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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
135/143

135:馬車は走る

「サラちゃん、何を持ってるの?」
「さっき、緑ちゃんに貰ったの。いねって言うらしいんだ」
「へぇぇ、きれいなお花が咲くのかなぁ?」
「うーん、わかんない。いっぱい貰ったから、あの畑使わせて貰えないかな?」
「じゃあ、アンジェラお姉ちゃんに聞いてみようよ」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 農場の引継ぎも終わり、旅の準備が済むと後は出発するだけとなった。
最初、ザクス達と同じように農場の馬車で行こうと思っていたところ、自分もレンも御者が出来ない事に気がついた。
その事をヴァイスとザクスに相談すると、セルヴィスとベリアが馬車で頻繁にワインを運んでいるから、相談してみたら良いのではとアドバイスを貰った。
そういえば、ナディアの父がアーノルド家のワインの運搬を王都近くまで担当するようになり、その中継地点からセルヴィス達が運んでると以前聞いたことがあった。
急いだ結果、到着が遅くなっても仕方がないので、今日はこのまま休んで明日の朝一番に農場へ行くことにした。

 翌朝、荷物は全部収納に入っている状態でレンと一緒に農場へ向かうと、まずはナディアがいたのでお願いをしてみる。
すると、結構な頻度でアーノルド領と王都を行き来しているらしく、セルヴィスが中継地点に行く日に合わせて合流しているそうだ。
午前中にグレイヴに紹介状を書いてもらえるよう手配を取ってくれるらしい。
その後、セルヴィスがやってきて、明日の朝一番に中継地点に向かう事を聞くと、乗せて行ってもらえないかお願いをした。

 セルヴィスはあれからスチュアートに連絡を取っていないらしい。
ただ、セルヴィスの妻が10年も会えないのは悲しい、せめて手紙だけでも届けたいと言うので仕事のついでという名目で引き受ける事になった。もちろん、馬車での移動については、二件とも二つ返事を頂いた。

 保存食の他にも、農園で取れた新鮮な野菜や果物を収納にいっぱい詰め込んだ。
少しだけ時間が空いたようなので、農場の精霊さまの畑に向かった。

「なんか前に来た時よりも幻想的ね」
「そうだね、・・・何というか濃密な魔力に溢れている感じかな?」
花畑の場所は甘い香りがするくらい色合いも大きさも様々な花が咲き乱れていて、野菜畑ゾーンは適度に間引かれた野菜の近くには蝶が飛んでいた。

 緑の精霊さまも何名か飛び回っていて、収穫してカゴに置かれた野菜などを百葉箱めがけて運んでいる。
もうあそこが出入り口で固定されているのだろうか?不思議に思っていると、いつもの緑の精霊さまがやってきた。

「リュージ、こんにちは」
「こんにちは。ここの居心地はどうですか?」
「うん、最高だよ」
「緑の精霊さま、こんにちは」
「レン、こんにちは。あ、そうだ。蜂さんからリュージが来たら渡して欲しいって預かってるものあるんだ」
「あ、もしかして?」
「そう、女王さまに渡す分を除いた量を、少しずつ貯めたらしいんだよ」
「そんな急がなくてもいいのに」
「気持ちだから受け取ってよ。それとねー、ユキちゃんから伝言があるんだけど」
「はい、何でしょう?」
「この前のジャムが欲しいんだって。かき氷にかけるものなら何でも良いって言ってたよ」
「はい、何か考えておきますね」
「うん、変な時期に起きちゃったから、カキ氷で体を冷やしたいんだって」
「それは急がないとダメですね。持ってくる場所はここで大丈夫ですか?」
「うん、お願いね」

 緑の精霊はそう言うと百葉箱に入り、うんしょうんしょと小さな壷を持ってきた。
壷を受け取るとスプーンを取り出し、その先にツンとつけて手の甲に乗っける。レンも興味津々のようで、同じように手の甲に乗せると同じタイミングで味わった。
「・・・美味しい」
「これは・・・、凄いね」
「蜂さんの自信作だよ。もしかすると、僕達の新しい眷属も生まれるかもしれないね」
「それは・・・、聞かないでおきますね」

 事務棟に戻ると、ユーシスに手配と引継ぎをお願いする。
時間があいたら梅シロップとレモンシロップの製作を調理場の責任者に依頼し、ザクスに精霊さまの畑に届けて貰って欲しいと話す。グリーンカーテンも自分が処理しきれていない場所は、ザクスにお願いするように伝えてある。
蜂さんからのお礼は収納に仕舞うことにした。

 寮に帰ると、明日からの出立の挨拶を寮母他みんなにする。
特待生はみんな魔道具を使えるし、風呂の心配もいらない。
相談した結果、何箇所かの馬車に乗り合いすると言ったら、ザクスが小さく舌打ちをしていた。
よく分からない反応だったので流すことにしよう、舌打ちの分だけ仕事も増えることだしね。

 ヴァイスには農場の馬車は使える時に使っていいと伝えてある。
最後に行くのはヴァイス達だし、準備が出来て入れ違いになるかもしれない。
夏祭りには特待生は全部揃う予定だ。学園生活最後の祭りならローラ達も含めてみんなで楽しみたいと思っている。全ては王子の行動次第だと思う。

