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強盗見習い、ゴーレム使いに出会う(4)

 「わかりにくい、何がどうなってこの有様なのか、非っ常~にわかりにくい」

 転がっている手下達と鷹竜アドラードラッケンの屍をギロリと睨み、右手に持った杖で首筋をトントン叩きながらゲアリックが呻った。


 「ああ、先にこっちの事情をわかりやすく説明してやるべきだな。

 坊主を連れ帰るのを待ってるのもヒマなんで、前々から趣味でいじってたこの汽車を動かしてみたワケよ。

 で、今日の東行き列車の最終も行ったんで線路に入れてみたんだが、途中からガタピシいい始めてこのザマでなあ、まいったまいった」


 「わかりやすいご説明、ありがとうございます!」

 手下だった時のクセで、思わずアントンが答えてしまう。まあ悪党とはいえ、手下を決して理不尽には扱わない、筋目の通ったところがこの親分のいい点だ。もっとも、基準となる自分ルールにこだわりすぎるきらいはあるし、手下以外にとっては理不尽きわまりない男だが。


 「で……手下共がくたばってて、坊主とくだんの賞金稼ぎが仲良しっぽいのは何故なのか、わかりやすく答えやがれ、命令!」

 急にトーンの下がった声はビリビリ響く重低バリトン音。わかりやすい、わかりやすい怒気が伝わってくる。もっとも既にゴーレムは線路脇に座り込んだように停止しているので、これが生きていることには気づいてないようだが。


 パイリンはひるむことなく例の調子で、邪悪っぽく返答した。

 「クックックッ、青空の下で仲良く激しく4P乱交の結果、お前の手下のヘナチンどもは腎虚・アンド・ダ~イ。そしてただ一人ビンビンマッチョなこの小僧、オレが今夜もずっこんばっこん眠らせねえ、きっと明日の朝陽は黄色く見える」

 「なにい!坊主、てめえ何たるエロ事師っぷり……じゃねえ、なんちゅう悪い子になりやがったんだ!おじさんスゴくうらやましくて、ちょっと君をぷちコロしたいぞ!」

 「言ってる意味は全くわかんないけど、絶対さっきよりヒドくなってるよ!」

 あくまでもそっちの方向でボケたいのか、パイリンさん。弟子に対するセクハラが、ゴーレムマスターの基本教育方針だとでもいうのか?いや違う(反語)。


 「つうか、なんで竜までくたばっとるのだ?ひでえな、何をどうやれば、あんなにクタクタな死骸に……」

 流石にこの状況はおかしい、と気づいたゲアリックに対し、パイリンは実技をもって応えた。

 「こ~ゆ~わけだ!ヘルツマン!」

 叫びに応え、線路脇のゴーレムが突然動き、腕を振り回した!

 「おうわ!なんじゃこりゃあッ!」


 岩石ゴーレムのスピードが遅いのが幸い、危うく機関車から飛び降り逃れるゲアリック。巨大な岩の腕は機関車の運転席を吹き飛ばし、勢い余って砕けた腕の破片をまき散らしながら体ごとぶつかって、機関車を線路から横転させてしまった。

 「おおう、邪魔なポンコツをどけてくれて、鉄道会社の皆さんも大助かり……じゃねえよ!ゴーレム!生きてる岩石シュタインゴーレムじゃねえか!」

 流石はより上級の竜使い《ドラッケンハイマスター》、すぐに相手の正体に気がついた。


 「こいつ!ゴーレムマスター!!」

 「いやその台詞はさっき手下が言ってたし~。もっとオリジナリティを要求する」

 命のやりとりが再び始まった瞬間のはずだが、パイリンの態度はあいかわらずだ。

 「賞金稼ぎのくせに賞金首、その実態はゴーレムマスター……となると、読めたぜ!」


 パイリンの手配書にあった

” 賞金・一千万コーカ(ただし、生きて捕らえた場合に限る)”

