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神無の世界 作者:赤雪トナ
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22 魔王級、オオコゲラ山の主 前

 その声を聞いて誰が猫だと思うだろうか? 人間だけではなく、同種の魔物すら怯えさせる鳴き声が山に響く。同時に木々が大きく揺れる音、枝の折れる音も響き渡る。まるで特大の台風が山を揺らしているかのような激しい音だ。
 幸いこの山の周囲には村はない。その騒ぎを迷惑だと思う人間はいなかった。誰が好き好んで魔王級の根城近くに村を作ろうと思うのか。
 この山の名はオオコゲラ山。山を根城にするのは山猫型の魔物。魔王級の山猫によって支配された山だ。
 その山からいくつもの影が出て行ったことは、まだ誰も知らない。
 そろそろ春も終わろうかという夜の出来事だった。


「仕事を受けた、というか受けたいんだが」

 シーズンズの家から帰ってきたシデルが、夕食を食べ終わったばかりの場で切り出した。

「仕事? 受けていいと思うよ? いつも断りなく受けてたじゃん」
「行くなら全員で受けてくれとサマスさんがな」
「内容は?」
「オータンを連れて少し離れた村まで護衛。そこにある特産取引の交渉をオータンが任されたんだとさ」
「いつのまに呼び捨てする関係になりましたの?」

 目に楽しげな色を閃かせてイオネが聞く。

「あーそれはまた今後な」

 視線を三人からずらして誤魔化す。表情には困ったような笑みが浮かんでいる。
 基本的にシーズンズ家にはシデル一人で行くので、行く度にオータンとお茶を飲んでいるとは知られていないのだ。
 道中聞く機会はいくらでもあるとイオネは簡単に引き下がる。

「俺は行けないよ?」
「どうして?」

 断りを入れたセルシオに、リジィが首を傾げて聞く。なにか用事が入っていたという覚えはないのだ。

「俺はこの街から動けないし」
「どういうことだ?」
「お金を集める時に交わした契約でクースルトから離れないって決めたんだよ」
「そういえば、どうして大金持っているのか聞いたことありませんでしたわね」

 セルシオとシデルがリジィに嫌なことを思い出させたくなく言いよどんでいると、リジィが口を開いた。

「あたしを買い戻すためにすごく無茶したんだよ」
「買い戻す?」
「うん、あたしとシデルさんは奴隷だったんだ。それをどうにかしようとして兄ちゃん無茶したんだって。どんなことをしたかは教えてくれない。お肉食べなかったり、人と模擬戦しないのもその時のせい」

 沈んだ表情のリジィの頭をセルシオがそっと撫でる。なにか言うことはない。既に言って思いを伝えているのだ。十分に伝わっていると信じている。

「まあ、それ関連で動けない。だから行くのなら俺を置いてっていいよ。リジィもたまには外に出して息抜きさせたいし」
「兄ちゃん行かないならあたしも行かないっ」
「一度聞いてみたらどうだ? 外に出ていいのかって。許可さえもらえるなら出ても大丈夫かもしれないしな」
「そうしてみたらどうですの?」
「魔法仕掛けの契約ってそこまで応用きくものなの?」

 セルシオの問いに、魔法に関して詳しいわけではない三人は首を傾げる。
 だが一度くらいは駄目元で聞いてみると、明日聞くことにした。
 翌朝に医務室に行くと、今日は夕方からの仕事ということでまだクースルトはいなかった。ということで探索を終えて、夕食を久々に管理所の食堂で食べて時間を潰す。

「懐かしいな」

 四人のうちセルシオだけがここを利用したことがある。シデルとリジィはすぐに宿暮らしだったし、イオネはレベル制限で管理所の宿を使えなかったのでここも使わなかったのだ。
 どの顔も駆け出しといった感じで、良く言えば若々しさ、悪く言えば弱弱しさを感じさせる。それでも皆希望や期待を表情に浮かべているのは同じだった。
 セルシオのことを覚えていたコックと少し話したりしながら、四人は料理を食べていく。

