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棘の姫は薔薇に焦がれる  作者: 碧檎
第一章 崖っぷち令嬢と負け犬殿下
5/19

 ヴィンセントの母ドリスをみたとたん、ステラは安請け合いをしてしまったと一瞬後悔した。

 王族に見初められるくらいだ。昔は美しかったのだろう……けれども、今はもう見る影がない。普通の女性の二倍ほどの布をたっぷりと使った体格は、頭二つ背の高い息子の二倍ほどの重量があるようにも見えた。

 金銀玉をごてごてと飾り付けていて、センスが悪い。思わず眉をしかめそうになったけれど、ヴィンセントに睨まれて任務を思い出し、何とか堪える。

 そして彼女の中身は外見を裏切らなかった。赤い紅の塗りたくられた大きめの唇が開かれたとたん、


「頑なに縁談を断り続けたくせに……いきなり恋人を紹介するなんて、一体どんな風の吹き回し? どこでどうやって出会ったの? この方のどこが気に入ったの」


 連続して放たれた甲高い声には非難の響きが含まれている。ステラは思わず身体を硬直させた。だが母ドリスの質問攻めにもヴィンセントはきっと慣れているのだろう、顔色一つ変えず柔らかく順に答えを返す。


「彼女と出会ったのは、先日お招き頂いた晩餐会ですよ」


 するとドリスは目を丸くした。


「あれだけ誘いを断り続けたあなたが晩餐会に? 聞いていないわ。どういうつもりなの」

「招待してくださったレディ・コルボーン公爵夫人には世話になっていますから」


 ヴィンセントがくすりと笑うと、ドリスは腹立たしげに頬をふくらませた。


「レディ・コルボーンが? 珍しいこともあるものね」


 レディ・コルボーンといえば、もう一人の王弟――先王の三男でコルボーン公爵のご夫人だ。センスが良く、王都のファッションは彼女から発信されていると有名なご夫人だった。同じく王子に嫁いでいるというのに、仲が悪いのだろうか――絶対悪いだろうなと頷きかけたところでドリスと目があった。

 深い青の瞳はヴィンセントのものと同じ色。だが、酷く冷ややかで、すべてのものを見下しているようだった。思わず湧き上がる反発心を無理矢理に抑えこむ。


「で、あなたはどこのどなたかしら」


 ドリスは苛立ちをぶつける相手をステラに移すことにしたようだ。疑り深い目でステラを遠慮無く観察する。顔が引きつりそうになるが、こらえて微笑む。


「アトリー男爵の長女で、ステラ・メレディスです」


 男爵、という階級にドリスは過剰反応を見せたように思えた。


「ミス・ステラ・メレディス。失礼かもしれないけれど、確認させていただくわ。――うちの資産目当てじゃないでしょうね?」


 噛み付くような無遠慮な言葉に、ステラは抑えていた憤りがにじむのを抑えきれない。


「ご心配なさらずとも、公爵家とは比べ物にはなりませんが、地所収入は十分ありますわ」


 金があるのはあくまでメレディス家だが、ステラは見栄を張る。


「それにメレディス家が恩恵をいただくのも、私が殿下の御子を産んでからのお話です」


 そもそも、資産目当てというならば、結婚しただけでは、目的は遂げられない。この国は長男が資産のすべてを相続するため、その妻となってもステラには資産は分配されない。彼女が恩恵を授かるのは、息子を産んで、爵位財産を受け継ぐものができてから。そうして初めて、ステラを始め、家族にも益が出てくるのだ。

 大体、資産目当てはおっしゃる通りだけれど、この負け犬殿下はまっぴらごめんです――と続けるところだったが、ヴィンセントの冷たい視線を受けて慌ててステラは言葉を呑み込んだ。

 そうだった。ついついかっとなってしまったが、機嫌を取らねばならないのだった。生意気に見えたかもしれない。誤魔化すように目を伏せる。だが、ドリスはステラの言葉が気に入ったらしく、満足気に頷いた。