 翌日は朝早くから農場で合流する。セルヴィスの奥さんから手紙を預かると、ベリアが御者を引き受けてくれるようだった。
荷物を運ぶ用の馬車だけど、三人並んでも大丈夫な馬車の為、会話を楽しみながら安全運転で進んだ。

「ねえ、リュージ。この一ヶ月朝が辛そうだったけど何をしてたの?」
「ああ、それはね。新しい魔法を教わったんだけど、どうも上手くいかなくてね」
「へぇぇ、リュージでもそんなことあるんだ」
「そりゃあ、あるよ。魔法使えるようになってから1年も経ってないんだよ」
「そう言われるとそうね、それでどんな魔法なの?」
「癒しの水っていう回復魔法なんだけど、魔力をごっそり持っていかれるんだよ」
「神聖魔法ではないよね。それって何かに試してるの?」
「いや、まだ試してはないよ。発動自体が難しくてね、発動しても一滴の雫なんだよね。もったいないから瓶に入れてるんだけど・・・」

 収納から香水を入れる瓶を取り出すと、半分くらいまで薄桃色の液体が入っていた。
レンに渡すと、瓶を軽く横に振っていた。こういうのはザクスの担当らしく、レンにはよく分からないみたいだ。
「うーん。でも、凄い魔力が篭ってそうね」
「うん、それだけは分かる。これ魔法で相手を癒すと、魔力が枯渇して倒れる危険性があるんだよね」
「それじゃあ、しばらくは使えないね」

 無くさないように収納に仕舞うと、ベリアにアーノルド領の話を聞く。
ベリアも直接は行った事がないようだけど、実家の男爵領と同じような葡萄畑が多いらしい。
王国としては穀倉地帯で有名だが、やはり斜面や地層・水はけなど土地柄によって自然と葡萄栽培にシフトして行ったようで、男爵家としては主だった職務はないが、観光とワインで持っている土地だった。
因みにベリアの住んでいた男爵領は同じ葡萄でも、甘さが強くワインよりデザートとして食べる方が美味しいらしい。

 代々領主と代官が協力して技術革新を進め、セルヴィスの代では生産を代官に任せて、セルヴィスが営業にまわっていた。各地を飛び回っている間に、同じ葡萄栽培の話で盛り上がり、ベリアの父と仲良くなったらしい。
観光と言ってもワインが美味しいので宿屋と食事処が人気くらいで、街の中心に政務館があり、ワイン工場見学を出来るくらいだった。スチュアート達は生家で暮らしているようだ。

 国王も王妃も気軽に他領へ視察に行ける訳もなく、そんな事を思うとセルヴィス夫妻も10年の月日を待つ事に決めたのだ。スチュアート夫妻も10年は王都へ入る事が出来ない。
そんな折、王子が抜け駆けして妹に会いに行くのを、セルヴィス夫妻は羨ましく思ってた。
今回の旅では王子だけではなく、スチュアート夫妻の近況報告も仕事に入ってた。

 その後はベリアに祭りの話やキアラとマインの剣術について聞いた。
自分の実家のワインが受け入れられないのはショックだけど、自業自得な面もあったので仕方がないとする。
ただ、これでワインの消費量が激減しているとレイクから報告があり、ワイン文化が廃れてしまう事に激しい危機感を覚えていた。
今回はストレートにワインの美味しさを伝えたいと思ってたベリアは、自分の蒔いてしまった種の大きさに愕然としつつもアーノルド領のワインを推したかったのだ。
ところが、セルヴィスの計らいによって、ギルドのワイン在庫を消費するという目的があるにせよ、実家のワインをもう一度陽の目を見させてくれたのだった。感謝してもしきれない気持ちでいっぱいだった。

 キアラとマインについては、発展途上だけど素質があるとベリアは見ていた。
キアラに関して言えば視野が広い事、そしてサポート向きの騎士の剣だと褒めている。
決闘では一対一が当たり前だが、そもそも騎士同士で決闘を行う理由が見当たらない。
訓練や稽古では格上の相手とやるのが技術面や精神面で良いとされている。
マインについては、目と予測が優れていると言っていた。

 二人は順調に技術を上げていて、王妃や王女付の警護では力を発揮できるとセルヴィスも太鼓判を押している。
問題はマインの父親が騎士隊長ということだ。
多分と言うか普通に考えて、適齢期なマインをダールスは既に嫁に出す計画を立てているだろう。
相手は当然、武門の貴族か将来有望な騎士や軍部にいる相手が望ましいはずだ。
週に一度は農場や学園を見学に来るダールスは、意図してなのかマインがいない時を狙ってやってくる。
ダールスの元へ稽古をつけてもらいに行っているヴァイスは、午後には農場でキアラ達と一緒に訓練をしていた。

「これは撒き餌なのかもしれないね」
「それって釣りですか?」
「害獣駆除でもたまに使う方法だよ。一定の場所に餌を撒いてまとめて捕獲とか」
「ヴァイスが狙われてるんですか?」
「なくはないね」

そんな会話を楽しみつつ、馬車は走っていった。
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