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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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141/161

141:それまでとこれから

「朝か・・・、ようやくここを出られるな」
「マイクロさん、結局寝なかったんですか?」
「ああ、一晩くらいなら大丈夫さ。だんだん体にくる年になったけどな」
「そんな年寄りくさいこと言って・・・」

 ノックが聞こえ、ドアを挟んで朝食が出来たことが伝えられると食堂へ向かった。
執事姿になったブラウニーが配膳まですると、ケインはまだ休息が必要らしく、フリーシアの声で食事が始まった。
もくもくと食事を済ませると、フリーシアがケインを呼びに行こうとする、それを止めたのはマイクロだった。

「どこに行くんだ?」
「はい、これからケインを起こして罪をつぐないに・・・」
「まだ、お前さんも本調子じゃないだろ?数日休んで、大丈夫だと思ったら男爵領に来れば良い」
「私は犯罪者です。しかも王子さまに危害を加えてしまったので・・・」
「ああ、あれはただの旅人だよ。本人に聞いてみてもいい」
「でも・・・」
「お前達がこのまま逃げるなら止めないよ。でも、やり直すって決めたんだろ?」
「はい」
「じゃあ、男爵領で待ってるよ。無理はするなよ」

 執事姿のブラウニーとフリーシアに見送られて屋敷を後にすると、少し駆け足気味に馬で男爵領まで向かった。
王子達は馬車を置いていって馬で帰ったらしい。
とりあえず全員の総意として、男爵領に帰ったら休もうという事で合意した。
男爵領の検問まで来るとマイクロが担当官に片手を上げる。
一人の男性が近付いてきて、一言二言話すとすぐに中に入れるようになった。

 最初にとった宿へ戻ると、王子が出迎えてくれた。
昨日の宿代は前払いしてあり、戻れなかったことを宿屋の主人に詫びると笑って許してもらった。
「マイクロ・リュージ、随分遅かったな」
「はい、クラック司祭は捕らえる事は出来ませんでしたが、無事事態を治めてきました」
「詳しい話を聞きたいが・・・、後にした方が良さそうだな」
「心遣いありがとうございます」

 アーノルド家は、現在ゲストを招くために片付けの真っ最中のようだ。
夕方に王子チームと合流して、大規模な歓迎会を開いてくれるらしい。
マイクロはそのまま宿を取ると、二階に上がっていく。
夕方まで自由時間になったので、それぞれ観光をすることにした。

 王子達は昼からワイン工場の見学を予定しているようで、レンとティーナは午後からレイシアに会いに行くそうだ。
冒険者ギルドへの報告は急がなくてもよく、なるべく王子達の機嫌を損ねないように報告しなければいけない。
午前は休息を取る事にして、午後からギルドへ報告しに行こうと思う。
二度寝を満喫して、起きると1階にいたのはマイクロだけだった。

「よぉ、おつかれさん」
「おはようございます、マイクロさん」
「もう昼だけどな。ここに来て早々に巻き込まれるとは相変わらずだな」
「そんな、今回は自分のせいじゃないですよ」
「まあ、いいさ。これからが大変だからな」

 マイクロと隅っこの席に移動すると、声を潜めて今までの事とこれから起きる可能性の話があった。
昨年末にアーノルド領に戻ったスチュアート達は、今までの体制を変えずに領の運営を代官に任せた。
その上でこの領が更なる発展をする為には、何をすべきかをスチュアートは考えた。
近衛騎士としての仕事から領の運営に関わっていく、徐々にだが慣れていかなくてはならなかった。

 スチュアートが戻った事は大々的には発表をしていない。だが、領主とはその領では王であり希望でもあった。
次第にそれとなく探る者、他領からスパイとして送り込まれた者などが現れるようになった。

 最初レイシアは、街娘以上貴族未満の格好をして過ごしていた。
ソルトと二人で動いていれば、屋敷で働く家人に見えたかもしれない。
二人はこの領で暮らしていく為、積極的に市場などに通っていた。
しばらくすると、レイシアの体に変化が起きた。
最初は食べすぎ、飲みすぎによる変化だと思ったが、徐々に当てはまる項目にソルトが協会を頼ったのだ。
無事、懐妊との知らせにスチュアートはとても喜んだ。

「探りに来たスパイはぼっこぼこにしてやったぜ」
「さすがに、やりすぎてないですよね」
「ああ、確か王子は探すなって言ったんだよな。それを破るってのは命令違反だよな」
「・・・ですね」
「そんな他領のスパイって、捕まったら・・・なぁ」
「まさか、殺してはないですよね」
「ああ、だからぼっこぼこだよ」