「そろそろ行ってくるよ。すぐに戻ってくるだろうから入り口辺りで待ってて」

 三人と別れてセルシオは医務室に向かう。
 ノックして入ると、ちょうど交代のタイミングだったようでクースルトがいた。

「ん? おー久しぶりだな」
「はい」
「また怪我でもしたのか?」
「いえ、聞きたいことがあって」

 聞こうかと言って椅子に座る。交代し終えた医者は一言告げて医務室を出ていった。

「仲間が仕事を受けたんだけどさ。それがこの街に外に行くっていうものなんだよ。それで許可貰えたら街を出られるのか聞いてみたらって」
「許可取りにくる必要はないだろ?」

 なんでわざわざと呆れた表情を浮かべている。

「……え? どういうこと? だって契約したよね? 一緒にいろって」
「ああ、あの文面そのとおりに受け取ったのか」

 なるほどと苦笑を浮かべた。
 我らと共にあり離れないこと、これは物理的な距離を示しているのではない。自陣から他所へ移らないことを示している。五年十年とアーエストラエアを離れられては困るが、仕事で街を出るくらいはまったく問題ないのだ。
 これを教えられて、セルシオはもしかするとリジィを取り戻した後オルトマンたちを手伝いに行けたのではと、動かないように戒めていた自身が馬鹿だったような気がした。

「あの契約には行動を束縛する強さはない。奴隷にしようっていうわけじゃないんだから、強い魔法をかけるわけじゃないんだぞ」

 本当ならば強い魔法をかけたいが、それをしてしまうとステータス画面から資格者の文字が消えるということが過去の経験でわかっている。だから貴族たちは恩を売り、お金や物を贈って、時に脅迫や人質をとり資格者を縛るのだ。
 貴族の中にはわざと強い魔法をかけて、資格者を消してしまう者もいる。高位の貴族ほどそれを行う傾向は高い。どうしてか聞いても答えが返ってくることはない。

「そんなわけで自由に仕事に行けばいい。世界中を旅することも可能だぞ?」
「ほんとに?」
「ほんとだ」
「じゃあ行ってくるよ」
「ちなみにどこに?」
「エンキスとかいう村に」
「薬草が特産品の村だっけか」

 エンキスは今では薬草栽培と薬作りを主としているが、昔は近くの森にたくさん自生している薬草を採取し、その薬草をアーエストラエアへと運んでいただけだった。そのうち薬草目当てに薬剤師が集まり、彼らが安定した採取を求めて、栽培を始めた。そんな歴史を持つ村だ。
 この医務室に置かれている薬にもエンキス製のものが多々ある。
 許可をもらったというか誤解を解いたセルシオは、久々に街の外に出ることに決めて医務室を出た。

「どうだったの?」

 入り口に姿を見せたセルシオにリジィは駆け寄って聞く。

「大丈夫だった。何年も街を離れなければ大丈夫なんだってさ」
「じゃあ、仕事は受けるってことでいいのか?」
「俺は反対しないよ」

 リジィとイオネも異論はなかった。
 そのことを伝えに、シデルはこれからシーズンズ家に行くと言い三人から離れていった。

「俺たちは宿に帰って鍛錬でもしよ」
「そうですわね」

 鍛錬途中でシデルは帰ってきて、三日後に出発になったと伝える。
 明日は探索して、明後日は休憩がてら旅の準備にすると決めて、四人は風呂に向かった。
 そして三日後、待ち合わせの午前十時、門の外に四人はいた。

「「おはようございます」」

 サマスとオータンが四人へと頭を下げる。それに四人も挨拶を返す。
 サマスたちのほかにはメイドと使用人がいて、何人か寝泊りできそうな中型の二頭引き馬車もある。幌馬車ではなく、木でしっかりと囲まれた雨風を完全に防ぐことのできる馬車だ。メイドはオータンの世話役、使用人は御者としているのだろう。
 実はウィントアがついてこようとしたが、仲間にダンジョンへと連行された。ウィントアにも仲間がいるのだが、イオネを付回していた時は仲間のことを放り出していたのだった。

