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9月:インタビュー小話


 9月の冒頭のことだった。京子嬢がこんなことを言い出した。

「うちの学校って、イケメンが多いじゃないの。それでね、報道部では『校内のイケメン特集』ってのをやってるのよね」

「やってるって、すでに?見たことないんだけど」

「まあ、鋭意インタビュー中ってところ。なかなか情報も集まらないし、どこでイケメンの線引きするかって問題もあるから、なかなか特集記事としては組めないんだけど、例えばうちのクラスなら火村くんとか土屋くんとかね。日比谷センセ―も入ったりするけど」

 なるほど、マリア嬢の攻略対象であればハズレはないだろう。

「それでね、詩織に協力してもらいたいことがあるのよ。代わりに、集めた情報のうち一つを教えてあげるから」

「え、なんで私?」

 私は別にイケメンに興味とかないんだが。そう思いながら京子嬢を見返すと、彼女はこう続けた。

「生徒会室にコネがあるでしょ?水崎先輩と金城先輩にインタビューがしたいんだけど、さすがに生徒会室じゃあ、部外者による突撃取材はできないのよね」

「あそこって別に部外者立ち入り禁止じゃないよ?」

「けど、ファンクラブの立ち入りが不可になったじゃない?そのせいで、生徒会公務に無関係なインタビューとかもダメになっちゃったのよ。迷惑な話よねえ」

 まあ、居場所がハッキリしている分、押しかけやすい場所なんだし、それくらいの配慮は必要かもしれないな。

「だとすると、私が仲介してもダメなんじゃないの?」

「詩織が用事がある時に、便乗して中に入ろうってことよ。質問はあたしが勝手にするから」

 うーん、それを承諾していいものかどうかは謎だけど。

「まあ、付き添いたいってことなら、断る理由もないかなあ」



 その会話をしてから数日後の放課後のことである。

 日常の中の雑談なんて、すっかり忘れた気分でいたところ、委員長から生徒会室への提出書類を頼まれた。

「これさ、今日中に出さなきゃいけないんだけど、ちょっと先生に呼ばれてるんだよ。頼まれてくれない?」

「いいよ」

 別にたいした手間でもないし、田中先輩にご挨拶がてら届けてこよう。

 そう思い、教室を出ようとしたところ、ガッシリと肩を掴んできた人物がいた。京子嬢である。

「ふっふふーん、さっそくいいタイミングが来たじゃないの」

 インタビュー用らしいメモ用紙とICレコーダーを私に見せながら、京子嬢は言った。


 生徒会室は西校舎は三階にある。京子嬢と一緒に向かうのはもちろんはじめてだったのだが、彼女は西校舎には頻繁に足を運んでいるらしい。

「報道部の活動場所にはね、西校舎も入るのよ。あまり人数が多くないから、部長に連絡をとることも多いし」

 報道部の部長さんには会ったことがないのだが、三年生なんだという。

「部長さんてどんな人?」

 私が尋ねると、返答はこうだった。

「そこそこ仕事はできるし、そこそこ頼りになるし、そこそこカッコイイわよ」

 微妙……。京子嬢に言わせるとそこそこな先輩らしい。彼女はわりと人物評価が辛いのでそのせいかもしれないが、気の毒な。


 生徒会室には、京子嬢の期待どおり水崎先輩と金城先輩、それに田中先輩がいた。一年生の役員たちは今日はいないらしい。

「失礼します。書類を提出に来ました」

 頭を下げながら入室すると、田中先輩が穏やかに微笑んだ。

「あら、いらっしゃい」

 水崎先輩と金城先輩は、応接スペースのソファに座っていた。二人が囲んでいるのは来客用のローテーブルと……、トランプである。カードゲームでもしてたんだろうか。けど、田中先輩がいるんだし、別にサボってたわけでもないのかな。息抜き?

