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パイリン・ザ・ゴーレムマスター 作者:大滝よしえもん
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地獄の用心棒・決闘銃砲市場(3)

 ゴーレムを倒しパイリンを捕らえると宣言する、謎の美男子ゴーレムマスター、マークトシュタットの街に現る!バァァァン(効果音)!

 パイリンとそのゴーレムの秘密を完全に知り、おそらくは同種の最新型ゴーレムを操るのであろう男。これまで戦ったドラッケンマスターたちとは全く異なる強敵になるのは間違いない!

 だがしかし、ゲアリック強盗団改め暴力団ゲアリック組が、彼の力を借りて攻勢に出ることは無かった……何故なら一晩あけた今現在、おごってもらった酒の飲み過ぎで全員ブッ倒れ中だからである!

 「フィンセントは駅に行きましたか歩いて?いいえ、彼は飛び立ちました巣から」
 お前はいったい何を言ってるんだ?フィンセントって誰?いや、これは例によって彼による国語教科書の例文の繰り返し、かつまた後半盛大に間違っているのである。
 「私は思います、残念であると、すぐに彼女に会えないことが」

 この美男子、昨晩はゲアリックたちと同じように酒をあおっていたのに、全く二日酔いの様子もなく、優雅に甘いものを口にしつつバーテンダーに煎れてもらったお茶など飲んでいる。よほど肝臓が強くアルコールを分解する力が強い体質なのだろう。

 「しかし幸いでもあります、結果として、これからの準備の必要があることから」
 「で、昨日の続きだけどよ……あんたがゴーレムを倒す代わりに、俺らに何をさせようってんだ?」
 団の部下たちは気分が悪く部屋に篭もったまま、いかにも酒に強そうな見た目のゲアリックまで相当に頭痛がひどいらしく、酒場のテーブルに突っ伏しこめかみの辺りをグリグリマッサージしながら、ボソボソと会話している。

 「私は尋ねます、あなたはどうするつもりですか、今回の『落としどころ』を?」
 相変わらず淡々と、渋い声で美男子が語りかける。
 「ハァ?何の話だ」はてさて「落としどころ」とは一体?
 「私たちは勝ちます抗争に、という仮定。そして商人は武器を作らせます職人に。しかしそれはうまくいきません、なぜなら職人には無いでしょう、『やる気』が」
 そりゃそうである、抗争に負け暴力に屈したあげくに無理矢理やらされる仕事、しかも品物の卸値も安い、そんなブラック業界で職人が真面目に銃を作るわけが無い。

 「それは売れないでしょう、買値を上げても、逆に職人の要求どおりに」
 「う~ん、まあそりゃ道理だわな、客への売値も上げないとならんから。内戦の最中なら上等な武器を作ったら作った分、高くても飛ぶように売れたもんだが、今は需要が無えしよ」
 実際最近売れているのは、軍隊で余剰になった物を整備再生した、利益率の低い安価な中古武器なのだ。いまどき新たに高性能な武器を作ったところで、それが高価で売れる状況では無いのである。

 「あなた方は稼げないでしょう裏家業で、今後、抗争に勝ったとしても」
 「俺らの財布となる奴らが不景気じゃあ、な」フムフム、と納得し、顔を上げたゲアリックは続ける。
 「勝っても負けても俺らの目論見どおりにはいかねえってことか……わかりやすい、兄さんの予想はスッキリわかりやすく筋が通ってる。話し方は変だけどな」

 「私の目的はパイリンだけ、です」含むように語る美男子。
 「……俺らがあいつに手を出さない代わりとして、兄さんが何かやってくれる、と、そう言いたい?」
 それを聞いた時、初めて美男子の表情が僅かに動いてほんのりと微笑んだように見え、そして語った。
 「私は提案します、今後の街の形と、あなた方の仕事を」



 一方のパイリン一行、一夜明けても銃砲職人相互援助会からは特に依頼も指示も無く、やることもないので宿屋で昼までゴロゴロしていたら、いきなり連絡員が尋ねてきた。
 なんでも流石に祭の準備の最後の追い込み時期でもあるし、街の迷惑なだけでなく互いに益も無いし、これが終わるまでは抗争を自粛しよう、その後ガチ勝負で夜露死苦ヨロシク、という内容の手紙をゲアリックの配下が持ってきたというのである。

 「ゲアリックのくせに何たる弱腰!あの野郎、金玉ついとんのかッ!」と憤るパイリン師匠。
 「いやむしろ親分らしいと思うなあ、悪党なりに合理的というか筋が通ってる人だから。」とアントン。
 「お前の親分だったゲアリックと、ここのゲアリックとは同族だけど別人だろが!」
 「でも今までも見た目だけでなく、性格とかもみんなソックリだったと思うデスよ、エッちゃん的には」
 「むう、エッちゃんのくせに何てまともな観察眼……言われてみれば全くそのとおり」

