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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
115/161

115:夜の魔法講座

「ちゃんと支えとくから・・・」
「うん」
「包み込むように優しく持ってね・・・」
「こうかな」
「そう、最初だから、ゆっくり動かしてね・・・」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 全員が寮へ戻ると一日の報告が始まる、特にローラは今日の失態の意味を改めて諭されてしまう。
頭ポンポンでキャーキャー言ってたローラが、その先を広めてしまったのだ。
頬を赤くしたローラは王家としてだけではなく、一人の女性として、とても恥ずかしい事をしたと反省した。

 それから魔法の話になり、ザクスとレンが杖を見せびらかした。
いつも夜に魔法の訓練をしているのはみんな知っているので、今日はレンが教えて欲しいと言っていた。
ザクスは焦っていないらしく、サリアル教授にしばらく師事すると言ったので、一個だけ訓練用の魔法を教えることにした。
村長の家庭菜園を片付けた時拾った雑草の種を10粒出し、そのうちの1粒に発芽の魔法をかける。
「「「「「おおおぉぉぉ」」」」」
歓声をあげているけど、これをザクスの宿題にした。

 食事が終わり風呂を済ませると、何時もより早い時間に部屋に戻る。
普段はみんな談話室でおしゃべりをしているけど、今日は魔法の訓練でレンが部屋にやってきた。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「焦らないでいいからね、自分のペースで」
「力の加減が難しいね」
「力は抜いたほうがいいかな?少しこっちでも動かすよ」
「え?え?急にはダメだよ」
「今日はそんなにハードにしないから大丈夫だよ・・・」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「ローラ、もう寝る時間じゃないか?」
談話室でヴァイスが唐突に切り出すと、さすがに無理がある時間なのかポカーンとされてしまった。
ティーナはあまりにヴァイスの切り出し方がヘタだったので頭を抱えた。
ザクスは良く分かっていなかったが、ローラに聞かせられない話なんだなとピンときていた。

 ティーナは少し声を潜めて、「この話は秘密」と呟くと3人は頷いた。
「その前にザクス」
「なーに?」
「確認しないといけない事がある、寮の空気にも関わることだから」
「ティーナ、もったいぶるなよ」
「ストレートに聞くぞ、ザクスはレンの事が好きか?」
「うん」

「「即答かぁ・・・」」
二人は頭を抱え、ローラが昨日に引き続き口元を押さえて感動していた。
「何か勘違いしてない?」
「「「え・・・?」」」

 ザクスは少しずつ昔を思い出すように語った。
レンの親が治める伯爵領は寒い地域にあり、冷害や流行り病に悩まされる地域だった。
豊作な時も多いが稀にある災害については無力で、信心深い伯爵家は領民と同じ苦しみを味わう為に質素倹約を旨としていた。
そんな領内で育ったザクスは快活ながら周りに年長者が多かった為、よく森に行きレンにも出会うことが出来た。
父親は猟師で冬場は出稼ぎに出ていた、そしてある時母親が流行り病に罹ったのだ。

 幸いにも父親から生存術として、植物について学んでいたザクスは最悪の事態に陥るまでに薬草を手に入れることが出来た。
最初は協会付の医者に見てもらい高い金を支払った。
次に薬師に高価な薬を処方してもらい、最後に協会の魔法に頼ろうとしてお金がなくなったので門前払いだった。
緊急時に使うようにと父から預かったお金は薬師にむしり取られたあげく、若干足りない部分は奉公という形で返すと契約を交わしてしまい、学園に入る少し前までその店で働いていたのだった。

 はっきり言って、その店のレベルは低かった。
騙されたと気がつくには多くの時間はかからなかったが、薬の種類だけは多かった事で納得し無気力な仕事をしていたのだった。
そんな死んだような目で働く姿をレンに見られてしまったザクスは事情を話すと、レンは領内で不正な手段で子供を雇い利益を得ている薬師を糾弾した。
それからレンは奉公の日数を凍結し、その分は学園を卒業してから1年以内に返済するという条件でザクスを引き取った。

 そこから二人は特待生用の試験を受けるために猛勉強する。
借金を肩代わりするのは簡単だったけど、きっとレンは一緒に落ちる相手として自分を選んだのかもしれないと思った。
その頃のレンは暗く燻る炎に身を焦がし、それでも前に進まなければならないという使命感を帯びていた。
ザクスはザクスで、もうこれ以上借金を作っても返済出来ないので特待生になる以外道はなかった。