の一文。ゲアリックは脳裏に浮かんだその一文だけから、瞬時に結論を導き出す。

 「中央教区の誰かが、てめえの技を欲しがってると見た!」

 「たぶん正解!賞品はてめえの首!もれなくオレ様にプレゼント!」

 「うわ、ヒドぉい」

 金のため技の鍛錬のため、相手が悪党とはいえ容赦なく殺る気まんまんのパイリンの鬼っぷりに、アントンはもうげんなり。しかし、十八年前の戦争で何があったのかを知らない彼には、ゲアリックの出した結論が何を意味しているのかわからなかった。


 しかし、パイリンのゴーレムがとんでもない技術の塊であり、それには間違いなく価値があるのだろうとは想像がついた。彼女がなるべくゴーレムを見せたがらなかった理由、彼女が懸念したとおり、何者かが狙っているのであろうということ……そしてどうやら、自分はこの技を学ぶ弟子として、共に危険の中に放り込まれたのだという事実……


 「でも、でもそれでも」

 強引に巻込まれたアントンではあったが、しかし彼はすっかりゴーレムの凄さに魅了されていた。動く原理も何もわかっちゃいないのだが、言えることはただ一つ、

 「カッコいい!」

 かつて竜使いに憧れ、強盗見習いを志願した時と同じなんじゃないか?それは。

 

 一方ゲアリックも完全にやる気、臨戦態勢、一触即発、覚悟完了のようである。

 「わざわざ生け捕りたあ面倒だが、手足の五本や六本、変な方向に曲がったりしても死にゃあしねえだろ」

 「こっちこそてめえの首を一ダースばかり、まとめてもぎとってやるぜ!」

 どんな体なんだよお前ら、とツッコミを入れる間もなく、ゲアリックがおもむろに手にした杖を地面に突き立て、曲がった柄の先の太くなっている部分をいじると、パカリと蓋が開き空洞になっているのが見えた。


 「エルヒェェェェェン!出ておいでぇぇぇぇッ!!」

 その穴に向かって叫ぶゲアリック。まるで船に付いている伝声管のようだ、とパイリンは思ったが、はたして実際、地中にいる何かに対する呼び声だったらしい。ほどなくビリビリと小さな地鳴りが聞こえ、こっちに近づいてきた。


 一瞬の静寂を挟んで、いきなりパイリンの斜め後方、線路脇にある別の元岩石ゴーレムの一つ、すなわち岩の小山が轟音と共に崩れ落ちた!!

 濛々たる砂煙、そしてそれを貫く水柱、続いて白く太く長い何かが伸び上がる!大きな地響きをあげて地に倒れたそれは、次にシュルシュルを弧を描いて伸び上がった。

 土竜エルデドラッケン!それは全長十五メートルを越える白蛇を思わせるモンスター!!


 しかし蛇のような爬虫類ではなく、他の竜族同様に卵生のほ乳類だ。退化した四肢は痕跡を留めるのみであるが、全身の甲殻は鱗ではなく、硬質化した外皮。継ぎ目には針のように固い体毛も見える。白く光って見えるのは、どうやら全身がぬらりと水に濡れているためのようだが……。


 「あれが親分の!初めて見た」

 「うわ、でっけえミミズ!」

 パイリンが失礼なことを言うので、ゲアリックは少しムッとした表情をしてみせる。もっとも、大半がマスクに隠れた彼の目元は、常に不機嫌そうなのでたいして変わりはしなかったのだが。

 「エルヒェン、そっちじゃないの、あっちの動いてる方をブッ壊すんだよぉ」

 最初と異なり、まるで子犬に話しかけるような裏声になったのが何かキモい。


 もっとも巨体に比べ、小さくつぶらな土竜の瞳……実のところ地中生物の常で、ほとんど視力は無いないのだが……は確かに子犬のそれを思わせる。土竜はキュイ~と高くいなないて、再び砂煙と共に姿を消した。


 「なんだありゃ!?水に潜るみたいにあっという間に消えちまったぞ?」

 たしかに異常な早さである。土竜の尖った鼻先は見るからに硬そうな外皮に覆われてはいたが、それで土を掘りおこしているわけでもないようだ。しかし竜の消えた跡の穴の周りは、濡れて光る泥が飛び散って見える……


 「水!そうか地下水か!!」

 そうだ、ロクに雨の降らないこのステップ砂漠で、それでもあちこちに緑が見えるのは、この地下を走る河や、洞窟に繋がった地中湖のおかげと聞く。その水が何故地表にまで噴き出している?

