地獄の用心棒・決闘銃砲市場(4)
抗争中の集団の一方の、押しかけ用心棒となったパイリン一行。そしてもう一方についたゲアリック一味、そしてそこに加勢する謎の美男子。彼らの一時休戦の間に祭りの準備は滞りなく完了、本日正午から開催、そして今夜は花火大会である。
しかしその数日の間にパイリンは、他の二人を宿に残し、何度かヘルツマンだけを連れてどこかに出かけていた。いったいどこで何をやっていたの?……どうせろくでもないことに決まってるって?そうですね!(同意)
「武器販組合の連中も約束通り大人しくしていてくれたし、無事祭が始まりましたな。今晩の花火大会、互助会で北東側城壁の見物席を独占してますから、一緒にいかがですか?」
鉄砲鍛冶職長ダコスタは呑気にもそんなことを口にするが、
「何言ってんの、ゲアリックが手紙で言ってたのは『祭の準備が終わるまでは抗争を自粛しよう』、なら今は祭当日だから抗争再開ってことだろが!」
パイリン師匠、完全に臨戦態勢である。
「しかしいくらなんでも祭の最中には」
「甘いっつうの!ここに来る直前『祭の準備中だし抗争は自粛中だろう』って話を聞いてたのに、来てみりゃ早速撃ち合いになってるし、現にオレたちも巻き込まれたからこうしてここにいるワケで!」
いやあんたはむしろ押しかけ参加じゃね?とダコスタ氏はツッコミたかったが、とりあえず我慢した。
実際、ゲアリックはリアリストである。油断を誘うため当面の約束は守ってみせ、しかしその後は時を選ばず奇襲をかけ、一気に職人互助会を制圧して武器販組合の条件をのませる気に違いない、とパイリンは考える。
「日中でも職人やその家族が警戒もせずバラバラに出て行ったら、連中に襲われ人質にされかねん」
不仲とはいえ同じ街の住人である武器販組合だけならそこまでやらないだろうが、実際抗争を請け負っているのは余所者であるゲアリック暴力団、手段を選ばないとしても不思議じゃない。
「なので互助会員とその家族はまとまって、なるべく敵が襲いにくい人目につく場所にいること。昼間だと動きが目立つし、そうすると本格的に仕掛けてくるのは夜の花火大会の最中と見た」
先日予想したように、闇と花火の爆音は、抗争の動きと音を目立たなくする。また花火を見上げていたら、周囲への警戒も緩くなるだろう。
「ゆえにオレ様、むしろこっちから仕掛けて一網打尽にしてやると決定、ナウ」
「エッ!なら互助会の者たちも……」
「いやオレたちだけでやるから助太刀は結構。むしろ囮役をたのむ、ってゆ~か命ずる」
ここの花火は不発の場合を想定し、安全のため北の外壁上の発射台からやや川の方に向け打ち上げられる。なので街を出て視界を遮る壁のない北側に回るか、城壁上に据えられた特等席からの見物となる。結果、
「互助会員と家族は、壁の上に特等席から花火見物するんだろ?」
こういった特等席には、街の有力者や打ち上げのための資金を出してくれた団体が優先して招待される。また花火屋は元はといえば武器販組合と職人互助会の仲間だったわけで、そのコネで今でも職人たちに席が確保されているのである。
「みんな一箇所に集まって、予定どおり城壁上で花火見物していればいいのさ。奴ら、そこを襲って職人の家族を人質に取って脅迫しようとか考えてそうだし」
ゲアリック一味は前日から表に姿をみせず、明らかに何かを準備中ではないかと、互助会の見張り役からの報告が入っている。一方、彼らに荒事を丸投げした武器販組合は、仕事を休みにして祭に参加しているという。
この状況からすると、パイリン一行対ゲアリック暴力団による、代理戦争となるのは避けられない模様。
「クックックッ、奴らが襲撃をかけようと集まったところでゴーレム出して一網打尽よな~。この前出しそびれた『城塞ゴーレム』、今夜が本邦初公開だぜ~」
その独り言を聞いたアントン、「ダメだこの人、街を新兵器の実験場にする気まんまんだよ、やっぱもうオシマイだ~」と青ざめ絶望する。
*
そして日中に開催された祭のイベントは無事終了し今は夕方、花火大会に備えて沢山の人々がゾロゾロと街の外に出て行き、彼らを相手に商売する露天商たちがそれに続いていく。
人々の移動がこの調子で続けば、外壁上の特等席に向かう一部の者たちを除き、花火大会の最中は街の中に殆ど誰もいない状態となりそうだ。
「クックックッ、邪魔な人間がいなくなれば思いっきり『区画整理』が行えるというワケよな~」
お前主人公じゃなくて絶対悪役だろ、と誰もがツッコミたくなるような凶悪な表情でパイリンが怪しいことを言う。
「何その区画整理って?」アントンが猛烈に嫌な予感に襲われながら質問すると
「ゲアリック一味をやっつけることを口実に、商売の邪魔になっている城壁やら中央の塔やらをゴーレムでキレイに片付けてやろうっての!」
やはりヒドいことを企んでいやがった!これまで彼が何度も感じた嫌な予感、完全に的中!!
