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アゲハの開拓街 作者:天界

小さな弟子編

23/25

023 弟子入り




 黎明の雷との話し合いが終わり、雑談に興じることしばし。
 夕日も沈み、夜の帳が降り始めた頃にボクへの感謝の宴は始まった。

 ニルギル村はそもそも大きな村ではないので宴の規模もそれほど大きくはない。
 広場にキャンプファイヤーのように大きな篝火を焚いてその周りを村人達が囲み、準備をした料理を各々楽しむ形だ。

 主賓となるボクはといえば、一段高く設営された場所で村長さんと黎明の雷のメンバーと一緒に料理を食べたり談笑したりといった感じだった。
 もちろん今回の村人全員への治療のきっかけとなったチギット君も一緒に。

 村人達が作ってくれた料理はそれなりに美味しかったけれど、中でも黎明の雷が討伐したオークの肉がなかなかに美味しかったのが意外だった。

 ミジェスギラでのオークは所謂2足歩行の豚というイメージそのままだ。
 しかし原始的ではあっても道具を使う知能はあり、武器を持ちその巨体に相応しい膂力と生命力をもつなかなか侮れない魔物だ。
 魔物と言っても2足歩行の生物であることには変わりないので、その肉を食べるのにはちょっと忌避感があったけれど、ボクが見たときにはすでに美味しそうな料理となっていたので食べられた。

 ボクが提供したリーファグルホーンラビットの燻製肉は一度水で戻したりしてスープにして、皆が食べられるようにされていた。これも燻製肉そのままで食べるよりはずっと美味しかったのは言うまでもない。

 きっとボクが『調理』Lv5で作ったらもっと美味しくなることだろう。絶対あとで試してみよう。

 宴はどんちゃん騒ぎというようなものではなく、わいわいと皆で楽しく食べて談笑するという感じのもので食べ終わったら各自解散していった。

 ボクは主賓なので黎明の雷や村長さんと最後あたりまで残っていたけれど、一緒にいたチギット君は途中で船を漕ぎ出したのでお母さんが連れて帰っていった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 翌日、宴でお腹いっぱい美味しいものを食べたおかげで普段よりもぐっすり眠れたボクはチギット君によって起こされた。

 まぁまだ5歳の小さな子供だから許されることだけど、一応この空き家はボクが借りているもので勝手に入ってきてはいけない。
 そのことはちゃんとチギット君にお説教しておいた。

 ちゃんとごめんなさいできたチギット君なので笑顔で許してあげると、すぐに輝くような笑顔が返ってくる。

 ……うん、やっぱりこの子は可愛いなぁ。

 本日は昨日の宴でチギット君にお願いされたので一緒にすごすことになっている。
 ちなみに黎明の雷は宴に提供した以外のオークの処理を行っている。
 昨日は宴に提供する分のオークの肉だけを持ってきていたそうだ。
 討伐したオークの数はそれなりにいるそうなので残りを村に持ち帰り、保存食にしたりそのまま食べてしまうなりするそうだ。
 なので今日のお昼や夕飯もオーク尽くしになる予定である。

 いなかったことにされたハイオークなんかは死骸丸ごと燃やして骨も細かく砕いて深く埋めてしまうそうだ。
 そうしなければ野犬やら魔物やらに掘り起こされてしまう可能性もあり、別の冒険者に発見される恐れもある。
 そもそもがニルギル村近くの森にオークが住み着くこと事態が異例であったのに、ハイオークの骨やら何やらなんて見つかってしまっては大騒ぎになりかねない。
 結果的に黎明の雷が受けたオーク討伐の依頼の再調査などが行われてしまうことは目に見えているために証拠隠滅は徹底しなければいけないのだ。
 ハイオークというのはそれだけ危険な存在なのだ。

 黎明の雷の話とHow to ミジェスギラで検索した結果から総合してもボクが今まで倒してきた魔物とは一線を画すほどだと思われる。

 オークの上位種であり、オーク自慢の膂力や生命力をもっと高くしてさらには魔法まで使ってくるらしい。
 オークはその巨体もあって俊敏な動きはできないのだけれど、ハイオークは違う。
 オークよりも1回りほど大きな体を持ちながらもオークよりもずっと機敏に動くのだ。

 オークのワンランク上程度をイメージしていたが、ワンランクどころかツーランクもスリーランクも上の存在だと思った方がいいだろう。
 それでも黎明の雷はたくさんのオークを含めて殲滅しているのだからすごいものだ。伊達に勢いのあるPTではない。

 ……まぁアッドは死に掛けだったけれど。

 そんなわけでハイオークの分の討伐料金が上乗せされると、ニルギル村では身売りしなければいけない村人の数が2人や3人では済まなくなってしまう。
 だからアッドは死の間際でもあんなやり取りをしたのだ。

 ちなみによくある異世界物のようにギルドカードに討伐した魔物が記録されるなんてハイテク機能は存在しない。
 魔物の討伐証明は部位証明とかではなく、魔石によってなされる。

 冒険者ギルドでは――正確には魔石なので魔石ギルドの管轄になるのだが――魔石が最後に魔力供給をうけた座標と種族と時期を閲覧できる。

 実はこの機能は魔石コイン変換機(ラルコンバータ)の基本機能として存在するもので、『魔石のステータスカード』を引き出すというものだ。
 魔道具の最上位ランクである神話(ミソロジー)級に設定されている魔石コイン変換機(ラルコンバータ)だからこそ出来ることだ。

