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パイリン・ザ・ゴーレムマスター 作者:大滝よしえもん
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地獄の用心棒・決闘銃砲市場(5)

 五十メートル程の間を開けて向かい合った、二体の城塞ツィタデルゴーレムの巨体が、打ち上げ花火の光に照らされる。
 その足下に立つ一人の少女は高位ハイマスター、そして次に現れた一人の青年こそは最高位グランドマスター!
 グランドマスター、それは軍隊で言えば元帥、企業グループで言えば会長、宗教で言えば法王、帝国で言えば皇帝、即ち組織の頂点にある者。
 そしてゴーレム・グランドマスター。戦時中、この地に居た最高位の者はゴーレム・ハイマスターであったから、更にその上の存在が初めて現れたということだ。

 「え~ッ!ってことは、自称位階第二位の師匠の、そのまた師匠マスター大師匠グランドマスター?!マジでいたの!脳内設定とかじゃなくて!」
 今の今まで妄想乙!とか思っていたのに、かつてパイリンが言っていた「女と見まごうばかりの美形」が現実に現れたせいで、アントンは大混乱である。
 「あッそうか、パイリンがナンバー2で兄さんがその上なら、グランドマスター以外ねえよなそれは……なるほどリーダーとして優秀なわけだわ」
 この数日で彼の手回しの良さや指導の上手さを知っているゲアリックたちは、すっかり納得。しかしそれに続くアントンの叫び声、
 「ああッ!するとあのお兄さんが……師匠の旦那さんってこと?!」

 「な、何ですとォ~ッ!!」ゲアリック一味とエンジェラ、声を揃えての大合唱。
 「パー子さんって結婚してたんデスか?!エッちゃん仰天~!」
 「ボクも初めて師匠に会った時に聞いたっきりなんですっかり忘れてたけど、確かそんなこと言ってたし!」
 「オイオイオイ、あいつ歳いくつなんだよ?!」とゲアリック。
 「今十八歳で、結婚したときは十六だって言ってましたけど」アントン、つい自分の上司だったシュテファン・ゲアリックの時と同じ調子で、この街のゲアリックにも返答してしまう。

 「十八年前、彼女が生後半年、私が十五、出会いました初めて二人が」
 大声で会話してるのが聞こえたらしい美男子から、聞いてないのに二人の馴れ初めに関する追加情報がもたらされた。
 「んん?十八たす十五ってことは今三十三歳?!オイオイ兄さん俺様より年上なんかい!」
 しかし見た目が若い、声は年相応の渋さだが、顔はどう見ても二十代前半だ。あとゲアリックの方は全然見た目で年齢がわからない、というか今まで出て来たゲアリックたちには年齢差があるはずなのに、区別つかないし。

 「私は思いました可愛いと、こちらにハイハイしてくる彼女を、屈託のない笑顔を」
 その時の光景を思い出してか、優しく遠くを見る目になる美男子、というか美形三十代。
 「そして私は求婚しました彼女に、まさにその時」
 「変態だ~ッ!!」初めて会った生後半年の赤ちゃんにプロポーズする男子中学生、ロリコンってレベルじゃねえぞ!優秀なのは間違いないが、その一方でいろいろアレな人みたい。
 「変態ゆ~なうちのダンナを!いや色々変わり者なのは認めるけど!あと結婚後の、あっちの方は相当にエロ魔人なのも否定できないッ!」
 それまで完全に固まっていたパイリンの叫び、夫に対してのフォロー……になってないぞ、特に後半。

 「ど、どうしてここに、コ……」と語りかけるパイリンを遮って
 「私は『北零ペーリン』」
 「ハイ?」何のこっちゃと首をかしげるパイリンに対し
 「私の名前はペーリンということです、あなたがパイリンであるならば、故に呼びなさいここの地では」
 と続ける、美男子改めペーリン師匠。どうやらパイリンというのは本名では無い様子、そして彼もそれに合わせた偽名を名乗るということか。

 「パー子さんの旦那さんでお師匠様、ってことはペー師匠?」またまたエンジェラさんによる独自のネーミングが行われた!
 「なんだよその呼び方!……ってアレ?」
 その瞬間パイリンはじめ、この場にいる全員の脳裏にモジャモジャ頭でピンクの服を着たオッサンと、ケラケラ笑うオバサンの映像が浮かんで消えたが、その理由は謎である。そして
 「ペー師匠……いいね!」そしてなんか本人は気に入っちゃったみたいだぞ、この呼び方!