「報道部の祭京子と申します!実はお二人にインタビューしたいことがありまして!」

 京子嬢は二人の様子を見て、仕事中ではないと結論づけたのだろう。笑みを浮かべながらICレコーダーを取り出すとそう言った。

「インタビュー?」

 水崎先輩がいぶかしげな顔をして金城先輩を見やった。金城先輩は静かに首を振る。

「報道部の部長からは聞いておりませんよ。アポイントメントはないんでしょうね」

「ふーん……」

 水崎先輩は少し考え、それからこう続けた。

「おまえたち、ポーカーは分かるか?」

 は?

 私が目を丸くしたのが分かったのだろう、水崎先輩は手に持っているトランプを示しながらもう一度言った。

 彼が手に持っているのは、エースのフォーカードだ。ポーカーだとすればわりと強い役である。

「ポーカー、ですか。ええ、まあ、分かりますけど」

「オレに勝てたら一つずつ質問に答えてやろう。それでどうだ?際限ないのも問題だから、十回勝負な」

 そう言って、金城先輩を見やる。金城先輩は軽く肩をすくめた後、大人しくカードをシャッフルしはじめた。

「え、えーと……」

 おまえたちってことは、今のは私も入ってるのか?

 戸惑う私を尻目に、京子嬢は目の色を輝かせた。彼女の立場からすればそうだろう。勝ち続ければ最大で十個、質問に答えてもらえるわけだ。どんな質問をするつもりか知らないが、水崎先輩は自分から仕掛けた勝負で負けたからといってごねたりはしないだろうから、無茶な質問でも可能かもしれない。

「負けた後に、その質問はノーコメントとか言いませんよね?」

 京子嬢は言質をとるべくそう尋ねた。水崎先輩がムッとした表情を一瞬浮かべるのを見て、勝利を確信したような笑みを浮かべる。

「その勝負、喜んで受けさせてもらいます!」


 結論から言おう。

 水崎先輩は強かった。カードの引きがとんでもなく良い。十回やって、そのうち八回がロイヤルストレートフラッシュだなんて、そんな馬鹿な。

「そ、そんな……」

 惨敗を喫した京子嬢は、打ちのめされたかのように肩を落としたが、彼女のカードの引きだって悪くはなかった。十回中、一回は彼女のエースのフォーカードで勝負がついたのだ。

 え、私?うん、役がまともにそろわなくて最大でスリーカードとかだった。金城先輩は地道にフルハウスなどを連発していた。

「なかなかやるな」

 水崎先輩はそう言って、満足げに笑った。

「約束どおり、一つは質問に答えてやろう」

「で、ではっ……」

 京子嬢はごくりと息を呑んでメモ用紙を取り出すと、考えてあったらしい質問のうち、一番要望が多いだろうと思われる質問を繰り出した。

「好きな女性のタイプを、教えてください!」

 うん、確かにそれは要望が高いだろう。だけど、残念だけど、京子嬢。私はその質問は悪手だと思うわけだ。

 水崎先輩の好きな女性のタイプなんて、見れば一目瞭然である。取り巻きであるファンクラブの女性たちが、全員派手目なメイクをしていてスタイルがよく、色素の抜いたふわふわ髪であることを考えれば結論は簡単に出る。あと、マリア嬢を気に入っている理由も含めれば完璧だ。

