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パイリン・ザ・ゴーレムマスター 作者:大滝よしえもん
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ゴーレムマスター vs 自称義賊 vs 多頭亜竜(4)

(4)

 パイリンたちが進む鉱山上層部の通路は、坑道と呼ぶにはずいぶん広くきちんとした作りであり、ちょっとした地下迷宮ダンジョンじみていた。
 山の表面は薄い土の層と、主に蔦植物に覆われているが、その下は殆どががっしりと固い岩石でできており、坑道は炭坑のように壁や天井を木材で補強する必要も無く、床などは台車やトロッコがが使いやすいようにと、なるべく平滑に仕上げられている。
 しかし中は意外に暖かい、というか外より少し蒸し暑いくらいだ。

 「この階は鉱夫の休憩所や原石の一時置き場もあるしね、長期の採掘のために広く余裕のある作りになっているのサ。」とガイガー(その1)が解説する。
 「地下深くには、近くに火山がある関係で熱湯の地下水が流れ込んでくる洞穴もあって、ソレを風力ポンプで組み上げた温泉まで備わっているのサ。鉱山にしては随分衛生的で環境が良かったんだヨね、ココは。」
 なるほど蒸し暑さの原因はそれだったか。しかし上層の水晶が掘り尽くされたとしても、大鉱脈が新たに見つかったと聞くし、労働環境が悪いわけでもなく……となると長い期間閉鎖されてる意味がますますわからない。

 「これだけ広ければ中型に作ったゴーレムなら何とか通れるな。で、そろそろ休鉱になってるワケを教えてもらおうか?」というパイリンの問いに、
 「ウン、一応は『急に採れすぎると、高価な紫水晶アメジストの価格が暴落するから一時的な採掘制限』ってことになってるんだけど……それは下層階の、例の巨大原石が見つかったあたりまでいけば一目瞭然、後のお楽しみネ」と答えるもう一人のガイガー。あいかわらずどっちが本物で、どっちがエクトプラズムの擬態なんだかわからない。
 上層階の突き当たりには下層に続く、レールまで敷かれたスロープがある。鉱夫が原石を背負って上まで運ばずとも、トロッコに載せて押していけるのだから、やはり比較的環境が良い鉱山と言える。

 「これ使えそうだよね、なんか十年も閉鎖されてるようには見えないんだけど」
 アントンが置かれていたトロッコを調べてそう言った。使い古されてはいるが、湿度の高い環境なのに特に錆びついた部分もなく、油も挿されきちんと整備された跡がうかがえる。
 「外と違って山の中に常駐警備はいないけど、毎月一回は定期的に見回りが入るのサ。それではコレを使って、一気に最下層まで行こうじゃナイか」
 一行はガイガー(その2)の提案に従って、二台が繋がったトロッコに分乗することにした。

 前方の鉱石運搬用大型トロッコの最先頭には、万が一に備え盾代わりとなるヘルツマン、その背後にパイリンが乗り込んだ。後ろのトロッコは前のトロッコを押すための、四人でペダルをこいで進む人力機関車であり、残りの三人+エクトプラズムはそれぞれサドルに腰掛けた。
 そしてブレーキを解除し、緩い斜面をゆっくり転がり出すトロッコ。その前端に貼り付いた二つの人魂風エクトプラズムにぼんやりと照らされた、カーブ前にある減速を促す標識を見つけたパイリンが、後ろのガイガーの一人にブレーキを指示する。

 レバー操作で転輪に触れたブレーキが火花を散らし、無事カーブを越えたトロッコは速度を上げ、再び現れたカーブ前での減速、続く再加速を何度か繰り返しながら徐々に下層へと向かっていく。
 このあたりは上層と通路の幅は変わらないが、軌道の敷かれた床面以外の岩壁や天井は荒々しく削られたまま、また所々落盤防止用の鉄骨の支えも見受けられ、ようやく地下迷宮ダンジョンというより坑道らしい雰囲気になってきた。

