのです。是非気の済むまでいてください、春までなら大丈夫ですから。ただ、危険を感じた場合の為に出立出来る準備を整えてください」とマザーが言う。
「やっぱり何かありそうですか?」と聞くとわかりませんと答えるマザー。
きっと今回の開墾で動きがあるかもしれないと言っていた。
マザーの心遣いに感謝して銀貨を頂いた。
食事が終わると午後からシスターによる子供達への授業が始まったので参加した。
読み書き計算がメインだったけど国の歴史や通貨についてなど勉強になる事も多かった。
勉強が終わると色々な事をして遊んだ、【だるまさんがころんだ】とか【ドロケイ】とか。
説明が難しかったと言う子は追いかけっこになってしまったけどね。
夕方近くに衛兵が来て「明日朝食後に村長と一緒に代官(領主)の屋敷に来て欲しい」と言う。
「確かに伝えたぞリュージ。後、開墾やったな」というと帰っていった。
食事が終わると部屋に戻る。
ウエストポーチから石を出すと玉砂利への加工をした。
そしてお金やリュック・加工し終わった玉砂利も全部ウエストポーチに仕舞う。
これでウエストポーチだけあれば何時でもこの村を出て行ける。
明日は鍬を持っていく訳にもいかないのでシャベルと棒に分けこれも仕舞った。
翌日、恒例行事の花壇と食事が終わると村長と一緒に代官(領主)の屋敷に向かう。
「何か嫌な予感がするの、とりあえずマザーにも伝えたのじゃが短気を起こすではないの。ただな、よっぽどのバカじゃない限り今回の事はどうにも出来ないはずじゃの」と話していると程なくして屋敷前に到着した。
「リュージ君良く来たね」とニコニコな代官のハルビス。
対面に自分と村長が座り、代官の斜め後ろにはゴーシュが控えていた。
「昨日報告したのじゃが畑は今朝確認した所完璧じゃったの」と村長が切り出す。
「あぁ、報告は受けているよ。3年の税と売却の件は少し時間が欲しい」とハルビスが言うとゴーシュに目配せをする。
「はっ」と軽く頭を下げるゴーシュが後ろの方に置いてあった皮袋を持ってくる。
「これが報酬だよ」と代官が言うとゴーシュが皮袋をテーブルに置き口を開く。
「随分少ないようじゃが・・・」と言う村長。
事前に金貨1枚でなく銀貨100枚で渡して欲しいと村長が言っていたようだった。
「正当な報酬だが」と代官が数えるように言う。
1・2・・・40枚、何故か40枚という中途半端な数だった。
「はぁ、ここまで愚かか」と村長がため息を付く。
「ハルビス殿、これも子供価格なのかの」と諦めというか怒気というか静かに問いかける。
「村長、口が過ぎるぞ」とゴーシュが恫喝する。
「お主は正しい行動・報酬に対して適性に税を納めているか確認する立場にいるのではないのかの」と睨み返す村長。
「村長、私はこの村を憂いているのですよ」代官が諭すように言う。
憎まれ役を買ってまで村の利益を追求しているのに何がダメなのかと、他の子供と同じ扱いを望んでいるのに何がいけないのかとと言う。
「ハルビス殿、その憂いは本当に村の為かの」
この村に必要な事は全員が平等な事、その上で努力したら努力しただけ見返りがあること。
その夢が開墾であり分かりやすく村の生産性があがる。
何より代官として数年地道に治めていれば評価が上がるのに何をそんなに急いで成果を上げなければいけないかと村長は代官に問う。
このままでは険悪な空気で収穫祭の前に村が割れる可能性もある。
「あの、自分はこれで納得します、残りの土地も開墾できたら同額ですよね」と話すと納得する代官とゴーシュ。
村長に大丈夫ですからと小声で言うと怒りを治めてくれたようだ。
お金を受け取り、屋敷を後にする。
「すまんの、この件は後で然るべき処置を取るからの」と村長が言ってくれたが気にしないでくださいと告げる。
「ただ、土地の売却についても何かしそうじゃの」もう、この村を出たほうがいいかもしれないと言う。
マイクロと相談してみるから少し時間をくれと言う村長。
収穫を前に不穏な空気を感じていた。