第百八十八話 レベルアップ
「はぁ、いい湯だった」
『ああ、やっぱ風呂はイイな』
『お風呂、気持ちかったねぇ~』
俺とドラちゃんとスイは風呂から上がり、寝室のベッドでくつろいでいる。
フェルは既に自分の布団で横になっていた。
チラッとこちらを見たフェルが、のそりと頭を上げた。
『ぬ、スイは進化しておるな』
「え、ホント? どれどれ……」
フェルにスイが進化していると言われて、スイを鑑定してみた。
【 名 前 】 スイ
【 年 齢 】 3か月
【 種 族 】 ヒュージスライム
【 レベル 】 1
【 体 力 】 1582
【 魔 力 】 1556
【 攻撃力 】 1548
【 防御力 】 1553
【 俊敏性 】 1581
【 スキル 】 酸弾 回復薬生成 増殖 水魔法 鍛冶 超巨大化
【 加 護 】 水の女神ルサールカの加護 鍛冶神ヘファイストスの加護
お、フェルの言うとおり進化してるな。
ヒュージスライムだってさ。
スイのステータスをよく見ていくと、新しいスキルが1つ追加されていた。
”超巨大化”だって。
そこに視線を移すと、鑑定の力が発揮されたのか説明が出てきた。
【超巨大化……超巨大化するスライム特有のスキル】
説明そのまんまやんけ。
超巨大化ってどんだけ大きくなるんだろうね。
これはどっか広い場所に行って確かめる必要があるな。
明日は冒険者ギルドにキュクロープス討伐依頼完了の報告に行く予定だけど、その後は時間が空くからフェルに街の外の広い場所に連れて行ってもらって確認だな。
「スイ、進化して新しいスキルができたみたいなんだけど、分かるか?」
『んー? ちょっと待って……あ、うん、分かるー。なんかね、スイすっごく大きくなれるみたいだよー』
すっごく大きくか、どれくらい大きくなることやら。
「それじゃ、明日冒険者ギルドに行った後に、どれくらい大きくなれるのか確かめてみようね」
『うんっ』
それにしても、ヒュージスライムか。
スイはどんどん進化していくけど、スライムの最終進化って何なんだろうね。
フェルなら知ってるかもしれないな。
「なぁ、フェル、スイはヒュージスライムってのに進化したみたいだけど、この先まだ進化するのかな?」
『おそらくな。スライムの最終進化形はエンペラースライムだ。我も一度対峙したことがあるが、あれはなかなかの強者だった』
エ、エンペラースライム、つ、強そうな名前だな。
『魔法耐性がなかなかのものでな、中途半端な魔法ではまったく効かぬ。しかも、体の一部でも残っていればすぐに再生したからな。あれにはさすがの我も手こずったぞ。最後は我の撃てる最大の雷魔法で倒したがな』
フェルでも手こずったのかよ……スゲェな。
というか、最後は倒したんだな。
フェルの撃てる最大の雷魔法ってどんなだよ?
……うおっ、想像しただけで寒気が。
『スイもヒュージスライムに進化したということは、次の進化先がおそらくエンペラースライムだろう。ヒュージスライムには何体か出会ったが、エンペラースライムは後にも先にもその1体だけだった。ほとんどのスライムは進化する前に淘汰されてしまうからな。そこまで進化できるのは本当に極々わずかなのだろう』
確かにね。
スライムって最初は弱っちいもんな。
でも、フェルの話からすると、スイってまだ3か月なのにもう最終進化形の一歩手前のヒュージスライムに進化しちゃったってことだよな。
スゲェな……って、あ、異世界ゴミ。
ネットスーパーで出た異世界ゴミは溜めておいて、定期的にスイに処理してもらってるんだけど、それが原因か。
色々魔物も倒してるし、それもあるから余計にレベルアップが早いんだろう。
ま、ま、まぁ、強くなって悪いことはないからな。
『しかし、ヒュージスライムまで進化したのなら、今後はレベルも上がりにくくなってくるかもしれんな』
「え、そうなの?」
『うむ。前に、レベルが高くなるとレベルが上がりにくくなるのは話したろう。それと同じで、その種族の上位種に進化したものは、レベルも上がりにくくなるのだ』
なるほどね。
というか、そもそも進化って、俺たちにもあるのか?