「オータンのことをお願いします」
「はい、きちんと仕事を果たします」

 シデルの返答にサマスはもう一度頭を下げる。
 オータンたちが馬車に乗り込み、そろそろ出発となる。

「では皆さんもお乗りください」

 自分たちは歩きだと思っていたセルシオはサマスの勧めにいいのかと聞く。

「はい、いつもそのようにしていますよ。さすがに眠る時はあなた方は外に出てもらいますが、狭いでしょうし」

 全員が寝転がれるほどに広くはないのだ。体があまり丈夫でない娘に快適な環境を使ってもらいたいので、四人を中で寝させるわけにはいかない。

「いつもってことは、何度か行っているってことですの?」
「ええ、何度も行っていますね」

 以前はサマスの付き添いとして行っていた。今回のように遠出して一人での交渉は初めてだ。何度か交渉を見て、やり方はわかっただろうと、オータンに任せることにしたのだ。この取引は大きくお金が動くことはないので、練習としてちょうどいいだろうという判断もある。

「その時の護衛っていつも私たちのような挑戦者なんですか? 専用の傭兵とか雇っていそうなのですが」
「今回はそういった者を別件で動かしてまして。なのであなた方に依頼したのです」

 見知らぬ傭兵たちに頼むよりは安全だと思ったのだった。娘もシデルといることが楽しそうなことだし、とも思っていた。
 全員が馬車に乗ると、すぐに動き出す。それを少し見送り、サマスは家に帰っていく。
 馬車の中は天井辺りに荷物を置く棚があり、ベッドになるソファーがある。端に低温の魔法がかけられた木箱が置かれていて、その中に食材がある。屋根には野外活動で使う道具が括り付けられている。
 六人で入ると少々手狭なので、リジィはセルシオの胡坐の上に座り、スペースを節約している。ニコニコと笑顔でとても上機嫌だとわかる。セルシオもそうだが、リジィも馬車には良い思い出はない。奴隷として売られて乗せられた経験のみなのだ。本当ならばそれを思い出すのだろうが、兄にべったりとくっついて甘えられて思い出すことすらなかった。
 位置的には御者台に近い位置にセルシオが座り、前方を警戒。後部にはイオネが座り、後方を警戒している。警戒しやすいように、低い位置にも窓ガラスがはめ込まれていた。

「以前も行ったことがあるって話だが、どんな魔物が出たか知っているか?」
「私の見たものだとフクロウや犬や蛇のようなものでしたね」
「どんな大きさで、どんな色をしていたか覚えています?」

 セルシオの問いに、記憶を探っていく。

「フクロウは人の胴体くらいでした、色は空に似た色と白の斑でした。犬は赤茶で中型犬と同じ大きさでした。蛇は黄土色で五メートル以上だったような」
「フクロウはキリアンオウルで、犬は飢暴犬、蛇はセグバイパーかな」
「それらの強さとか注意点はどのようなものですの?」

 キリアンフクロウは姿が空の保護色になっていて、それをいかして奇襲をしてくる。飢暴犬は常に餓えていて、集団で襲い掛かってくる。セグバイパーは毒持ちの大蛇で、平均七メートル。
 それらをダンジョンにいる魔物で現すと、三十五階までの強さだ。アビロムカデのように飛びぬけた強さではない。

「一度にたくさん襲い掛かってこないぎりは大丈夫そうだな」
「だと思うよ」
「その時はよろしくお願いします」
「それが仕事だもの頑張りますわ」

 ところで、とイオネは目に好奇心の色を宿し、シデルとオータンの関係について聞いていく。

「どのようなところに惹かれたかですか?」
「うんうん」

 少しもじもじと身をよじって答える。隣に座るメイドは平静を保っているように見えるが、目にイオネと同じように好奇心の色が見える。

「ちょっとした仕草に惹かれたということもありますが、やはり回りにいなかったタイプだからでしょうか」
「回りにいそうなタイプといいますと同じお金持ちの男とか貴族とか?」
「そうですね。まあ、家に篭りがちなので頻繁には人に会ってはいないんですけどね」
「なるほどー、シデルはどうですの?」

 視線がシデルに集まる。

「……胸? いや胸だけじゃないんだが」

 ストレートな言葉に全員の視線がオータンの胸に集まり、たしかに惹かれるだろうと納得した。
 最初に会った時のように恥ずかしげに胸を隠す。イオネとメイドは自身の胸元に視線を落とし、リジィがぺタぺタと自身の胸を触っている。