「男爵家というのは、気に入らないけれど、ヴィンセントの子を産もうという気概は素晴らしいわ。そうよ。まずは息子さえいれば良い話だものね。あとはどうとでもなる。ヴィンセント。とてもいいお嬢さんじゃないの」


 ドリスはヴィンセントの耳元で何かを囁くと、顔をしかめる彼を残して、部屋を出て行った。




「なかなかいい対応だったと思うよ」


 ヴィンセントはぐったりと疲れた様子で肘掛け椅子に深く沈み込んだ。しかも、すぐにフロックコートを脱ぎ去りクラヴァットを解き、シャツの襟元の釦も外す。未婚の令嬢を前にしてはくつろぎ過ぎだと思える態度に、ステラが眉をしかめるが、彼は構わなかった。


「すまない。母が来るとどっと疲れるんだ。――オスニエル、なにか甘いものを」


 オスニエルがチョコレートを運んでくると、ヴィンセントはつまんで口に入れる。そしてブランデーの入ったグラスを手に取り、ヴィンセントは琥珀色の液体を煽った。


「君もどうかな。糖分を取ると、頭の疲れが取れる」

「要らないわ、それより」


 すげなく断ると気になっていたことを尋ねた。


「さっきお母様に何を言われていたの?」


 気が乗らない様子でヴィンセントは言う。


「ああ、気が変わらない内に、さっさと寝室に連れ込んで、跡継ぎを作りなさいだって」

「……」


 上流貴族とは思えない下品な物言いだ。ステラが嫌悪感に顔をしかめると、ヴィンセントが肩を竦める。


「息子を産めるのなら、男爵令嬢でも目をつぶるってさ。本当にあさましいよね。代わりにお詫びするよ」


 まるで自分のことを恥じているような様子に、ステラの不機嫌さが消える。


「王子様でも親で苦労するのね」


 愚かな両親を思い浮かべながらステラが言うと、ヴィンセントが「王子だからかな」と頷いて問い返す。


「君も両親で苦労しているんだ?」

「どこの家でも多少はあるでしょう、そんなこと」

「切って捨てたくなったことは?」


 あのドリスならばそうだろうな、ステラは自分の境遇と重ねあわせて、まだ自分の方がマシかもしれないと思い直した。


「毎日よ。――だけど、やっぱり無理でしょうね」

「なぜ?」


 じっと真剣な眼差しで見つめられる。問われてみると、自分でも不思議だった。

 家族を捨てて、王宮で女官として勤め上げれば、ステラ一人なら不自由なく生きていける。アボット家の借金を背負わせる両親など捨てて逃げてしまえばいいのに……どうしてできないのか、自分に問いかけて心の奥から答えを引きずり出す。

 騙されてばかりの馬鹿な親だ。だけど――


「愛されていることだけは、わかるのよ。彼らなりに私の幸せを願っていることもね。だから、切り捨てて、自分だけが幸せになっても、彼らが路頭に迷ったら後味悪い思いするわ。きっと。それって本当の幸せとは違うって思うの」

「……ふうん」


 ヴィンセントは目を閉じる。そしてそのまま黙ってしまったので、ステラはオスニエルに目配せをして退出することにした。だが、部屋の扉をくぐろうとしたステラに、後ろから声が掛かる。


「ああ、そうだ。王宮でジェラルドには会えたかな」


(どういう意味?)


