006 スキル、すげー!
昨晩様々なスキルを試しに取得して得た情報で頑張って作った『紙の肩掛け鞄』をしっかりと肩にかける。
中には紙を出来るだけ柔らかくして作ったトイレットペーパーモドキと、ウイ○ーインゼリーが5つ。
あと鞄を作った時に使った石の針とあまった紙の糸も少し入っている。
この紙の肩掛け鞄は濡らさなければ――表面には極簡単な防水処理もしてあるけど――それなりの耐久力を期待できる。
柔軟性にはやや……いやかなり乏しいけれどその代わり耐久力をあげているものなのだ。
紙で作った糸も何度も魔力を注いでスキルを使用してかなり頑丈に作ってあり、普通に縫い付けるには技術がいるだろうがそこはスキルの力で手間隙を省いた。
ちなみに使ったスキルは『製紙』、『紡績』、『裁縫』、『石細工』、『魔法:土』だ。
『製紙』、『紡績』、『裁縫』はわかりやすいだろうけど、『石細工』と『魔法:土』はわかりにくいかな?
『石細工』で適当に拾ってきた石から針を作り出し、『魔法:土』で石に干渉して強度を引き上げたのだ。
念のための処置だったけど立派な鞄が出来たので大成功といえるだろう。
こういったスキルはゲームとかでも、専用アイテムがあると成功率とか品質とか引き上げてくれるのは常だしね。
外に出るとさっそく毎度お馴染み『鷹目』さんで今日最初の得物を探して移動を開始した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
移動しながらもレベル上げのためにファンタジー生物を見つけては倒し、見つけては倒しを繰り返した。
キョロキョロしてた一角兎さん。
赤い瞳が円らでキュート。
でもだめ。風の刃で一撃さ。
ノロノロと動いて小動物やら虫を口から吐く糸で捕まえてムシャムシャしていた白芋虫さん。
全体的にキモイから無理。
風の刃で一撃さ。
昨日は1匹しか見なかったはぐれ6本犬は今日は3匹も見つけた。
集団じゃなければ怖くない。
風の刃で一撃さ。
……まぁ実際は5枚の刃で包囲気味にして全部倒しているけど。
兎に芋虫に犬以外にも色々ファンタジーな生物をお昼近くまでかけて、合計で50匹を超える数倒すとやっとベースレベルが3になってくれた。
1から2で16匹。2から3で50匹以上……。
ちょっとレベル上げ大変すぎじゃないですかね……。
でもベースレベルが上がって待望のスキルポイントもゲットできた。
増えたスキルポイントは今度は『3』。
これはもしかしてレベル分のポイントがもらえるタイプかな?
というわけでスキルポイントも増えたので、昨日やさっきまでだったらこのまま死骸は放置で即移動になるところをちょっと変更。
別にグロに慣れたとかそんなのは決してない。
でもそれに近い事を試してみるつもりだ。
周囲にファンタジー生物がいないことは確認済み。
使うスキルはコレ、『耐性:精神』。
昨晩色々試したスキルの中には色んな耐性スキルもあって、これがグロ耐性であることがわかったのだ。
もちろんグロだけじゃなくて精神攻撃や色んな効果に対応している耐性だ。
耐性スキルは割りとカバーしている範囲が広い物が多いみたいだ。
例えば『耐性:毒』だったら蜂の毒だろうが、蛇の毒だろうが、河豚の毒だろうがカバーしてくれる。
もちろん毒の強さやなんだで効き目に違いは出るけれど。
そんなわけで『耐性:精神』を取得して一切見ようとしなかった死骸に近づいて視界にゆっくりといれていく。
「おっふ……」
ちょっときついけれど、卒倒したり吐いたりすることはなかった。
『耐性:精神』すごい。
コレがなかったら絶対吐いて気絶してる。
それくらいボクにはきつい光景が展開されている。
血は思ったよりも出ていないけれど、風の刃で切断された部分から赤黒い内臓やらピンクの脳みそやらが飛び出ているし、何よりも物言わぬ瞳がとてもとてもきつい。
「ふぅ……」
とりあえず実験は成功だ。
『耐性:精神』があれば死骸を見てもある程度大丈夫。
第1ステップはクリアだ。
そして次は第2ステップ。
使うスキルはコレ、『解体』。
言わずと知れた有名なスキルだ。
これで物言わぬ屍となった一角兎さんの毛皮とか角とかお肉とかを手に入れるのだ。
毛皮は『皮革』と『裁縫』で紙布団ではなく、ちゃんとした毛皮の布団を作るつもりなのだ。
角は『武器作成』で簡単なナイフとか作れたら便利かなぁと思っている。
お肉は言わずとも知れるだろう。食べるのだ。たんぱく質を食するのだ。
ウイ○ーインゼリーばかりではやっぱり飽きるしね。
というわけで『魔法イメージ強化』Lv1を解除して『解体』Lv1を取得して……いざ!