 「私は来ました、お前を連れ戻しに」ペーリン師匠は語る「それは一年間、約束でした、修行と研究の期間は」
 「そッ、それはそうなんだけど、でも第四世代ゴーレムにはまだまだ研究と実戦データ収集の必要があるわけでぇ~」
 しどろもどろ気味ながら、パイリンは懸命に釈明する。
 「この前なんか、ついに鉱石エアツゴーレムの製造に成功したし!実際すげー高性能だったし!!」
 「ほう!素晴らしいですそれは。」端正だが表情に乏しい彼の顔が、この時明らかに喜びに輝いて見えた。
 「よく素材が見つかりましたね、私は楽しみです、話を聞くのが」どうやら妻の技術的な成果に対し、心から感心しているようだ。

 その反応にかなり気をよくしたパイリン、調子に乗って得意げに話を続ける。
 「第四世代の技術検証成功はそれだけじゃないし、その前は竜から動屍体ゾンビーゴーレム作って、竜相撲大会で優勝させたし!」
 と聞いた途端に無表情に戻って、より低いトーンで答えるペー師匠、
 「それはゴーレムマスター協会で違反行為になりました公式に、なので懲罰対象です。後で折檻を加えます……性的な」
 「ギャ~ス!!」以前パイリンが懸念していたとおりになってしまった!

 「性的?性的って何?!」
 パイリンがやたら使う性的云々って台詞は、夫からの影響なのか?ペー師匠、真面目な顔して相当なムッツリ助平の模様。
 「らめえ、超絶ハードなエロ折檻で今度こそ確実に妊娠すりゅう~」なんてヒドい台詞だ!
 「ボク子供だからよくわかんない!」「エッちゃん処女だからぜんぜんわかんない!」
 耳を塞いで聞かなかったことにするアントンとエンジェラ、親の前でエロいものを目撃してしまった子供の心境である。
 そして小説の対象年齢設定を変えなきゃならなくなるので、これ以上とばしたエロ台詞は勘弁してください、登場人物ども。

 「心臓ヘルツを解除しなさい、ゴーレムから、そして私と帰りましょう」
 そう語りかけ手を差し伸べるペーリン、あくまでも口調は静かに、眼差しは優しく。「……」だがしばしの沈黙の後、帰ってきた答えはこれだった。
 「おとととい来やがれッ!」
 誤植ではない、緊張しすぎてどもってしまい「と」が一個多いですよパイリン師匠!折角の決意表明が大無しである。

 「私は思います、ずいぶん遅いと、反抗期にしては」
 小首をかしげて少し呆れたように言うペーリン……パイリンの成長を見守り、ゴーレムの技を教え、夫として共に過ごし、その全てを知り尽くしている男。
 「あんたはいつだってナンバーワン、その教えを受けて育ったオレは、いつだってその下だった」
 下を向いたまま声を絞り出すように語るパイリン、やがて顔を上げ
 「弟子がその師を!息子が父を越えようとするのはッ!いつだって当然ってことよな~ッ!」

 「いやどっちかってゆ~と娘でしょ師匠は!」と、瞬時にアントンから変なツッコミ。
 どっちかと言わなくても娘だろ、と周りもツッコミ返すところであったが、ゴーレムマスター師弟としての二人の心は、むしろ父と息子の関係に近いのだろう。
 そして続くパイリンの叫び、これまで堪えてきた、張り裂けそうなまでにふくれあがった感情の、半泣きのような叫び。
 「あんたは育ててくれたお父さんで!ゴーレムの技を教えてくれた師匠で!今はダンナだけど!……倒すべき好敵手ライバル、一番の好敵手ライバルなんだからッ!」

 いつもの彼女とのあまりの空気の違いに驚いた全員の動きが止まり、暫しの静寂が訪れる。そしてペーリンの目には様々な感情の流れが現れ、そして最期に微笑みが浮かんだ。
 「私は思います……『その意気や良し』、と」
 「それはとても悲しい、しかしとてもとても嬉しいことであると」
 自ら鍛え上げた息子の覚悟を聞かされその成長を認めた父親のように、いや実際は娘だけど息子に対するように(くどい)。
 「ならば抗い逃れなさい、この場から、そのゴーレムで!」

 GOOOOOOOOOOMゴオオオオオオオオオオム!ペーリンの城塞ツィタデルゴーレムが腕を振り上げ、戦闘態勢に入った!
 GOOOOOOOOOOMゴオオオオオオオオオオム!パイリンの城塞ツィタデルゴーレムも腰だめに拳を構え、戦闘態勢に入った!
 「オイオイものすげえ夫婦喧嘩だな!近所迷惑ってレベルじゃねえぞ!!」
 もやはこの状況では、抗争のことなどすっかり忘れてしまっているゲアリック、そこに