 だがそこまで考えたところで、地響きが足下を駆け抜けていった。ビリビリ伝わってくる振動が向かう先は……ゴーレム!

 「かわせ、ヘルツマン!!」


 だが重い動きのシュタインゴーレムの足下から激しい土煙が噴き上がり、飛び出してきた白い竜!シュルシュルと岩の体に絡みつき、鎌首をもたげ、尖り頭のゴーレムの頭部をしめつける。

 ゴーレムは長い腕を曲げ、不器用な手先で竜を掴み取ろうと試みるが、水と泥で濡れた体は、ヌルヌル滑って思うようにいかないようだ。

 「チィッ!しかしあいつは岩石の塊、巨大ミミズが締め付けたところでどうにかなるもんじゃ……」


 「ある!」

 台詞の最後を奪うようにゲアリックが叫ぶ。

 「忘れたか?ついさっき、一発であっちのガラクタゴーレムをブチ砕いたのを?それがどういうことか、今から見せてやるぜ!!わかりやすぅぅぅくッ!」

 ゲアリックの言葉に合わせるように、土竜エルデドラッケンが動いた。破裂するような音とともに、土竜の顔とゴーレムの顔の間に激しく水しぶきがとび散る。それはとてつもない高圧の水の刃、口から吹き出す細く光る噴流の剣は、ゴーレムの岩の肌を削り取り、たちまち泥の塊に換えてしまった!


 「このミミズ野郎!水撒き用のホースかお前はッ」

 土竜エルデドラッケンは体内に蓄えた水を口から高圧で吹き出すだけではない。長い体の各所からも吹き出させ、土を泥に変え、滑らかに土に潜り込む。また尻尾の先にある穴から地下水を汲み上げ続け、連続した放水さえできる、まるで生きた巨大ホースだ。


 まず最初に吹き付けられたゴーレムの尖り頭が二つに裂け、肩関節に当たる部分が中から吹き出した水に砕かれ、グラグラになった腕は泥流と共に抜け落ち、球状の下半身に被さった上半身のパーツは、派手にひび割れてバラバラと崩れ落ちていく。

 上半身と下半身の継ぎ目の部分に見えていた、例の「目玉」はよほど頑丈にできているのか健在、今やゴーレムは一つ目から短い脚だけが生えたような、奇妙な物体へと変貌してしまっていた。


 「うわ、すげえヘン!」

 いや師匠、そのリアクションはどうなの、とアントンは思ったのだが、あそこまでゴーレムを破壊されてこの余裕、いったいどんな手が残されているというのか?

 「どうよゴーレムマスター!古くさい岩のゴーレムの壊し方なんぞ、前の戦争の経験でとっくにわかっているんだぜ!」

 ゲアリックは得意満面、ゲラゲラ笑いながら筋肉を強調するキレッキレのポーズをきめ、勝利を宣言する。


 「確かに……古くさいゴーレムの壊し方としては大正解だがな」

 パイリンの声はあいかわらず挑発的、動揺のかけらも感じられない。

 「オレのゴーレムは第四世代型!イヤここでは『戦後第二世代』、というべきかな?

 その最新型の壊し方を知ってるのかい?ドラッケンマスター!!」


 「壊し方も何も、現にもうぶっ壊れてるじゃねえか!そんな目玉オバケみてえな状態で、何ができるってんだ!?」

 「壊れてる?……最新型のゴーレムは、壊したって壊れないぜ!!

