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宝珠細工師の原石 作者:桐谷瑞香

【本編1】伸びゆく二つの枝葉

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第四話 召喚と決意(2)

 * * *


 ラウロー町の近辺で出現したモンスターは、騎士団の団員であるセリオーヌたちの活躍によって、見事還された。
 決着は彼女の手によるものだったが、それまでにモンスターをあぶり出し、耐え凌いだサートルとエルダは、怒られつつも誉められた。
「あのモンスターが、自警団が討伐を試みていた相手で間違いないと思います」
 朝を迎えた詰め所の会議室で、地図を前にしてクラルが言葉を発した。椅子に座ったドルバー自警団長は腕を組んで、クラルを見据える。
「俺たちが見たのは、馬鹿でかいモンスターだった。隊長さんたちが還したのは、人間よりも一回り程度大きいモンスターだろう? 同一と見なすのは乱暴では……」
「たしかに普通に考えれば、そう思うでしょう。ですが二人の仮説を聞き、その後周囲の森の様子を伺った結果、モンスターはあれだと私は確信しました」
 クラルは会議室の端で座っていた少年少女に話を振る。団長の鋭い視線が向けられたエルダは、手を握りしめて口を開いた。
「森の中で土の精霊(ノーム)と出会いまして、その際、あのモンスターについての仮説を聞きました。あれは人の気配の度合いによって、大きさを変える種のものではないか――と」
「そんな話、聞いたこと――」
「自分はありますよ。学者界隈では、密かに噂になっていることです」
 クラルがすかさず助け船を出してくれる。エルダとサートルは目を丸くして、三十弱の若き隊長に視線を向けた。
「モンスターが強くなっているというのは、おそらく長年対峙している皆さんなら実感していることでしょう。そのモンスターに対し、簡単に言えば何人の人間が対峙しているかで、大きさに変化が出たのではないかと言われています」
 会議室内を見渡しながら、クラルは続ける。
「これは実際にあったことです。――あるところに同じ大きさの双子のモンスターがいました。それは始めに二匹同時に人間たちの前に現れました。人間たちは必死に戦い、傷を与えましたが、結果として還し損ねてしまいました。その後、今度はそのモンスターたちと一匹ずつ遭遇しました。そこで見た大きさは――、対峙した人間の数や強さによってまったく違ったのです」
 クラルは手提げバックから数枚の紙を取り出し、それを自警団長の前まで持ってくる。
 団長はそれを興味深げに読み始める。みるみるうちに目は見開いていき、紙を机の上に置いたときは、呆然とした表情をしていた。
「エルダが言ったことは、嘘ではないかもしれん。疑って悪かった」
「誰もが信じられる仮説ではありませんから、気にしないでください……」
 仄かに笑みを浮かべて、首を横に振る。
 正直言って、今のクラルの言葉と資料がなければ、納得させることは不可能に近かった。
 たとえ土の精霊が皆の前で話せたとしても、首を縦に振らせるのは難しいだろう。
 人は自分が目で見て、納得したことでなければ、受け入れ難い。しかし客観的な証拠があれば、それなりに受け入れやすくはなるものだ。
 クラルはにっこり微笑みながら、団長を眺める。
「それでも心配なことは多々あるでしょう。ですから、ミスガルム騎士団には予定通りこちらに来て、森の中を巡回してもらいます。その部隊が来るまで、自分と彼女は町に滞在していますので、何かありましたら遠慮なく言ってください。お力にはなれると思います」
 斜め後ろにいたセリオーヌは軽く頭を下げる。彼女の手腕を間近で見たエルダからしてみれば、彼女以上に心強い人間はいないと思った。

 会議が終わり、散開になると、クラルと団長は詳しい話をしたいと言って団長が休んでいる部屋へ移動した。
 セリオーヌは部屋の中をきょきょろ見渡しており、エルダと視線があうと、微笑みながら近寄ってくる。
「エルダちゃん、ちょっと聞いてもいいかしら」
「何でしょうか、セリオーヌさん」
「疲れているところ申し訳ないんだけど、今日中で構わないから、ほどほどの値段の宿、教えてくれる?」
「宿? それなら自警団の人に言えば、いい宿を無料で提供してくれると思いますよ?」
 なんと言っても、あのミスガルム騎士団の団員だ。家を一つ貸すくらい、造作もないことだろう。
 しかしセリオーヌは首を縦に振っていた。
「私たち休暇中の身なの。そんな風に扱われても困るのよ。有事の際はもちろんお手伝いはするけど、今は騎士団の一員ではなく、一人の人間として接してほしいの」
 エルダはセリオーヌと、部屋から出ていったクラルの顔を思い浮かべた。二人の服装は団服ではなく、動きやすそうとはいえ私服である。歳は近い男女が仲良く休暇を――。
 思わずセリオーヌの顔をじっと見ると、彼女に顔を近づけられる。
 そして彼女は小声で言ってきた。
「名目は視察がてらの休暇。たまにはうるさい上司から離れて、他の人と建設的な話をしたいのよ」
 二人がどういう関係であるかは、エルダの知らぬ話である。先ほど思い浮かんだ考えは、そのまま胸の中にしまい込んだ。
 いくつか宿の条件を聞いてから、セリオーヌの頼まれごとを引き受ける。
 そして休みもせずに、外で剣を握っている幼なじみを眺めながら、エルダは詰め所をあとにした。