「・・・ってな感じなんだよ」
「うちもひどいけど、ザクスも壮絶な運命だったんだな」
「貧乏には変わりないけどね。それでさ、この前のリュージのあれ、すんごい助かったんだ。完済した上に余りが出たんだよ」
「良かったね。レンに続いてリュージのおかげで重荷が取れるなんてね」

「それを言ったら俺もだよ。没落貴族が王様に会えるなんて滅多にないぞ。普通の貴族だって会った事ない人がいるんだから」
「私達は結構色々な貴族家について勉強してますけど・・・」
「立場の違いだよな。ローラがこの寮に来るなんて最初すごい緊張したんだぞ」
「そうなんですか?」

 ザクスはレンがこれ以上、下がらなくて良い楔になろうと思ってた。
いくら貴族家に産まれたからと言って、領民の命・災害・食料等を考えると心が壊れてしまう。
ある時は道化として、ある時は背中を支えるポジションとして学園生活を送ろうと思っていた。
学園にいられる最長3年間は猶予期間として認められていたので、思いの外レンは明るく我侭に振舞っていた。
多分、ここをティーナとヴァイスは指摘したのだろう。

「よく二人で買い物行ってたよね?」
「荷物持ちとしてね」
「貴族との面会も一緒についてたよね?」
「男避けとしてね」
「農業科と薬学科で隣同士だし、一緒に農作業してたって聞いたけど」
「開墾とか力仕事は俺がして、レンが種を植えたり水やりしたりかな」

 ティーナとヴァイスがザクスの肩をポンポンと叩く。
「じゃあ、レンに対する恋愛感情はないんだな」
「ない。多分、姉や妹が混ざった兄弟のポジションだな」
ザクスが断言すると、ローラがなんだかつまらなさそうな顔をした。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「ちょっと、リュージ早いよ」
「今日はサラッと流しているつもりだけどなぁ」
「急にこんな動き見せられても・・・」
「大丈夫だよ、後でちゃんと出来てるか見てあげるから」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「そういえば、リュージとレン頑張ってるな」
ヴァイスの一言にザクスはふと、「多分、魔力鉢を使って教えてるんじゃないかな」と呟く。
国宝級の魔道具である魔力鉢を学園で使おうとしていた。
ただの植木鉢として今まで使っていた事に驚き、無造作に国宝級の魔道具を披露しそうになったので注意した。
実際はラース村で既に使っていた事で、当然王家には報告が届いていたのを特待生達は知らない。

 今日は色恋の話が多いようで、魔力鉢からザクスは提携している植木鉢やプランターを作っている工房について話した。
農場と提携してからか、その工房は結構な儲けがでているようで、イケメン従業員を増員した。
工房に見学に来る人も多く、農場と提携しているという話から貴族家から結構なアプローチがあったようだ。
貴族家の奥さまや娘さんが体験教室で粘土を捏ねる、イケメン従業員が後ろから抱きしめるように両手を重ねる。

 再びローラが口元に手をやるとザクスはニヤリと笑った。
「なんか、シナリオが優秀な劇みたいね」
「ティーナもそういうのに興味ある?」
「うーん、興味というか・・・。今のリュージとレンがその状態じゃない?」

 みんな、一瞬ハッとした。
レンが魔力鉢を持ち、後ろからリュージが手を重ねる。
魔法が出来たと喜び振り向くと、すぐそこにはリュージの顔があった。
静寂が会話を飲み込み、あと少し勇気を出せば唇と唇が届く距離になる。

「た、たしか、この寮ではふじゅ・・・ふじゅ・・・いは、いけないと言っていました」
「ローラ、言えてないから」
「男は狼だってよく言われている・・・」
「レンさんが大変です」
「食べられたほうが幸せな時もあるよなぁ」

 ローラがリュージの部屋へ向かい、それを注意するという名目で3人がついていく。
部屋の前には既に二人の侍女が、「「シー」」と言い聞き耳を立てていた。
限りなく音を消した忍足で何故かドアの前に到着できたローラは、「コンコン」とノックをした瞬間すぐにドアを開けた。

向かい合わせで魔力鉢の下部を持っているリュージ、鉢の上の方を持っているレン。
二人はキョトンとドアの方を見る、「あ、レンの気が散るとあれだと思ったけど、みんなも見たかった?」
天然発言に救われた6人であった。


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