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パイリン・ザ・ゴーレムマスター 作者:大滝よしえもん
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ゴーレムマスター師弟、新たなマスターに出会う(1)

 ゴーレムマスター見習いの少年は朝から忙しい。
というのも師匠たるゴーレムマスター・パイリンの命令で、新たな「心臓男ヘルツマン」の製作を命じられたからだ。

 *

 「心臓ヘルツ」とは、第三世代以降のゴーレムに使われている中枢ユニットである。
 特に最新の第四世代型にいたっては、素材となる物体と、魔力の発生源……いや正しくは何処の次元からか流れ込んでくる力を伝達する宝石さえあれば、その場で数十秒から数分という、信じがたいほどの短時間でゴーレムを作り上げてしまう、画期的なシステムだ。

 そして鎧の大男・ヘルツマンとは、いわば人間サイズの省エネルギー型簡易ゴーレムである。
 起動に必要な宝石自体に含まれる魔力消費を最小限に抑えるため、全身を覆う騎士の鎧を外骨格代わりに用い、素材を変形させる必要もない。力仕事を担当する下男として、また使いマスターを護衛するボディガードとしても、まことに使い勝手のいい従者となるのだ。

 *

 ところが見習いの彼、アントン・メッサーの師匠になったパイリン師匠は、本来いじる必要がないはずの、安く入手した中古鎧の加工を命じたのである。
 鍛冶屋の息子として幼い頃から金属加工を学び、その器用さが元いた強盗団でも認められていた彼にとって、板金加工程度は道具さえあれば造作もないのだが……また師匠手書きの図面の細かいこと細かいこと!こんな物いつ書いたのかは知らないが、職人としての知識と技を学んだ者の手による物だと一目でわかる出来だ。実際あの師匠は何かと紙一重だけど、職人として超一級なのは間違いない。

 しかし短時間に機関車すら加工する力があるのに、なんでわざわざ手作業で鎧の加工を?という弟子の質問に師匠が答えていわく、
 「少しでもヘルツで何かを加工させると、それだけ宝石の力を費やし稼動時間が減ってもったいない」とのこと。さらに
 「これはゴーレムの新しい使い方の実験のためでもあるから、一層奮励努力しないと激しく暴行、しかも性的に」
 「だから性的って何なの!」

 またしてもロクでもない脅迫……いや指示を受け、貞操とかいろいろ大ピンチなのである。もっともそこは先祖代々の鍛冶職の倅、職人気質はその血に受け継がれていた。いやいやながら鎧をトンカントンカン加工し始めるとじきに楽しくなってきて、いつの間にやら作業に没頭しているのであった。そんな事情で、ゴーレムマスター見習いはこの三日、朝から大忙しなのだ。

 一方、安宿の庭先で鎧を叩き始めた弟子を置いて、師匠たるパイリンは副業、即ち賞金稼ぎの獲物を探しに出かけていた。この街にしばしの休息を求めて今日で四日目、そろそろこの谷間の森の中にある街・ミッテルヴァルトハイムの保安官事務所を訪ね、本格的に賞金首の情報を集めようというわけだ。

 ちなみに彼らが泊まっている宿を含むこの街の建物は、殆どが巨木の幹の途中、地上十メートルほどにある太い枝の上に足場を組んで建てられている、まるで人間サイズの鳥の巣箱といった作り。アントンが仕事を始めた「庭」というのも、同じく丸太で作った台座であり、むしろテラスと呼ぶべき物である。谷間なので地上は雨期に灌水することもあって、宿場町全体が大木の枝の上にあり、それぞれを吊り橋で繋いだり、複数の大木を足場にした空中の広場のようなものまであった。

 *

 ここミッテルヴァルトハイムの別名は「盗賊谷」、正しくはラングラングファレイと呼ばれる、深い森に覆われた谷間の中心にある街である。
 大昔、ここは山脈を分断する大きな河が通る谷間であったのだが、いつしか水は地下を流れるようになり、かつて河だったところには草が生え木が生い茂り、それが長い年月をかけて林となり森となり、ついには今のような巨木だらけの細長い森林地帯となったのである。
 とはいえ、山脈の南北を繋ぐルートとしては、険しい山を越えるよりは平坦な森を抜ける方がはるかに楽、交易や旅人のための細い街道も造られ、中間点には宿屋の並ぶこの街もそのために生まれたものである。
 もっとも人と金の流れがあれば、それを狙う輩が集まってくるのもまた道理。さらには南北の土地で官憲や保安官、賞金稼ぎに追われた悪党達が逃れ潜むのに丁度良かったため、今のような「盗賊谷」の俗称が付けられてしまうほど、治安は宜しくない。