「わあやっぱそうなるんだ~ッ!」まさか抗争に乗じて自ら街を壊すつもりだとは思わなかったが!
「実はあれから、花火屋のジモーネさんとこにまた、話を聞きに行っててな、いろんな問題解決のためには街を一度ブッ壊さにゃならん、という結論に達したのであ~る」」
組合と互助会の争い、伸び悩む経済、城塞都市の構造的な問題、その他諸々……強力なリーダーがおらず、様々な業者が日銭を稼ぐことしか考えていない今のこの街には、将来のため皆のためにと知恵や金を出す者がいない。管理組合は形だけの無能、このままでは動脈硬化的に街が廃れていくことになるであろう。
「まあ仮に地震とか大火事とかががおこって、街が壊滅的に壊れたとするじゃん?そうなれば今の状況を自ら壊して作り直すことをためらっていた奴らだって、流石に一致協力して街を再建するしかなくなるわな」
なんと言っても彼らは街の商売人である。復興という大きな「仕事」が生まれ、それによる金や物の流れを感じたら、街を捨てて出て行くようなことはせず、商売を再開し経済を回すために動き出すだろう。
「そこでこのオレ様が『街のみんなの共通の危機』ってやつで、新たなるマークトシュタット建設に市民が一致団結せざるを得ない状況を演出てさしあげようという、ありがた~いお話」
「ありがたいわけあるか~ッ!」
創造は破壊からしか生まれない……って、やろうとしてることが完全に悪の革命組織である!あんたやっぱりヒーローじゃないだろ、パイリン師匠。
「それにそんなことしたら、花火屋さんとこの工房も巻き沿いで壊れて大迷惑でしょうに」
「ジモーネさん、高い保険に入ってて焼け太りになるからむしろイケイケだったぞ。互助会員への特等席の振り分けとか、オレの策に都合いいように再調整してくれたしな」
噴進弾作りから花火への業種転換、いち早い損害保険への加入など「今まで通り」を良しとしない、この街きっての改革派なジモーネさん、このパイリンの過激かつ迷惑な大改革を「やっちまえ」と後押ししているらしい。
「てなわけで、企画・監督オレ様、脚本協力ジモーネさん、出演ゴーレムとゲアリック暴力団による、『喜劇城塞商店街ドタバタブチ壊し大会・ポロリもあるよ』、今晩上演です!」
「そんな喜劇があるか~ッ!あとポロリって何?!」
そしてそんなもん入る余地がどこにある?と地の文からもツッコミたい。
それまで側で二人の会話を黙って聞いていたエンジェラさん、
「なるほどそ~ゆ~わけデスか……つまり、エッちゃんには何だかよくわかんなかったデスよ!」ビシッと決断的発言(でも無意味)!
「うんうんそれは知ってるから黙っててね、馬鹿エルフ。計画が漏れないように、お前らには今の今まで話さなかったわけだしね」
そしてゴーレムを出すとなれば二人は特にやることも無い、むしろ近くに居ると戦いに巻き込まれる危険があるわけで。
「いえいえ解説とツッコミのお仕事があるのデス」いや地の文に反論しなくてもいいから。
*
そして花火の打ち上げが始まった……はたしてゲアリック強盗団改め暴力団、パイリンの思惑どおりに動くのか?
「よしお前ら、『花火見物の特等席を襲って職人の家族を人質にとって脅迫する作戦』始めるぞ!」
全くもって予想のまんまだ!いやまんますぎる!そしてこれからやることが、わかりやすいにも程がある素敵な作戦名をありがとう。いやゲアリックだけに「わかりやすい」のは当然か?