 と、なると、本当に祭までのあと三日は、互いに攻撃をしかけることは無いと考えてよさそうだ。
 「むしろオレがゲアリックだったら、祭の夜に闇と花火の爆音を利用して、ドサクサ紛れに仕掛けるところだな。それまではオレの方から勝手なこともできないし、とりあえずこの後は街に調べに出るか」
 「例えばどこで抗争すれば、街の人の迷惑になりにくいかとかですか?」とアントンが尋ねると、
 「どこでゴーレムを造って、どう暴れさせ、どうブッ壊すかとかだな」ヒドい答えが返ってきた!
 「結局そうなるんですかい!やっぱこの街もオシマイですかいいッ!」



 「いやウチらはどっちかに荷担する気なんざサラサラ無いから、誘っても無駄だから」
 ここは正門とは中央広場を挟んで反対方向、マークトシュタット北側の外壁と内壁の間にある、ゴミゴミした花火職人たちの長屋兼工房。街の東側に集まっている鉄砲職人たちと西側に集まっている武器商人たちの居住区の、ちょうど中間に位置している。

 「だいたい今時、出来が良くても高い値段の銃なんざ売れないってのにさ。あいつらもあたしらみたいに、作って売る物を変えるべきなんだよね。精密加工のいる鍛造削り出し部品とか、ここの職人なら良い物ができるだろうに」
 パイリン一行を前にそう語っているのは花火職人会の代表、ジモーネ・ヨラという名の中年女性。彼女は昨年亡くなった職人頭の娘であり、内戦後の花火製造を推し進めてきた張本人でもある。

 パイリン師匠、事前に聞いていたその話が気になって、現状どんなもんかと、直接話を聞きにやって来たというわけだ。
 で、詳しく聞いてみると、噴進弾ロケットから花火造りになったのは、パイリンは武器制限条約とその回避のためだろうと予想していたのだが、実は戦後の需要の変化を考えた、職人による自主的な業種転換だったということだ。

 そして対立中の銃職人たちと武器商人たちは互いに花火職人=かつての噴進弾ロケット職人を己の陣営に引き入れようとしきりに誘っている……こちらはパイリンがこの街に来る直前に、輸送隊の親父に聞いた話のとおり。
 街中の抗争で噴進弾ロケットをぶっ放すわけにもいかないから戦力としてではなく、業種転換が上手くいき他所にも商品が売れて金まわりの良い彼らを身内に欲しい、というのが両陣営の本音だろう。

 「む~、利益率が低いせいで、品物が売れてるように見えて実は景気良くないのな、この街の武器業界って。用心棒代ちゃんと出るのか心配になってきた」
 「ねえ師匠、これじゃ抗争に荷担して勝ったとしても、下手すると赤字ってことにならない?」アントンの考えは、奇しくもあの美男子と共通する。
 もっとも彼としては、パイリンがゴーレムを投入することで、例によって例の如くひどいことになるのが心配なのである。自分からゴーレムを見せておいて目撃者全員ぬっ殺す、とかまた言いそうだし。

 「逆に何か壊した分請求されそうだし、指名手配の罪状は増えそうだし、食べ物の恨みごときでゴーレム出すのは止めましょうよ」
 「ごときとは何かごときとは貴様~ッ!偉大なるごはん様に謝罪せよッ、討たずにおれないその仇!」例によって言ってる意味がよくわからない!
 「エッちゃん的にはあの後おいしいごはんがいただけたので、もうど~でもい~ぃデ~ス」とまた、本日も寝ぼけた調子のエンジェラ。
 「どこまでシンプルな脳味噌なんだ馬鹿エルフ!こいつただ飯食らって一日経ったらすっかり怒りが収まってやがる!」

 「エッちゃんさんはどうかそのままでいてください、とても好ましいです」なんだか優しい瞳でそう語るアントン。
 お馬鹿ちゃんでもいい、素直に育って欲しい。師匠みたいにひねくれちゃうよりはなんぼかマシだよね、とつい思ってしまうが、勿論口には出さない。

 「エッちゃん承諾~、そのままでいるデス」キラキラした真っ直ぐな瞳で嬉しそうに答えるエンジェラ、何の疑いも抱いてないぞ、こいつ。
 頭の両脇に浮かんだ死霊のエクトプラズムたちもあいかわらず、その本性である凶悪さなど微塵も感じさせない、ぬいぐるみのような容姿で漂っている。
 エンジェラの霊気を吸ってこの世に止まっているこいつらの外見は、彼女の感情に敏感に反応し変化する。なのでこののほほんとした状態は、エンジェラの脳内お花畑指数MAXを意味するのだ。

 そんな彼女を見ていたら、流石のパイリンも怒りを維持するのが馬鹿馬鹿しくなってきたようだ。
 「あ~あ、なんとか儲かる方に持っていけねえかな~(オレが)……だいたいこの街、ぐるっと回ってみたけどちょっとどころじゃないくらいにゴチャゴチャしてね?商売の街なのにやりにくいだろ」
 「そうそう、他所から来た人によく言われるんだわそれ、売り上げが頭打ちになってる一因だよね」
 ジモーネさんによると、それはこの街が城塞都市を元にしており、それが無計画に商業都市化してしまったせいだという。