 思わず振り返る。彼の言葉の意味を反芻すると、思い当たることがあった。むっとしたステラは、


「殿下に会えないのは、やっぱり、あなたの妨害のせいなの? そうよ、確実に王妃様には好印象与えているはずなのに、どうしてお近づきになれないのか不思議で――」


 そこまで言った時、ヴィンセントの嬉しそうな眼差しに言葉を失った。しまった、と思った時には遅かった。


「『やっぱり』、ね。本当に君といると退屈しないな」


 くっと笑みをこぼしたヴィンセントが、


「どうやら僕の『本当の目的』、知られているみたいだな。その上で裏をかこうとしているみたいだよ。すごいよね、オスニエル」


 楽しげに近従に声をかけると、オスニエルは申し訳無さそうにステラに頭を下げる。


「君の王宮勤めを仲介してくれたのは、さっき話に出てきたレディ・コルボーン夫人なんだけれど、彼女に突然王妃陛下から申し出があったらしいんだ。歳も近いし、気も利くから王太子妃ディアナの話し相手にしたいって。驚いたよ。仕事のないところで使ってくれってお願いしていたし、目立てなかったはずなのに。どうやった?」


 どうやらステラの読みは間違っていなかったらしい。やっぱりあの中途半端な立ち位置は彼のせいだったのかと気づく。


「仕事は見つけるものよ」


 ステラの眉間にしわが寄ると、ヴィンセントは愉快そうに笑う。


「有能だね。だけど、僕はディアナの侍女の話は認められないんだ。せっかくの陛下のご厚意をむげに断るってことは、クビは覚悟しなければならないよね」


 突然の解雇話にステラは目を見開いた。


「断るって、どうして」

「だってディアナの傍付きだよ? 身重の彼女のところにわざわざ恋敵を送るなんてこと、危なくてできないに決まっている。せっかく慣れてきたところなのに、ごめんね」


 あっさりと契約破棄を言い渡されて、ステラは焦った。


「クビは困るわ。ここに来て放り出す気!? ――だって、恋人の役は!?」

「さっき紹介したからしばらくは持つし。十分役目は果たしてくれたよ」


 ステラは話が違うと青くなる。今王宮を追い出されたら、ステラの未来はないも同然。

 あんなふうに捨てられた犬のように同情を引くような顔をして、憐憫に満ちた言葉を吐いておいて――最後には天使のような笑顔で覆す。

 この男、たちが悪い。悪すぎる!


「でも、でも! そうよ、断ったらあなたの立場も悪くなるでしょう!? 理由を聞かれたらなんて答えるつもりよ」


 必死で食い下がるが、ヴィンセントはびくともしない。


「うん。だから僕は『警告』を持って陛下のもとに行くんだよ。君が王太子の公妾を狙って王都にとどまっていることを暴いて、それを理由に断るんだ」


 手のひらを返したヴィンセントを、ステラは燃える目で睨んだ。顔が割れた今、目的を知られれば、本懐を遂げる前にあっさりつまみ出されるだろう。それは身の破滅だ。これでは、まるで使い捨ての駒だ。


「足元を見て、最低ね」


 崖っぷちに立たされたステラは必死で考える。一体どうしてこんなことになっているのか。攻めに出ていたつもりが、どうしてこんなふうに窮地に立たされているのか理解ができなかった。

 ヴィンセントは楽しげにブランデーを煽っていた。青ざめる令嬢を前に、一体どういう趣味なのだろうと疑うくらいの朗らかさで。


「不公平だわ。あなたは大駒ルーク、私は、ただの歩兵ポーンなのに」


 切羽詰まったせいか、いつものように頭が働かない。もうだめだわ、田舎に帰るしか道がない。でも帰ったらナメクジ男が待っている――震えるステラに彼はのんきに言う。


「ルークにポーン? ディアナと一緒でチェスを嗜むのか。面白い例えだな。――でも、この世の中、生まれた時から人は不平等だ。不平等な立場同士で公平な取引なんて、最初から存在しないよ」


 言われて、ステラは突如闇が払われて光が指すような心地がした。はっと顔を上げる。


(取引――そうよ)


 本当にステラが要らないのならば、最初からこの取引は成立していないはず。取るに足らない男爵令嬢など、さっさと田舎に返してしまえばすむ問題だったのだ。今だってそうだ。本当に切り捨てるつもりならばそもそも、こうしてステラに話を通しはしない。さっさと王妃に事情を話して王宮を追い出しているはずだ。敢えて猶予を与えているのは、ヴィンセントはステラという隠れ蓑を少しは惜しいと思っているからだ。だが、それ以上に王太子妃に危害を加えられることを恐れている。有用性と危険性を今、推し量っているのだと。

