ゴーレムマスター vs 自称義賊 vs 多頭亜竜(6)
新たなる多頭亜竜六体、大型で「首」が六本の奴、先ほどと同じサイズの四本の奴、小型で二本だけの奴、合わせて二十四の「頭」がゴーレムの方に向き、その単眼の紫の光の輝きが、見つめていられないほどに極まった瞬間、
BEEEEEEEEEEEEM!!
怪光線?!謎の怪光線としか言いようの無い光の束が、その「単眼」から一斉に放たれた!
「おかしい!ビームとか絶対におかしい!」光線が放たれる直前の「溜め」、攻撃の前兆に気付いたパイリンは一瞬速くゴーレムに回避を指示、ギリギリで全ての光線を躱した。
「絶対こいつら自然に生まれた生物じゃね~だろ!カイジュー?怪獣なの?」だから世界観をブチ壊すような単語を出すんじゃねえ。
しかしパイリンの言うこともご尤も、超自然の存在であり神と崇められる大空龍様はおいといて、この多頭亜竜、いくらなんでも地の竜とは世界観の違う化け物すぎる。
ゴーレムに回避された光線は背後の岩壁をえぐり、砕き、破片と砂埃を巻き上げる!しかし一方、巨大水晶に当たった光線は、透過したり屈曲したりして受け流されているのが見える。
「なんだ、光線だけに半透明の物に対しては威力が無いのか?」とパイリンが思った矢先、大型多頭亜竜からの六本の光線を集中して浴びた水晶柱が、ピシリを音をたて二つに割れるのが見えた。
「イヤ、威力のある光線を一定時間……今ので三秒くらいか?浴びると水晶のゴーレムでも破壊されるってことか。しかしこれ、どっかで感じたことがあるエネルギーの流れなんだよな~」
動きを止めて光線の集中射撃を浴びたら最後、いくらチートな戦闘力の鉱石ゴーレムであっても、破壊は免れないということだ。
「お前ら全力で地上にダッシュ!今回は相当ヤバいことになる予感」
回避を続けながら仲間の三人に警告するパイリン。もっともそれを聞く者は既にこの場にはいなかった。怪光線が飛び交い始めた段階で、三人はパイリンをほったらかして全力で逃げに入っていたのである。
「お先に失礼します!」「エッちゃん脱出~!」「ハ~ッハッハッハッ、あとヨロシク!」
お前らちゃっかりしてるな、というかこの場合、全く懸命な判断であるし、別に責めはしないが。
「そもそもあの光線の正体は何だ?いったいどんな器官があれば生き物があんなの発射できるんだ」
パイリンの疑問ますますご尤も、電撃であれば発電細胞で説明できるが、生身の生物が破壊力のあるエネルギーを束にして放つなど、どう考えても説明がつかない。
「あれ光線じゃなくて実は『気』とか?『カ~メ~ハ~メ~ハ~!』とか『ハド~ケン!』とか?」……すっかり世界観がブチ壊しだから少し黙ってろ主人公。
そこにチョコチョコと接近してきたのは、小さめの「首」二本の多頭亜竜の一匹。回避できない程の近距離から光線を浴びせてきたのだが、大型のに比べ威力が足りないので、かまわず飛びかかってきたゴーレムに捕まってしまった。
「てめえこの面白生物!中身はどうなってやがるんだ!」
二つの「首」をゴーレムに掴まれ持ち上げられて盾にされた小型亜竜、しかし他の五匹は全く意に介さず怪光線を放ってきた!
「うわあ非人道的!」
いやだからは多頭亜竜は人じゃないし。破損が発生する程の光線を受ける前にゴーレムを飛び退かせたパイリンだったが、しかしモロに仲間の光線を浴びた小型亜竜は哀れにも破裂、地面に四散してしまった。
いや待て、見よ、散らばったのは肉片だけではない!破裂した内臓から溢れ出たキラキラ光るそれは、紫水晶の破片ではないか!
「水晶?こいつら水晶を飲み込んでいるのか?!」
まさか鉱物が食料なのか?そういえば光線も「眼」の輝きも、ここの水晶と同じ紫色じゃないか?
