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116:Cランク

 今日の学園の1限目は、ギルマスによる昇進試験だった。

特待生5人が揃うと、ギルマスと学園長によるダブル講師による説明が始まった。

この学園で順当に学んで卒業資格を得た者、またはそれに準ずる学業を修めた者はDランク相当の実力を得る事になる。

自己申告した職業により多少クリア条件は変わるが、Dランクとはある一定以上の戦闘能力を有した本物の冒険者と認められる地位だ。


 今回、数々の実績により全員揃ってCランクに昇進することになる。

Cランクからは国に対する責任も発生し、もしギルドによる緊急招集が行われた際にはCランク以上の冒険者が集められ、有事に対応する必要が生まれてくる。

また、他国へ堂々と行ける権利が生まれるが、他国へ行った際には真っ先にその国の冒険者ギルドに報告が必要で、他国で罪を犯した場合には他国の罪状通りに裁かれると共に、場合によっては本国からも何らかのペナルティーが発生する。


 では、Cランク以上は不利かと言うとそうでもない。

多くの冒険者が地位を求める場合、やはり名声が必要になる。

名声が上がればパトロンも増えるし、最高位にでもなればその土地を管理する地位につく可能性も出てくる。

場合によっては、貴族家を立ち上げることも夢ではないのだ。

この後、自分は模擬戦を予定しており、その結果次第でCランク確定となる。


 続けて学園長から話があった。

4月の終わり頃に、ローランド王子が少数で王家の責務として旅に出ることになった。

旅の期間は通例として3ヶ月から半年で、婚礼の儀を予定しているのでそれまでには戻るのは確実だった。

これは王家の家庭の事情なので国が動く訳にはいかない。

また、この期間さえも無事に過ごせないようでは、国を背負う資格もないという厳しい方針だった。


 通常、この旅ではさまざまな妨害が行われる、襲撃・誘拐・監禁等、国の内外問わずこの機会が狙われていた。

そんな時、こっそり確保してある予算から、信用ある冒険者へギルドから依頼を出していたのだ。

今回はその依頼がこの学園に届いていた。


 もう少ししたら、その時点でDランク以上の冒険者になっている学園生限定で研修として依頼を出す予定らしい。

どこにいるか分からない対象を探し出し、こっそり護衛をする。

もし厄介事に巻き込まれたら相手に気付かれないように対処して、無事に期限内に王都まで連れ戻すのがミッションだ。

何故今すぐ出てはいけないか?それはすぐ気付かれては困るというのが一点、もう一つは最初に行く場所は決まりきっているからだった。


 責任は伴うけど、大きな名声と立ち入り禁止のダンジョンにも条件付で入れるようになるCランクはとても魅力的だった。

全員で戦闘が出来る場所へ移動すると、ギルマスが武器を構えるように言ってくる。

いつの間にかギャラリーにヘルツがいて、短剣を取り出したところで大きな×印を腕で出されてしまった。

「リュージ、ギルマスは忙しい人なんだぞ。早く新しい鎌出してみろよ」

ヘルツの指摘で練習用の鎌を取り出すと、「ほぅ」と言うギルマス。

素振りの指示に素振りを数回すると、模擬戦をする前に合格を出されてしまった。

ただ、収納持ちなら手元にすぐ使える実践用の武器を持っていないのは良くないと指摘されてしまう。

この後、ヘルツ監視のもと、武器の引き取りに行くことが決まってしまった。


 庶務課でカードの更新をすると、ヘルツに連行されるように武器屋へと行った。

「取りに来るのが遅くなりました」と丁寧に謝罪すると、店主は奥から真っ白い布でぐるぐるに巻かれた鎌を持ってきた。

「ほら、リュージ早く見せてみろよ」

ヘルツが急かすと店主は、布に巻かれたまま鎌を渡してきた。


 身長と同じくらいの長さで、グリップには手に優しくて滑り止めとしての機能は万全な革が巻いてある。

刃の部分にはとある工夫がしてあって、その機構を使うと槍モードと鎌モードに変更することが出来るようになっていた。

これは鎌の持つイメージが悪すぎたので、カモフラージュ出来たらとお願いしたものだった。


 先払いしてあったので素直に商品を受け取ると、ヘルツは試し切りについて熱心に相談してきた。

Cランクになってダンジョンの情報も解禁されるので、もし冒険に出られるならそこで試し切りが出来ると思う。

ただ、週末のお礼会に夏祭り、王子の護衛もいつ始まるか分からない。

あまり旅に出ても農場の件もあるし、後半になれば婚礼の儀も収穫祭も控えている。

結局、この鎌は寝かすのが得策だと思った。


 午後にレンとザクスの特訓を手伝う予定なので、ヘルツと学園に戻る際の話題として王子の話をした。

ヘルツは出発を見送ったようで、今回は王都で何か起きた際には積極的に手伝って欲しいと言われてたようだ。

また、ローラの事もくれぐれも頼むとお願いもされていて、不要な外出は極力控えるようローラにもよく言い聞かせているらしい。

特待生と一緒に住んでいるので寮と学園生活では心配はなく、なるべく多くの味方をつけて欲しいがその分敵も増えるだろうと言っていた。


「なあ、リュージ。王子は最初にどこに行ったと思う?」