 マイクロはまず独自の警備体制を構築していった、表から護る者・裏から護る者・個人として護る者等だ。
それらの指揮命令権をスチュアートに置きながら、緊急時はマイクロが行使出来るように作り上げた。
細かなトラブルが収束したのが数ヶ月前、今は比較的落ち着いている時期だった。

「さて、これからだ。レイシアさまの子供は多分男の子だろう。お腹の中にいても、かなりやんちゃだそうだ」
「第一子が男の子なんて、貴族家としてはめでたいですね」
「まあな、おやっさんも喜ぶだろうな」
「それのどこに問題が?」
「本来問題はないんだ。レイシアさまが公的ではないにしろ、きちんとした手順で両家の合意で嫁いだんだ」
「ええ」
「ところが、王国としては失踪という形になっている。王女としての権利を放棄しているから問題はない・・・」
「ああ、王位継承権の問題ですか・・・」
「ここから先は王家の問題になるな。今はただ女の子が生まれるのを望むばかりだ」
「女の子だとどうなるんですか?」
「そうだな、早くに婚約者を見つけて後ろ盾を作ればいい。10年は長すぎるよな・・・、今更王子に文句を言っても仕方ないがな」
ワインを飲みながら昼食を取る。今頃レン達はレイシアさまの所で話しに夢中だろうし、王子達は夕方までワイン工場で見学をしているはずだ。

「そういえば、誰にもついていなくて良いんですか?」
「ああ、今は結構自由にやらせて貰ってるさ。何せレイシアさまにはソルトがいるからな」
「ソルトさんって女性ですよね?心の支えだけじゃ、不安だと思うんですが・・・」
「ああ、警備上の問題か。正直言えば、心配はある。だがな、俺もいつまでここに居られるとは限らないからな」
「それでも、王子も王女もいるんですから」
「俺やスチュアートが王子の近衛にでしゃばるのは、あいつ等に失礼だろ?」
「じゃあ、せめて今だけでもレイシアさまに・・・」
「何なら、今からレイシアさまに危害を加えに行ってみるか?俺だったらそんな恐ろしい真似は出来ないな」
「自分もですよ」
「いや、そういう意味じゃねぇよ。多分、今のティーナでも瞬殺だろうな」
「そんなにですか」

 マイクロは酒を飲んでいる間でも、寝ている間でも何重に策を張り巡らせている。
こちらはそんな離れ業は使えないので、地道に今出来ることをしていくだけだ。
マイクロと一旦分かれると、冒険者ギルドへ王子の到着を知らせた。
既にレイシアさまの懐妊を知っているギルドは、王子の出立が出産後だと予想し、到着だけの案内を王国へ話すことにしたようだ。
レイシアさまの情報がどこまで王都に伝えてあるかは知ることは出来ない。

 これから更に警備体制を厳しくしていかないとダメになるだろう。
こんな街中じゃ誰が味方で誰が敵かも分からない、一見してこの領の住民でアーノルド家に心酔しているなら別だ。
今までのスチュアートの言動を見ると、自領の人を疑うなんて出来ないだろう。
優しさが滲み出るあの雰囲気で領内では人気でも、人は弱くまたそれを利用しようと思った時にはつけこまれてしまう。
今出来るのは、アーノルド邸で家族が住みやすく出来る事くらいだ。

 冒険者ギルドを出ると、商業ギルドへ向かう。
今年が暑くなるかはわからないが、比較的涼しいこの土地でもグリーンカーテンがあると嬉しいだろう。
王都のレイクの名前と農場の名前を出すと、身分証明として冒険者カードを提示する。
大きめの網と、その他必要な物を伝えると前払いで注文した。
商業ギルドには今住んでいる宿を伝え、後で取りに来る事を伝える。

 それからは街をぶらぶらと散策した。
街の人にこの領に初めて来た事を話すと、領の住みやすさやワインの美味しさを誇っていた。
どこどこの葡萄は育て方にコツがあるとか、ここの親父は秘蔵のワインを隠し持っているだとか、ワインに関する事にネタが尽きない。そして、自領が大きく富む事になったのは、セルヴィスの功績が大きいと拝むような勢いで説明してくれた。
そろそろ息子であるスチュアートが良い年齢なので、父親同様この領の誇りとして頑張って欲しいと言っていた。

 他にもセルヴィスと代官はワインのブレンド比率にも拘っていたようだ。
詳しい話は聞けなかったけど、調合師というか錬金術師みたいな人もいるらしい。
これは噂レベルでしか分からない事だし、後でセルヴィスに聞くのも面白いかもしれない。

そろそろ良い時間なので、アーノルド邸に向かおうと思う。
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