 遂に一行の乗ったトロッコは、最下層の置き場まで来て停止した。切り出した原石をまとめておきトロッコに載せるための場所で、レールはここでUターンして上に向かうようになっている。
 「これ帰りは脚でこいで上らなきゃなんないの?、大変だな」アントンがうんざりした様子で愚痴る。
 「帰りはギュン太くんがエクトプラズム総動員して、責任もってこぎなさいよ~」エンジェラも自分でやる気はゼロのようだ。

 「どうかナ~、獲物がバカでかいから、そもそもトロッコに載せられるかどうかネ~」
 「だよネ~、そのためにゴーレムマスターさンをわざわざお誘いしたわけだしネ~」とガイガーズ、なんか語尾がウザい。
 「この野郎、都合の悪いことは全部黙ってここまで連れて来やがったな」と、ウザさにムカついたパイリンがジト目でにらみつける。

 トロッコを降りた一行、再びガイガーたちの先導で奥へと進むが、パイリンはそこで行く先の方から吹く空気の流れに気がついた。
 「地底で風?この先に地上に繋がった穴でもあるのか?」湿気を含む暖かい風、ということは例の温泉の源なのか?
 「鋭いネ、正確には十年前、掘り進んだ先で温泉の熱湯に満たされた洞穴に突き当たったのサ。そこで急遽、ポンプを設置して汲み上げて中に入れるようにした結果……」
 揚水パイプの繋がった先の壁には直系3メートル程度の穴、頑丈そうな鉄格子で閉じられてはいるが、錠はかけられていない。二人のガイガーが重い閂をはずして開け、中に入る。
 そこはそのままの太さのごく短いトンネル、壁だけでなく床も凸凹、仕上げも何もしていない。その奥にはまた鉄格子があり、先ほどのようにガイガーたちが開けてその先へ進む。

 床を這っていた揚水パイプが行き着く先は、床面の低い所にできた熱湯の池。地上の風車を動力とするポンプが常に汲み上げているので、枯れない程度、溢れない程度の湯溜まりができているのだ。
 最深部のはずなのに何処からか僅かに差し込んでくる光が、そこにある沢山の「物」と、一面に漂う霧のような湯気に反射して、辺りの景色をぼんやりと照らしだしている。

 「ハイこれ、紫水晶の大石柱群」とガイガー(その1)、「ジャジャ~ン」とガイガー(その2)、そしてパイリン以下三人が思わず感嘆の声を上げた。
 鉱脈なんてレベルではない!長さ10メートル以上、直系1メートル程の水晶の柱が、天井から壁へ、壁から床へ、あらゆる所から斜めに互い違いに、広い洞穴内に見渡す限り生えているのだ!
 「なんッじゃこりゃぁぁぁッ!」信じがたい程ファンタジーな光景であるが、これは現実である。というか、彼女たちの世界でなくてもリアルに存在するものだし。

 「すごいでショ、湯に満たされていた穴の中には、こんなすごい物が沈ンでいたというワケさ」なんだか得意げにガイガー(その1)が説明を続ける。
 「こりゃあ……たしかにとんでもなくすごいけど、こんなのガンガン掘り出したら、そりゃ供給過多で価格暴落しちまうわな」とパイリンは納得しかけたのだが、
 「イヤイヤイヤ、だからソレは表向きの理由であってだネ」とガイガー(その1)、
 「実は、ここにいた『奴』が採掘の邪魔だからであってネ」とガイガー(その2)……
 「「「『奴』?」」」パイリン以下三人が同時に聞き返すと同時に、更に奥の方から地鳴りと、金切り声のような音が響いた!

 「アリャ!もう出て来たのネ」「説明の手間がはぶけて良いなァ」
 などとガイガーたちは言いながら、鉄格子の所まであたふたと後退する。
 「君タチもすぐ逃げられるように下がりなよ、ここからでも『奴』は見えるから」
 いったい何だと訝しみながらパイリンたちも下がると、水晶の洞窟の二百メートル程奥の暗闇から、なにやら光る物が二つ、うねうねと上下しながら現れ、やがてその光は四つに増えた!

