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シーフードフライ

・一応ファンタジーです。

・剣も魔法も存在しますが、あまり活躍はしません。

・店主は普通のおっさんです。料理以外できません。

・訪れる客は毎回変わります。ただしたまに常連となる客もいます。

・シーフードフライの内容は日替わりです。

 詳しい内容は店主までお尋ねください。


以上のことに注意して、お楽しみいただけると幸いです。

夕暮れ時、ドワーフの硝子職人であるガルドは山を登りながら、隣を歩くギレムに尋ねる。

「なあ……ひとつ、聞いても良いかの? 」

「なんじゃ? 」

自慢の髭を揺らし、心なしか目を輝かせながら歩くギレムがガルドに問い返す。

そして、ガルドはギレムに対して一呼吸置き。

「なんでワシら山に登っとるんじゃ? 」

根本的な疑問を尋ねる。

「何って……来る前にさっき言ったじゃろうに。今日はドヨウだからメシを食いにいくためじゃよ」

何でそんなことを聞かれたのかと言った感じで当然のようにギレムが返す。

それに対し、ガルドは少し苛立ってさらに問う。

「ギレム……ワシはな、お前さんにこう言われたぞ。美味い酒と『魚』を食いに行こうとな」

目の前のギレムは、酒と職人仕事をこよなく愛する種族であるところのドワーフで、さらには酒職人だ。

ドワーフの中でも火酒を作らせたらギレムにかなうものなどそうはいない。

さらにギレムは『新しい火酒』を作り出したことでドワーフの中では一目も二目も置かれている。

そのギレムが言う『美味い酒』ならばさぞかし美味かろう。

そこはいい。

「おう。今から行く店はな、この世のもんとは思えんくらい美味い酒と魚を出す。

 ワシゃあこの歳になって初めて『新鮮な魚ってこんなに美味いもんだったのか!』と驚いたわい」

何故か胸を張るギレムに、ガルドは爆発した。

「だからな、何で魚を食いに行くのに山ん中歩いとるのかと聞いとるんじゃこのボケ! 」

山を登り始めて結構経つ。

この辺りには魚はおろか湧き水すら見かけない。

どこをどうすれば魚が出てくるのか、ガルドにはさっぱり分からなかった。

「おう。そりゃあこの先に店があるからじゃよ。もう少しでつくぞ」

(そんなわけがあるか!)

