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アゲハの開拓街 作者:天界

小さな弟子編

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024 子供達



 チギット君というとてもとても可愛らしい弟子を持つことになったけれど、彼はまだ5歳。
 魔法使いはそこそこ珍しいレベルの数の少なさなので旅をしたりはあまりしない。
 この世界の魔法はイメージと魔力次第でどこまでも発展性がある。
 それはつまり職にあぶれる心配がかなり薄いということだ。

 安全面を考慮しても旅をするなんてよほどの物好きか腕に自信がなければしないのが普通だ。
 安全に大金の稼げる魔法使いは冒険者になるのも珍しい。
 そんな一般的な魔法使いは1つのところに留まる場合が大半だ。
 そうなれば安全面なんかを考えても弟子も取りやすい。
 普通の魔法使いにとって弟子=側仕えみたいなものだし。

 でもボクは違う。
 ニルギル村に留まるわけでもないし、すでに黎明の雷と共に迷宮都市ラバドゥーンで冒険者ギルドのギルドマスターに会う予定も入っている。

 ニルギル村からラバドゥーンまではそこそこ遠い。
 具体的には黎明の雷が乗ってきた馬車で8日かかる距離だ。
 人の足では12日から16日はかかるらしい。
 もちろんその間に村やら集落はある。でもあんまりいないとはいえ、魔物と遭遇しないわけでもないのでチギット君を連れて行くというのはどうにも躊躇われる。
 黎明の雷もいるし、移動も馬車だし、ボクの戦闘能力や防御能力もあるから本当は危険な目になんてあわないと思うけど、それはソレ。これはコレ。

 それに何よりまだまだ子供だ。
 親に甘えたい盛りの子供を引き離すのは忍びない。

「なのでチギット君にはまずボクの弟子として修行をしてもらいます」
「しゅぎょー?」
「そう、修行です」
「はい、お姉ちゃん先生!」
「はい、良いお返事です」

 首をコテリと傾げて可愛らしいお顔に疑問の色が浮かぶけれど、素直でいい子なチギット君はすぐに笑顔で手をピンと伸ばして返事を返してくれる。ちょー可愛い。

「ではさっそくチギット君のお友達を呼んできてくれる?」
「はーい!」

 ニルギル村は小さな村とはいえ、人口は200人近くいるそうだ。
 なので当然子供もそれなりにいて、チギット君のお友達もいる。
 まだまだ小さいチギット君達は多少のお手伝いをしたあとは自由に伸び伸びそのお友達と遊ぶ。
 学校なんて当然ない村なので――むしろ学校などの教育機関は大きな街でも富裕層以上じゃなければ通えない――もう少し大きくなるまでは毎日泥だらけになって遊ぶのが日課だ。

 でも遊具も玩具も数少ない村では遊ぶにも限界がある。
 村の外には滅多にでないとはいえ、魔物や野生の獣がいるので危ない。野山をかけて川で水遊び、なんていうのは非力な子供にはとても危険な行為なのだ。

 というわけで村の中でもできる簡単な遊びをチギット君達に教えることにした。
 まずは楽しく遊んで体力をつけてもらう。
 これも立派な修行である。

「ではまずかくれんぼをしましょう!」
「「はーい!」」

 チギット君が連れてきた子供達はみんなチギット君くらいと同じか年下の子ばかり。
 もう少し大きくなるとお手伝いの比重がどんどん増えていくので普段遊んでいる子達は必然的にこのくらいの子達になるのだ。

 元気よく可愛いお返事を返してくれる子供達だけど、かくれんぼは当然知らない。
 かくれんぼのことはなんだかよくわからないとは思っていても、村のみんなを治してくれたボクが言うことならとても素直に聞いてくれるようだ。
 大人達がみんなボクに感謝しているのは側でみているし、チギット君がとても懐いているし、ボクも美少女スマイル全開だしね!

 そうやってお昼まで子供達の相手をしていたらあっという間に黎明の雷のメンバーが戻ってきて、村人総出でオークの解体が始まった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 検索して知っていたけれど、実際に見てもオークは豚でした。
 ただ2足歩行なので腕や足が人間のように進化――といっても脂肪でぶよぶよ――していたくらいで基本は豚だ。
 ただとても大きい。
 個体差がそれぞれあったけれど、一番大きいので2メートル半くらいの巨体で小さくても2メートルはあったと思う。

 昨日は姿を見ていなかったし、美味しい料理として登場したので食べられたけれど……今回は微妙かもしれない。
 やはり2足歩行の生物というのは忌避感が大きい。
 『耐性:精神』Lv2のおかげで解体作業の光景を直視しても気持ち悪いと思うだけで済んだのだけれど、それを食べるとなると耐性スキルに意味はない。

 ……いや……でも……食べるとなるともっと加工されて、THEお肉ってなるだろうから大丈夫かなぁ?