 *

 「たのもー!そして仕事ください!さもなくば不幸な誰かが今死にそう!わあッ大変!イシャはどこだッ!」
 あいかわらずパイリンの言語感覚はクレイジー、常時妙な電波でも受信してるようで、なおかつ無意味に物騒である。
 「なんなんだ!……ああッ!あんた一千万コーカの賞金首、白零パークレン!!」

 応対した保安官は、この前の列車強盗の時に遭遇したあの男。実はこの宿場町への帰還の途中、あの災難に遭遇したのである。
 「あんたこっちの保安官だったのか。このへんだと、そ~ゆ~読みになの、オレの名前って?イヤ、南のほうで呼ばれてる『白零パイリン』の方がキュートかつプリティにな響きにつき気に入ってるので、そっちを推奨、むしろ強制・オア・ダイ?」
 「んなこたどっちだって結構ですが、結局何のご用で?」

 ヴィルデグリュンの時もそうだったが、このあたりの保安官事務所の常で、命が惜しかったら大物賞金首には手を出さずに穏便にいこう、というチキンかつ懸命な対応である。
 「オレより悪い奴に会いに来た!悪い奴ウォンチュー!!ゲット・ア~ンド・換金ッ」
 「……言葉の意味はよくわからんですが、自ら賞金稼ぎとして、他の凶悪犯罪者を狩ってくださると、そうおっしゃる?」
 「うん、だいたいあってる」

 いちおう賞金首のくせに有能な賞金稼ぎ、というパイリンの噂は、この地でもよく知られている。というか、それを知ってないと何言ってるんだかサッパリだし。
 保安官は脳内算盤で素早く損得勘定の結果、いつものように悪党同士を噛み合わせるのが吉、と結論した。こんなこといちいち辺境保安官総合事務局に報告して、指示を仰ぐまでもないだろう、だって死にたくないし!

 「賞金額優先なら、ここより北の城塞都市に行った方が、裏社会を牛耳る大物狙いができるんだけどね……
 小物狙いでこの森深く、南北から追っ手を逃れて大人しく隠れ済んでる奴らとか。逃げるしかなかったような弱い奴らなんで、単価は低いけど数を捕らえて稼ぐとか。」

 保安官は釣りのアドバイスでもするかのように説明を続ける。
 「あとこの辺では例外的に手強い奴らだけど、街道を行き来する旅人や商人・役人を襲うゲアリック強盗団は高額。人数も使う竜も多いんで、全滅させればデカいよ、稼ぎ」
 「え、またゲアリック?強盗互助連絡会ってみんなゲアリック一家なのか?」
 「向こうのゲアリックに会ったことはないが、ここの互助会支部の頭もまたゲアリックって名前ですがね」

 アントンの元親分だったゲアリックの親戚だろうか?などとをパイリンが考えていると、後ろの方でドアの開く音がした。そちらに目をやった保安官が、入ってきた誰かに声をかけようとした刹那、その誰かが叫んだ。
 「いたっ!手配書の悪モノひとり、み~っけ、デス!」

 *

 美少女であった。
 サラサラしたロング、前髪をまっすぐに切りそろえたプラチナブロンド、なぜかハウスメイドみたいなヒラヒラのついたカチューシャ。革製の胸当てを除けば、全体にヒラヒラした白と紺のエプロンドレスみたいな服装。コロ付きのトランクを曳き、手には杖のようなものを握っているが、こんな辺境を旅する者にはとても見えないファッションである。細い手足と尖った耳、色素の薄い肌は森精系エルフォイドゆえか。
 あのゲアリック様がいたならこう表現するであろう、わかりやすい、記号的に実にわかりやすい美少女だ、と。

 もっとも、よくわからないのが少女の頭の周りにフワフワ浮いた、拳大の白い物体二つである。どちらも全体に丸っこく、腕の位置に小さな突起を持ち、下半身に脚はなく尻尾だけ、「白いオタマジャクシのぬいぐるみ」とでも形容すればいいのだろうか。
 よくよく観察してみると、どちらも小さな点のようなつぶらな瞳と二本の小さな角、しかし一方は兎口、も一方は鰐口と、そこだけ少し形が異なっている。