 「ドラッケンが二匹?犀竜リノドラッケンくらいの中型種か??」
 「水脈のある地下だから、ボクのいた強盗団で飼ってた土竜エルデドラッケンの類じゃないかなあ」などとパイリンとアントンは推測を巡らすが、
 「ンッン~、惜しいネ、ドラッケンではなく」
 ズルリ、のそり、と這うような動きで、その「奴」の全身が水晶柱の間に現れた……それは……なんだかよくわからない生き物だった!

 「なんッじゃありゃぁぁぁッ!」と再び上がった叫び声に対し、ガイガー(その2)が答えて曰く、
 「ハイ、正解は多頭亜竜ヒュドラでした!」
 多頭亜竜ヒュドラ!それは骨格的には鳥類や古代の恐竜に近い、卵生ほ乳類であるドラッケンとは異なり、爬虫類に分類される怪物。ドラッケンの脚は体の下の方に伸びていて、鳥類のように二足歩行したり、ほ乳類のように四足歩行する。
 しかし爬虫類の多頭亜竜ヒュドラの脚は横に突き出しており、腹を地に擦り体をくねらせながら移動するという違いがある。

 ではトカゲのような形をしているのかと言うと……果たしてこれが自然に生まれた生物なのか?創造の神が正気を失ったのか?と疑いたくなるような見た目なのだ。胴体は上から見ると正方形に近く、その四辺から脚が突きだしている。
 問題は脚と脚の間の上から生えている、四本の「首」、蛇に似た土竜エルデドラッケンを大きな一つ目にして、それを四本、ニュロニュロと生やしたような奇怪な姿なのだ!

 「おかしい!生物学的に見て明らかにアレはおかしい!」パイリンの感想もごもっとも、どこをどう進化すればあんなモノが生まれるのか?と思ってしまう不自然さである。そもそもあの紫色に光る「眼」は本当に眼球でちゃんと見えているのか?
 乱杭歯のような牙が生えた「口」は本当に食物を取り込むためのものなのか?それらが付いた「頭」には、それぞれ脳が入っているのか?そんな謎だらけの触手のような「首」をくねらせながら、多頭亜竜ヒュドラはズルズルとこちらに移動してくる

 「エッちゃん推測!アンド結論!あれは『キモい』デス!」
 「見たまんまの感想じゃね~か!ちったあ脳味噌使えよ馬鹿エルフ!」
 「なおビーちゃんによると、『ドラッケンの仲間じゃないからよくわからない』そうデス」というエンジェラの言葉に合わせ、頭の脇に浮かぶ悪竜霊のビートゥナがうんうん、と頷いた。
 「今回は使えね~な、オイ!」

 「イヤ実際地下のレアな生き物すぎて、研究が進ンでないからネ~、生物学の先生でもよくわかんない、って話ダヨ」
 「おかげで教会騎士団も、やっつけ方がわからず退治しかねてはや十年、採掘が止まったままなンだよね~」
 なるほど、休鉱の原因はあの怪物の妨害だったのか。巨大水晶の洞窟に入る度、あれが現れて鉱夫たちに襲いかかってきたのだろう。加えて教団の竜使いが、あれに対抗可能なサイズの竜を坑道から入れるのも困難である、と、いうことは……

 「てめえ、オレにアレを退治させるのが本当の目的だったな!」とパイリンがくってかかると
 「ハイ正解~!」「賞品は巨大水晶取り放題!」ガイガーたちが拍手喝采、あいかわらず調子のいい野郎である。
 「やはりぬッ殺す!貴様のナニをちぎって口につめてからロープで吊す!」
 まんまと利用されたと怒りのパイリン師匠、そして予告する殺害方法が具体的かつグロい。