 戻れ、ヘルツマン!」

 その言葉に応えるように、ゴーレムの目玉がくるりと反転し、次いで轟音をあげて砕け散った!巻き付いていた土竜エルデドラッケンはいきなり支えを失ってひっくり返り、キィキィと悲鳴をあげる。そして濛々たる土煙の中から、触手のようなものから切り離された「心臓ヘルツ」がパイリンめがけて落ちてきた。


 「心臓ヘルツ」とはゴーレムの中心核コア。鎧のゴーレムであるヘルツマンの胸部に貼り付き、四肢に神経策であると共に人工の筋肉を伸ばして操る、中心核コアたる制御ユニットである。


 所々にちぎれた根のような触手の跡を残した心臓を、パイリンは片手に持って観察している

 「う~ん、やっぱコアが翡翠程度じゃこれが限界かぁ。」

 三つの角の全てが丸いハート型である心臓ヘルツの中心、そこには時計仕掛けが今もまた、忙しなく動き続けている。しかしそのまた軸部に収まって輝いていた、丸く加工され磨き上げられた翡翠、いや翡翠だったものは既に色艶を失い、もはや何の価値も無い屑石へと変貌している。


 パイリンは無造作にそれをつまんで抜き出し、ポイと放り捨てた。

 「手に入れたばかりで勿体ねえが、こいつを作るには最低この程度じゃねえとな!行け!ヘルツマン!!」

 宝石商からいただいた、あの見本の紅玉ルビー。それを屑石の代わりにはめ込むと、時計仕掛けはますます忙しなく動きを早めた。そしてその心臓ヘルツを円盤投げよろしく、水平にクルクルと投げ飛ばした先にあるものは……

 横倒しになった、あのポンコツ機関車であった!


 「『呪文パスワード』!」

 心臓ヘルツから、また新たな触手が発生し、機関車のボイラーにへばり付く!

 「『ザームエル』!『テオドール』!『アントーン』!『ハインリッヒ』!『ルードヴィッヒ』!……『鋼鉄シュタール』!!『呼ばれし名の、新たな姿顕すべし』!!」」

 「『呪文パスワード確認チェック……承認クリア』」


 再びヘルツマンの声が応えて響く。となれば、次におこる事は……

 「作るのか、あれで、また、ゴーレムを!」

 アントンは理解した。パイリンのゴーレムは、心臓ヘルツさえ無事であれば、材料になるものさえあれば、何度でも作り直され、蘇るのだと!

 「わからん、実にわかりにくいぞ!何がおこっているのだッ!」

 岩石ゴーレムの誕生を見ていなかったゲアリックには、事態が把握できていない。


 THOOMズウウウム THOOMズウウウム THOOMズウウウム THOOMズウウウム THOOMズウウウム

 分厚い金属を叩くような響きが、まるで心臓の鼓動のようなペースに上がり始める。


 心臓ヘルツから再び伸びた無数の「蔦」は、あいかわらず一体どんな原理なのか、機関車全体に容易に浸透し、鉄のボディをウネウネと脈打たせている。そして機関車は飴細工のようにぐんにゃりと形を変え、ずんぐりしたボディと、たくましい四肢、鋼鉄のスパイクを生やし、あちこちに機関車の意匠を残したままの、巨大な鎧騎士を思わせるゴーレムに変貌!


 最後に胴体中心部に移動したボイラーの蓋ががガチャリと開き、またもあの巨大な目玉が姿を現す!そして各部から吹き出す蒸気と煙!!

 パイリンはその名を呼んだ!

 「シュタール!ゴォォォォォォレムッ!」


GOOOOOOOOOOMゴオオオオオオオオオオム!!


 霧と煙を突き破り、新たなゴーレムが顕現し立ち上がる!!

