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パイリン・ザ・ゴーレムマスター 作者:大滝よしえもん
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ゴーレムマスター師弟、新たなマスターに出会う(6)

巨大な焼夷弾と化した機甲竜パンツァードラッケンの爆発で、アジトのあった湖の中州は完全に焼け野原となった。手の出しようがないため離れて観戦していたアントンとエンジェラも危険な状況となったので、大慌てで水に飛び込んで難を逃れていた程だ。

「師匠、大丈夫かなあ」
 一応は心配してみせるアントンに対し、エンジェラは呑気な調子で答える。
「パー子さんは死んでないデスよ~、今度も霊体が昇天するのが見えなかったもん……やっぱり心配?アントンくんにとって、お姉さんみたいな人デスもんね」
「いろいろとアレすぎる姉さんなんて欲しくないッ!……いや……まあ、匠としてはすごい人なんだろうけど」

 知り合ってやっと一週間という仲ではあるが、その点だけは本当にそう思っていた。彼女のゴーレムは本物だ。あらゆる点で想像を超え、工業的に見ても飛び抜けたテクノロジーであり、同時に未知の世界にさえ通じている。
それを使いこなし、更に発展させようという彼女について行き、その先を見届けたい……もっとも、その手段がとんでもなく強引かつ危険であり、それが悪党どもの物とはいえ、屍累々というとんでもない道なのであるが。

「ところで……エッちゃんさん、もう少し離れていただけると助かるんだけど」
「え~、何でデスかぁ」
 二人はずぶ濡れになった衣類を、まだ熱の残った中州の地表で乾している真っ最中。従って当然、共に半裸状態なのである。エンジェラのその細い裸身を隠しているのは半乾きの長い髪と、重要ポイントの前に浮遊して盾になっている死霊たちのみ、という有様。しかしアントンを前にして、何も隠す様子もなく側に寄り添っているのだ。

 そして誠に遺憾ながら、今のところこれは絵物語ではないので今回もビジュアル無し。漫画版にこんなシーンが無いのも同じである。
「あたしね~、あの時、うれしかったんデスよ」
 ほぼアントンに密着したまま、エンジェラは語り始める。
「あ、あの時っていつの時でしょ~か?」
 バキバキに緊張しながら、アントンは聞き返す……これだから未経験者は。

「……ビーちゃんとボーちゃんが、いっぱい魂を食べちゃった時……」
 ああ、あの死屍累々の地獄絵図の時ね。転がる骸に囲まれたエンジェラは、飼い主にしかられた子犬のように……というか、サーカスのライオンが大暴れして沢山の人を殺してしまい、途方に暮れる調教師、という状況に近いからシャレにならないのだが……悲しい目をしていたなあ、と思い出す。そして思いっきり抱きつかれたんだっけ。

「あの時、アントン君がかけてくれた一声が、すごくうれしかったんデスよ」
「なな、なんて言ったんだっけボク?」
 密着するない胸といい匂いのせいで、アントンの記憶力は激しく混乱している。
「『もう行こうよ、一緒に』って」
 ただ、それだけ。
「……それって、なんか特別??」
「あんなことになった時、他の人たちは怖がって近づかないか、その時は慰めてはくれるけど、その後よそよそしくなるか……
 でも『一緒に』、って言われたのは初めてなの。最初の一言が、『一緒に』。だから、すごくうれしかったんデスよ」

……と言われても、アントンは自分があの時どう言ったかなんて、思い出すことができなかった。でも自分はきっと、それが彼女であれ自分自身であれ、そこに一人置いていかれることが耐え難かったんだろう、と思う。
 暖かい風が吹き抜ける……いや実際、火事の燃え残りのせいでさっきからずっとそうなのだが、そんな物理的な意味ではなく、こう何か叙情的に……暖かい風が吹き抜ける。

そんな時、あの聞き覚えのある声が響き渡った。
っとるかね青春諸君~!まだ若いんだから、きちんと避妊せんといかんぞ~」
「あんたの細胞の半分以上は、間違いなく中年のオッサンでできているよッ!」
 ダメだこの人、自分だけではなく他人にも、一瞬たりとも感動シーンを与えたくないらしい。そう、片手に心臓ヘルツ、全身煤まみれのパイリンが、のっしのっしと大股で歩いてやって来た。
「愚息をカティンコティンにしてお楽しみのところ相すみませんが」
「改めてその品性だけは、今すぐ地獄に叩き墜としてやりたいです!」
 下品なところも相変わらず……無事だった、間違いなくパイリンさんである。