 「ねえ師匠、でも実際これってゴーレムの実戦の経験値を上げる良い機会じゃないの?」ゆっくりと近づいてくる多頭亜竜ヒュドラに対し若干のおびえを見せながらも、アントンが冷静に言った。
 「ムゥ、言われてみれば……それにあれだけドでかい水晶があれば、理論上でしかできなかったアレを、本当に試せる今がチャンスか……」なにやら思うところがあるようで、しばし考え込むパイリン。
 「ハッハッハッ、そろそろ危険だからボクらは鉄格子の向こうに避難するヨ」
 「このくらいの穴だと多頭亜竜ヒュドラは抜けてこれないしネ、あの長い首も鉄格子を突き破れない、というか鉄製の物が嫌いなことくらいはわかっているしネ」
 調子の良いことを言いながら、ガイガーたちはそそくさと背後の穴に戻っていった。
 「弟子の人と死霊ゴースト使いちゃんも、こっちで観戦するといいヨ」

 「あの野郎にいいように使われてるみたいでムカつくけど、アレと戦うのと巨大水晶を手に入れるってのは、確かに魅力的」パイリン師匠、意を決したご様子である。
 「色々と試したいこともあるしな……二人も下がって観てろ、まずは小手調べ!ヘルツマン!、搭乗モード!」
 パイリンの叫びに合わせ、ヘルツマンの鎧姿がガチャガチャと変形!ラングラングファレイの森で見せた、鉄の座席型へと姿を変え、次いで「呪文パスワード!」の叫びに応え、変形したヘルツマンの背中が爆ぜる!
 「『ザームエル』!『テオドール』!『エーミール』!『イーダ』!『ノルトボール』!……『岩石シュタイン』!!」

 座席と化したヘルツマンから例の「触手」が多数飛び出し、背後の岩盤に食いこんで砕いていく!ヘルツマン座席はパイリンごと、砕けていく岩壁の間に吸い込まれる。そして壁の四方から巨大な手脚が生え、最後に胴体が岩壁から身をはがすように抜き出され、岩の巨像が顕現する!
 「シュタイン・ゴーレム!!」
 巨像ゴーレムの胸が割れてスライドし、いつもの巨大な「眼球」が出現して多頭亜竜ヒュドラを睨む。
 GOOOOOOOOOOMゴオオオオオオオオオオム!!
 アントンと出会った時に初めて見せたゴーレム、岩石シュタインゴーレム。パイリンの生み出す物は最新の第四世代であるが、その見た目は第二世代の姿を残す、古典的なゴーレムと言える。

 そして前回は壊れて岩に戻っていたものを復活させたのだが、今回は一からの製造、更に直接搭乗モードでの出撃だ!
 「さてとまずはステゴロどつき合い、これだけでアレを倒せるかな?」
 脚より長く太い腕を振り上げる岩石シュタインゴーレム。一方、巨大水晶柱の間をヌルヌルと接近してくる多頭亜竜ヒュドラの方も、突然現れた岩石巨人を敵と認識、首を高く振り上げ威嚇の姿勢を見せる。

 「ンッン~、タイトルは『岩石魔像対多頭亜竜・地底最大の決戦』、イイネ、すごくイイ『絵』だネ~」
 「迫力だネ~、これを見せ物にしたら大入り満員だよネ~」などとのんきな事をぬかしているガイガーたち。

 「ギュン太くんはいつもこんな策士じみたことやってるの?でも師匠が勝った後、間違いなく『性的』に相当ひどいことされるから覚悟してね」
 と、冷たく言い放つアントン。流石にイラッときたらしい。
 「性的?性的ってナニ!」「もしかしてボクの下半身がピンチでアブない?」
 昼間、エクトプラズムの一体が捕らえられた時に、お尻が大ピンチになったことを思い出して怯えるガイガーたち。

「あと指切りでなんか約束させられてたデスよね~」
 意地悪くエンジェラも言い放つ。彼女の場合、ライバル認定した相手をいじめたいだけのご様子だが。
 「ヤバい!ムけてるナニがさらにムかれちゃう!」
 「とゆ~か根本からバッサリ、女の子になっちゃう予感!」
  いやお前らのうち一人はエクトプラズムの擬態、本物の肉体じゃないだろ、とアントンたちもツッコもうとしたが、鉄格子の向こうで戦いが始まったので止めて、観るのに専念することにしたのだった。

 (続く)
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