 ゲアリックも土竜エルデドラッケンも、蒸気を吹き上げる新たな鋼鉄の怪物の姿に、すっかり度肝を抜かれていた。

 「わッ!わかりやすい、わかりやすい説明を要求するッ!」

 「つまり、オレのゴーレムは壊せないってこった!」


 ズシン、と鋼鉄シュタールゴーレムが地響きをあげ、土竜エルデドラッケンめがけ一歩踏み出す。初めて見る種類の化け物の姿に戸惑いながらも、しかし竜は退くことなく鎌首を擡げ、威嚇の姿勢をとった。

 「さて親分さん、水の力で鋼鉄のゴーレムをどうやって砕いてみせる?錆びつくのを待ってやるほど気は長くねえぜ!」

 予想を超える敵の出現に一瞬うろたえながらも

 「鉄にこいつの水圧流は通用しないかもしれね~がな……」

 叫びつつゲアリックは二挺擲弾銃を抜き、竜と共にパイリンめがけ突撃をかける!

 「生身の『使いマスター』にはどうだろうな~ッ!」

 「それもさっき同じ事聞いたわ~ッ!!」


 岩石シュタインゴーレムより関節が多く人型に近い鋼鉄シュタールゴーレムは、やはり素早いとは言えないまでも、より滑らかな動きでゴロンと側転をきめ、パイリンと敵の間に割り込んだ!


 パイリンの眼前に迫った土竜からの高圧放水が、巨大な鉄球のようなゴーレムに当たり空しくはね飛ばされる。次にゴーレムの胸から生えていた、機関車の配管の名残と見えた部品がガチャガチャと起き上がり、それは肩から生えたものよりは、だいぶ細身の腕と化した。


 今や大小四本の腕を生やしたゴーレムは目前の竜の首を、細い方の腕の先についた半月状の爪でガッチリ挟み込む。締め上げられ、悲鳴をあげる土竜エルデドラッケンの胴めがけ、太い方の腕が振り上げられ、叩きつけられる!!


 右フック、左アッパー、左右ジャブ、そして左右同時にラビットパンチ!

 一方的な連打をあびて、さしもの土竜エルデドラッケンも苦しみ大暴れ。これだけで他の竜なら全身打撲に内臓破裂、死亡に至るダメージになるところだったが、幸い蛇のような体型の土竜エルデドラッケンは体をくねらせ打撃の力を半減させ、致命傷を免れた!


 そして暴れる竜の尻尾の巻き起こす土煙をかい潜り、散弾を込めた擲弾銃を発射しながらゲアリックが突進してきた!

 「もらった~ッ!!」

 もっとも擲弾銃は単発だし、散弾でも走りながらでは当たるもんじゃない。

 「手下と同じことばっかゆ~な~ッ!」


 パイリンもお返しに擲弾銃をゲアリックの足下にぶっ放そうとするが、こちらは詰めてあるのが擲弾のため近すぎて自分にも爆発にやられそうで、なかなか発射できない。

 そこで安全装置をかけなおし、銃床のカバーを外し銃身を握ると、それは見た目の通りの手斧となり、ゲアリックを打ちのめそうと振り回す。

 ゲアリックは長めの重身でそれを受け、もう一挺を振り降ろす。互いに銃を打撃武器に見立てた撃ち合いならぬ打ち合いが始まった。


 一方アントンは乱戦から抜け出し近くの岩陰に避難しながら、いや正確には子分より親分の台詞の方が「!」が一個多いから同じじゃないぞ、と心の中でどうでもいいことをツッコんだ。


 今や組み合ったまま押し合い状態のゴーレムと竜をほったらかしに、その足下で激しい白兵戦となった使い手たち。パイリンは右手の斧に加え左の篭手の刃も出して、クルクルと舞うようにゲアリックを攻め立てる。しかしゲアリックは銃身に付いた銃杷グリップを握りしめクルリと反転させ、トンファーよろしくこれを振り回し、攻撃をことごとく防いでしまった。


 素早さではパイリンの方が上であるが、筋力と持久力ではゲアリックが圧倒的、決定打を与えられずに続く打ち合いは、次第にゲアリック有利になっていく。

 「つえモンつええ!当然!必然!わかりやすぅぅぅぅいッ!!」

 やや息を切らせたパイリンは黙って斧を反転させ、つまりは擲弾銃の銃口をゲアリックに向けた。 「ハッタリだ!ここで撃ったらお前も爆発に巻き込まれるだろが!」

 「でも撃つんだな、これが」


 ポンッ!という独特の軽い銃声と共に、低初速で飛び出した擲弾は山なりの弾道でゲアリックの頭上を飛び越した。その先には……

 例の威力より音と煙が派手な弾丸は、組み合ったままの竜の尾に直撃した!

