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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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134:王子の行方2

 前回の打ち合わせの後、水曜日にはザクスとティーナ達が旅に出た。
ちょっとずつ溜め込んでいた旅の食料も、ティーナの収納に移し公爵領にいるうちに王子に追いつくため走りに走ったようだ。
そんな学園生をあざ笑うように、隊長から翌週の月曜にもたらされた情報は、王子達に撒かれただった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「ローランドさま。私は嬉しいのですが、そろそろ次の場所へ行かなくて良いのですか?」
「そうだな、ここに長くいるとセレーネの気が抜けて、ドレスのサイズが合わなくなってしまうかもしれないな」
「もー、そんなことありません。きちんと運動もしていますから」
「食事に気をつけるんじゃないんだな」
「ここは王都に近い事もあって、リュージさんの農場から比較的近いですからね」
「じゃあ、少しその運動を手伝うことにするか」

 公爵領に来た王子達一行は、最初街の一等地にある宿屋に宿泊した。
その後、数日買い物デートをすると、少し遅れて到着した情報と共に、セレーネの目撃情報により実家に戻ることになった。
それからは半分公務として視察の旅に出る、これも半分接待のような内容で、乗馬をしたり安全な狩りをしたりと楽しんでいた。
ダイアナも旅の間は普通の街娘風な衣装を着ていて、近衛達は程よい場所で見守ったり暇をもらって領内を楽しんでいた。

 公務が一旦終わると、今度は王都から入れ替わりに当主がやってくる。
息子と当主が引継ぎをすると、また会食や内内のパーティーが開かれることになった。
セレーネからはなるべく短く、王子の負担にならないように簡素にとお願いをしていたが、ついつい家族になる王子をもてなしたいと思う気持ちが出てしまったようだ。

 10日もいれば懐かしい自領に里心がついてしまう。
無理を言ってこの旅に同行させて貰っているので、セレーネは度々王子に次の目的地を確認していた。

「王子、この辺の街道には極稀にですが盗賊が出るようです」
「そうか、情報収集ありがとうな」
「何をおっしゃいますか、我らの役目は王子の手となり足となることです」
「この旅にお前達を同行させたのは俺の我侭だ。今ならローランドと呼び捨てしてもいいんだぞ。まあ、その名前で呼ばれると旅がバレてしまうけどな」
「それも面白そうですね」
「おい、少しは弁えろ」

 それからもしばらくは宿を変え、公爵領を楽しんでいた。
馬車は公爵家の私兵が預かっていて、馬の世話もしてくれていた。
最初に派遣された学園生は、言い方は悪いがすぐに動けて影が薄い者が選ばれていた。
近衛達はすぐに冒険者とは分かったが、騒ぐと更に別の者が来てしまう可能性がある。
近衛の報告により王子は一計を講じた。

 学園生は王子達の旅の報告を冒険者ギルドに報告していた。
日が経つにつれて気持ちの緩みが出る者、焦燥感を募る者など学園生の中でも二分していた。
幸いにリーダーが「馬車を見張っていれば大丈夫だ」と言うと、メンバーが納得したので馬を2頭確保して何時でも追える体制を整えていた。そんな時、馬車がある私兵の元へ王子達一行が向かって行った。

 メンバーを集め、馬2頭を連れてきた学園生達はバケツリレーのように距離を取りながら、ハンドサインで状況を伝えていた。
そして、しばらく経つと該当する馬車が走り出した。
御者はずっと見張っていた近衛の一人で問題なかったので、リーダーは迷う事無く二頭の馬を送り出した。
一人がギルドに報告へ行き、リーダーが少し時間を置いて駄目元で馬車の行方を聞こうとした所、3頭の馬に乗った4名の男女が走り去っていった。

 馬車を追って行った2名の学園生は、付かず離れず後をついていった。
すると、馬車が囲まれている姿を見つけてしまったのだ。
盗賊がこんな場所で、商家でなさそうな馬車を襲うとしたら、人買いかもしれない。
いくら武芸に秀でている人が3名いるとは言え、中に乗っている人物を思えば見逃すことはできない。
ここで自分達が合流しても・・・、だが王子に何かあっては大変と一瞬の葛藤の末二人は飛び出した。

 御者をしている近衛は手を上げて降参している。
下卑た笑いをしている盗賊のリーダーが、御者を剣で制止させると部下に馬車の中身を検めるように命令した。
「抵抗しても痛い思いをするだけだぞ」
「俺達に当たったのが運の尽きだな」
周囲を警戒している盗賊も笑いが止まらないようだった。

 薄手の布をめくった盗賊の手に短剣が刺さった。
こういう反撃は良くあることなので、下っ端の仕事になっている。
そして大抵、馬車の中にいる者への対応はひどくなるのだった。
今度は武器を突き付けながら脅すように出てくるように言うと、馬車を揺らし剣の柄でガンガン周りを叩く。