 「昔はそれで良かったんだわ、ご領主もいたし、戦時中は城壁が外敵から守ってくれていたんだしね。でも自由市場が大きくなって、縄張りを明確にしないままそれぞれ勝手に工房や店を建てまくったもんで、道が狭くて曲がりくねってるわけで」
 このため朝など、他所から入荷した商品の移動で大混雑、大型の荷車が通れない箇所も多く渋滞を引き起こし、実に効率が悪いのである。
 「今じゃ城壁、特に内側のやつはかえって邪魔な存在だし、外側のも大きい出入り口は正門しか無いしね。桟橋のある大河は街のこっち側なのに小さな通用口しかないから、結局ぐるっと正面に回らにゃならないし」

 同じ元城塞都市ではあるが、ツィタデルブルクには東西南北それぞれにに頑丈な大門があった。これは駐留する騎士団があらゆる方向から速やかに出撃できるように造られたものであり、部隊が整列するための大通りが修道騎士団の建物を中心とした十字路になっていた。
 その後居着くようになった交易商たちも、既製の建物をそのまま使い無理に増築などしていないし、雑多な露天商などは全て城壁の外に追いやられていた。思えばここと違って交通の便の良い作りの街であったなあ、とパイリンは回想する。

 「じゃあさ、壁壊して新しい門を作ったり、区画整理するとかやらねえの?」
 守りの象徴たる噴進弾ロケット発射器ランチャーもあるし、戦争が終わり敵軍の襲来を心配することもないのだし、少しばかり街の風通しを良くすべきだろう、というのは住民の共通認識でもある。しかし、
 「城壁は丈夫に作られすぎで、壊すのだけでも金も手間もかかりすぎなんだよ。区画整理の方はいろんな業種が手前勝手な事ばかり言っていて、十何年間サッパリ進んでないし、むしろ酷くなってるし」

 これが城下町だった頃であれば、領主の一声で成し遂げられる事業だったのだろう。しかし人口も業種も増えすぎてしまった現在では、景気の低迷もあって積極的に金を出して主導する者もいないのである。
 ちょうど側の壁に貼ってあった、大きな街の地図を見ながらパイリンは頭を捻り、
 「必要なのは出入りが容易な門造りと、大通りのための区画整理か……やっぱ第一にこの北側に大門だよな、あと桟橋直通の道も整備な」

 抗争に備えて調べに来ていたのが、いつのまにか話は街作りに。どうやらパイリン師匠、新しく何か思いついたようである。
 「あとこの工房の場所ってかなりヤバくね?万が一にでも火事出したら周りに延焼しやすい位置じゃん」

 なにせ黒色火薬は化学的に不安定、しっかり管理しないと実に危険なのである。しかし(この世界でも後に発明されることとなる)褐色火薬や無煙火薬は花火には不適であり、こればかりは変えるわけにはいかないのだ。
 「そうなんだよね~、わかっちゃいるけど他に空きが無いからどうにもできずここにいるわけで、昔からとにかく火の用心を徹底してるんだけどね」

 更には万が一に備え、この国でも戦後本格的に始まった損害保険に加入して賭け金を納めているという。職人の管理者としてのジモーネさん、なかなか有能なようだ……が、しかしそれを聞いて
 「ふうん、なら仮に抗争のまきぞえで吹っ飛んでも、損害は補填されるのな」怪しい笑みをうかべるパイリン!
 何かヤバい手を考えてる臭いがプンプンするぜ!側で話を聞いているアントン、もう完全に嫌な予感しかしない。

 「それとこの広場の真ん中の塔、元辺境伯の屋敷だったっけ?今使ってるの?」
 「暫く前まで街の管理組合が入ってたけど、今は仮事務所に引っ越し中。古い建物だから補修工事が必要なんだけど、これまた作りが凝りすぎていて予算を喰ってしまって、作業が進まないのよね。
 砲台も幾つかあるんだけど、花火の打ち上げはそこのじゃなくて川の側、つまり北側城壁上砲台の発射器ランチャーでやるから、うちらとしてはどうでもいい建物だけどさ」
 「なるほど、これもいっそなくしちゃった方が良さそうだな」

 どうやら抗争を利用した本格的な街の大改造という陰謀を巡らし始めたらしい、パイリン師匠。
 それとは別に新たな街の形を目指しているらしい、謎の美青年。
 それぞれがこの街の状況をどうにか変えてやろう、という結論に達したようである……ただし、共にかなり荒っぽい手段で!さすがゴーレムマスター、発想が良く似ているこの二人、マジ危険。
 そしてこれにより状況は、この城塞都市崩壊へとまた一歩前進してしまったのである!……「わああッ!やっぱそうなるんだッ!」 (続く)
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