「……揉みがいありそうですわ」
「なに言ってんだ?」
「おもわず思ったことが口に。胸以外にはなにが?」
「んー……穏やかな性格が好ましい、一緒にいて落ち着ける」

 その感想にほんのりと頬を赤らめたオータンがしどろもどろになっているのとは違い、シデルに照れた様子がないのがセルシオにとって印象的だった。意識して感情をださないようにしている感じだったのだ。
 馬車はがたごとと、されどその衝撃は乗っている者には少なく、春の道を進む。
 日が完全に暮れる前に道の端に止めて、野宿の準備を始める。といっても調理はメイドがするので、薪を集めて周囲の警戒をするだけでいい。
 夜の見張りはリジィを寝かせて三人で行う。三人の中で一番察知能力の低いシデルが心配だが、一番目に置くことで寝始めで眠りの浅いだろう二人でも早い対応が可能ではないかということになり、シデル一人に見張りを任せることになった。
 なおオータンがリジィを馬車の中に誘ったが、兄のそばにいるということで断った。ちなみに宿と同じように野宿でもセルシオの頭を抱えて寝ていた。この頃になると、セルシオが大きく魘されることはなくなっていたので、リジィがセルシオにくっついて眠る理由をシデルとイオネが知ることはなかった。ただ甘えているだけなのだろうといつもと変わらぬ判断をするだけだった。
 何事もなく夜が明け、朝食後すぐに出発する。
 初めての野宿で熟睡できなかったリジィがセルシオの膝を枕に眠る以外は、昨日と変わらない。遠くに魔物らしき気配をセルシオは感じていたが、襲い掛かってくる様子はないのでこちらから動くこともなかった。
 ずっと平穏が続いたわけではない。昼食の準備をしていた時に魔物と戦い、問題なく追い払えた。戦いというほど切迫したものでもなかった。リジィのごく最近第二段に成長した雷術「散雷光」で追い払えたからだ。最年少のリジィがそこまでの戦闘力を持っていることに、オータンたちは驚きで一杯だった。てっきり守られてばかりだと思っていたのだ。

「あら? 速度が緩まりました?」
「うん、前方に人がたくさん見えて、御者さんが速度落としたんだよ」

 体感から馬車の速度低下を感じとったイオネに、前方を見張っていたセルシオが答える。

「人がたくさんですか?」

 ここらでたくさんといえるほどの人の移動をオータンは経験したことがない。これまでは時々旅人や小規模の商隊に出会ったくらいだ。

「何人くらいですか?」
「えっと……ざっと三十人以上」
「そんなに?」

 本当にどういうことだろうと首を傾げ、御者に事情を聞くように頼む。頼まれた御者はある程度近づくと、馬車を止めて話しかけた。

「おい、そこの旅人さんよ、ちょいといいかい?」
「なんだね?」
「街道を歩く人が多いだろ? 以前も何度か通ったことあるんだが、ここまでの人数に出会ったことはないんだ。それでなにかあったのかと思って話しかけたのさ」
「そういうことかい。このずぅっと先が通行止めになったんだよ。それで引き返しているんだ」
「ずっと先ってどこなのさね。それとその理由は知っているかい?」
「俺は途中で引き返した口だから詳細は知らないんだが、バッセムって村が境だとか? 理由は強い魔物がその村周辺に居座ったらしい」
「なるほどねぇ、ちなみにエンキスって村はどうなったか知っているかね? 俺たちはそこに向かってたんだが」
「知らないなー。魔物と戦うことになるんだろうし、そこの薬は必要だろうから、村人が退避するってことはないだろうけど。旅人を受け入れる余裕はないんじゃないか?」
「ほうほう、ありがとうな。助かったよ」
「いいってことよ。いい旅を」
「お前さんも」

 御者に手を振って行商人は去っていった。御者は聞いたことを馬車の中にいる者たちに話して、これからどうするか聞く。こんな状況だ、引き返すのもありだろう。

「どうしましょう皆さん?」
「んー引き返すのに一票だな、俺は。護衛が仕事だ、危険に近づけるのは駄目だろ」
「私も同意ですわ。エンキスまで魔物被害が及んでいる可能性もありますしね」