「ちょっとだけいい知らせ二つと、ものすごく悪い知らせがあります」
 それだけ言って、口元をムムッという感じでMの字の形にするパイリン。
「……いい方からお願いします」
「まずは明るい話題から。ゲアリックの強盗団は全滅、この森の犯罪件数は半減するでしょう。次の話題です。ゴーレムの開発研究に大きな進歩をもたらすであろう、貴重な実戦経験を得ることができました」
 なぜかしらアナウンス口調だが、いつものとおり、別に意味は無いのだろうな。

「悪い方は?」
「……みんな燃えちまった」
「はあ?」
「あのクソ竜の爆発のせいで、ゲアリックも手下どもも、つまり賞金の引き替えになる死体も、密かに狙っていたアジトにあったはずの隠し財産も、み~んなみんな燃えちまったんじゃあァァァァァッ!バァ~ン!」

「なに最後の『バァ~ン』ってのは?」
「心理的な衝撃を表現した、ピアノの鍵盤を一気に叩いた効果音!バァ~ン!」
「まあ、森が(ちょっと)平和になったのは、よかったんじゃないデスかぁ?」
「ただ働きじゃんキィキィ(ヒステリー)!こちとらボランティアでやってんじゃねえぞゴラァ!」
 まあねえ、どうやらゴーレムもヘルツマンも、宝石も活動限界で全部オシャカになってしまったようだし、残ったのはただこの焼け野原のみ、なのは事実なのだが。

「いえいえ違うのデス。あたしたち仲間の、正義と愛と友情が残されたのデス」
「そんなもん犬に喰わせて太らせてから喰っちまえ~ッ!」
「言葉の意味はよくわかんないけど、賞金は手に入りそうにないってことね」
 みんな無事だったし悪党は滅んだし、ゴーレムの研究も一歩前進したんだからよかったじゃん、とアントンは思ったのだが

「新しい宝石手に入れないとゴーレム作れねえよぉウェ~ン。安物じゃヘルツマンとかシュタインゴーレムみてえなのしかできねえよぅグッスン」
「ものすごく燃費悪いですね、第四世代ゴーレム。性能もすごいけど」
「うるさい黙れ初心者の分際で、それを改良するのがゴーレム・ハイ・マスターたるオレの使命オレの宿命、♪破壊ダーヲ機械セヨ!」
 最後の一言はもう完っ全に意味がわからないが……要するにゴーレムの改良には宝石と実戦経験という、大きなコストとリスクが必要なのだ、ということだけは理解できた。まあ、あれだけの(他人の)血と(自分の)汗を流して利益が無いってのはあまりに悲しい話だな。

「かくなるうえは、他の大物賞金首を生け捕って突きだして稼ぐしかあるまい」
「いや師匠、そんなアテがあるんですか?それに大型ゴーレム使えないし」
「それだとビーちゃんボーちゃんも使えないデスよ、絶対犯人死んじゃうから」
 ちっちっちっ、といいつつパイリンは、右手の指二本を立てて振って、それから己をくいっと指して言った。
「この、オレさ」

 *
 
 今日の宿場町は朝から騒然としていたが、それも午前中のうちに沈静化した。
と、言うのも湖の方から爆煙が立ち上り、激しく炎上しているのが町からも見えたからである。大火事の可能性が高いため、有志が臨時の消防団……周囲の木を切り倒して延焼を防ぐのが仕事なので、この地の木こりたちが大半……を編成して現場に駆けつけたが、どうやら被害地域は中州だけに留まったようなので、すっかり拍子抜けして昼前には帰ってきて、皆に知らせたからだ。

その日の夕方、残骸を薪としてたたき売って綺麗にどけた跡の、天幕で作った臨時事務所の中で保安官は、この火事騒ぎについて、一人イヤな予感に襲われていた。
「湖、というと強盗団の根城の方だよなあ……イヤな予感がするなあ」
 彼の懸念は全く的中しているのだが、大変になるのは実はこれからである。

「たのもー!そして賞金渡せ、さもなくばお前の家、燃やす……ああっ!もうすっかり手遅れ?坊さんはどこだッ!」
 そら来た!
「やっぱりあんたの仕業なのかい!」
 後ろに手を組んで、そっくりかえるように胸をはってパイリンが立っていた。後ろには何故かエンジェラ、さらに保安官にとっては初めて見る少年がいる。

「ゲアリック強盗団合計19名、全員消し炭になっちゃったけど、やっぱ賞金はムリ?」
 恐ろしくバイオレンスなことをサラッと言うパイリンに内心ビビりながら保安官、
「うわ~やっちまったなそれは……申し訳ないが、捕縛または死亡した賞金首の本人確認ができない状態では、規則で支払いはできないことになっている」