俺たちの中ではスイだけ進化してるけどさ。
「進化ってさ、人でもするのか?」
『いや、人は進化しない。我もドラも進化はせんな』
フェルの話だと、種によって進化するものとしないものがあるそう。
人やフェンリル、ドラゴン系の魔物は進化することがないそうだ。
それというのも、それそのものが最終進化形のようなものだかららしい。
元から高ランクの魔物もほぼ進化しないそうだ。
進化してどんどん強くなっていくというのは、総じてランクの低い魔物なのだそう。
スイのスライムは元が最低ランクの魔物だからね。
それがどんどん進化していって、最終的にエンペラースライムとなるらしい。
オークなどもそうだ。
オーク→オークリーダー→オークジェネラル→オークキングと進化していく。
環境によって進化先が変わることもあるそうだけど。
「なるほどねぇ。あ、進化っていえばさ、レベルいくつくらいで進化するんだ?」
『レベル100だな。100に達すると同時に進化すると言われておる』
なるほどね。
そうなると、1000年以上生きてフェルのレベルが900台で最強って言われてるんだから、レベル999がMAXってことなんだろうな。
「そうすると、俺とかフェルとかドラちゃんのレベルの最高値は999ってことなのか?」
『うむ。そう言われておる。だが……』
ん、何か珍しくフェルが口ごもってるぞ。
「何だよ?」
『いやな、我らフェンリルの言い伝えなのだが、999を超えレベル1000以上になったものがいたと伝えられている。その者は万の時を生き、この世界に飽きてまだ見ぬ世界を求め海を渡って行ったと伝えられている』
え、海を渡って行ったって……この世界には、ここ以外にも大陸があるのか?
「ちょっと待て、海を渡ったって、ここ以外にも陸があるのか?」
『言い伝えではあると言われておる。だが、誰も見たものはいないがな』
「え、新大陸に向けて出て行った人とかいないの?」
コロンブスみたいにさ。
『海の魔物にやられて死ぬだけだぞ。そんな馬鹿な真似をする者がいると思うか?』
あ、そうか。
この世界には魔物がいるんだもんな。
そんな簡単な話じゃないか。
『まぁ、人間どもも周りにある島などは見つけたようだがな』
島までか。
魔物がいる海じゃ外海まで出てっていうのはさすがに厳しいか。
だけど、この世界にここ以外にも大陸があっても不思議じゃないもんな。
まぁ、行く方法が確立してないんじゃどうしようもないけどね。
『999にはまだ遠いが、我もレベルが1つ上がったぞ。それで他の者はどうかと思って鑑定したのだ』
ああ、それでスイが進化したの分かったのか。
どれ、フェルはどうなったんだ?
【 名 前 】 フェル
【 年 齢 】 1014
【 種 族 】 フェンリル
【 レベル 】 922
【 体 力 】 10019
【 魔 力 】 9652
【 攻撃力 】 9308
【 防御力 】 10020
【 俊敏性 】 9841
【 スキル 】 風魔法 火魔法 水魔法 土魔法 氷魔法 雷魔法
神聖魔法 結界魔法 爪斬撃 身体強化 物理攻撃耐性
魔法攻撃耐性 魔力消費軽減 鑑定 戦闘強化
【 加 護 】 風の女神ニンリルの加護 戦神ヴァハグンの加護
相変わらずすごいステータスだよね。
元からすごいからちょっとくらい上がっただけじゃわかんないよ。
『ダンジョンで経験値がある程度溜まっていたからな。そこにイビルプラントを大量に倒し、今日のキュクロープスでレベルが上がったのだろう。やはりレベルを上げるならダンジョンが1番だな。またダンジョンには行きたいぞ。他にも人の街のダンジョンはあるのだろう? 海に行った後はダンジョンだ』
いやいや、勝手に決めないでよ。
ダンジョンはもういいよ。
ダンジョンなんて行かないからな。
「ま、まぁ、まだ海にも行ってないんだし、今はとりあえずは海だよ」
何だかんだ言って、ダンジョン行きは曖昧にさせねば。
そうしないと、ベルレアンに行ったあとダンジョンの街に行かされるハメになりそうだよ。
「それよりさ、フェルもスイもレベル上がってるならドラちゃんも上がってるはずだよな」
『うむ。ドラのレベルも上がっているだろう』
「ドラちゃん、って寝ちゃってるみたいだね。スイも寝ちゃってるわ」
俺とフェルが話している間に、ドラちゃんとスイは寝てしまったようだ。
「ブフッ、それにしてもスゴイ寝姿だな。ドラゴンってこんな風に寝るのか?」
ドラちゃんはベッドの上で仰向けになって腹をさらして寝ている。
フスー、フスーッと鼻息も荒い。
あ、今脇腹をボリボリ掻いた。
『ドラゴンがこんな姿で寝るわけなかろう。そんな風に寝るのはドラだけだ。ピクシードラゴンは珍しい種だが、ドラはその中でも変わっているのだろうからな。ピクシードラゴンが人前に姿をさらすなどまずあり得んからな。見た人間は偶然に見た程度のものだろう。それが、此奴の場合は自らお主に接触してきたからのう。ドラはピクシードラゴンの中でも相当の変わり者なのだろう』
アハハ、ドラちゃん変わり者扱いされてるぞ。
まぁ、でもそのおかげで俺は助かってるんだけどね。
フェル、ドラちゃん、スイと最強の布陣になって死角なしだぜ。
どれどれ、ドラちゃんはどうなっているか。
【 名 前 】 ドラちゃん
【 年 齢 】 116
【 種 族 】 ピクシードラゴン
【 レベル 】 164
【 体 力 】 1120
【 魔 力 】 3262
【 攻撃力 】 3153
【 防御力 】 1081
【 俊敏性 】 3938
【 スキル 】 火魔法 水魔法 風魔法 土魔法 氷魔法 雷魔法
回復魔法 砲撃 戦闘強化
【 加 護 】 戦神ヴァハグンの加護
お、少し上がってるね。
やっぱりイビルプラント大量に討伐したからかな。
あれはすごかったからね。
みんなには届かないものの俺だってものすごい数倒したもんな。
あ、そういや俺はどうなってんだろう?