 そして彼が危険性を消すために選んだ手段は――脅迫だ。


「もしプリンセス・ディアナに何かあったら、私の野望を、未来を全部ぶち壊すって脅しているの?」


 ステラがたどり着いた答えを慎重に発すると、ヴィンセントは頷いた。


「察しが良くて何よりだな」

「でも、そのときは、あなたも無事じゃ済まないわよ? 私、言ってやるから。あなたが私の野心を知っていて、王宮に潜り込ませたって。そうすれば、あなたも共倒れだもの」


 だからそんな脅しには乗らないわ。ステラがヴィンセントを睨むと、彼は眉を上げる。


「逆に脅すつもりなのかな」

「王宮に私を送り込んだ時点で共犯だって忘れないことね」

「それで優位に立ったつもりかもしれないけれど、残念ながら君の勘違いだ」

「どうして」

「僕は、何もかも失っても構わないから」

「え」


 ヴィンセントはただふんわりと微笑む。その笑みはまるでこどものように無邪気なのに、放たれた言葉と眼光は酷く静かで氷のように冷たい。冷えきった眼差しに突かれたステラは気味の悪さに青ざめた。

 彼は保身を考えていない。ディアナ妃のためならば、何を犠牲にしても構わない。

 ステラはその愛情の歪み方と重さにぞっとする。そして、彼が自分を隠れ蓑に選んだ理由に急に思い当たった。普通の令嬢では、この沼に引きずり込まれ、溺れてしまう。一緒に病んでしまう。


(この人、このままでは駄目だわ。愛が腐りかけているのにも、気づいていないみたい。いや、もしかしたら、気づいていてもそれでいいって思っているのかも……)


 近従が主人の抱える心の闇に気づかないはずがない。ちらりとオスニエルを見ると、彼はいたましそうに主人を見つめている。それはステラにヴィンセントの本気を確信させるのに十分だった。


「…………わかったわ」


 やがてステラは降参した。捨て身の人間と勝負するなど、バカバカしい。対等に戦うにはそれだけの犠牲を払わねばならないけれど、ステラにはもう払える犠牲などないのだ。


「『プリンセス・ディアナに危害をあたえなければ、私はここにいてもいい』。あなたはそう言いたいのね」


 今、ステラが選べる選択肢は、ヴィンセントが望み、そのように誘導した『ひとつ』しかなかった。唯一の答えに、ヴィンセントは酷く楽しげに空に向かって乾杯をする。


「よくできました。うん、やっぱり賢い子は嫌いじゃない」


(この男――負け犬だけれど無能じゃないわ。それどころか――)


 琥珀色の月が夜空に浮かぶ夜のこと。ステラは、負け犬王子をずいぶん見くびっていたことを、思い知ったのだった。




 *




 ステラが退出した部屋は穏やかな日常を取り戻そうとしているように思えた。彼女がいると、空気までかき乱されて色を変えるように思えて仕方がない。落ち着きなく妖精がはねているようで、ヴィンセントは目も耳もふさぎたいような気分になる。苛立っているのだと自覚するのに時間はかからなかった。

 ステラを手元に留めつつ、ディアナの安全をほぼ確保できた。思い通りの結果になったはずなのに、『何か』が噛み合わない。自分の欲しかった『何か』が手に入らなかった。それが何なのかわからないことが気持ちが悪いのだ。


「どうなさったのです? ご令嬢相手に殿下らしくないというか」

「ご令嬢、ねえ」


 オスニエルの戸惑いの言葉にグラスの琥珀色の液体を揺らしながら、ヴィンセントは答えた。確かにらしくない自覚はあったが、相手が令嬢だと思うからそう見えるのだ。あれ・・は、普通の令嬢として扱ってはいけないものだ。政敵を相手にするくらいのつもりでいなければ呑まれてしまう。