 そんな盗賊に向かって二名の学園生が、大声をあげながら向かっていった。
周囲に異変を感じたか、馬車の中から完全武装をした騎士6名が次々と外へ出て行く。
御者をしている近衛は、無手で盗賊のリーダーの腕を極めると剣を叩き落とし、ほぼ同数となった騎士は盗賊を制圧する。
訓練した騎士と盗賊では戦力差に大きな隔たりがあった。

 戦闘が終わると、まずは学園生にお礼の言葉があった。
その上で「何でこの馬車をつけていたのか」と質問がでると、陰から見守るという事を忘れていた学園生はしどろもどろになった。
騎士の一人が学園生の馬を1頭接収し、学園生二人にはもう1頭の馬で公爵領までついてくるように告げた。
盗賊達はロープに縛られて転がされている。

 近衛は騎士達に敬礼すると、後の始末を任せることにした。
「これで追っ手を撒くことが出来ました。ご協力感謝します」
「いえ、ご武運を祈っております。稀にしか出ない盗賊を捕らえることが出来たので、女神さまもこの旅を見守っていると思います」
「旅が終わる頃には、セレーネさまもローランドさまの横にいらっしゃる事でしょう。この領の益々の発展を祈っております」
そう告げた近衛は騎士と盗賊を置いて、一人で馬車を走らせていった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 隊長に呼び止められたのは、自分と一緒にいたヴァイスとレンだった。
「多分、ザクス達は追いつかなかっただろう」と言うと、隊長が笑い出した。
それからザクス達が戻ってきたのは6月の中旬だった。ティーナだけはアーノルド男爵領に残っている。

 小さな村を縫うように転々と旅をする王子を目撃情報だけで追いつくと、今度は更に二手に分かれてしまった。
ザクス達も二手に分かれて、馬車を探すチームと王子を探すチームで動いていたが、馬車がアーノルド男爵領に入った時点で探索を打ち切った。王子は捕まらなかったが、馬車が入ったなら王子が合流するのもすぐのはずだ。

 半月強の間に夏祭りの概要も決まり、それぞれ準備に入っている。
この頃になると噴水も大分形になっていた。工事も始まっていて、多くの団体が関わっていた。
また、女神さまより神託があって、何箇所かの工場に部品の発注が届くと最優先で納品が行われた。
その際、女神さま像の細かな指示もあったとかなかったとか。
協会にある他の像より、出るところと引っ込むところに修正があったと聞いている。

 噴水についてはギリギリで良いので、まだ時間があるといえばあった。
夏祭りは7月最終の土日に行われるので、一ヶ月は王都を留守にしても大丈夫だった。
学園が後一ヶ月で休みになるので、多くの学園生はその期間に動きたいと要望が出ていた。
その関係で手を上げたのが自分とレンだけだった。

 ガレリアに引き継ぎをお願いし、農場全体で協力してもらった。
ザクスの得意分野を進めて貰えるようにお願いをすると、ポーション類を大量に餞別としてもらう。
ザクス達が旅に出てからも、調理場の責任者に携帯食を少しずつ作って貰っていた。
準備は万端だった、後は少しだけ休んだ馬が行けるかどうかだけが心配だった。

 寮でも、レンと一緒に旅の準備に余念がない。
多くの荷物は自分の収納に入れるにしても、極力荷物は少ない方が良かった。
二人でそれぞれの部屋を片付けるように多くの荷物を仕舞っていく。
その間にヴァイスとザクスが密談をしていた。

「リュージ達も出るのか、俺の訓練も頑張って早く出られる準備をしないとだな」
「なあ、ヴァイス。レンとリュージは二人で大丈夫なのかな?少し心配になってきた」
「危険だと言うなら、王都にいても危険だろうな」
「そうじゃなくて、二人がお互いの気持ちに気が付いてない点だよ」
「ああ、レンは薄々感づいていると思うぞ」
「リュージがなぁ・・・、いっそ今から意味深な言葉を言っておく?」
「たきつける事は言うなよ。くっつく相手ならほっといてもくっつくって」

「そういうもんかな?そういえばキアラはどう?」
「どうとは?」
「元気かなってね」
「ああ、元気だよ。興味があるのか?」
「ただの世間話だよ、この寮の春は遠いな」

 危険度が増すのを覚悟してまで、分かれて行動するとは思わなかった。
ただ、ここからはアーノルド領の線が強いので、レンやティーナが一緒なのは心強いと思う。
まずは道中危険が少ないように移動を考えて、ティーナと早く合流したいと思う。

 スチュアートとレイシアを探してから王子達と合流すれば、その後の領は隠れて移動することもないだろう。
そして、そこからが護衛の本当の仕事だと思う。
祭りが終わったら再度みんなに呼びかけて、王子達の旅が順調に終わるよう手助けをしたいと思った。
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