ガルドはギレムの言葉にさらに憤る。

こんなところで店をやってるバカが居たら、それは頭をかち割って中身がちゃんと入ってるかを見る必要があるだろう。

ついでに、こんなところに店があるとほざく目の前のアホも同様だ。

そう考え、そっと背中に背負った愛用のバトルアックスを撫でたそのときだった。

「ついたぞ」

ギレムが短くて太い指を指し、目的地についたと宣言する。

その言葉に思わずそちらを見たガルドは……がっつりとバトルアックスを握り締めた。

「おう……ワシにゃああそこにあるのはただの掘っ立て小屋にしか見えないんじゃがな? 」

その辺の山から切り出してきた石で作られた小屋。

人間ならばともかく職人仕事にはうるさいドワーフから見ると、掘っ立て小屋としか言い様がないボロ小屋。

店を開くどころかそもそも中に人が住んでるようには見えない。

「おう。ワシが建てたでな。大工仕事は専門外なんで少し不恰好なのは勘弁してくれい」

内心のガルドの様子など知る由もなく、ギレムは朗らかに笑う。

「なあギレム……ワシはな……お前さんのこと、友人だと『思っておった』よ……」

ドワーフは頑固で短気な種族と他の種族から言われている。

それは事実であり、ついでに侮辱されることを非常に嫌う。

こうからかわれてはいたし方あるまい。

そう思い、愛用のバトルアックスを抜こうとした、そのときだった。

「……なんじゃあの扉? 」

扉すらついていない、ボロ小屋の奥にそれを見つけたガルドが疑問の声を上げる。

小屋の奥に見えるのは、手入れの行き届いた、真鍮の取っ手がついた黒い扉。

それは雑で不恰好なボロ小屋とは対照的に、腕の良い職人仕事を感じさせる良いモノだった。

「だから言ったじゃろう。あそこが美味い酒と魚を出す店……」

驚いた顔の友人の顔を覗きこみながら、ギレムが宣言する。


「異世界食堂の入り口じゃよ」


そのギレムの台詞を聞いたガルドの顔は、以前、この扉を偶然見つけたときのギレムにそっくりな呆然とした顔であった。



チリンチリンと音を立て、扉が開く。

「いらっしゃい」

「おう。来たぞ」

ドワーフには少し高い位置にある取っ手を回し開けたギレムが慣れた様子で出迎えた中年の男である店主に挨拶をする。

「……ここが異世界か」

ここに来るのは初めてであるガルドは、キョロキョロと辺りを見渡す。

もう日が暮れる時刻だと言うのに明るい店内には、何人かの客がちらほらと見える。

殆どがドワーフの街にはいない異種族であり、中には普通人里では見かけぬ魔物同然の種族や魔族らしきものまで居る。

彼らは戦う様子も無く、ただただ美味そうにメシを喰い、酒を飲んでいた。

(なるほど、異世界と言うことか……)

その姿にガルドは内心納得する。

これほどの変わった種族が集まる場所がただの場所ではあるまい。

「で、今日のシーフードフライの組み合わせはなんじゃい? 」

「ああ。今日はタラにイカリング、それとホタテですね」

そんなガルドを尻目に、ギレムは慣れた様子で『今日の組み合わせ』を尋ね、店主も慣れた様子で答える。

「そうかそうか。ではとりあえずそれをワシとこいつの分で2人前頼む。

 あとはビールをジョッキで2杯とウィスキーのボトルをロックで。とりあえずはこれだけじゃ」

「はい。ありがとうございます」

「はやめに頼むぞい。山ん中登ってきて疲れとるからな。ほれ、ガルド。こっちじゃ」

席に着く前にさっさと注文を終え、友人を促して適当に席に着く。

「ふう。やっと一息つけるわい」

ドワーフには脚が高すぎるが、代わりに座り心地が良い尻当てがついた椅子に腰掛けて待つ。

「ところでギレム、お前さん、『ビール』と『ウィスキー』とやらを頼んどったが、そいつがお前さんが言ってた美味い酒かの? 」

「おう、それなんだがな」

ガルドの問いかけにギレムは身を乗り出し答える。

「ここにはな、ワシらの知らぬ酒がゴロゴロある。そんでどれも美味い。このワシが言うのだから間違い無いぞ」

「なに!?そうなのか」

その言葉に、ガルドは驚きの声を上げる。


新しい火酒と呼ばれるその酒は、数ヶ月前に目の前のギレムが売り出してからドワーフの間では幻の銘酒とまで言われている。

熟成が終わり、売り出されるはしから街中のドワーフたちが有り金をはたいて奪うように買い、飲み干してしまうので中々手に入らないのだ。

更には今までの、強すぎてドワーフ以外の種族には余り人気が無かった火酒より格段に味が良く、ドワーフと交流がある人間の商人が土産代わりに買っていくこともあるという。

(流石に商売になるほどの量の買い付けは他ならぬドワーフの飲兵衛どもが許さないが)

今はまだ仕込んだ量が少ないことでドワーフの間でしか出回っていないが、これから他の酒職人の作る分も含めて作る量が増え、その味が広まればドワーフ以外の種族にも飲まれるようになるだろう。