「それは想定内につき、耐え難きを耐えて権利放棄。で、本題です」
 パイリンがくるりと背を向けると、後で組まれた手は蔦の縄で縛られている。
「何……事ですかこれは」
「本当は海の向こうの倭国ヴァーラントに伝わるという『キッコーシバリ』というエロエロ緊縛術を希望したのだが、資料不足でやむなく妥協、実に残念」
「縛り方じゃねえよ、何であんたが縛られてるのか聞いてるの!」
「ううむ悔しい、この馬鹿エルフの賞金稼ぎに捕らえられてしまったあ(棒読み)」
「わるモノご用~、エッちゃん犯人確保デス~(抑揚無し)」
「すごいやエッちゃんさん、一千万コーカの大物を捕まえた~(無気力)」

 なにこの三文芝居?
「忍び難きを忍び、お縄につきましたので、こいつに賞金クレクレ」
 なにこのマッチポンプ臭?
「悪いが、ど~考えたって、エンジェラにあんたが捕らえられたなんて信じられん」
「わあん、過小評価されてるですよ!エッちゃん憤慨!わが戦闘力をなめたらいかんぜよ!エッちゃんパンチはつむじ風、エッちゃんキックは命がけ!」
 などと言いつつ脚を振り上げたエンジェラは、勢い余って滑って転び、後頭部を強打した……ホ、ホントに命がけなんだね、自分自身だけが。

「見える……なぜか私には見えるぞ、パイリンさんがその後、留置場から脱獄して、その賞金の分け前を貰っている姿が」
 保安官が鋭いと言うより、誰が見てもバレバレの企みですから。
「うるさい黙れへっぽこシェリフ、さっさと引き取って賞金渡さないと、オレの前科に保安官ぬっコロし罪一件が追加される未来が見える!」
 それは既に脅迫罪なんじゃなかろうか?

「どちらにしろ、一千万なんて大金ここには無いぞ。それに保安官事務所への引き渡しの際に渡される一時金は賞金額の5%、中央からの護送官がそこから連れて行く時に全額払い、って決まりくらい知ってるだろう」
「決まりもへったくれもねえんでえ~……へったくれ……そうだへったくれ、へったくれって何だろう?」
 久々に「へったくれ」の謎に取り付かれて思考が停止したらしいパイリンになり代わり、頭をさすりながらエンジェラが続けた。

「エヘヘ、じゃあ5%万コーカだけでもちょうだいデス」
 いかん、頭部の強打でによりお馬鹿ちゃんが悪化したか?
「エッちゃんさん、一千万の5%は五十万コーカだよ」
「……この人が私の管轄内で逃亡したり、あんたらがその手助けをやらないってんならね」
「しませんしません、したら針千本誰かに飲~ます」
 どこの風習だよそれは。しかしこれ以上引き延ばすと、あのゲアリック強盗団全員を消し炭に変えたという危険人物によって、自分がどうにかされる未来が見えてきた。

渋々保安官はパイリン一行を置いて天幕の中に戻り、事務所の背後の壁になっていた大木の幹の、虚になっている所をまさぐった。そして隠し扉を開き、中の耐火金庫から賞金分の金貨を抜き出した。5%とはいえ総額が多いので、平均的な生活水準の四人家族が、余裕で三ヶ月暮らしていける程度の金である。

「じゃ書類にサインを……こっちの捕縛証明にもね。あとで総額貰う時に必要だから」
「でもこの人、なんでこんなにすごい賞金がかかってるの?」
「ここに書かれた罪の合計じゃ、こんなに高くなるわけないんだがなあ……ここにいる本人に聞いてくれ」
「ひみつさっ!」
 間髪入れずにパイリンが答える。そうか、秘密なのか、なら仕方ない。

「わぁい、なんかいっぱい貰えたデスよアントン君。今晩はサウナ付きの宿にしてぇ、いっしょにお風呂入ろ」
「エッちゃんさん自重!自重して!」
「このハーレム系ラノベ野郎共、てめえら無駄使いするんじゃね~ぞ」
 いや、それ使えないはずの立場のはずのあんたこそ自重しろよ、後で合流する気満々じゃん、と保安官は思い、思いっきりトホホな気分になる。

そしてエンジェラたちが去り、天幕の中にある大きな網籠こと簡易留置場に押し込まれたパイリンは、いつもからは想像もつかないくらい大人しくしている。むしろ不気味であるが……何なの?あのわざとらしくすました顔は。絶対に何か企んでいるに違いないと確信した!命と全財産を同時に賭けても必勝する自信がある程に!

