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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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140/161

140:ブラウニー

「どうだ?あの化け物は沈黙したようだが・・・」
「王子、やはりクラック司祭に話を聞いた方がいいですね」
「そうだな、問題は・・・」
「どう突破するかですね」

 外での騒ぎとは対照的に、暗闇に包まれている屋敷は静けさの中にあった。
中の様子が気になるが、霧状の動物達が争っていたし部屋にいた盗賊達は縛られていたので、逃げ出す事も出来なかったはずだ。そんな状況でクラック司祭が生きている確率は半分もないだろう。
戦闘が終わって充分時間が経ったので、レンがやってきてマイクロの治療を始めている。

「考えても仕方がない、ブラウニーがいようがいまいがクラックを確保するしかないな」
「王子、お待ちください。セレーネさまもいる事ですし、一刻も早く街に向かって頂きたいです」
「うむ、確かにこの人数は必要ないな。仕方ない、今回は冒険者チームに任せるか。マイクロ、お前もついて行ってやれ」
「はっ、承知致しました。スチュアート、王子達を頼む」

 話が纏まりかけた所で、馬車でぐったりしていた女性がやってきた。
「皆様、助けて頂いてありがとうございます。私達は罪を犯しました、大人しくしますので、あの人を・・・ケインを助けてください」
「まだ病み上がりだろう。様子を見てくるので、一緒に街に来ると良いだろう」
「申し訳ありません、出来る事なら私も屋敷に行きます。ケインが待っている気がするので」
「リュージ、女性が一人くらい増えても良いよな」
「ええ、大丈夫ですけど早くしましょう。この静けさが逆に怖いです」
「よし、じゃあ行くか。お嬢さん、あんたの名前は?」
「フリーシアです」
「よし、では後で追いかけますので出立してください」

 残ったメンバーは自分・マイクロ・レン・ティーナ・フリーシアだった。
レンとティーナがフリーシアの具合を確かめながら屋敷の玄関の前に立った。
ドアを開けようとしたが、勿論開くわけがない。

 鎌をいったん仕舞うと、みんなにも武器に見えるものは隠すように伝える。
「リュージ、いくらなんでも無用心じゃないか?」
「ここはもうブラウニーの管理地です。屋敷を守る精霊さまなら、武器を持った相手は招き入れないでしょう」
「大丈夫、何かあったら私が守る」
「ティーナ、期待している。格闘術は苦手なんだ」
「ん、でも努力は大事」
「善処するよ」

 全員が武装解除をすると、大きく深呼吸をしてノッカーを作動させる。・・・変化はないようだった。
中から人が出る気配もなければ、鍵が開いた感じもない。
「蹴破ったほうが早いんじゃないか?」とマイクロが発言すると、フリーシアが一歩前に出て再びノッカーを作動させた。

「おかえりなさいませ、お嬢さま」
先程中にいなかった人物が、執事服を着てドアを開けた。
一瞬強張った顔をしたフリーシアだが、何かを悟り「お客さまです」と自分達を紹介すると、すんなり通される事になった。
確か玄関近くは盗賊が転がされていて、霧状の化け物達が戦っていたはずだった。
ところが、その気配が一切感じさせられず、きれいな状態だった。

「ほう、早速片付けられたか」
「そうなると、クラック司祭もいない可能性が高そうですね」
全員が座れる席を用意してもらうと、フリーシアがケインの所在を聞いた。
「旦那さまは体調を崩され・・・崩さ・・・、はぁはぁはぁ」
「すぐに案内して、こちらの方は神聖魔法が使えるのです」

 執事服の男は一瞬意識が混濁しながらも、旦那さまが治るかもしれないという言葉にすがりつき、ケインの寝室を案内した。
ノックをする執事、返事がないままドアを開けると、男が目を瞑っていた。
「旦那さま・・・、旦那さま・・・、旦那さま・・・」
「このブラウニー、そろそろ限界」
「しっ、まだかろうじて職務を果たそうとしてるんだから」
「ごめん」

 フリーシアが駆け寄り、ケインの様子を確認する。
そのすぐ後をレンが近付いて見ると、ナイフが腹部に刺さっていて相当量の出血をしていた。
治療するにはナイフを手早く抜く必要がある、そして回復魔法をかけるのだが、失った血液は戻る事はない。
どう考えても手詰まりだった。

「司祭さまなら何とかなる、あんな似非司祭ではなく本物の司祭さまなら」
「おい、似非司祭って何だ?」
「司祭を語る奴はゴミだ。旦那さまを苦しめた奴らには罰が必要だ」
「おい、そいつらはどこへやったんだ」
「ゴミは焼却して埋め立てるものだ」