「光線のエネルギーは多頭亜竜が作ってるんじゃない!」パイリンの頭の中で突然の閃き、意外すぎるその事実に気づき、思わず大声で叫ぶ。
「こいつはこのゴーレムと同じだ!『何か』のいる異世界から送り込まれてくるエネルギーじゃないか!」
なんということか!多頭亜竜はゴーレムマスターと同じ事、即ち宝石を通じての異世界からのエネルギー転送をやっていたのだ!知性があるとはとても思えないこの生物、まさか本能だけでこんな魔法めいたことをやってのけたとでもいうのか?
そして光線の形で放たれた同じ種類のエネルギーが、放った元と同じ伝達物質である水晶に命中した場合、短時間であれば透過するところが、大威力の光線を集中して浴びせられ続けると、エネルギーのオーバーロードによって破壊される、という理屈なのだろう。
「どうりで馴染みがあるわけだよ!今オレが使ってるこれと同じってことじゃん!ますますこいつは自然に生まれた生物のやってることとは思えんぞ!」
「だがしかし」
その一方でパイリンの脳内に新たな閃き!
「お前ら如きにできるってことは、オレにもできるって事よな~ッ!」
突然鉱石ゴーレムが拳法使いのように腕を振り上げ、華麗に演舞のような動きを決め、多頭亜竜たちに向け、指さしポーズでビシィッ!
「謎エネルギー充填120%!増幅後右手指先に集中、限界まで圧縮し放出!」
紫色の光の塊が幾つも、、半透明のゴーレムの体内を跳ね回るのが見える。そしてそれは指先に集中し、一塊となって激しく輝き始める!
「増幅光!Gビィィィィィム!」
右の指先から放たれる細い、しかし濃密な輝きの怪光線!もう一匹の小型亜竜を直撃、先ほど以上に派手に爆発四散させる!
「新必殺技、ぶっつけ本番で完成!流石オレ様ハイマスター位階序列第二位、咄嗟の判断も見事すぎよな~」
またまたご満悦のパイリン師匠、
「情け無用ファイヤー!」
多頭亜竜の反撃を、クルクルと回り踊るようなアクションで躱しつつ、所々で指さしポーズを決めて発射!反撃の怪光線を鈍重な多頭亜竜たちは躱すことができず、次々に穴をあけられ爆発四散していく!
「てめえら良いヒントを与えてくださいましてありがとう!お礼に安らかな眠りをプレゼント!永遠に!」
残った最後の大型亜竜が、両手指からの乱れ撃ち光線で蜂の巣と化し、大爆発をおこして消え去った。
飛び散る肉片と岩壁と水晶の欠片、それが収まった洞窟の中でただ一つ、立っているものは鉱石ゴーレムのみ。
「いや~、一時はどうなるかと思ったが、流石オレ様圧勝だったわ。どれ、水晶柱の一本もお持ち帰りするかな」
パイリンは丁度良い具合に折れて落ちていた柱の一本をゴーレムに掴ませ、来た時とは逆方向、水晶の洞窟の奥へとゴーレムの足を進めた。
「あの鉄柵付きトンネルは狭すぎて通れないが、奥から月の光が漏れ風が吹いてくるってことは、どこかに地上に抜ける穴があるってことだよな」
この鉱山の裏側は広大な森林地帯。非常に密度が高く、しかも売り物になる種類の樹木が見られない植生のため、奥の方は全く人が足を踏み入れていないと聞く。おそらくはそのどこかの地面が陥没し、洞窟から地上への穴ができているのだろう。
「ゴーレムがそのまま出られるサイズの穴があればいいんだが、自分で歩いては帰れないしなあ」
などと考えていたパイリンだったが、間もなく洞窟は広間のようになった行き止まりに達し、その天井が予想通りに崩れ大穴があいているのを確認した。
「ラッキー!他のゴーレムならまだしも、鉱石ゴーレムのジャンプ力なら、崩れた岩を足場にして外に出られるぜ」
と思った矢先……ズルッ、ズルズルッ……音が、また新しい何かが這いずる音が周りから聞こえてきた。
「オイ待て、しつこく嫌な状況カミングスーン!」
三たび反射する月明かりの光と影の中に姿を現したのは……もちろん新たなる多頭亜竜、その数今度は十二体!!
