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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

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ミラルディア滅亡計画

95話


 俺は魔王軍やリューンハイトを取り巻く情勢、それに周辺都市との関係について説明した。
 その後でこう説明する。
「魔王様はミラルディア南部の都市全てと同盟を結びたいとお考えだ。北部と南部の対立は知っている。魔王軍に協力してくれるのなら、こちらも南部の待遇改善などに協力したい」
 ペトーレはさっきまで怒鳴ったり笑ったりしていたのが嘘のように、落ち着いた表情でじっと考え込んでいる。


 それから彼は、慎重に問いかけてくる。
「聞こえはいいが、それはつまり南部と北部を完全に分断しちまうつもりじゃな」
 さすがに甘いセールストークには乗ってこないようだ。
 じゃあいつも通り、悪い笑顔を浮かべて交渉しようか。
「その表現は正確ではないな」
「どういう意味じゃ」
「魔王軍はミラルディアを滅ぼし、地図から消滅させる」
「滅ぼすじゃと!?」
 もちろん、国家としての話だ。物理的に滅ぼす訳ではない。
「魔王軍はミラルディア南部の都市全てと同盟を結び、北部から独立させる。魔族と人間が共存する、新しい国の誕生だ」


 ペトーレはじわりと緊張感をにじませ、口を開いた。
「大変なことになるぞ。わかっとるのか?」
「大変なのは北部の連中だけだろう。南部のあなたがたが、こんな国の存続を望んでいるとも思えぬが」
「うむ……」
 額に浮かんだ汗を拭って、ペトーレは俺に問いかける。
「南部をまとめた後は、どうする気じゃ?」
「いずれは北部にも我々の存在を認めさせ、十七都市全てで魔族が生活できるようにする。もっとも、それは次の世代に委ねるつもりだがな」
 一般市民にかなりの被害を出したので、さすがに北部民は魔族との共存を認めないだろう。
 記憶が薄れ、流血の事実が風化するのはかなり先になるはずだ。下手をすると百年以上かかるかもしれない。


「うーむ……」
 ペトーレは眉間に皺を刻んで考え込み、それからこう答えた。
「あんたらの考えはわかった。だがふたつだけ、確認しとかなきゃならん。あんたらの能力と、あんたらの信用度じゃ」
 確かに大事な点だな。
 ペトーレは続ける。
「能力については、各地に送った密偵からいろいろ聞いとる。リューンハイトとその周辺を実効支配しとるようじゃし、これについては十分じゃろう」
「爺さん、密偵なんか送ってたのかよ」
 ガーシュが言うと、ペトーレは溜息をついた。
「隣の部屋で何が起きとるか知っとかんと、安心して眠れんわい。ベルーザにも送っとる」
「まじか」


 絶句するガーシュを尻目に、ペトーレは言う。
「信用についても、北部よりはマシのようじゃと考えとる。北部はわしらに何か隠し事をしとるからな。その上で一方的に協力を求めてきよる。ああいうのは好かん」
 魔王軍の信用度については、アイリアという絶大な保証人がいるからな。彼女にはミラルディアから真っ先に独立したという、捨て身の決断がある。


 ペトーレは俺に懐疑的な視線を向けてくる。
「だがお前さんたちの船に乗れば、わしら南部には北部との対決が待っとる。血を流す覚悟もせにゃならん。そのときお前さんたちは、どう動く?」
 難しい質問だ。
 覚悟としてはもちろん、南部民と共に戦うつもりだ。しかし現在の魔王軍は規模が小さく、戦線が拡大すると兵を十分に送れない。
 場合によっては南部民だけが戦う局面もあるだろう。
 だから軽はずみな約束はできない。
 ちょっとずるいが、何も確約せずにごまかすことにしよう。


 いろいろ考えた末に、俺はこう答える。
「北部に対しては、まず外交だ。軍事力はあくまでも外交のカードとしてちらつかせる。そういった使い方なら、我々魔族が最も得意とするところだ」
 人狼だの吸血鬼だの巨人だの、人間が怖がりそうな連中が大量にいるからな。勝手に想像して、勝手に怖がってもらえる。
「無論、北部がやる気なら魔王軍は容赦しない。街ひとつを更地にするぐらい、我々には造作もないことだ」
 準備や後かたづけが大変だし、犠牲や危険を伴うが、やろうと思えばできる。やらないと思うが。


「魔王軍が……いや魔族があなた方に求めているのは、安住の地だ。人間に討伐されることなく、暖かい食事と清潔な寝床、それに心を許せる仲間に囲まれて暮らしたい」
 ペトーレが少し意外そうな表情をしているので、俺は続ける。
「そのためには、魔族が人間の社会に基盤を作ることが必要だ。幸い、リューンハイトは魔族を受け入れてくれた。ミラルディア南部全体に魔族を受け入れる社会ができれば、人も魔族ももっと豊かに暮らせる。だからどうか、ロッツォの城門を開いてほしい」


 ペトーレが確認するように問いかけてくる。
「ロッツォ太守として、もう一度確認をしておく。北部と戦争になってもわしらに任せて知らん顔、なんてことはないじゃろうな?」
「侮ってくれるな。俺たちは魔族だぞ」
 俺がパチンと指を鳴らすと、人狼たちが変身した。
 ロッツォ兵たちが軽く動揺している。
 俺は八人の恐ろしい人狼を背後に従えたまま、穏やかに微笑む。
「暴れたがるこいつらをなだめるのに、毎日苦労しているのだ。戦場に駆けつける機会は逃さんよ」