そして、それを完成させたのは他ならぬギレム。

その言葉に嘘は無いだろう。

「そうか。楽しみじゃな……」

ギレムの言葉に、ガルドがそわそわと卓の下にある短い足を揺らす。

その様子を、ギレムはニヤニヤと笑いながら見ている……自分も足を揺らしながら。


それから、待つことしばし。

「お、お待たせしました!ビールをお持ちしました!」

ギレムがはじめて見る顔の、異世界の装束を纏い、左右対称に変わった髪飾りをつけた若い娘の給仕がそれを運んでくる。

娘の左手には、取っ手がついた硝子の大きな杯が2つ。

それを一つ一つ、確かめるようにガルドとギレムの前に置いていく。

「おう!ようやく来たか!待っておったぞ! 」

「ほっほう!こいつが異世界の酒か!随分と綺麗なもんじゃのう! 」

2人は目の前にどんと置かれた酒に歓声を上げる。

ドワーフの基準ではでかすぎて細すぎる給仕の娘には目もくれず、白い雲のような泡を被った琥珀色の酒を見る。

「残りはもう少々お待ちください!それでは、ごゆっくりどうじょ! 」

娘の方もなれぬ仕事で緊張しているのかそれだけ口早に言うと、他の客の食べ終えた皿を片付けるために足早に立ち去る。


「そいじゃあ! 」

「飲むぞ! 」

そしてドワーフ2人は軽く杯をぶつけあうと、そのまま大口を開けてグラスを傾けて口の中にビールを流し込む。

音を立てて、ぷちぷちと泡を立てるビールが瞬く間に2人の乾いた喉を通って、胃袋の中に落ちていく。

硝子の杯が空になるまでは、ほんの一息。

その僅かな時間で、2つの大きい硝子の杯は同時に空になった。


「「ぷっはあ~!! 」」


ビールを一息に飲み干した2人が同時にため息をつく。

「おおう!?随分と美味いもんじゃのう!このビールっちゅう酒は! 」

「そうじゃろ!?酒精は弱いが喉を通る感触が堪らん!しかもよっく冷えとる!

 毎度思うがビールちゅうんは冷えた状態で飲むとたまらんわい! 」

目を見開き、感想を漏らしたガルドに、ギレムは嬉しそうに言葉を返す。

自分も最初は驚いた。

ビールそのものの味は麦から作る麦酒に似ているが、冷やすだけでこんなにも味が違うのかと。

それから悟った。

そして、冷やしたビールは疲れてほてった身体を冷やすのにこれ以上は無い代物であると。

この山の木陰の湧き水のように冷たいビールは山を登ってきたギレムが必ず最初に頼む酒であった。

「もう1杯行っとくか! 」

「当たり前じゃ!……おい娘!すまんがビールをもう2杯頼むわい! 」

「はい!ただいま!」

間髪居れずに皿を片付けている給仕の娘にお代わりを頼む。

「……しかし、この硝子の杯は中々に良いのう」

それを待つ間、ガルドはしげしげと空になった硝子の杯を見つめる。

まっすぐな筒に取っ手をつけただけの、飾り気の無い杯。

それは向こう側が見えるほどに透き通っていて……

「透明で、澄んだ酒の綺麗な色がよう見える……これはワシもひとつ作ってみる必要があるのう」

硝子職人として、率直な感想を述べる。

普段、ガルドが作る硝子の杯は、細工物にも強いドワーフらしい、様々な凝った細工が表面に施された芸術品である。

だが今回、ただただ透き通った、余計な装飾の一切無い杯を見て、気づく。

「澄んだ酒はそれそのものが1つの飾り……他の飾りは、場合によっちゃあむしろ邪魔じゃな」

「おう。お前さんならそう言うと思うたぞ」

同意見に至った友人に、ギレムは朗らかに笑い返す。

それから2人はそわそわとお代わりが来るのを待ち……


「お待たせしました!ビールと、あとシーフードフライをお持ちしました! 」

「「ほっほう! 」」

給仕の娘が持ってきたお代わりの酒と、頼んでおいた料理の登場に歓声を上げた。


「ほう……こいつがお前さんオススメのうまい魚料理か……」

ガルドは目の前にそっと置かれた料理をしげしげと眺める。

白い皿の上に盛られたのは、淡い緑の葉野菜の上に乗せられた、3種類の揚げ物。

木の葉のような形をした大きめのものと、丸いわっかのようなのが3つ、そして川原の石の様に小さな丸いのが3つ。

「う~む。確かにうまそうじゃが、魚か……」

ガルドに浮かぶ表情は期待半分と疑い半分。果たして本当に美味いのかという疑問。

ガルドの常識が、目の前の魚を美味いと信じきらせていなかった。


ガルドの住むドワーフの街は、鉱山に囲まれた街である。

当然海は遠く、街に運ばれてくる魚といえば、きつく塩漬けされたものばかり。

近くを流れる川でも取れないことは無いが、それも土地柄の影響か、泥臭くて小骨が多い。

ガルドにとって魚とは『とにかく塩辛いか、骨が多くて泥臭いもの』である。

食べられないわけではないが、大して美味いものではないのだ。


「まあ食うてみい。その葉っぱみたいな形をしたのが魚で、後は貝と、イカとか言うワシもよく知らん海の生き物じゃ」

そんなガルドにこちらに通うことになってから魚の美味さに目覚めたギレムは、卓の上から赤い小瓶と青い小瓶を寄せ、皿の上の白いソースも含めて3つのうちのどれを使うかを考えながら、ガルドに食べるよう勧める。

「そうか。まあそういうなら……」

少なくとも、異世界の酒は美味かった。

そのことを信じ、ガルドはシーフードフライを食べてみることにする。

手にしたフォークで魚を刺し、持ち上げる。

そして大きく口を開けて、一気にかぶりつく。


(おおお!?)