 どちらかというと『恋人はいますか』の方が良かったんじゃないかと思うのだが、その回答もまた『いない』のはずなので面白みはない。

「気の強い美人だな」

 水崎先輩はあっさりと言った。

 京子嬢は喜んでメモ書きをしているが、十回もポーカーをやったことに対する報酬としてはあまりにも軽い返答な気がする。

 ……ふむ、良し。

「金城先輩は?」

 答える気のなさそうだった金城先輩に、いかにも自然な様子で尋ねてみると、彼は少しばかり苦笑を浮かべてから答えた。

「素直な女の子でしょうか」

 よしよし、これで二人分だぞ、京子嬢。

「そういえば、水崎先輩。どうしてまたトランプしてたんです?」

 私が尋ねると、水崎先輩は、「ん?」とばかりに視線を向けてきた。

「修学旅行では、皆で一度にやれるゲームの方がいいんだろう?」

「それでトランプですか?修学旅行って、11月ですよね?まだ先じゃあ……」

「オレはこの手のゲームはほとんどやったことがないからな、ルールを把握しておかないとまずいだろう」

「なるほど」

 ええかっこしいで負けず嫌いなところのある水崎先輩のことである。トランプのルールが分からないとまごつく様子は見せたくないだろうし、それは納得だが。

 ……11月の修学旅行に備えて今から予習してるのか……。

 これは生徒会の仕事をサボっているというのではないだろうか。

 ちらりと田中先輩に視線を向けると、彼女は小さく微笑んでいた。この件については黙認しているらしい。彼女自身は加わっていないところを見ると、推奨もしてないんだろうけど。まあ、微笑ましいというのは分からないでもない。

「金城先輩も、あまりやったことがないんですか?」

「ルールはある程度把握していますが、実際に誉とやることはなかったですね。一対一でやるルールは、あまり多くないでしょう?」

 確かにそうかもしれない。ババ抜きなんかをタイマンでやったら、意味がない。

「修学旅行、楽しみにされてるんですねえ」

 私が感心したように呟くと、水崎先輩はわずかに頬を赤らめて、それからそっけないふりをしてこう言った。

「わざわざ普通科高校に来たんだ、それくらいは構わないだろ」

 キラッと京子嬢が目を輝かせる。

「そういえば、どうして水崎先輩はこの学校にきたんです?」

 おおお、と私は思わず京子嬢を見やった。確かに不思議だ。聖火マリアは私立で、もともとはミッション系という特徴はあるにしても、ごく普通の高校である。マリア嬢の攻略対象がこの学校にいることについてはなんら疑問が湧いていなかったけど、彼らはどうしてこの学校に来たんだろう。

「僕と誉は、幼稚舎からとある私立学校にいたんですよ」

 代わりに答えたのは金城先輩だった。

「ですが、そちらは上流階級といいますか……日本でも飛びぬけて裕福な方々ばかりが集まる学校でしてね。感覚がおかしくなると将来水崎財閥を背負う者としては問題があるという会長のご方針で、普通科高校に進むようにと言われたんです」

 わずかに苦笑いしつつ、金城先輩は続けた。

「この学校にしたのは……、どうしてでしたっけ?」

 水崎先輩は少しばかり首をひねった後、こう答えた。

「よくは覚えてないな。ただ、校名を聞いた時になんとなく気に入ったからここにしたんだ」

 その返答に京子嬢は拍子抜けしたような、それでいて納得できないような顔で首をひねった。

「では次に……」

 京子嬢がさらなる質問を重ねようとした時だ。

 ピピピピ……

 電子音が聞こえて私は顔を上げた。出所は会長席の上に置かれたストップウォッチである。

「休憩時間終了。そろそろ二人とも仕事に戻ってちょうだい」

 田中先輩がそう言うと、水崎先輩はおとなしく立ち上がった。どうやら仕事にメリハリをつけるために休憩時間を設けていたらしい。単に「仕事しろ」だけだと効果がないと踏んでいるのだろう。さすがである。


 生徒会室から戻る途中、京子嬢はしきりに首をかしげていた。

「高校選択の理由かー、詩織はどうしてここにきたの?」

「私は制服が可愛いのと部活動が盛んだったのが気に入ったのと、学力レベルがちょうど良かったからだったかな」

 一番大きい理由については伏せつつ答えると、京子嬢は納得した顔をする。

「そうよね、あたしも制服だったのよ。女子にはこの理由が多いんじゃないかしら。でも男子はねー」

 京子嬢は首をひねる。確かに、この学校、女子の制服は可愛いんだけど、それとお揃いの男子の制服は、あまり男子受けするようには見えないのだ。ちょっと恥ずかしいデザインというか。汚れが目立ちそうというか。