 兄妹はどうだとシデルとイオネが視線を向けると、セルシオは難しい顔をしていて、リジィは心配そうにセルシオを見上げていた。

「どうしたセルシオ?」
「……引き返すのに同意、かな」
「兄ちゃん、ロド兄ちゃんのこと」

 袖を引っ張り聞く。不安を和らげようとリジィの頭を撫でる。

「心配だよ……でも仕事を優先する。その後に行くよ」
「ロドというのは家族ということでよろしいのですか?」

 イオネの言葉にセルシオは頷く。

「ロッドっていうんだけどね、十三才になる弟がいる。んでバッセムってのは俺たちの生まれた村……」

 セルシオとリジィは両親のことを思い出し表情が硬くなる。それをオータンは心配だからと勘違いした。

「大変じゃないですか! 私のことは大丈夫ですから、ここから向かった方がっ」
「帰り道に魔物がでないともかぎらないし、それに強い魔物がいるなら道具とかもちゃんと揃えたいんで一度アーエストラエアに戻る必要があるんです」

 ギルドで買える道具は一通りリュックに入れてはいるが、その多くが一つずつなのだ。治癒薬や解毒薬などが複数で、粘着液など戦闘補助用の道具が一つずつ。

「まあ、そうだな。護衛ってことで準備はしているが、強敵と戦うための準備はしていないしな」
「不謹慎ながら、強い魔物との戦いが少し楽しみでもありますわね」

 シデルとイオネの反応を見るに、一緒に行くつもりなのだろう。
 ありがとうという兄妹の視線に、二人は笑みを浮かべて頷いた。

「ではアーエストラエアに帰るということでよろしいですな?」

 御者の確認に、全員が頷く。少し急いでというオータンの言葉を受けて御者は馬車をターンさせて、来た道を戻る。
 その途中で、挑戦者や傭兵たちの群とすれ違う。アーエストラエアにも連絡が行き、戦力が派遣されたのだろう。数は確実に五百を超えていた。それを見てよほど強い魔物がいるか、大群がいるのだろうと推測する。

「これは戻っても道具はないかもしれないな」
「買い漁られてるかもね」

 残り少ない道具を高く売られるのが予想できた。

「携帯食だけを補充して出発した方がいいかな?」
「そうするか」
「でしたらうちに来てください。荒事に必要なものはありませんが、保存の利く食料ならばあります。ただというのは無理かもしれませんが、安く売ることはできます」

 オータンの提案に四人は助かると頭を下げた。
 人の行き来が多くなったせいか、帰り道で魔物に襲われることなく無事に帰ってくることができた。御者に馬車を頼むと、一行はシーズンズ家に向かう。
 今回の騒動でサマスは取引などで忙しくなり、家を出ていた。代わりに家のことを引き受けているのは、オータンの双子の兄フォルだ。二卵性なのだろう、すごく似ているということはなかった。

「ただいま、兄さん」
「オータン! 心配していたんだ! 無事でよかった」

 ほっとしたように軽く抱き寄せる。オータンも兄を抱いて離れた。

「旅人さんからエンキス方面に魔物が出たと聞いて、引き返してきたんです」
「お前が出た半日後に、魔物が出たと連絡がきてな」
「すみません、邪魔して申し訳ないが話を伺ってもよろしいですか?」

 シデルがフォルに話しかける。

「君たちがオータンを護衛してくれた傭兵かい?」
「はい」
「もしかして報酬の話かな? それならきちんと払うが」

 シデルは首を横に振る。報酬がどうなるのか少しは気になるが、今はそっちよりも聞きたいことがあった。

「そうではなくて、魔物についてなにか知っていればと。これから俺たちも向かうので」
「なるほど。いいよ、知っていることを教えよう。オータンは二階へ、スフリも心配していたよ」
「わかりました。兄さん、この方たちに保存の利く食料を安く売ってもらえませんか?」
「向かうのならばたしかに必要だね、わかった」

