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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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117:色彩

 週末まで魔法の訓練をすると、二人はある程度納得したようだった。
品種改良グループに置いてきたローラが心配だったので、ザクスとレンはグループ活動としては一区切りつけていた。

 侍女の二人には2グループの予定を確認して貰い、翌週の土曜日のお昼に開催することになった。
参加費について聞かれたけど、トマトパーティーや新入生に対するイチゴでの歓迎、今週末にはローラの護衛に対するお礼とお金を取ってはいない。この2グループだけからお金を徴収する事は出来なかった。
預かってもらっている給料から引いてもらい、特別求めない方針で何かしたいなら受け取る旨を伝えた。

 それに伴って、侍女二人には今週末の農場での手伝いをお願いした。
二人は次週の為にも、グループ生から手伝いが出せると言うので、遠慮なくお願いすることにした。

 レンは改めて、キアラと手伝ってくれた女性二人も今週末のお礼に招いている。
前回のお茶会はローラが個人的にお礼をしたいと招いたものであり、今回は予め約束していた報酬として考えたのだ。
農場に関わるメンバーとしてレンとザクスと自分、ティーナは別方面でお願いしていたから勿論参加をする。

 問題はローラに秘密でやるかどうかだった。
これはメンバー的に一人で寮にお留守番させるのも可哀想であり、キアラに対するご褒美としてヴァイスを用意しないといけない都合上、ローラもこれだけの人達に見守られている事を教える事にした。

 土曜日は早朝から準備が始まる。
早くに農場へ到着すると、侍女二人が手伝いのメンバーを率いて早めに来てくれた。
何回も使う施設として安易に研究棟として呼んでたけど、本来は小麦粉料理を研究する場所として考えていたのだ。
王妃達が昼食会で使用をした、陽の光が穏やかに入るこの研究棟を『オープンサロン』と名付けることにした。

 レンとザクスも早くに来てくれていて、昼食の準備とテーブルのセッティングはレンに指揮をとってもらう。
調理場の責任者を紹介すると、手伝いのメンバーは調理補助者と会場のセッティングで半々に分かれた。
事前にメニューは決めてあり、調理場の責任者はこちらの意図を完全に理解してくれていた。
今日手伝いに来てくれたメンバーに、クッキーやスコーンの作り方を見せる予定だった。

 特にスコーンは工夫してくれたようで、【菓子百貨】からのレシピの分量を元に、魔法の粉を使って色々工夫をしてくれたようだ。
魔法の粉も農場担当者と商業ギルドで、『ふっくら粉』の通称で呼んでいたので正式採用することになった。
このまま任せても大丈夫だと確認すると、レンに後のことを任せることにした。

 ナナに挨拶をすると、ガレリアが来るまで考えていた事を実施する。
まずはナディアを呼ぶと、『祭り実行委員会』の担当をお願いすることにした。
彼女は王国の流通事情に明るいし、多くの人脈を着実に重ねてきている。
もし出店するなら場所と時間帯、考えられる規模と周りとの兼ね合いが大事になる。
もし食べ物屋の屋台が並ぶようだったら、他所のメニューも確認して欲しいとお願いした。

 次に呼び出したのは、王妃の農場見学会他で先頭を歩いて案内してくれる男性だった。
名前はユーシスと言い、面接で罪を犯した事があると言っていた男だった。
彼の言う罪とは、冒険仲間であるメンバーを助けられなかった事だ。
リーダーであった彼は撤退命令を出して最後尾を務めた、ところが行きは作動しなく帰りにのみ作動する罠に気が付いたメンバーが身代わりになってユーシスを守ったのだ。
体力もあるユーシスに比べて、小柄だったそのメンバーでなければ、生き残った可能性があったかもしれない。

 リーダーの命令は絶対だ、それは指揮系統が乱れればパーティーの相乗効果がただの足の引っ張り合いになりかねない。
残ったメンバーは助けられなかったメンバーについて、事故だから仕方がないとユーシスを慰めた。
また、冒険者ギルドに報告した際にも仕方がない状況だと認定されていた。

 不足したメンバーを補充することなく、残りのメンバーで次の簡単な討伐仕事に取り掛かった時、ユーシスは小さなミスで、もうリーダーとしても冒険者としてもやっていけない事に気が付いた。
簡単な討伐だったので依頼は完遂したが、ユーシスはその足で冒険者の装備一式を下取りに出すと、死んだメンバーの残された家族に現金として送り冒険者から足を洗った。
それからユーシスはスラムへ向かい、無気力な暮らしと配給により生きながらえていた。

「すいません、お願いしていたあれ来ていますか?」
「はい、ナナさんから預かっております」
「ユーシスさん、敬語じゃなくて良いですって・・・年上ですし」
「年齢は関係ありません、私はここに拾って頂いた恩がありますから」

「わかりました、徐々にで良いですが堅苦しくない方が嬉しいです」
「はい、善処します」
「今って動ける人いますか?あの網が動かせるくらいの人数が欲しいのですが」
「それでしたらすぐに準備します、設置場所でお待ちください」
「じゃあ、『オープンサロン』前までお願いします」