 昼過ぎ、セリオーヌの頼まれごとや自警団に提出する調書を渡してから、エルダはヴァランが眠っている部屋に顔を出した。
 昨日の夕方からずっと眠り続けたままらしい。あれほどの輝きを魔宝珠から引き出す研磨をしたのだ、これだけの疲れがでたのは当然であろう。
 部屋の端にあった椅子を持ってきて、ヴァランの近くに腰を下ろした。話したいことはたくさんあるが、急にエルダに睡魔が襲ってきた。
 それに抵抗する気力もなく、ベッドに腕を置いて、その上に突っ伏してしまった。
 意識が眠りの深淵へと落ちていく。慣れないこと、初めての経験をたくさんした後である。今の今まで疲れが表に出てこなかった方が、奇跡であった。


 * * *


 魔宝珠(まほうじゅ)は、ドラシル半島に恩恵を与え続けている大樹から生み落とされたものだ。
 その宝珠から何を召喚するかは、自分の考えや想いによって変わってくる。
 そんな宝珠に対し人は、一生使い続けるからこそ、大切に使っていきたい、そしていつも身につけるものだからこそ、美しい輝きを放っていたいと思うようになった。
 そういう人がたくさんいるがために、細工師という職業は生まれたのである。

 それは初めてヴァランから教授される時に、言われた内容だった。
 そして、細工師から細工師へと伝えられる言葉でもあった。
 たとえ召喚物を必要としなくなった場合でも、魔宝珠は永遠に残る。親から贈られた大切な品は、半永久的に傍にいるのだ。
 それを細工するなど恐れ多いことだが、誰かの人生を豊かにできるのならば、とても光栄なことでもあった。
 不安なことはたくさんある。将来のことは心配だが、それは数ヶ月前に魔宝珠で何を召喚するか決まっていない時の不安とは違うものだった。
 大丈夫――そう言い聞かせることで、心を落ち着かせることができる。
 自分で選んだ道だからこそ、それ相応の覚悟を決めて、進められるのかもしれない。


 * * *


 微睡みから覚め、エルダは顔を上げると、起きあがっているヴァランに夕陽が照らしている時だった。ぼうっとしていたが、師匠が起きているのを見て、勢いよく跳ね起きる。
「すまん、起こしてしまったか」
「いえ、私が勝手に寝ていたんです。すみません、こんなところで……」
「別に構わない。相当なことをやってのけたのは、薄々察している。あとでゆっくり話を聞かせてくれ。……さて」
 ヴァランの視線が、エルダの首から下がっているペンダントに向けられる。
「いつの間に召喚したんだ?」
「ごめんなさい。相談もせず……」
 人生における分岐点なのだから、両親なり師匠なりに助言をもらうべきだった。
 しかしそんな考えなど、あのときにはまったくなかった。
「何を召喚するかは、自分で決めることだ。別に構わないさ。よければ召喚してくれないか?」
 エルダは頷き、ペンダントを握りしめて解除の言葉を口にする。
「魔宝珠よ、我が想いに応えよ――」
 言葉とともに魔宝珠は輝き、それから手を離したエルダの手のひらの上で、光が四角い物体を作り上げていった。形作り終えると光は霧散し、四角い箱が現れる。
 ヴァランは目を見開いていた。エルダは箱を開いて、中を見せる。
「すみません。参考になるのが、ヴァランさんのしかなかったんです」
 中身はほとんどヴァランのと同じである。彼は視線を箱に向けたまま、ぼそりと呟いた。
「……細工師の道を歩むのか」
「歩みたいです」
 即答する。ヴァランは顔を上げて、エルダの濃い緑色の瞳を覗いてきた。
「それでいいのか?」
 エルダは深く頷いた。
 もう迷わない。幼い頃に見たあの光景も含めて、想いを伝えた。
「私、小さい頃、出店で出張の細工をしているのを見たことがあるんです。お値段は手頃で、時間も短かったので、たいした細工はしていませんでしたが、その時細工された持ち主の顔が印象に残っているんです。……とても幸せそうでした」
 蓋を閉めて、箱をベッドの上に置く。
「この召喚物が良かったかどうかは、私自身の今後の行動で変わってくると思います。ですから、これからも頑張りますので、よろしくお願いします」
 頭を下げて、師匠に対して新たな決意を伝える。それを受け取った細工師の師匠は、エルダの頭をそっと撫でた。
「わかった。これからは厳しく指導していくからな。エルダの細工師としての原石を、より輝かすために」
 口では厳しいことを言っていたが、大きな手は頭を優しく撫でていた。
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