 フォルはそばにいた使用人に十日分の食料を手配するように指示を出す。それを見てからオータンは、シデルたちに無事を祈っていると伝えて二階へと上がっていった。

「魔物の情報だったね。聞いて驚くなというのが無理だし、どうしてそこに? とも思うんだが……オオコゲラ山って知ってる?」

 その地名でリジィを除いた三人はなにがいるかわかる。

「その表情だと知っているようだね、オオコゲラ山の主を」
「魔王級じゃないか!? なんで縄張りから離れているんだよ!?」

 どうしてそこにいるかは管理所やギルドや教会も不思議に思い、オオコゲラ山へと偵察を出した。だが理由はわからなかった。わかったのは山が荒れていることと、主がどうやらいないらしいということのみだ。
 魔王級が出たならば退避も納得できた。しかし戦力を送ることは納得できなかった。魔王級への基本対応は「近寄らない、刺激しない」だ。今回のように戦おうとするのはおかしかった。
 それを聞くと、フォルは理由を教えてくれた。

「たしかに魔王級には手を出さないってのが基本方策なんだが、今回は主が手負いらしくて」

 第一発見者が体を血で汚した魔物を見たのだ。その動きもぎこちないもので、明らかに怪我をしているとわかった。

「今なら倒せると貴族や教会が判断したと?」
「うん。そのために陣地設営や食事や治療などのサポートはするようだし、主やその回りの魔物を倒した者に報酬が支払われる。正直そういったサポートがあっても不安しか感じないが」

 シデルもまったく同意見だ。

「少し希望があるとすれば、ガッドブームやオールドべムといった強者も出たことか。あそこにはレベル500の者もいるらしいから」

 レベル500が数人いるから安心、とはいえないのが魔王級だ。過去、レベル500の傭兵たちが挑み、死んだという話はいくらでもある。
 少しすると、使用人が二人がかりで食料を入れた箱を運んできた。

「十日分あるな?」
「はい」

 フォルの確認に使用人は頷いた。

「ではこれをオータンを無事に送ってくれた報酬の一部として渡そう」
「よろしいんですの?」
「ああ、応援の意味も込めているからな」

 ありがとうございますと四人は頭を下げた。食料はセルシオのビッグリュックに何とか全部入る。
 また会おうという別れの言葉に見送られ、四人は屋敷を出る。

「兄ちゃん、さっきは聞けなかったんだけど、魔王級ってなに?」
「知らなかったのか」

 勇者たちが挑んだすごい魔物がいるとはレッドシムから聞いたことある。しかしその時魔王級といった言葉は使わなかったのだ。
 セルシオは知っていることを話していく。内容はオオコゲラ山の主のことにまで及んだ。
 主のみかけは山猫で、大きさは象ほどの大きさだ。なので大山猫と呼ばれることもある。
 ほかに確認されている魔王級のように特殊な能力はない。魔王級としてはまだ若い方なせいなのか、それとも特殊な能力を持たないのかはわからない。
 しかし特殊な能力がないからといって弱いということはなく、巨体なのに猫の柔軟さは失われておらず、硬く厚い体毛は剣も矢も魔法すらも効果を出しにくい。
 百年前に書かれた文献には尾の一振りで木をなぎ倒したと書かれている。
 身体能力のみで勝負する魔王級でそれゆえに、これといった弱点もない。猫ならばまたたびに弱いのではと考え実行した者もいるが、良い気分で暴れさせて終わっただけだった。

「そんなのがいる場所にリジィを連れて行きたくはないんだけど」
「一緒にいるのっ。それにロド兄ちゃんのこと気になるし……」
「大丈夫と言い切ることはできませんが、連れて行ってもいいのではと思いますわ。戦いを指揮する人も、私たちのようなレベルの者を魔王級にぶつけようとは思わないでしょうし。せいぜい魔王級の周りいる魔物退治に使われるくらいだと」

 魔王級には強者をぶつかけないとなんの意味もない、というのは昔から言われていることだ。消耗目的で低レベルの挑戦者をぶつけたところで苦労なく一蹴されて終わる。
 先行した千以上の挑戦者や傭兵もそのほとんどが、取り巻き退治に使われるのだろう。