 「私は希望します親分に、読むことを、メモ帳の最後の袋とじを開けて」ゴーレムの足下に居るペーリンからの指示が飛んだ。
 「ヘ?袋とじ??」何のこっちゃと行動指示の書かれたメモ帳を取り出すゲアリック。それは二つ折りにした紙を紐で束ねて冊子状にしているため、全てのページが袋とじでもあるのだが……
 最期のページをビリビリと切り開く開くと、そこには隠された行動指示が!城壁の松明の灯りでそれを一読したゲアリック、再び仰天した。
 「なぁッ?……あ、あんたそこまで考えて……なるほどな、こりゃ『潮時』ってやつかもしれねえしな」

 そしてペーリンのゴーレムが抜き出たことで出来あがった、内壁北側の大穴から外に向けて走り出すゲアリック。
 「お、親分!いったいどちらへ?!」「俺たちゃどーすれば宜しいんで?!」
 「ついて来いてめえらも!こっちはこっちでやることができた!!」
 なんだかサッパリわからないがドタドタと親分の後を追う手下たち。武器商人たちの抗争などほったらかしにしてやるほどの理由があるというのか。

 「お前らも離れろ!城塞ツィタデルゴーレムの戦いは……」アントンとエンジェラに警告するパイリン、
 「これは岩石シュタインゴーレムとは違います、材料が石、石造りの建物でも」その後を続けるペーリン。
 「これは武器を使えます、建物にあった……『ラケーテンヴェルファー』!」
 ペーリンのゴーレムが、振り上げていた腕を揃えて正面に降ろす。そして何の意味があるのか右、左と水平に腕を振り、最期に真正面に両手の指を向けた。

 「発射フォイア
 瞬間、ゴーレムの指先が激しく火を噴いた!二人のゴーレムの指に見える部分は、城壁や塔に備えられていた噴進弾発射器ロケットランチャーの砲身その物だったのだ!
 一見して古くさい先込め式の鋳造砲を、四本束ねたような外見の発射器であるが、実は砲身が二重構造になっている。
 普通の噴進弾発射器ロケットランチャーは後方に高熱のガス噴流を噴き出すため危険であり、発射時に射手は離れていなくてはならないが、この街の物は噴流を砲尾から二重になった隙間に配された管を経由させ、弾と共に砲口から噴き出させる構造なのだ。

 炎と共に激しく噴き出した白煙を突き破って飛び出す噴進ロケット弾、それらが加速する間もなくパイリンのゴーレムの胴体に全弾直撃!
 KABOOOMブゥゥゥム
 距離僅か五十メートル、落差を考慮した照準修正も無い、外しようのない零距離射撃!たちまち黄色と青の煙にに包まれ、砕かれた石材の破片がパラパラと地上に降り注ぐ。
 本来は白色である火薬の煙だが、砲台ごとに異なる染料を含む砲弾を使う事で、それぞれの着弾位置を一目瞭然にするための工夫である。パイリンが街に来る前に見た昼花火も、その技術の応用で作られている。

 その足下、濛々たる煙と降り注ぐ破片から逃れようと必死に走るパイリン。彼女に警告されるまでもなく、これまで何度も見たゴーレムとドラッケンの戦闘で危険を理解しているアントンとエンジェラは、とっくに離れた場所に逃げている。
 「容赦なさすぎだよ大師匠!相手は仮にも奥さんでしょ」いや仮じゃなくて本妻だけどな。
 「エッちゃん非難!これはなんとかチックバイオレンスとゆうものデス!女の子としてペー師匠に抗議するデス!」
 パイリンが聞いていたらドメスティックくらい覚えておけ馬鹿エルフ、とツッコむところであるが、もちろん今そんな余裕は無い。

 「あれで死ぬことなどありえません、私の育てたゴーレムマスターが」
 二人の声が聞こえたのか、しかし平静に、あくまでも平静に答えるペーリンの声。
 「遊びを入れる余裕はありませんよ、パイリン。見せなさい、今のお前の力を」
 それに応えるように、カラフルな煙の塊を切り裂くように現れる、パイリンのゴーレムの巨体!直撃を喰らった箇所がえぐられて各部に亀裂が見られるものの、それらは体表に留まり見た目ほどの損傷では無いようだ。
 「発射フォイア!」そして今度はパイリンのゴーレムの指先から放たれる炎と煙、高位ゴーレムマスター同士の激戦、ここに開始! (続く)
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