 怯える兵士たちとは対照的に、ペトーレは落ち着き払ってうなずく。
「なるほど、戦う気はあるんじゃな」
「無論だ。だが牙や爪をどれだけ研ぎ澄ませようが、それだけでは安住の地は得られんのだ。だから我々は誠意と理性をもって行動し、人間との間に信頼関係を築いていく。我々は決して同盟者を裏切らない」
 俺がそう締めくくると、背後の人狼たちは元の姿に戻った。
 よしよし、日頃の訓練の成果が発揮されているな。


 ペトーレは俺をじっと見ていたが、やがてうなずいた。
「筋は通っとる。わしが集めた情報とも矛盾しとらん。そして提案を断れば、ロッツォは魔王軍の支配地域に囲まれて孤立する。となれば、もう同盟を受け入れるしかないじゃろ」
「感謝する。細かい条件については、双方でよく話し合った上で合意したい」
 俺が言うと、ペトーレは苦笑してみせる。
「正直に言っちまうと、まだ不安はあるんじゃがな。航路の件もあるし、むげにはできんわい」
 信頼関係はこれから築いていくことにしよう。
 魔王軍はお役に立ちますよ。


 その後、俺はペトーレと細かい条件の相談に入る。
 ロッツォ側は漁業と交易の自由を求めてきただけなので、俺は全面的に保証することにした。
 代わりに提供してもらうのは魔族の居住地、そして有事の際の軍事支援だ。
「ロッツォの人口は公称五千人じゃが、実際には二万を超えとる。衛兵隊以外にも、銛打ち漁師のせがれどもを鍛えた槍隊が千ほどおる」
 いざとなれば、この槍隊を派遣してもらう予定だ。彼らはジャベリンの名手だから、城壁を守るときにも役立つ。
 短期間なら市民兵も三~四千は動員できるとのことで、なんとも頼もしい。


 その他の交渉も無事に終わったので、俺はペトーレの招きで食事をごちそうになることにした。
 今さら毒殺の心配もないだろうが、一応用心はしておこう。
 そう思って警戒していたのだが、オリーブオイルとニンニクをたっぷり使った魚介パスタが出てきたときには、危うく理性が飛びそうになった。
 でっかい貝柱とエビとイカが惜しげもなく盛られ、香辛料の魅惑的な香りを漂わせているのだ。
 前世でこんなの注文したら、一皿二千円は取られるぞ。
 さらに磯魚を煮込んだブイヤベース風の料理や、鯛っぽい魚の香草焼きも出てきた。とどめに渡り蟹の酒蒸しだ。
 昼間っからこんな贅沢していいのか。


 ペトーレが勝ち誇った顔で笑う。
「これがロッツォの漁師飯じゃ。ベルーザの田舎料理とは訳が違うからな。じゃんじゃん食え」
「なんだとクソジジイ」
 ペトーレとガーシュが口論を始めたが、俺はどっちも好きなのでほっとくことにした。
 リューンハイトに帰ったら食えないから、おかわりもらおう。
 パスタだけでも五皿は食うぞ。
 ああしかし蟹も食わねば。


 ベルーザ勢も人狼たちも豪快に料理を平らげているが、気の毒なのはパーカーだ。骸骨の彼には、食べるものがない。
 彼はしばらく会話だけ楽しんでいたが、やがて席を立った。
「人魚たちがどうしているか、ちょっと様子を見てきてもいいかい?」
「ああ、そうだな。彼女たちの付き添いを頼む」
 俺がそう答えたとき、ペトーレが振り返る。
「なんじゃと? 人魚か?」
 真剣な表情だ。
 なんだなんだ、また新しいトラブルか?


 俺は一瞬不安になったが、ペトーレに事情を説明すると彼は大変に喜んだ。
「なんと、お前さんたちは人魚も救ってくれたのか! 我がフィカルツェ家、いやロッツォにとって、人魚は守り神じゃ!」
 まじか。
「初代がここに上陸したときに、人魚の助けがあったと伝え聞いとる。安全な航路を教えてくれた上に、歌の力で獣たちから守ってくれたとな」
 ペトーレはニコニコ顔だ。
「わし自身、若いときに人魚に助けられたことがあるんじゃぞ」
「おい本当か!? 初耳だぞ、爺さん」
 ガーシュが蟹を頬張りながら胡散臭そうな目で見ているが、ペトーレは自慢するように胸を張る。
「わしゃ見ての通りの色男じゃからな」
 見ての通りと言われても……まあ、若い頃は確かにハンサムだった可能性もありそうだが……。


 ガーシュがしみじみと呟く。
「なんだ、それなら人魚が船を襲ってるなんて心配するんじゃなかったな……」
 とたんにペトーレはくるりと反転すると、猛然とガーシュの頭をこづき始めた。
「当たり前じゃろうが! このボンクラめ! 人魚が危険なら、お前がガキの時分に言い聞かせとるわ!」
「痛えな! だったら安全だってことも教えとけよ!」
「安全かどうかは他人の言葉を鵜呑みにせず、自分で確かめんか!」
「じゃあ警戒したっていいだろうが!」
「グダグダうるせえ!」
 また始まった。
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