「それは勿論、公爵領でしょう」

「まあ、当たり前だな。そこで事件が起きる可能性は限りなく少ない。また2から4週間は滞在するだろう」

「だから焦らないなんですね」

「ああ、他に考えられる場所はわかるか?」

「普通に考えればアーノルド男爵領でしょうね、後はラース村も確定です」

「他には?」

「侯爵家も数年後を見据えたら顔を出さないといけないし、他には婚約者候補ってどこでしたっけ?」

「今は公にはしてないが伯爵家が対象だな。数年先に側妃として、迎えるか迎えないか分からない女性を予約は出来ないだろう」

「では、そこは旅の工程次第でしょうね。後は昨年から事件が起きた領や、不穏な動きをしている領は・・・でも、危険ですよね?」

「王子だけなら世直し旅で嬉々として行きそうだけどな。ずっとつけていれば後を追えるんだが、王子なら追っ手を巻きながら移動する可能性もあるな」


 学園に到着すると、もう午前の講義は終わる間際だった。

仕方がないので瞑想の講義をしている教室近くで二人を待ち、三人で学食へ行くと寮の侍女二人が申し訳なさそうにやってきた。

「ごめんね、リュージさん。ちょっと相談があるんだけど・・・」

「何かな?寮で話がなかったって事は学園がらみ?」

「うん・・・、実は私達が所属しているグループって二つあるのね」

「いつも寮に戻るといるから気がつかなかったよ」


 二人が所属しているのは王国マナーグループとティーパーティーグループだった。

この二つは学園では少数派で、貴族の子女と侍女が兼任して入るので有名なグループだった。

二人は学園よりも寮での働きで多くを学んでいるし、へたな男爵令嬢と付き合うよりかはレンの方が人脈も礼儀作法も学ぶものが多い。自然と幽霊部員のような形になり、今では王女も寮に住んでいるので益々縁遠くなっていた。

そんな訳で多少やっかみが多い中、今度はリュージが農場を始めて王族を接待したと聞いたと言う。


 それだけなら、いくら貴族子女でも文句を言うのは憚られた。

レンにしても王族にしても、勿論自分達には雲の上の存在だったからだ。

ところが今週末にローラの護衛をした者達にも接待すると聞いて、ティーパーティーグループの貴族子女からクレームが出たのだ。私達を招待しないのは何でだと、お金なら出すし何なら先に私達を招待するべきだろうと言い出したのだ。

すると王国マナーグループがその言い方では、一生招待を受けるのは難しいと指摘すると、内部分裂を起こしそうになっていた。


 侍女の二人はあまり参加してないグループ活動でも、みんなと仲良くやりたいと思っていたそうだ。

色々教えてくれた先輩もいるし、我侭ながらも愛すべき後輩もいる。

素直に全部話したのは、最悪断られても二人が責任を取るつもりだったからだ。


「うーん、今の話を聞いた限りでは招待は難しいね」

「リュージ、それはひどいんじゃない?二人が素直に話してくれたのは・・・」

「俺も同じ意見だなぁ・・・、貴族の悪いところがもろに出てる感じ?」

「そんな事言ったら私だって貴族だよ、そんなに貴族って悪いものなの?」

「うん、だからさ。招待じゃなく、その2グループが農場で接待すればいいんじゃないかな?材料は提供するし、応援者もちゃんと用意するよ。それでどうかな?」

「「ありがとう、リュージさん」」

「あ、勿論順番は変えないよ。その辺はちゃんと言い聞かせてね」

「「わかった」」


 予定がもう一つ増えてしまった。

2グループの希望日を聞いて欲しいと告げて、侍女達とは分かれることにした。

3人で魔法科のグループに行くと、通常は月金しかいないサリアル教授が張り切って待っていた。


 ここ数日、瞑想の講義に参加したザクスは、徐々に講義の意味を理解しだしている。

普段おちゃらけている分、集中した時のザクスは、多分特待生一番のポテンシャルを有している。

そのポテンシャルがうまく合致していないのが、ザクスの残念なところと言うか才能の無駄遣いと言うか・・・。

サリアル教授の指導で、着実に魔力の使い方を覚えてった。


 レンも昨日の今日で土魔法の初歩の動きは理解していた。

最初、土属性に目覚めたグループ生が手助けをしようとコツを教えていたみたいだけど、レンがそのアドバイスに対して素早く丁寧な魔力操作で応える。最後はレンのほうが教える立場になっていた。

特待生のポテンシャルは一芸に秀でる事ではなく、多方面の才能に伸ばせる可能性の高さにあると思った。


 自分はと言うと、新入生に囲まれていた。

グループ長に助けを求めてみても、「近寄りすぎないで」とか「ちゃんと聞きましょう」と教わる事が前提であった。

魔法科の新入生はまだ、一般教養と平行して講義を取っているはずなので、魔力の練り方とこの属性にはこの魔法が使えるというものを見せる。

そう言えば自分が会った事がある属性魔法使いは、フレアを除けば土と植物の属性使いが多いと思う。


 まずはこんな魔法がある、こんな事に使える、こんな良い事が待っていると、魔法の楽しさを伝える事が魔法使いである先輩としての務めだと思った。




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