「どういたしまして」いやあんたも地の文に答えなくていいから。
そこに偵察のため先行していた部下が、ひどく焦った様子で帰ってきた。「おおお親分!大変です」
「互助会員の連中、聞いていたのとは違う特等席に移動してますぜ!まるっきり反対側の城壁の方です」
「何だとう~!……と言いつつ、こりゃあの兄さんの想定内ってやつだな」慌てることもなくゲアリックは語る。
「あの兄さん」とは、勿論謎の美男子・自称ゴーレムマスターのこと。ゲアリックの目論見を読んでいたパイリンのやることを、更に読んでいたというのか?
「と来たら、この場合のプランは……『最短距離である中央広場を突っ切って、反対側に進む』だとよ」
ゲアリック、何やらメモ帳、それもわざわざ紙を折って紐でとじて冊子状にした物を取り出して確認している。どうやらあの美男子が作った、状況に合わせて変化する、実行すべき事を指示した物のようで、ご丁寧にもフローチャート風に書かれている芸の細かさである。
「あの兄さんが、出かける直前にくれたやつですかい?」
「ああ、おかげでまだ全部読めてねえんだけどよ、まあここまで行動指定どおりに動いているが、ちゃんとそのとおりに進行してやがんのな」
「なんか作戦開始ギリギリまで情報収集が~、とか状況予想が~、とか何とか言ってましたな」
先日まで彼らの方でも、パイリンや互助会側の動きを探っていたのだが、その報告を元に美男子がまとめ上げた物だという。、
「パイリンのことについては世界一詳しいって言ってたが、まんざらハッタリでもねえってことかな」
しかしゲアリック一味、もうすっかりあの美男子を信用しているご様子。
「わかりやすい、あの兄さんの指示は実にわかりやすい。わかりやすいから信用できる、うちの強盗団本部に就職してくれねえかな?」
就職って……企業だったの、ゲアリック強盗団って?
「おう、『強盗法人(有)ゲアリック』が正式な会社名なんだぜ」いやだから地の文に答えなくていいから。
「それになんつうか、『カリスマ性』ってのがありますよね、あの兄さん。なんとなく『この人について行きたい』って思っちまったり」
「言葉遣いはヘンだけど、えらく教え上手ですよね。どこかで何かのリーダーでもやってたんですかね?」
などと美男子を評価する会話を続けながら、彼らはメモの指示どおり、誰もいない暗い広場を駆け抜ける。その途中でゲアリックが、花火の光を頼りにメモ帳の続きに目を通すと
「え~、『高い確率で、広場中央にパイリンが待ち伏せ中』……って何ィッ!!」
思わず急停止した馬車のように、激しく砂埃をたてて立ち止まるゲアリック。部下達も何事かと驚いて駆け寄ってくる。
「『この場合、旧辺境伯邸であった塔が、ゴーレムの素材として』……って何だよ!何言ってんだよこれはッ!」
大慌てのゲアリック、そしてその続きを読もうとしたところ、誰もいないと思っていた広場に女の声が響きわたった!
「呪文!」
広場中央の塔の下、正面入り口の辺りに人影、声はそこから聞こえている!
「『ツァカトゥリアス』!、『イーダ』!、『テオドーア』!、『アントーン』!、『ドーラ』!、『エーミール』!、『ルートヴィヒ』!、『ルートヴィヒ』!、『エーミール』!、『城塞』!!」
もちろんその声の主はパイリン!そして既にヘルツマンから取り外して貼り付けておいたと思しきゴーレムの心臓が、塔の中程の石造りの壁に光って見える!
「『数多の敵を防ぎし不落の壁ここに立ち上がり、鬼と変わりて前へと踏み出す』」
「呪文確認」詠唱に応え、心臓から急激に石壁を浸食し伸び広がる触手状のもの!「承認」
塔全体に広がったそれが、石作りの壁をまるでパズルのように入れ替え、上部に四つあった砲台のある塔が左右に分かれ、それぞれ一つづつが下向きに移動、ゴーレムの腕へと作り換える!
幾つかの円柱の組み合わせであった塔本体上部は重なって幅を増し、二本に別れた塔本体中部が下がっていき、一番太い塔本体下部は二つに割れて左右に広がり、塔本体中部をカバーする形となる!
そして胸に当たる部分の石に隙間が現れ、他のゴーレムでは顔にあった意志を感じさせる二つの「目」が、同時に顔に当たる部分からは、他のゴーレムでは胸に発生する巨大な「眼球」が出現!
「ツィタデル!ゴーレム!」
GOOOOOOOOOOM!