 陽が差し込むと言うことは、夏場は地獄になる。
だいぶ荒目の網を、『オープンサロン』の軒先から斜めに垂らし、離れた場所に設置した鉄筋棒に巻きつけて、日陰にもならない天幕が生まれる。少しすると、『グレーナ草』の世話を終えたザクスがやってきて腕を捲くった。

 ユーシスにはよくナナと打ち合わせをしてもらい、もし早めに来客があった場合は、『オープンサロン』で待ってもらうようにお願いをする。外からみている分には会場のセッティングは問題なさそうだった。

「ザクス、準備はいい?」
「ああ、大丈夫だよ。魔法の特訓って言ってたけど何をすればいいかな?」
「そういえば、植物属性魔法は順調かな?」
「ぼちぼちかな?」
「じゃあ、今から見本を見せるから少しやってみて」

 荒目の網の途切れる地点に一粒の種を蒔く、大地に干渉し種に向かって優しい緑の魔力を通すと、種から芽がでて勢い良く蔓がジグザグに網に巻きつきながら成長していく。
「おおおぉぉぉ、これはいいね」
「うん、グリーンカーテンって言うんだ。日を遮ってもここの良さがなくなるし、植物の緑って優しいだろ」
「そうだね、これを完成させればいいんだな。リュージ、早く種頂戴」
「じゃあ、少しゆっくり目で覚えながら競争しようか」
「よっし、今日はこれをマスターするぞ」
「明日もあるから焦らなくてもいいよ」

 二人で植物属性魔法の修行をする、自分は勿論ガレリアから貰った杖を使ってだ。
最初は苦戦していたザクスもコツを掴んだのか、徐々にグリーンカーテンは緑の濃度が増し完成に近づいていた。
作業の中盤に差し掛かった所でガレリアがやってきたので、ザクスに断ってから打ち合わせをすることにした。

 執務室に入るとナナもやってくる。
ワゴンに土鍋や新しいガラス容器を載せてやってきたので、お給料から引いてくださいとお願いをするとガレリアが首を振った。
4月がご祝儀相場としての売り上げだとしても、多くの利益が入ってきている。
全ての新種の植物が自分の魔法や種のおかげとはいえ、そんなに直ぐに直ぐ作れるものだと世間は見ていない。
多大な研究費用をかけた末、ようやく実になったので農場を開いたというのが公式見解だった。

 そんな訳で、今回発注した網も含めて備品や研究開発費で落とすらしい。
ちなみに今まで王子への支援物資や今日の生徒へのお礼等は、交際費で落とすとガレリアが宣言した。
「リュージ君、何もお金を使わないのは美徳じゃないよ。誰よりも多くを貰い、そんな生活がしてみたいと思わせるのも上の者の務めなんだよ」
「そういうものですか?」
「ああ、かといってすぐに無駄遣いをしろと言っている訳ではない。一度、内輪で飲みにでも行って来るといい」

 このタイミングでユーシスから来客の案内が届いた。
どうやら高級キャ○クラ店の執事とトップ3が一緒に来たようだった。
この店の名前をガレリアに聞いた所、『ブルーローズ』という名前らしい。
すぐに応接へ通すようにお願いし、ナナにはお茶の他に例の品々を持ってきてもらうように伝えた。

 ガレリアと応接室へ移動すると、中心に執事の格好した男性がいて、その隣には可憐な赤いドレスを着た嬢が、その後ろに緑のドレスと黄色のドレスを着た女性が立っていた。
応接にはまだ掛ける椅子があるので二人の女性に勧めると、早速執事の格好をした支配人からお礼の言葉を頂いた。

「この度は、アーノルド家のワインの入荷を再開して頂きありがとうございます」
「いやいや、セルヴィス殿と相談し、きちんと選定させてもらった結果ですよ」
「本当はセルヴィスさんも元の出荷量に戻したいようですけどね」
「今回の事件は、同じ飲食業及びサービス業に係わる者として許せない出来事でした」
「多くの者に協力してもらい今の形になったのだ、後は王国民の心からの声が届けばセルヴィス殿も動くだろう」

 ノックがありナナがワゴンを押して応接のテーブルにお茶を出していく。
学園生からサポートで一人手伝いに来てくれたようで、お茶だけではなく本格的なお茶が飲めるくらいの皿が並べられていた。
「あ・・・、お姉ちゃん」
「アイ、あなたここで何をしているの?」
「うん、今日はリュージさんの農場である会合の手伝いなんだ。料理なんかも色々教えてもらって、来週は私達が招待して貰うの」
「あー・・・いいんだ」

 赤いドレスを着た女性が多分ナンバー1だろう、その妹は負けず劣らず素敵な笑顔を振りまいていた。
テーブルに並んだ、少し塩気の強いクッキーやスコーンはお茶のお供と言うよりはツマミに近いだろう。
そして、マーマレードにカッテージチーズ、薄切りレモンの蜂蜜漬けを出すと3人の女性は、「どうぞ」の言葉を待つようにこちらをじっと見つめてきた。


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