それは、ガルドが経験したことが無い味であった。

まず最初に来るのは揚げに使われた衣。

質の良い油と小麦の味。それが胃袋を刺激する匂いと一緒に軽やかに弾けた。

(こ、こいつが魚の味か!?)

そして、弾けた衣の奥からやってくるのこそ、ガルドが今まで食べたことが無い、魚とは信じられぬような魚の味。

薄く下味をつけられた、魚は熱い熱気と共にガルドの口の中に魚の旨みをばらまきながらほっこりと口の中で崩れる。

淡白な、だがしっかりとした魚の味。

生臭さも無ければ度を越したしょっぱさも無く、ついでに骨もまるで入っていない。

それが揚げられた、軽い衣の味と混ざり合って……

(これはいかん!)

ガルドは本能に従い行動をする。

空いていた左手でむんずとビールを掴み、飲む。

口の中に広がる魚の味とビール。

それはガルドの予想通り最高の相性だった。

(まだじゃ!まだ食い足りん!)

一息に魚のフライを食い尽くしたガルドは、他の2つに手を伸ばす。

まずは丸いわっかの形に揚げられた、イカとか言うもののフライ。

(ぬう!?これも美味いぞ!)

それは、先ほどの魚のフライには無かったもの……心地よい“硬さ”を持っていた。

歯をしっかりと押し返してくる歯ごたえ。

それはしっかりと歯で噛み切ることで口の中で切れ、先ほどの魚フライとは違うが同じくらい美味い味が口の中に広がる。

噛む度に広がる味にせかされるようにガルドは次々とイカを放り込み、やはり瞬く間にイカリングも無くなった。

(最後は……おお!?)

そして、最後に残った、貝のフライ。これがまた絶品だった。

衣の下から現れた貝の味は、他の2つよりも格段に濃い。

それが噛み締めた瞬間、バラバラとヒモのような形にほぐれ、崩れていく。

その感触と味に、これが一口と比べても小さいことが非常に残念に思える味。

これも瞬く間に無くなった。


「……ほんっとうにうまいのう!この魚と酒は! 」

感想は一拍遅れ、メインのフライとビールが尽きてからやってきた。

「ずるいぞギレム!お前さん、いつもこんなもんを……うん? 」

嫉妬交じりにギレムに賞賛を浴びせようとしたガルドは、それに気づいた。

ギレムが自分と同じくフライを食べている。


……3つのソースを駆使して。


「いやあやっぱりタルタルと魚フライの組み合わせは絶品じゃのう!ショウユやソースも悪くは無いが、断然白い魚にはコイツじゃ! 」

淡白な魚の味と軽やかで香ばしい衣の味、それに追加された柔らかな酸味。

最高の組み合わせを堪能しながらギレムはバクバクとフライとビールを貪っていた。

「……の、のうギレム。そいつはなんじゃい? 」

ギレムに、少しだけ震えながらガルドが尋ねる。

そんな友人の変化に気づかず、ギレムはこの店のもう1つの魅力を語る。

「おう。こいつはタルタルソースっちゅうてな。魚を食うのには欠かせない、最高の味付けじゃ。

 茹でた卵がたっぷりと入っててちょいと酸っぱくてな、これが揚げたて熱々の魚フライと絡み合うとこの世のもんとは思えんくらい美味い。

 そいでこっちの赤い方がショウユ、しょっぱいがそれだけじゃあない。こいつがまた魚料理との相性が絶品でな、ちょいとひとたらしして食うとただ焼いただけの魚の美味さが跳ね上がる。