「だろうな。有名パーティーが行くんだからそれが妥当だろ」

 二人の言葉に納得し、セルシオはリジィの同行を認める。
 一度宿に戻って、セオドリアに魔王級討伐に参加することを告げて、街の入り口に向かう。臨時の馬車が無料で出ているとセオドリアが教えてくれたのだ。
 シーズンズ家の馬車よりも乗り心地の悪そうな馬車に、乗せられるだけ乗せて馬車は動き出す。
 リジィのような年若い者がいることで注目が集まるが、生まれた故郷の近くに魔王級がいて家族の安否を確かめにいくと話すと納得したようで注目は散った。
 歩くよりは早い、しかしシーズンズ家の馬車よりも遅い速度で、陣地に到着する。日数にして七日かかっている。ここからバッセムまで徒歩三時間といったところか。
 陣地の遠く先に、森が見える。そこに魔王級が潜んでいるらしい。

「やっと着いたぁ」

 馬車から降りたリジィがばてた様子を見せている。口に出さずとも皆似たようなものだった。乗り心地の悪い馬車での長時間移動だ、乗っているだけでも体力が削られた。
 解放感を体いっぱいに感じている彼らに、ダンジョン管理所職員と同じ服を着た者が大きな声で指示を出す。臨時の役所があるのでそこに行って名前などを登録しろということだ。
 職員の指差した方向へとぞろぞろと移動していく。
 歩いた先に大きなテントがあり、臨時役所という看板が上部にくっついていた。そこで名前とパーティーの平均レベルを登録する。
 平均レベルを聞くのは、それで休息場所を振り分けるとともに、連絡伝達を早くするためだ。同じ実力の者を一箇所に集めておいた方が、行動指示を出しやすいのだ。
 セルシオたちに割り当てられたのは、レベル100から130の者が集まる場所だ。
 魔王級討伐にはレオンも来ている。彼らの平均レベルは130を超えていたので、セルシオたちとは違う場所でテントを張っており、会うことはなかった。
 テント設営を三人に任せて、セルシオは職員を探し話しかける。村に行ってみてもいいか聞きたかったのだ。

「生まれ故郷の様子? この先にあるんだろう? 許可は出せないな」
「そこをなんとかお願いします。弟の様子を知りたいんです」
「それなら行かなくてもなんとかなると思うが。というより村にはいないだろ、避難しているだろうし。ここの陣地には近辺の者たちを給仕に雇っているから知り合いがいると思うぞ。そいつを探してみたらどうだ?」
「避難……そういえば危険な場所に居続けるわけないですよね。ありがとうございます、探してみます」
「みつかるといいな」

 職員に一礼して、周囲を見ながら歩き出す。
 そこらの小さな村よりも人は多く、この中から探し人を見つけようと思うと少々骨だ。小さく溜息を吐いて、探していく。そうして三十分を過ぎ、一度三人の元へ戻ろうかと思っていた時、運良くもしくは運悪く、知り合いを見つけることができた。
》個人的にはあの他の品物が何かの伏線なのかが気になりました
伏線というわけではないです、申し訳ない
無念、悔しさの集まりという感じですね。幽霊の範疇だと思います
漂い続けますし、今後も挑戦者たちを誘い続けます。自分たち縁の品が外に出せたという少し気晴らしを出来た者以外は。
きちんと確認できなくても、出たという満足感で成仏できる幽霊もいる、そんな感じでしょうか
少し集まりからいなくなっても、ダンジョンで死ぬ人はいなくなりませんし、日々新たに追加されてますからね

》「誰も知らない伝説」がいつから始まるかが楽しみです
ある意味始まっていますね。本格的にはまだまだですが

》成長していく妹と添い寝とか羨ましい
書いてる人も羨ましいです。セルシオは羨ましがられても首を傾げそうです

》無いからアカデミーなんでしょうが
興味が湧けば研究開発するんしょうが。やりたいようにやる人の集まりです、あそこは

》実用化は他の真面目な人が担当?
そのような認識でオーケーかと
ここ数年真面目側に立っていたトップは栄転してまったので、はっちゃける人が増えそうです
+注意+
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