「また天丼ネタかよ!しつこいっつうの!!飽きるっつうの!!!」
もちろん多頭亜竜たちにそんな思考はできない。この広間のような行き止まりは彼らの巣であり、水晶柱の陰で眠っていた残りの奴らが目覚めただけのことだ。
そして再び、しかし今度は先ほどの倍の数の怪光線がゴーレムを狙う!天井の穴から逃れようにも、途中で下から狙い撃ちにされるのは明白である。
襲い来るさっきの二倍の光線に対し、二倍に早回ししたような機動で躱しまくるパイリン、しかし
「グワ~目眩!クルクル回りすぎて気持ち悪ぅ~い」
いつものより機動性が高すぎる程の鉱石ゴーレム、乗っている人間の方が先に耐えられなくなってきた。
ゴーレムも先ほどのように光線を撃ち返すのだが、この広間の水晶柱の密度が先ほどより高く、多頭亜竜どもはその陰に体を隠し、「首」だけ出して撃ってくるのでなかなか倒せない。
「ギャ~もう一々狙うのめんどくせえ!」
とうとうキレてしまったパイリン、次の手段は?
「ヘルツマン!外部からエネルギー補給、十二箇所同時!」
GOOOOOOOOOOM!!
応えたゴーレムの体から、周囲の水晶柱めがけ、十二本の「触手」が放たれる!そして水晶内に浸透したそれぞれに「触手」を通じ、異世界からの謎エネルギーがゴーレムに向かって注ぎ込まれる。いきなり十二倍のエネルギー注入、何たる荒技か!
動きの止まったゴーレムめがけ、怪光線を集中する多頭亜竜たち、しかし、膨大なエネルギーを得たゴーレムの正面に力場障壁が発生、全て弾き返す!
「エネルギーさえあれば何でもありじゃい!最高にチートなゴーレムなめんなよ!」
そしてゴーレムが両の掌を合わせ多頭亜竜たちに向け、人差し指だけを伸ばし拳銃のように構えた!
「謎エネルギー充填1200%!ンゴオレム!ンビィィィィィィィィム!!」
合わせた両手から伸びる、極太かつこれまで以上に光り輝く怪光線!そしてそれを力任せに振り回すゴーレム!
膨大なエネルギーの流れに飲まれた瞬間、為す術もなくはじけ飛んで消滅する多頭亜竜たち。岩壁は勿論、水晶柱がまで粉々に砕けて飛び散っていく、ケタの違うエネルギー量だ!
これを放っているゴーレムの方もただでは済まない、体のあちこちにクラックが発生、全方位に光が飛び出し、洞窟の大破壊を更に進めていく。
「ヒャッハー!もうムチャクチャ!みんな吹き飛べ~ッ!」
完全にブチ切れてヤケクソのパイリン師匠、ヤバい、今回は彼女の予想どおり、本当にヤバいことになっている!
光線、というより光の柱とでも形容すべきそれは、多頭亜竜たちを一掃し水晶柱を砕ききってなおも噴出し続け、とうとう洞窟の天井や壁を貫通、鉱山の中をも突き抜け、山の外まで飛び出した!
「何なんだ、あれは!」
電撃竜に乗り警戒中だった教団騎士は、突然山肌を突き破って空に飛び出した光の柱を見て驚愕。さらに光は山を切り裂くように走り、同時に大量の岩石と砕けた水晶を噴き出させる!
上空の彼らにまで飛んでくるその勢いに、たまらず電撃竜に退避行動を命じる教団騎士たち。その間にも光の柱は山肌を縦横無尽に走りまわり、ついには鉱山そのものが崩れ始めた!