「なみあみだぶつ……にゃむあみだぶつ……」
手を合わせて昨日作っておいた石のナイフ――あんまり切れ味はよろしくない――を後ろ腰に差している紙の鞘から抜き出す。
『解体』Lv1のおかげでどこにどう刃を入れればいいのかは大体わかる。
さすがにLv1なのでそれほど高い補正が入るわけではないけれど、あるのとないのとでは雲泥の差だ。
こういった行動スキルは動作に対しても補正が入って、ある程度勝手に動いてくれたりもする。
もちろん自分の腕に自信があれば意識して自動で動くのを無視することは簡単にできる。
「うぅ……ひぃ……あぁ……うぅぅ……ひっ……」
おっかなびっくり解体を続け、時折我ながら情けない悲鳴をあげながらなんとか解体を終えることができた。
長かったような気がするけれど実際は5分もかかっていない。
『解体』スキルすごい。
解体されて獲れた素材は角、毛皮、お肉、小さな石。
最初の3つは予定通りのものだったけれど小さな石――小指の先ほどの大きさ――がよくわからない。
血に濡れているわけでもないのに赤くて――最初見たときにも思ったけれど一角兎は異常なくらい血液が少なかった――不思議な石だ。
「あ、もしかして?」
そういえば昨日取得しまくって知識を集めていた時に『魔道具作成』というスキルがあったのを思い出した。
異世界名物――魔道具。
コレを作るには『魔石』と呼ばれる特別な石が必要だったはずだ。
ファンタジー生物から獲れる石。
このファンタジー生物はなんともモンスターで、すこぶる魔物っぽい。
つまり合わせて……魔石!
……うん、たぶんそうだ。
そんなに大きい物でもないし鞄の中にトイレットペーパーに包んで入れておこう。
毛皮はすぐに『解体』Lv1を解除して、予定通り『皮革』Lv1を使って加工する。
Lv1で注げるだけの魔力を注いで数回スキルを使うと、酷い獣臭と血肉臭かった毛皮が綺麗ないい匂いのする毛皮になっていた。
目を見張るくらいのその違いに思う。
スキルすげー!
角とお肉を『魔法:水』で綺麗にしてトイレットペーパーでよく拭いてから、更にトイレットペーパーで包んで鞄にしまう。
荷物を全部仕舞うともう1度『魔法:水』で手を綺麗に洗ってから『魔法:生活』で汚れを何度も除去する。
最後に元一角兎さんに手を合わせてその場を後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
いくら『耐性:精神』があっても所詮Lv1。
さらにはボクのグロ耐性は元々極端に低いのもあって精神的にすごく疲れた。
解体場所から十分に離れて周囲にファンタジー生物の影も見えない場所までそそくさとやってきて、昨日同様にボクのお城を建造した。
1度作っているからか昨日よりもずっと簡単に作れた。
そして作ったばかりの毛皮をベッドに敷いてぐったりと横になる。
「はぁ……疲れた……」
解体ってとっても大変だ。
小説の主人公達はよくこんなこと平気でできるものだ。
『耐性:精神』と解体のスキルがなかったらボクには一生できなかっただろうなぁ。
少しの間ぐったりとベッドの上で過ごし、多少英気を養ってからお昼ご飯タイムだ。
獲ったばかりのお肉を取り出して『耐性:精神』を解除して、今度は『耐性:毒』を取得する。
『耐性:毒』のカバー範囲はとても広い。
これでもし万が一、一角兎の肉に毒があっても大丈夫。
一応念には念を入れて色々解除して『魔法:光』も取得して、お肉に解毒やら何やらとにかく危なそうな菌的なものを滅菌しておく。
『魔法:光』は主に怪我や病気の治療、解毒やら解麻痺やら状態異常を治療する事が出来る魔法だ。
本来はこんな事には使わないみたいだけど、魔法はイメージ。
病気の治療だって似たようなものなのだ。やってできないことはあるまい。
幸いな事にボクには豊富な魔力と優れた現代の医療知識――一般的なものだけど――があるのだ、ガンガンいこうぜ!
出来るだけの事をして準備が終わったお肉を石のナイフで一口大に切り分ける。
暖炉に作っておいた石のフライパンを『魔法:火』で熱して焼いていくと、とても食欲を誘う香りがただよいだした。
こうしてみればただの美味しそうなお肉でしかない。
『耐性:精神』がなくてもこうやって加工してあるお肉ならボクだって平気だ。
焼けたお肉を木で作ったお皿に飾り付けてさっそく食べる。
肉汁がジュワッと口の中に広がり、ほどよい歯応えが心地よい。
決して口の中で蕩ける様なA5ランクのお肉ではないけれど、100gでそこそこしそうななかなか上等なお肉だ。
ハフハフと焼きあがったばかりで熱いお肉を口いっぱいに頬張り、一口大のお肉15枚くらいをペロリと平らげた。
「……あぁ美味しかった……でも……白米ほしい……あと焼肉のタレ……」
膨れたお腹をさすりながら毛皮の敷かれたベッドに横になる。
心地よい満腹感が眠気を誘う。
でもその前にまだ残っているお肉を仕舞わなきゃ……腐っちゃったらやだもんね。
暖炉とは反対方向に作っておいた地下収納に昨日スキルを取得しまくった結果判明した、『魔法:水』が前提条件のスキル――『魔法:氷』で、氷の板を何枚も作って一緒に残りのお肉を仕舞う。
これで大丈夫。
地下収納だし、暖炉からは遠いしで1晩では氷は溶けないだろう。
地下収納に蓋をして急激に下がってきた瞼を擦りながらなんとかベッドに横になった。
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