 村人総出の作業でもあるので小さなチギット君達にもお手伝いの仕事が回ってきたのもあって、彼らと遊ぶ時間はもう終わっている。
 ボクも暇になっているけれど――ボクは恩人であり、お客様であるので参加しなくていい――、オークの解体作業をずっと見ているのも気分が悪くなりそうだ。
 でもチギット君達が一生懸命お手伝いをしていて、時折ボクに向かって笑顔で手を振っているのでこの場を離れるわけにはいかない。

 一緒に遊んでチギット君以外の子達にもとても懐かれた。
 ボクが教える遊びを彼らは目を輝かせて聞き入り、実際に行って夢中になっていたのだ。
 そりゃ懐かれもする。もともとの好感度も高かったわけだしね。

 そんなちびっこ達が笑顔で手を振ってくれているのに逃げるわけにはいかない。いかないのだ……。

 『耐性:精神』Lv2のおかげで実害こそ出ていないが気持ち悪いものは気持ち悪い。
 そろそろ限界を迎えそうな頃にアッドがオークの解体――村人では力が足りなかったり、知識が足りなかったりで四苦八苦するような部分――を終えてその手に大きな赤い石を持ってやってきた。

「よう、ソラさん。今日はオークの肉を腹いっぱい食えるぜ!」
「そ、そうですねぇ」
「ん? どうしたソラさん、体調が悪いなら無理するなよ?」
「あーいえ、大丈夫です。あんまり解体とか得意じゃなくて」
「そうなのか? あぁまぁ、慣れないやつにはきついかもしれないな、臭いとか」

 そうなのだ。
 光景も光景だけれど、これだけ多くの死骸を解体していると臭いがすごいのだ。
 まだ1匹1匹解体する程度ならそれほどきつくはないのだけれど、これだけの量になるとさすがにきつい。それもあって短時間で限界を迎えそうだったのだ。

「まぁ無理することもねぇよ。ほらこっちきな」
「あ、でも子供達が……」
「ソラさんが倒れる方が心配かけるっつーの」
「あ……」

 それでも時折元気に手を振ってくれる子供達に手を振り返してあげたいからと残っていたのだけれど、呆れた声のアッドに手を引かれて連れて行かれてしまった。
 解体でひどく汚れた手はきちんと洗われて綺麗だったけれど、井戸の水は冷たいので彼の手も若干冷たくて、でも今のボクの小さな手を包み込むほど大きかった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「そんでこれがハイオークの魔石だ。受け取ってくれ」
「はい、ありがとうございます」

 村長さんの家まで戻ってきてリビングの椅子に腰掛けて一息ついていると、アッドがコップに水を入れて持ってきてくれてあの大きな赤い石――魔石を渡してくれた。

 大草原で倒していた魔物の魔石とは比べ物にならないくらいの大きさにハイオークのすごさがわかる。
 基本的に魔物が強ければ強いほど魔石は大きくなり、価値も高くなる。

 普通のオークの魔石は小指の先ほどしかなかった。つまり大草原の魔物と大して変わらない程度の大きさだ。
 比べてハイオークの魔石はアッドの大きな手でも握りこめないくらいの大きさがある。
 直径にして4センチメートルくらいはあるだろうか。
 まぁ綺麗な球状というわけでもないので一番幅のあるところで、って感じだけど。
 ちなみに重量はほとんどない。これは魔石に共通する特徴で、融合して大きくなってもその重量が変わらないのと一緒らしい。

 でも融合させた魔石とそれ単体で同じ大きさの魔石では、後者の方が圧倒的に価値が高くなるそうだ。

「じゃあさっそく融合して情報を消してもらえるか?」
「はい、任せてください」

 融合させる魔石は普通のオークの魔石を提供してもらっている。

 ハイオークの魔石とオークの魔石にそれぞれ魔力を流し込み、ある程度硬度が落ちたところで接触させる。
 するとハイオークの魔石の方にオークの魔石が吸い込まれるように沈み込んでいき……まるで最初からそうであったかのように融合が完了する。

「見事なもんだ。これだけの透明度を維持しているとなると相当な魔力が必要だろうな……。俺達ではとても無理だ」
「えへへ」

 感嘆の息を漏らすアッドの手放しの賞賛にちょっと照れる。
 種族特性やスキルの恩恵ではあるけれど、今のボクはハイエルフ。
 それは総じて全てボクの力だ。何憚る事のない純然たる今のボクの力に代わりはないのだ。

 異世界物の主人公がよく借り物の力だとか、偽者の力だとか言う場面はあるけれどボクはそう思わない。
 どんな過程で得た力でもそれはその人のものだ。
 それに力はただの力でしかない。
 どう扱うか、どうしたいかは本人の意思次第だと思っている。
 もちろん本人の意思とは関係なく暴走しちゃったりすることもあるかもしれない。

 ……でもそれも含めて、力なのだ。

 なんて小難しく考えたりもするけれど、便利なんだからいいじゃない。
 そう、便利なんだからいいのだ。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「さてじゃあさっそく作りますかねぇ」
「そういえば何か作るって言ってたよな。それだけの価値の魔石を使うって事は相当なもんなんだろ?
 何作るんだ?」
「実はですねぇ――」

 魔法使いの第1歩である、『魔力感知』の取得方法は1つではない。
 だが、他の方法はとても、とてもとても面倒であったりお金がかかったりする。

 今回行う方法は面倒で、さらにお金がかかる方法。
 でもその代わりボクの側にいなくても『魔力感知』を取得できる方法なのだ。

 チギット君をラバドゥーンに連れて行くことはできない。
 だからボクはこの方法を取るために手に入れるにはとても面倒だとわかっていても見つけて倒すか、大金をはたいて手に入れるしかない価値の高い(・・・・・)魔石を譲り受けたのだ。
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