「おまえはどう思う。ミス・ステラ・ハントリーはディアナを傷つけるかな」

「……少なくとも、約束を破ったり、曲がったことはなさらない方のように思えますが。それに案外お優しい方だなと、先ほどのお話を聞いて思いました」


 オスニエルが言うのは、彼女が家族を切り捨てない理由だろうか。ヴィンセントは頷く。


「僕もそう思うよ。だけど、窮鼠猫を噛むっていうからね。まあ、ジェラルドが揺れることは絶対にないと思うけれど……どうかな。その時は僕にとってはディアナを取り返すチャンスかな」


 その時は許さないが正しいか。くすくすと笑うと、オスニエルは主人の悪巧みをたしなめるように渋い顔をした。


「あのように怯えさせずとも、普通に田舎にお返しになればよろしいのに」

「怯えていた? やっぱり怖かったかな?」

「殿下は嘘を吐かれるのがお上手すぎますから、お気の毒でした。令嬢を追い詰めるなど、紳士にあるまじき振る舞いでございますよ。殿下は昔から人を泣かせては喜ばれておりましたが、まだご卒業されていらっしゃらないようで」


 お可哀想にとオスニエルは首を横に振る。過去のことまで持ちだされて責められて、ヴィンセントは気づいた。自分がステラの泣き顔を見たかったことに。

 生意気な女の口を、涙で封じこめたかったことに。

 己の幼さに気付かされ、気まずさに目を伏せて言い訳する。


「人を変態みたいに言うのはやめてくれ。……追い詰めるも何も、本人が帰りたがらないのだからしょうがないだろう」


 オスニエルは肩をすくめた。


「どうして帰られないのでしょうね。待たれている方もいらっしゃるようでしたけれど」


 ヴィンセントは頷くと、あれを、と指示をする。オスニエルは気が進まなそうに銀盆を差し出した。上には細かくちぎられたステラ宛の手紙が置いてある。復元に時間がかかっている――というよりは皆、人の手紙を読むのは気乗りしないらしく、まだ残骸のままだ。

 トマス・アボット。名を見ただけで、あのステラが酷く動揺した。興味を持つなというのがおかしいと思う。

 王太子妃付きの話が来た時には、彼女を一方的に切り捨てる方向に心が動いていた。退屈しない娘ではあったけれども、もともと捨て駒みたいなもの。公妾の座を狙っているのを知っていて、ディアナの傍に置くなど、とんでもない。母ドリス対策としては惜しいけれども、一度紹介しておけばしばらくは大人しいだろうし、あとで聞かれたら破局したとでも言っておけばいいし。

 だが、あの青ざめた『らしくない顔』を見たとたん、迷った。追い出してはいけないような気になったのだ。だからこそ、あんなふうに回りくどいやり方で、ディアナの安全を約束させて、手元にとどめることを選んだ。

 ヴィンセントはじっと紙くずを見つめたあと、文字の形を手がかりに元の形につなぎ合わせる。一字二字と浮かび上がる文字を目で追う。

 だが、復元した手紙には『愛してる』で始まる熱烈な愛の言葉が延々と続いていて、ヴィンセントはたまらず途中でリタイアした。


「君の居ない世界で生きていてもしょうがない、だって――ずいぶん愛されているみたいだけど?」

「よっぽど好みじゃない男性なのでは?」

「彼女の好みはさっぱりわからないよ。ジェラルドの二番目だったら良くて、公爵の僕はだめだってさ。普通じゃない」


 必要以上に卑下するつもりはない。王族という身分も広大な地所から生まれる財産も華やかな容姿も。全て手にしているヴィンセントは望めば結婚相手などよりどりみどりなのだ。不満を述べつつ再び続きを読もうとしたけれど、胸焼けがしそうだった。もう一度紙くずに戻して、オスニエルにくず箱に入れるように指示すると、ヴィンセントはゆっくりと重い溜息を吐いた。


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