「土屋くんは、分かりやすかったのよ」

「え?」

「学校選択の理由よ。集めた情報のうち一つを教えてあげるって言ったでしょう?」

 言ったけど、どうせなら好物とか、そういうものを聞いてみたかったんだけど。

「……まあ、いいか。土屋くんはどういう理由なの?」

「水泳部があったから」

「え?」

 水泳部のある学校は、他にもいろいろあると思うんだけど。

 水泳に熱心な学校には、競泳部と一般部で分かれている学校もあるらしい。聖火マリアの場合は全部一緒くたで競泳がメインだ。

「うちの学校の水泳部は、プールも年中使えるし、大会成績もいいでしょ。土屋くんが小さいころから通ってた水泳教室がね、うちのコーチが所属してる水泳クラブらしいのよ。それで、うちに来いってスカウトされたんだって」

「へー」

 すごく納得である。土屋少年、入学前から期待の星だったんだな。

「なお、土屋くんの好みのタイプはこうよ。『言えるかそんなもん!』」

 ぶっ。

 いや、ゴメン。思わず吹き出しちゃった。土屋少年、分かりやすすぎ。

「火村くんはまだ聞いたことがないんだけど……、ああ、C組の桂木くんの志望理由は面白かったわね」

「面白い?」

 私は首をかしげた。ちなみにデザイナーくんは、うちの教会の十字架が好きだったという理由だ。かなり変わっている。それよりも面白い理由なんて早々ないと思うんだけど。女の子の好みは知らないが、女の子なら誰でもOKみたいな気はする。

「学校のオープンキャンパスに来た時にね、日比谷センセ―と話をしたんだって。その時に、悩み事を聞いてもらえたのがきっかけなんだってさ」

「……へ?」

「ちなみに好きなタイプはこうよ。『考えたことがない』まあ、イメージどおりの回答かな、これは」

 メモを読み上げながら、京子嬢は苦笑した。




 月島兄弟の志望理由までは、京子嬢は知らなかった。

 インタビュー内容としてはちょっとズレているせいだろう。高校選択の理由なんて、『好きな女性のタイプ』や『好きな食べもの』ほどの重要性があるとは思えなかったし。月島元生徒会長の好みのタイプは気にならないでもないが、知ったところでどうしようもないので置いておこう。

 だけど、桂木くんについての情報は、ちょっと気になる内容だった。家に帰った私が、話題を振る動機には十分なくらいに。


「ねえ、和兄。去年のオープンキャンパスについてのことって覚えてる?」

「目立つことなら覚えてると思うが。なんだ急に?」

 和兄は首をかしげて私を見た。

 唐突な質問であることには自覚がある。

 聖火マリアのオープンキャンパスは、年間に何度か開催されている。だから、桂木くんがやってきたというのがいつのことかは分からないし、和兄だって何年も教師をやってるんだから、そこに来た中学生のことを覚えているっていう保証はない。

 それでも聞いてみたくなったのは、たぶん、彼の悩み事というのが少し引っかかったからだと思う。

 友達が悩んでるかもしれないっていうのは、気になるじゃない。何か役に立てないかなって。

「京子嬢からね。去年、桂木くんがオープンキャンパスに来てたっていう話を聞いたんだけど」

 私が言うと、和兄はしばらくの間記憶をたぐるような顔をした。

「……ああ。いたな、確かに」

 おお、すごい。さすがにイケメン、パッと見でも印象深かったんだろうか。

 一度思い出してしまえば次々と蘇るのが記憶というものらしい。和兄は合点がいった顔で何度かうなずきながら続けた。

「覚えてる覚えてる。確か6月だ。聖火マリアのオープンキャンパスは、教師一人につき数組の中学生って感じで校内を案内するんだけどな、友達の男子中学生と一緒に参加してたはずだ。確か学ラン着てたぞ。中学生としちゃ背が高かったから覚えてる」

「その時、なんか変わったことあった?」

「変わったこと?」

 和兄はおうむ返しに言葉をつむいだ後、さらに首をひねった。

「……別に面白いことはなかったと思うが。同じ組の女子中学生が、やつのことばっかり見てて親御さんが困ってたとか、その程度だ。まあ、その分親御さんから質問がいろいろあったから、それは問題なしとして。桂木とは、少し話をした程度だったし……」