「あんた、本当に逃げないんだろうね~……いや逃げる気なのはわかってるけど」
「少なくともオレ自らがここを破って出て行ったり、あの二人が戻ってくるなんてことは絶対ない、とここに宣誓し、ウソついたら針千本貴様の穴という穴に……」
「何その斬新なSMプレイ!」
 その時いきなり、外側から天幕がものすごい力で引っ張られ、中にあった物や保安官、パイリンの入った籠を巻き込んで、全てをひっくり返してしまった。

「うわッそらキタ~!このウソつき~」
「に、逃げてなんかいないんだからね!カンちがいしないでよね!」
 そのツンデレ口調に、いったい何の意味が?
 GOOOOOOOOOOMゴオオオオオオオオオオム
何者かの吠え声が響き、そちらを見た保安官は、夕日の逆光の中に怪物を見た。それは、全身が蔦や葉に覆われた身長二メートル程の大男で、彼らの方に突進してきた。そして、パイリンの入った籠を持ち上げるや否や、それを抱えて走り出した。

「やっぱ逃げてるじゃないか!」
「ちがうぞ!正体不明の森の怪物の襲撃だ~ッ!」
 なにその説明口調。蔦の怪物……言うまでもなく、安い宝石と適当な中古鎧で作った新しいヘルツマンに、その辺の蔦や葉っぱを被せて変装させたものである。しかし以前ヘルツマンを見ている保安官からすれば、その正体は一目瞭然だった。

「ああなるほど、『何者かによって留置場から誘拐された』という設定でいくワケね……一応、約束は守っているのか、表向きには」
あれでも一応、パイリンなりに気をつかってるつもりなんだろう。やれやれ、と思いながら保安官は、森に消えていくパイリンとヘルツマンを見送った。もう自ら追いかける気はおこらないし、訴え出ようとも思わない。

まあ、仕方ないか。最大手の強盗団と癒着しておいしい汁を吸ってきた自分にとって、手に負えなくなった奴らを消してくれたんだし、その代金が五十万なら安いもんだ、私のじゃなくて公費だし、と彼は思って、天幕を戻して寝ることにした。



一晩いい宿でゆっくり羽を伸ばし、さんざんセクハラしたりされたり……もちろん被害者は一方的にアントン……して、翌日の昼前にパイリン一行は徒歩で宿場町を出た。向かうは北の街、ツィタデルブルク。
それは歴史ある城塞都市で、この辺境自治区にしては珍しく中央の大空龍タイクーロン教会の影響力の強い場所だ。もともとは、辺境の地に教えを広めに来た神父たちを蛮族の攻撃から守るため、教会騎士団が砦として築き、長い年月を経て城塞都市へと変貌していったという場所である。

自らも竜使い《ドラッケンマスター》の集まりである大空龍タイクーロン教団の教会騎士団は、群雄割拠の乱世の時代を終わらせるべく、様々な「使いマスター」に呼びかけて大同団結させ、現在の国の基礎を築いた英雄とされる。特に総本山のある中央教区周辺は政治の中心となっており、辺境自治区にもいくつかの直轄領を持ち、ツィタデルブルクもその一つである。
ここは大戦中も攻め寄せる反抗勢力を食い止め続けたが、現在では城門も開放され、賑やかな市場のある商業都市に変貌しているという。これにより街は経済的に潤ったが、ここでも例によって金の動くところ犯罪者あり、多くの賞金首たちが集まってきてしまったのである。治安を司る教団騎士隊は、辺境の保安官などとは比べものにならない強力な存在のはずだが、戦場で相まみえるならまだしも、裏社会に潜む犯罪者を狩るには不向きなようで、犯罪発生率は上がったままである。

 *
 
「というわけで、今回稼げなかった分を、北の街で補う大作戦~、ハイ拍手」
 わ~いパチパチパチ、とアントンとエンジェラが応え、二匹の死霊たちも小さなお手々をペチペチ叩いてみせる。ちなみにヘルツマンは無反応。

「でも今度は街一つ火の海、ってことになったりしない?」
「パー子さんのゴーレムは確かに強いけど、もう少し力のコントロールの仕方というものをデスね、よく考えて……」
「そんなおっかない死霊を全くコントロールできてねえ、お前に言われたくねえ!」

 彼らの行くところ、常に死山血河&死屍累々の図……という未来が一瞬見えてしまうのは……気のせいじゃないよなあ。

「うるさい黙れ謎の声、オレたちの旅は、今始まったばかりだぁ!」
 地の文を受信するな。そして何その、10回で打ち切り作品みたいな台詞。そんなわけで、彼らの旅は続くったら続くのである!
……否も応もなく!  (第2話・終)
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