「たッ、大変だ~ッ!!」
盛大に飛び散る岩石や水晶片のうち、中小のものはゴルペンドルフの村まで届いて雨のように振り注ぎ、屋根板をも砕く勢い。今は深夜だからよかったものの、人々が外に出ている昼間だったら、死傷者続出の大惨事になっていただろう。
そして山から噴き出す光の柱が消え、濛々たる砂埃が収まった時、紫水晶鉱山・ティーフリラミィネは跡形も無く崩れ去っていたのである。
*
「いや~ヒドいことになったね」
まいったまいった、と笑顔のパイリン、翌朝にはちゃっかり生還しているの図。
「ヒドすぎますって~の!」
一行は瓦礫と水晶の破片に埋まりヒドいことになってる村から、逃げるように立ち去るところである。
「村人が降り注いだ水晶片を集めて市場に出したら大変だ、紫水晶の相場が絶対暴落する!そうなる前に別の街で現金に換えて売り逃げるぞ!」
こんな時でも稼ぐことだけはしっかり考えているパイリン師匠、マジ金の亡者。
「ギュン太くんもそんなこと言ってたデスよ、あの後、持てるだけの水晶拾い集めて先に出ていったデスし」
「あの野郎!今度会ったら首切り落として、己の一物を口に咥えさせてセルフブロウジョブ!」
ますます残虐行為予告がエスカレート、更に猟奇的かつ下品になってきたぞ。
「おまけに保安官事務所のドアに『街の皆さんに怪盗ガイガーから最後に紫水晶のプレゼント』と、これは義賊の仕業って宣言した手紙を貼っていきましたよ」
「ズーズーしい野郎だな!しかしもうこの村を本拠地にはできないだろうし、他所に逃げてここには戻らないつもりだろうな」
「てことは、またどっかで会うかもしれないってことデスか?エッちゃん辟易~」
「今度会ったら、え~っと、まずは野郎の愚息を縦にちょんぎって……」
いやいちいち無理して猟奇的なお仕置き考えなくていいから、パイリン師匠。
「しかしあの多頭亜竜って何だったのかね?」
そう、それが今回最大の謎と言える。あんな生き物があそこに住んでいるという、存在そのものが不自然ではなかったか?
「あの戦闘力、鉱石ゴーレムでなきゃ切り抜けられない程だったし、いくら考えても自然に生まれて繁殖した生き物とは思えないんだよな~」
*
<ティーフリラミィネ鉱山における事故の暫定報告(上級管理者以外の閲覧厳禁)>
教団直轄地であるティーフリラミィネ鉱山と、その地下に作られた教団錬金術部門の研究施設、及び生体兵器実験体全てが、昨日夜半、事故により失われた旨
鉱山内部より大エネルギーの暴走が発生、山が完全に崩壊したとの、当時巡回中の騎士による複数目撃証言あり
かねてから制御不能となり幽閉中であった生体兵器実験体の、何らかの異常発生が原因と推測され、今後の調査が必要
加えて宝石・鉱石経由の異世界エネルギー伝達技術に一日の長のある、魔像マスターの協力と監修が必要との、関係者の意見あり
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「決まっている!ゴーレムマスター!ゴーレムマスターがやったに決まっているのダッ!」
ツィタデルブルク騎士修道会、ベンヤミン・ケンプフェン院長は今日も激高していた。
「あいつらがこの街から北に、ゴルペンドルフの方に向かって間もなくのこの事態ッ!状況証拠的に奴の仕業、決定ッ!大決定ッッ!!」
あっハイ、院長殿の推理大正解、実際パイリン師匠の仕業でしたから。
「この期に及んで『協力と監修が必要』?!ふざけるなッ!敵であるあいつらが手を貸してくれるわけがないだろう!」
あくまでもパイリンたちゴーレムマスターが教団に対し恨みを持ち、復讐の機会を狙っていると思い込んでいるベンヤミンは、前回の返事も来ていないのに、再びゴーレムマスター討伐を上申する手紙をしたため始めた。
*
「さ~て、次はどこに行くかな。とりあえず手持ちの水晶売り払えそうな街というと」
動く物入れとしても便利な、ヘルツマンの中に入れてあった地図を取りだしたパイリン、村から離れた街道の木の下で一休みしながら、これを広げて調べ始める。
「一番近いのは……マークトシュタットかなあ、ツィタデルブルクみたいな元城塞都市だけど、歴史ある城下町として栄えて市場も大きく、あと飯が美味いというウワサ」
「エッちゃん期待!超期待!!」とエンジェラはハイテンション、「ボクはもうヒドいことにならないなら贅沢は言いません」とアントンはローテンション。
ともかく相も変わらず、彼女たちの旅はまだまだ続くったら続くのである。嫌も応もなく!