 ちなみに魔石を融合させてしまうと魔石のステータスカードに記載される情報が消えてしまうので、討伐証明とする場合は融合はさせた魔石は使えない。
 そもそもが魔石を融合させるには大量の魔力を用いなければ価値が低くなってしまうので冒険者で行う者は少ないのだけれど。

 ではハイオークの魔石はどうするのかというと、価値を低下させてでも他の魔石と融合させて情報を消すしかない。
 捨ててもし誰かに拾われたりしたら目も当てられない。さらにハイオークの魔石はそれ単体でかなりの魔力を持っているので深く埋めても魔物が嗅ぎ付ける恐れがある。
 だから価値の低下を覚悟しても融合させるしかないのだ。

 その話を聞いて、もったいないからとボクの豊富な魔力で融合させると申し出たのは、まぁ必然的な流れだよね。
 当然、人のいい黎明の雷なので融合したあとの魔石はボクに譲ると言う話になったのだけれど、ここは素直にもらっておくことにした。

 ……なぜならば、魔石の使い道がもう決まっていたからだ。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「お姉ちゃん先生! ほらあそこがお父さんの仕事場だよ!」
「へぇ~チギット君のお父さんは大工さんなの?」
「うん!」

 仲良く手を繋いでチギット君に案内されたのは足を骨折して仕事ができなかった彼のお父さんの仕事場だ。
 今は壊れた柵の代わりを作っているみたいだ。

 チギット君の元気のいい声が聞こえたみたいでボク達に向かって手を振っている。
 それに繋いでいない方の手をぶんぶん振って応えているチギット君の表情はとても嬉しそうだ。

 さて、チギット君のボクの呼び名が変わっている事と魔石を素直に譲ってもらった事は実は繋がっている。

 キラキラの眼差しをボクにずっと向けていたチギット君は昨日の宴でボクに弟子入り志願したのだ。
 彼曰く、お姉ちゃんみたいなすごい魔法使いになりたい、だそうな。

 ミジェスギラで魔法使いという存在は珍しいわけではないが、身近な存在というわけでもない。
 誰でも魔力は持っているものの、スキルというものが存在する以上魔法のスキルを取得しなければ魔法は使えない。
 さらにミジェスギラに存在する全ての人は――ボクという例外を除いて――スキルを取得するには各それぞれの条件をクリアする必要がある。
 しかし当然ながらスキルの取得には個人差が存在する。

 誰でもどんなスキルでも取得できるわけでは決してないのだ。
 だからこそ『魔法:光』を使えるものが稀有な存在なのだけれど。

 スキルは取得しやすいスキルとそうでないスキルが当然あり、魔法は後者だ。
 ボクが一部のスキルを取得するのに前提条件となるスキルが存在するように、この法則はミジェスギラの人達にも同様に存在する。
 魔法はどんなものでも例外なく、前提となるスキルが必須となるスキルらしい。

 ……簡単な魔法ならボクは必要なかったけどね。

 その前提となるスキルをまず取得するのが魔法使いへの第1歩だ。
 弟子入りは当然だけれど前提スキルの取得から始まる。
 しかし大抵がこの前提スキルで躓いたり、一般的に広まっている取得方法に難を示す。

 昨日の宴でのチギット君の弟子入り発言を一緒に聞いていた黎明の雷の話で、一般的な取得方法を知ったときにはボクも苦笑いが漏れた。

「弟子入りってあれだろ? 奴隷志願」
「アッド……言い方ってものを考えなさい。そこまで酷くないわよ。せいぜい側仕えよ」
「いいように使われるってことにはかわんねーだろ」
「まぁ確かに給金が出るわけでもなく、何年も扱き使われるって話だからなぁ」
「ソラさんがそんなことするとは思えないけど、でもそれがスキルの取得方法って話だしねぇ……本人の意思とは関係ないのよねぇ」

 ……これが一般的に広まっている前提スキルの取得方法。

 もちろんすぐに検索して事実かどうか確かめたけれど、一部は(・・・)合っていた。

 魔法のスキルを取得するのに必要となる最初の前提スキルは、『魔力感知』。
 スキル辞典には載っていないスキルだ。なぜならボクの種族特性のおかげである。
 要するにボクは『魔力感知』をデフォルトで持っているのでスキルとして取得する必要がないのだ。

 で、検索して判明した『魔力感知』の取得方法の1つが『魔法スキル持ちの魔力を浴び続ける事』。
 浴び続ける時間は当然個人差があるけれど、1日2日なんていう短い時間ではないのは確か。
 それだけの長い時間を必要とする取得方法なのだから、側に置き続けるだけというのは勿体無い。
 弟子なのだから身の回りの世話でもさせた方がそれっぽい。
 そうなってくると当然悪用というか、酷い扱いをするものも出てくる。
 結果として酷い扱いをされた話の方が広まりやすいのは、声が大きい人の方が注目を集めやすいのと同じだ。
 性質が悪いのはそれで実際にスキルを取得できてしまっている点だ。
 長い時間をかけて受け継がれてきた結果、『魔法スキル持ちの魔力を浴び続ける事』という取得方法が『師匠の身の回りの世話や雑事を担当する事』というものに変わってしまったのだろう。

 なんとも言えない苦笑しか出ない話だけれど、ボクは真実を知っている。
 それに『魔力感知』の取得方法は1つではない。
 こちらの方は失われてしまった方法らしいが、ボクなら可能だ。

 だからこそハイオークの魔石を譲ってもらったんだしね。

 そんなわけでボクはチギット君という、とてもとても可愛らしい弟子を持つことになったのだ。

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