 そんなわけのわからない生き物?をフワフワ漂わせつつ、パイリンを指さし美少女は続けた。
 「悪モノご用!おとなしく捕まらないとぷちコロすデスよ、ひっさつのワザで」
 ということは、こう見えても賞金稼ぎなのだろうか、この娘も。
 でもこっちの娘もなんか変。パイリンだってパッと見、けっこう(動物的に)可愛いのにアレな人だし、こっちも中身が非情にアレな感じの悪寒。

 「エンジェラ!危ないから、こんな大物賞金首様に手を出すのはおやめなさい」
 保安官はこの娘の知り合いのようだ。エンジェラ……なるほど、天使エンジェルからとられた名前からして、ますますもってわかりやすい美少女である。ついでに声もベタな感じに可愛らしい、いわば美少女・オブ・ザ・美少女、ステレオタイプ美少女である……でもオツムの中身はどうだかな?

 「それにこの人の場合、生きたまま捕らえないとお金にならんよ、何故かは知らんけど」
 「え~っ、マジデスか?……う~ん、エッちゃん困惑~」
 自分自信を呼ぶ愛称らしきものが「エッちゃん」であると判明した!……いや、だからどうしたと言われても困るのだが。

 「では半分こにコロすデス。ビーちゃん!ボーちゃん!やっておしまい!!」
 何なんだろう?ビーちゃんボーちゃんというのは?……いや、声に合わせ白いフワフワたちが反応したので、おそらくこれらの名前なのだろう。というか生き物なの?こいつら。

 そいつらはしばしエンジェラの顔をじいっと見つめ、ちょっと(首もないのに)首をかしげるような仕草を見せて、またさっきのように彼女の頭の周りを漂い始めた。
 「わあん、いうこと聞きませんデスよ!エッちゃん衝撃~」
 いやお前はこんなのに攻撃担当させてるのか?

 パイリンも保安官も、すっかり脱力して見ているだけであったが、やがてパイリンがおもむろに、フワフワたち相手にキャンキャン騒いでるエンジェラの前に歩み寄った。
 そしていきなりビシリ、とエンジェラの眉間のあたりに縦チョップ。
 「きゅう」
 その直前の表情のまま、エンジェラはこてん、とひっくり返って機能を停止した。フワフワたちは、ちょっと慌てた感じに上空をクルクル回ってる。

 「何このユニークと言えば聞こえはいいが、なんかもういろいろアレな娘は?」
 オイオイ、お前がゆ~な、と保安官は無性にツッコみたかったがそこはグッとこらえた。だって死にたくないし。
 「先月この街に現れた、北の街から流れてきた賞金稼ぎのエンジェラ・ファウストとかいう娘。あんた同様に強盗団を狩りにきたらしいんですが、見ての通りでして」
 「いやそれ以前に、よくこんなのが旅して来れたな。ふつう逆に悪党にとっつかまって人身売買、奴隷調教エロエロ展開って感じだけど」
 「それが不思議、聞けば一人旅だったらしいし、この宿場に仲間がいるわけでもないんですがね」

 かといって、このなんかわからないフワフワ物体がどうにかしているとも思えないなあ、とパイリンは思い、ひよいと兎口の方の方を掴んでみた。
 意外にもそれはひんやりと冷たく、また表面はスベスベしている。軽く押してみるとプニュプニュしてるし、中身も均一に詰まっているようで、とても生き物とは思えない。にもかかわらず、くすぐったそうに身をよじってキィキィ小さな鳴き声をあげているのだからわからない。あっちの方のゲアリック様なら、わかりにくさに怒り狂いそうな程の正体不明っぷりである。

 「むう、かわいいといえばかわいい?いやキモかわいい?」
 もう一匹の鰐口の方は、兎口を助けようととでもしているのか、パイリンの耳にガズガジ食い付いている……のだが、歯のように見えるそれもプニュプニュで、全然痛くない。兎口も腕のような突起を伸ばし、ペチペチとチョップを加えてくるが、くすぐったいだけである。
 「いやこれ、召還獣にしても戦力的にゼロじゃね?」

 この世界とは違う世界、そこへの扉を開いて怪物を呼び寄せ使役する「召還術師サモナー」は伝説の世界の存在だ。遠い古代にはそういった「使いマスター」の先駆者が実在し、異世界もまた存在し、近い将来、科学的にも証明できるようになると言われているが……少なくとも現代では、それを目にした者は誰もいない。

 そしていったいどうしたもんかとパイリンが悩んでいると、突然熱風が、続いて轟音が、保安官事務所のドアを吹き飛ばし室内に飛び込んできた!! (続く)
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