 予想外の一撃に驚いた土竜エルデドラッケンは激しく尻尾をバタつかせ、巨大な鞭の一撃と化したそれが、二人のマスターめがけて叩きつけられる!


 「ありえね~ッ!」

 驚愕する間もあらばこそ、ゲアリックは派手にふき飛ばされ、軽く二十メートルは飛行して、綺麗な放物線を描きながら落ちていった。

 一方のパイリンは背面跳びでこれを危うくかわし、転がりながら叫ぶ!

 「ヘルツマン!ブン回せ!!」

 GOOOOOOOOOOMゴオオオオオオオオオオム

 跳ね上がった竜の尾を巨腕で捕らえたゴーレムは、首を押さえた小腕をそのままに、竜をぐいぐい引っ張り、その体を伸ばし始めた。

 そしていきなり小腕での拘束を解除、竜の体はゴムのように勢いよく放たれて、巨腕の力も加わって激しく頭から地に叩きつけられた!


 それでもまだ動ける土竜エルデドラッケンであったが、このダメージで完全に戦意喪失、自らぶっ飛ばしてしまった使いマスターを放り出し、体内に残っていた水を吹き出しながら地中へと逃れていき、そして二度とその姿を現すことはなかった。


 ゲアリックの瞳孔は開ききり、呼吸は停止し、心臓は鼓動することを止めていた。

 というか、それを確かめる以前に首や手足が妙な方向に曲がっていたのだが。

 即ち、わかりやすく、くたばっていた。


 「元親分、ボクはがんばって生きていきますので、どうぞ安らかにお亡くなりになり続けていてください。さようなら、そしてちょっとありがとう」

 悪党とはいえ、つい数時間前までは仲間だった三人の最期に、多少なりともショックを受けたアントンではあったが、そこは辺境の無法地帯に生きる男の子。やけに割り切りが早いのを非難してはいけない。少年一人がこの地で生きると言うことは、倫理だの志だの信義だのよりも、妥協というものが必要なのである。


 「さよならじゃねえっつうの、賞金首を保安官事務所で換金しなきゃ、今日のおまんまがいただけねえでしょ~」

 悪党たちに対する認識が、先ほどまでの使いマスター同士としての好敵手、改め、引換券か手形、小切手みたいな扱いである。

 後に「生き物を殺したからには、きちんと食べて生きてる者の糧にしてやるのが、命に対する礼儀ってもんよ」と、パイリンは語る……ううむ、理にかなってるんだか、単にヒドい話なんだか。


 「ゆえに弟子よ、おっさんの屍三つ、なんとか運ぶ方法を考えれ」

三人合わせて二百五十キロはありそうな肉の塊、かといって首だけ切り取っていくのもやっぱキモいし~、とアントンはしばし悩んだが、とりあえず比較的近いはずの、強盗団のアジトまではゴーレムで運ぶことを提案した。

 そこまでならまず他の人間に出会うこともないだろうし、そこで何か道具か移動の手段が見つかるかもしれない。


 パイリンは同意し、ゴーレムに亡骸をまとめて巨腕の手に握らせ、自分とアントンを小腕に抱えさせるようにして、胸の前にある段差に腰掛け、移動を指示した。

 「でも師匠、賞金貰った後はどうするの?ゲアリック強盗団の支部が潰れたら、このへんにもう同業者はいないんだけど」

 「もちろん次の獲物を求めて他所に移動するのさっ!ここからなら北の山脈の森林地帯、盗賊谷のあたりが、名前の通りのいい狩り場と見た」


 かくして、極悪賞金稼ぎ兼ゴーレムマスターと、その弟子の旅が始まったのである。


……否も応もなく! (第1話・終)

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