 マイクロはため息をつく。一瞬にして屋敷を修復したくらいだから、瀕死の盗賊や司祭を処分するのは簡単な事だっただろう。
これで屋敷にいる理由の半分以上がなくなってしまった。後は穏便にこの屋敷を出る事を考えなければいけない。

「レン、どう?」
静かな問いに、小さな動作で首を振るレン。
「せめて、このナイフを抜いた後に耐えられる体力がケインさんにあるなら・・・」
「それは難しいのか?」
「多分、このナイフを抜いたすぐ後に命の火が・・・」
「ああぁ、ケイン。献身的に私の事を看病してもらったのに、私は何も出来ないのね」
「どっちにしろ死ぬなら、確率が低くてもやるしかねぇな。ナイフは俺が抜くから・・・」
「ちょっと待ってください。献身・・・、そうだ」

 収納から【安寧の腕輪】と【慈愛の腕輪】の腕輪を取り出すと、片方をケインに装着する。
「これは協会由来の魔道具です、一種の身代わり道具ですね、ケインさんに降りかかるダメージの半分を肩代わりします。本来は恋人や夫婦間で使うのですが・・・、マイクロさんナイフ操作を頼みます」
そう言い、【慈愛の腕輪】を腕に装着しようとすると、フリーシアから「私がやります」と言葉が返ってきた。
最悪、ケインの死に引きずられてしまう可能性を伝えると、それでも構わないとフリーシアは腕輪を奪い腕に装着した。

「まあ、ダメな時はみんな纏めて処分されるから一緒だな」
「不吉な事言わないでくださいよ。後、保険をかけます」
収納から癒しの水が入った香水瓶を取り出すと、薄桃色の液体を確認して瓶の蓋をあける。
「もう、時間がないぞ。カウント3でいくからな、3・2・1」

 マイクロがナイフを体に傷がつかない最小のコースで引き抜くと、ケインに軽く反応が起こる。
すると、フリーシアがケインの片腕を握ったまま、一瞬倒れこむように意識を失いそうになり、なんとか持ち堪える。
レンの神聖魔法がすかさず体の傷を塞いでいくが、度重なる魔法と疲労でうまく魔力がケインに染み渡っていかない。そこで、量を考えずに一気に癒しの水を傷のあった辺りにかけると、神聖魔法の光と薄桃色の光が混ざり合い、金色の光がケインの体全体を包み込んだ。

「女神さま・・・」
執事の姿が段々ぼんやりとして、ブラウニーは小さな執事服を着た精霊の姿に戻る。
ティーナがフリーシアに肩を貸し、レンがフリーシアの様子を確認すると、青ざめていた顔が段々血色良くなっていく。
「なんともない?」
「はい、昔の元気な頃に戻ったみたいです」
「ということは、ケインさんも無事なのかな?」

 静かな寝息を立てているケインに、安心するフリーシア。
二人の腕輪に魔力を注ぐと、腕輪が広がり両方を回収した。
何度も何度も頭を下げるフリーシアに、分かる範囲で事情を聞くと、元々この屋敷はケインの先祖から譲り受けた物らしい。それが没落により持ち主が転々とし、性質の悪い所が管理していたようだ。
証文として継続して住みたければ、金を支払うようにと突きつけられた。
そこを仲介してくれたのがクラック司祭だった。

 しばらくは言う事を聞くように言われ、おかしいと思いながら怪しい仕事は失敗するように仕向けていた。
すると、今度は小さい黒い粉薬を飲むように言われるようになった。
誤魔化しながらも少量ずつ服用するようになると、次第に体の調子が悪くなっていった。

 大抵、あの場面では、「気をつけなさい」と言いながら、素通りされるのがパターンだった。
それを親切な王子とセレーネが、興味本位で薮をつついた為、蛇が出る形になってしまった。

「おい、ブラウニー。そろそろ元気出たか?」
ケインの光が収まり、全てケインの体に吸い込まれると、ブラウニーはレンと自分に何度も頭を下げていた。
「僕は・・・今まで・・・。ねえ、もうケインは大丈夫だよね」
「それはもう、お前が確認したんだろ?悪いが、もうここでケインとフリーシアと一緒に暮らすのは無理だぜ」
「なんでだよ、もう事件が解決したんだろ?」
「その事件に関わっちまったんだよ、二人は」

 悲しげなブラウニーに、「うちの農場についてくる?」と質問をする。
「今すぐ決断する事ないけど、色々な精霊さまも遊びに来てくれるよ」
「・・・考えとく」

 マイクロは布でナイフを丁寧に包み、証拠として持ち帰るようだ。
ブラウニーに死体の場所を聞いたけど、もうどうにもならない状態だったみたいなので諦める事にした。
「あんな事件の後ですが、もう遅いから泊まっていきませんか?」
フリーシアの問いかけにみんな嫌そうな顔をしたが、ブラウニーは喜んで客間を案内するのだった。
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