 最後の青い方がソースじゃ。こいつは中々複雑な味でなあ、魚以外の揚げ物にも合う。ある意味万能の代物じゃな。

 この3つのうちのどれをどのフライに掛けて食うか。シーフードフライはどの魚が使われるか変わる分、毎回それが悩みの種でなあ……」

「先に言わんか!?そういう大事なことは! 」

期待に打ち震えながらガルドは思わず怒鳴った。

先ほどまでのアレですら未完成。

つまり……まだ美味くなるのだ、アレは。

そんな大事なことを黙っていた友人は許せないが、今は先にしなければならないことがある。


「すみません。ウィスキーをお持ちしま―――」

「おい!娘!追加じゃ!シーフードフライを3皿!大至急頼むぞ!」

「―――ひゃい!? 」

2人の最後の注文。長い時間溶けない、でかい氷の塊が入った硝子の杯を2つと、濃い茶色の澄んだ酒が入った瓶を持ってきた給仕の娘に急いで注文を重ねる。

「おう!お嬢さん!ワシも3皿頼むぞい!この店はメシは美味いがドワーフに出すにはちょいと量が足りなさ過ぎるわい! 」

ギレムも慣れた調子で注文を追加する。

「おう!今日は大いに食うて飲むぞ!今回はワシのおごりじゃ! 」

「おう!お前さんならそういうだろうと思ったぞ! 」

新しく料理を注文し、次が来るまでの間に、2人は新しい火酒に良く似た味の……更に洗練された味のウィスキーを開けて、グラスに注いで飲みながら大きな声で話し合う。

「くっはあ~!異世界の酒はどれも美味いのう!なんじゃここは神の園か!? 」

「かも知れん!ここのもんはどれもこれもこの世のもんとは思えんわい! 」

瞬く間に量を減らしていくウィスキーをカパカパと飲みながら、ドワーフ2人の口は止まらない。

「もしかしてあれか!?酒も魚もまだまだ美味いもんがあったりするのか!? 」

「もちろんじゃ!特にあれ、西の大陸の米とやらを使ったセイシュちゅう酒は美味い!それに葡萄酒もこっちのは一味違う!

 魚にしてもフライ以外にも美味い料理がたぁっぷりあってな!もう毎日でも来たいくらいじゃよ! 」

「それはワシも同感じゃ! 」

ギレムの言葉に同意しながら、ガルドはふと悟る。

ギレムがなんで扉の前に掘っ立て小屋を建てたのか、その理由を……


翌朝。

掘っ立て小屋の硬い石の床で目を覚ましたガルドは、飛び上がるように起き出した。

(……アレは、夢ではないようじゃな)

昨日のことは何かの夢であったのではないかと不安になり、すぐに違うことを思い出す。

手の中には、自分が確かにあそこへ行った証拠として、封を切っていないウィスキーの瓶がわが子のように抱かれている。

(まあ、あの程度でドワーフが正体をなくすわけも無いか)

あの後、2人は美味い酒と魚を貪り続けた。

杯を重ね、何本もの酒瓶を空にし、皿を重ねた。

そして、ドワーフでも軽々と、とは行きそうに無い大鍋を片手で持ち上げた、でかい魔族の女がきた頃、店は閉まる時間となり2人は帰ってきたのだ。

(……コイツには感謝せねばならんな)

すぐ横で大いびきをかいて寝続ける友人に、ちらりと視線を向ける。

美味い酒と、美味いメシ。そしてほぼ空になった財布とその代わりに手に入れてきた素晴らしい酒入りの硝子瓶。


これだけのもんを貰ってしまっては、返さねばならないものは山ほどある。

(まずは次までにこの小屋をもう少しマシなもんにするかのう……)

ガルドはこれからの算段を立てる。


この山の中に場違いなほど立派な石の山小屋が誕生し、ドワーフの街を訪れる旅人や商人の休憩所として重宝されるようになるのは、もう少し先の話。


その小屋は部屋の管理者であるドワーフによって入ってそのまま寝られるほどに整えられたものであったが、一つだけ謎がある。

小屋の奥に取り付けられた、並大抵のことでは壊せぬ、頑丈な鋼の扉。

この小屋を作ったドワーフたちしかその鍵を持っていない扉の奥には何も無い、非常に狭い部屋があるだけだと言う。


何故こんなところに意味も無く宝物庫にでも取り付けるような扉をつけたのか。

その意図を知るのは作った張本人たちだけである。

今日はここまで。

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