そんなに簡単には上がりそうもないけど、数が数だったからね。
どれ、確認だ。
【 名 前 】 ムコーダ(ツヨシ・ムコウダ)
【 年 齢 】 27
【 職 業 】 巻き込まれた異世界人
【 レベル 】 30
【 体 力 】 324
【 魔 力 】 316
【 攻撃力 】 294
【 防御力 】 291
【 俊敏性 】 270
【 スキル 】 鑑定 アイテムボックス 火魔法 土魔法
従魔 完全防御 獲得経験値倍化
《契約魔獣》 フェンリル ヒュージスライム ピクシードラゴン
【固有スキル】 ネットスーパー
《テナント》 不三家
【 加 護 】 風の女神ニンリルの加護(小) 火の女神アグニの加護(小)
土の女神キシャールの加護(小)
おおっ、何か知らんが大分上がってるぞ。
やっぱイビルプラントを大量に討伐したからかな。
って、ん?
何か知らんけどいつの間にかスキルが増えてる。
獲得経験値倍化?
…………はっ?!
え、え、え、何コレ。
いつの間にこんなスキル取った?
「な、なぁ、フェル、俺のこと鑑定してみてくれないか?」
『いいぞ。……うむ、したぞ』
「獲得経験値倍化ってスキルあるか?」
『どれ……うむ、あるな。新しいスキルか?』
「ああ、新しいスキルだけど、いつ取ったのかもわからん。何でこんなスキル増えてるんだろ?」
『スキルというものは経験してきたことで増えていくものだからな。中にその獲得経験値倍化のスキルを取得しえる何かがあったのだろう』
そうかなぁ?
そんなスキルを取れるようなことしてないと思うんだけど……。
獲得経験値倍化の文字に視点を移してみる。
【獲得経験値倍化……獲得経験値が倍になる。このスキルを取得しているとレベルが上がりやすい。】
文字通りの効果なんだな。
でも、何でこんなもの取れたんだ?
レベルが上がりやすい効果だなんて…………あっ。
あの駄神たちめぇ。
レベル40になったら次のテナントが解放されるって知ってるから、誰かが付けたに違いない。
誰かっていうよりみんなグルかも。
「原因分かったよ。神様たちが付けたんだよ。ほら、俺の固有スキルの異世界のものを取り寄せるスキルがレベルアップしたって言っただろ?」
『ああ、そんなことを言っていたな。確かそれで前より美味いケーキが取り寄せられるようになったのだったな?』
「そうだ。それでな、その固有スキルが次にレベルアップするのがレベル40になってからなんだよ。神様たちはそれを知ってて、レベルアップしろーって言ってきてたから、おそらく神たちがこの”獲得経験値倍化”のスキル付けたんだよ。まったく、勝手なことしないでほしいよ」
『何を言うかっ! 神たちの望みであればそれに従うのが筋というものだぞっ』
えー、俺が怒られんの?
『それにその”獲得経験値倍化”のスキル、あって悪いものではないだろう。むしろ、それがあればレベルが上がりやすいのだから喜ぶべきだぞ。レベルが上がりやすいスキルなど皆喉から手が出るほど欲しいスキルだろう。そういうスキルが取得することができたのだから神に感謝するのだぞ』
う、そう言われると……。
確かに”獲得経験値倍化”のスキルなんて考えてみたら、あって困ることなんてない。
むしろレベルが普通の人よりも倍で上がっていくっていうんだから、悪いことではまったくない。
でもねぇー……。
勝手に付けられたってのが腑に落ちないっていうかさぁ。
よし、次の供え物のときに文句の一つ二つ言ってやるぞ!