高さ三十メートを越える塔だった物は、今や組み合わされ組み替えられ、その姿を大きく変貌!全高十五メートル程度に縮んだ代わりに幅を増し、円筒の胴体から腕の生えた上半身、そこから直接生えた脚と、その上に被る長いスカート状の下半身を持つ魔像と化した!
「ゴッ!ゴーレム!本当にヤツはゴーレムマスター!!」
今までのゲアリックたちとは違い、事前に正体を知らされていたとはいえ、実際に目にしたゴーレムの、その迫力に狼狽するゲアリックとその部下たち。
「フハハハハ!聞いておどろけ見て失禁!オムツの替えは持ってきたかな、そこの坊やたち~ッ!」
ゴーレムへの変形中に巻き上がった砂埃が収まっていく中、例によってワケのわからないことを言いながらゴーレムの足下に姿を現すパイリン。
「いつもみたいにそっちに竜がいねえから物足りないが、『獅子は兎を狩るにもフルオートで全弾撃ち尽くす』ってゆ~しな、こっちはゴーレムを出させてもらったぜ」
いやそんなトンチキな諺は無い、と誰かがツッコミを入れる前に、巨大なゴーレムは地響きを立てて動きだした。
「おっ親分!次はどうしろって書いてあるんですかい、そのメモ!」
「ええっと……『広場中心から北上し、内側の城壁の出入り口を目指すこと』だってよ!」
ゲアリックが言い終えた瞬間、一味は指示を待つこともなく、内壁北側への全力疾走を開始した。
「お?バラバラにじゃなくて、そっちにまとまって逃げるの?ラッキー」
パイリンとしては最悪でも、高額賞金首であるゲアリック親分だけ追い捕らえられれば良く、また北側の壁に大穴をあけそこに通じる大通りを作るという、今後の都合と合わせて理想的な展開になってきた。
今までの物より二回りは大きいゴーレムは、ゆっくりと機械的な動きで、しかし確実にゲアリック一味に迫ってゆく。
高さの低い外壁上の花火の特等席からは、内壁が邪魔で見えないが、その震動が見物客たちにも伝わってきて、すわ地震か?と慌てさせる。
「おお、内壁の出入り口が見えた!次の指示は……『そこからは私が相手をしますパイリンの、皆さんは避難してくださいどこかに、ご苦労様でした』……ええッ?!」
そして!そこに響きわたるあの男の声!
「呪文!」
砲座のある城塞内壁の北側、その真下の門の辺りに人影、声はそこから聞こえている!
「『ツァカトゥリアス』!、『イーダ』!、『テオドーア』!、『アントーン』!、『ドーラ』!、『エーミール』!、『ルートヴィヒ』!、『ルートヴィヒ』!、『エーミール』!、『城塞』!!」
パイリンと全く同じ呪文を繰り返すその声の主は……あの美男子!やはりゴーレムの心臓が、城壁上の砲座の下に光って見える!
「『数多の敵を防ぎし不落の壁ここに立ち上がり、鬼と変わり前へと踏み出す』」
「呪文確認」再び詠唱に応え、心臓から急激に石壁を浸食し伸び広がる触手状のもの!「承認」
そして先ほど同様の変形を開始、城壁から抜け出すかのように出現する新たなゴーレム!パイリンの物と違い円柱状の塔ではなく平面的な壁から作ったが故か、その姿は直線的、多角形で構成された胴体を持っている。
「ゴッ!ゴーレム?!オレ以外にゴーレムマスターだとぅ!!」
自分以外のゴーレムマスターがこの地に存在したとは!今度は、驚愕し叫び声を上げるのはパイリンの方だった。しかも明らかに自分の物同様の最新式・心臓制御型第四世代ゴーレム。ということは……
「私は言います、久しぶりであると、マ……いや、『白零』」
パイリンのゴーレムに正対する新たに出現したゴーレム、その足下に立つのはもちろんあの美男子だ!
「おおッすげえ!あの兄さんのゴーレムが出たぞ!」
「なんてこった、完全にパイリンの動きを読んで待ち伏せていたんですぜ、あの人!」
「ええッ!この国で師匠以外にいたの、ゴーレムマスターが」
「エッちゃん動転~!」
驚き感心するゲアリック一味、そして様子を見ようと、パイリンの後からこっそり付いてきていたアントンとエンジェラ。
「グッ!グググググ!ググッ」喉に何か詰まらせたかのようなうめき声をあげたり、同時に顔が赤くなったり青くなったりするパイリン、そして彼女は叫んだ。
「グッ、グランドマスタアアアアアッ!」、と。(続く)