「京子嬢が言うにはさ、桂木くんはその時、和兄に悩み相談をして、それがうちに来たきっかけなんだって」

 和兄は私の言葉に目を見開いた。

「…………へえ」

 沈黙はかなり長かった。その果てに出てきたのは、相槌みたいな声で、その後、和兄は一人で納得したような顔で苦笑した。

「……なるほどな、苦労してるな、あいつも」

「?思い当ることあり?桂木くんの相談てなんだったの?」

「言わない」

「え」

 さらっと拒否が返ってきて、私はむしろ驚いてしまった。

 目を丸くしているだろう私に、和兄はお説教するような顔で言った。

「詩織、どんな内容だろうと人の悩み事を、そうやすやすと他の人間に言うわけないだろう」

「あ」

 確かにそうだ。信用して悩み相談を持ちかけたのに、よそでペラペラしゃべるようなことされたら、幻滅するどころじゃ済まない。

「……そうだね、ゴメンなさい」

 桂木くんに土下座したい気分で私が頭を下げると、和兄はポンと私の頭に手を置いた。

「それに、相談というほどのものじゃない、一言二言質問されただけだ。俺の回答がなんかのヒントのなったのかもしれないけどな。入学してからは、個別に俺に相談に来たりはしてないし。あいつなりに、整理がついてるんじゃないか?」

 和兄はそう言って、当時を思い出すような遠い目をした。

「懐かしいな。もう一年経つのか」

 それで、と和兄は話題を変えた。

「なんだって祭はそんな話をしたんだ?」

「あ、うん。『校内のイケメン特集』だって。好きなタイプとか、学校志望の理由とか。和兄も聞かれた?」

 私の質問に、和兄は一瞬眉根を寄せた。

「……たまに来るな。適当にあしらってるから答えてないが。なんだ、それで桂木にインタビューでもしにいったのか」

「私が付き合ったのは生徒会の二人にだけどね。手伝ったお礼にって土屋少年と桂木くんの情報をもらったの。和兄もそのうち聞かれるだろうから、回答用意しといたらどうかな。ちなみに、和兄の高校選択の決め手はなんだったの?」

 私が尋ねると、和兄はあっさりと答えた。

「奨学金」

「え」

「聖火マリアは、一定以上の成績をキープする条件で、学費がほぼ全額タダになる奨学金制度があるんだよ。俺の場合はそれだ。まあ、このくらいならインタビューされても特に困らないな」

「ふーん、そっか。じゃあ、続いての質問。日比谷センセ―の好みのタイプは?」

 おそらく質問されるだろう筆頭を口にすると、和兄は苦々しい表情を浮かべてじと目で私を見た。

「……おまえ、それ、俺に聞くか……?」

「え?」

「ああ、ハイハイ。分かってるよ。そうだな、その質問には適当に反応できる答えを用意しとく。祭にはこう伝えとけ、『インタビューしたいならいつでも来い、けど他の生徒の邪魔にならないように』ってな」



 後日、京子嬢は和兄独占インタビューの権利を勝ち取ったと嬉しそうに報告してくれたが。それによると和兄の好みのタイプは『特になし』らしい。

 用意しておいたんじゃなかったのか、なんかもう少しノリよく答えたらどうなんだ。言い換えればあれか?女なら誰でもいいって意味じゃないだろうな。

 私がわずかに気分を害した顔をしているのを見て、京子嬢はこう続けた。

「だって、『インタビュー記事として載せるならこうとしか答えられない』って言うのよ。そういう言い方されちゃうとねえ?記事にはしないから教えてくださいって言いたくなっちゃっても仕方ないでしょう?まあ、答えてくれなかったけど」

 にやにやと笑みを浮かべながら京子嬢は言った。

「あれは絶対に、本命が……ううん、きっと恋人がいるわね」

 証拠を掴んでやる、と実に楽しそうに彼女は笑った。



 それは9月のこと。忙しい文化祭準備がはじまる、寸前の出来事だった。


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