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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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新兵器導入

25話


 それからしばらくは、俺ものんびりした日々を過ごすことができた。
 魔王軍占領下の都市ベルネハイネンとの交易も始まり、リューンハイトはますます活気を増している。
 ただ、あっちから来る行商人は全員吸血鬼なんだが、こっちで悪さをしなければ大目に見よう。


 衛兵隊も任務に復帰して、街角や大通りで治安維持に努めてくれている。
 彼らが俺たちを見る目はまだまだ険しいが、たまに人狼の分隊と雑談している光景も見かけるようになった。


 そんなある日、ついに待ち望んでいたものが到着した。
「遠路はるばる御苦労だった」
 俺は南門に到着した集団を出迎えていた。
 竜人たちの部隊だ。荷車には防水加工を施した樽が積まれている。


 指揮官らしい竜人が進み出ると、俺に敬礼してきた。
「第一師団より出向してきました、竜火工兵隊のクルツェ技官です。総員二十四名、異状ありません」
「了解した」
 俺も敬礼を返す。
 彼が青い鱗をしているのを見て、俺はふと気がついた。
「もしかして、クルツェ殿はバルツェ殿の御身内か?」
「はい。バルツェは弟です。優秀な弟を持ち、誇りに思っております」
 名前が似ているのでもしかしてと思ったが、やっぱりか。
「弟がヴァイト殿をいつも褒めていましたので、お会いするのを楽しみにしておりました」


 クルツェは魔王から称号を授与されていないので、扱いは一般の兵士と同じだ。
 見るからに頭脳労働者という感じだし、無理もないだろう。獣鬼隊のドッグあたりと戦ったら、一発でぺしゃんこにされそうだ。
 しかし俺はクルツェと会話しているうちに、彼が優秀な人物であることに気づいた。これなら魔王からかなり重用されているはずだ。
 おそらく俺と同格、あるいはそれ以上かもしれない。


 クルツェ技官は俺の執務室で秘蔵の緑茶を飲みながら、魔王軍が生産している火薬について説明してくれた。
「『竜の息吹』は武器として使用した場合にも絶大な効果を発揮しますが、運用の手間を考えると合理的ではありません」
 その火薬を使って、鉄砲隊を作りたいんだけどな……。そう言いかけたが、あまり言うとまた不審に思われる。もしかすると開発中かもしれないし、もう黙っていよう。
「ですが私が独自に開発した調合により、さらに有用な兵器を生み出すことができました」
 おお、やっぱり鉄砲か? 火縄銃なのか?


 俺が身を乗り出すと、クルツェ技官は得意げに小さな玉を取り出した。期待していたのと違うが、爆弾のようだ。
「これが新開発の『竜玉』です」
「ほほう」
「金属を用いまして」
 破片で殺傷するタイプか。恐ろしいな。
「赤、青、黄色、緑……」
「待て、何の話だ」
 すると彼は得意げに微笑み、こう言った。
「金属を燃やすと、様々な色のついた炎を生じます。これにより、色とりどりの爆発を発生させることができるのです」
 魔王軍の新兵器は、ただの花火だった。


 俺はもうこれ以上ないぐらい落胆したが、クルツェが優秀な技官であることは理解できた。
 それに考えてみれば、この花火は使い道がありそうだ。
「これを打ち上げれば、広い範囲に命令や報告を送ることができるな」
 クルツェが驚いた顔をした。
「その通りです。なぜそれを?」
「魔王陛下が送ってこられた人員と装備だ、何か使い道があるはずだと思ってな。ほとんど当てずっぽうだよ」


 犬笛は犬人と人狼にしか届かないが、信号弾なら竜人や人間にも伝えられる。狼煙より手っ取り早いし、夜間も使える。
 よし、こいつはありがたくいただいておこう。
「素晴らしい発明だ、クルツェ殿。さすがはバルツェ殿の兄上だけのことはある」
「恐縮です。……しかし、一目見てこの兵器の有用性を見抜かれるとは、噂に違わぬ名将ですな」
 俺は別に名将ではないが、お世辞でも褒められると嬉しい。


「ところでヴァイト殿、城門前に武装した人間の兵士がいたのですが」
 クルツェが言っているのは、衛兵隊のことだな。珍しいのだろう。
「彼らはリューンハイトに駐留している、ミラルディア同盟軍の衛兵隊だ」
「なんですと!?」
 俺は竜人族が大声を出すのを、初めて聞いた。
「なんだなんだ、びっくりするじゃないか」
「し、失礼いたしました。しかし彼らは敵ではありませんか!?」
 ああそうか、魔族的にはその認識か。


「彼らは投降して、現在はリューンハイトの治安維持のために独自に活動している。中立的な立場だ」
「中立……」
 クルツェはまだ信じられないといった様子で、街角の衛兵たちを窓から見下ろしている。
 衛兵たちは剣と短槍で武装していて、その気になれば竜人や犬人に危害を加えるぐらいは造作もない。


「本当に大丈夫でしょうか?」
 俺も本当に大丈夫なのか自信はないが、人狼隊だけでは手が足りないから信じることにしている。
「彼らが剣を捧げる相手はミラルディア元老院でも、信じる神でもない。リューンハイト市民だ。だから無用な争いは起こさない」
「私には理解できません……」
 クルツェは心配で仕方ない様子だったが、まあすぐ慣れるだろう。


 こうしてリューンハイトには、人狼、犬人、竜人、吸血鬼が出入りするようになった。
 人狼は荒っぽいが俺に絶対服従だし、犬人は陽気で人なつこい。竜人は理知的で冷静だし、吸血鬼は血さえ吸わなければ普通の人間とそう差はない。
 人と魔族が行き交う街の通りを見ていると、なんだか少しだけ日々の疲れが癒されるような気がした。
 太守のアイリアは処理する事案が増えて大忙しのようだが、税収も増えるだろうし、頑張ってもらおう。


 それよりも目下の問題は、トゥバーン攻略だ。
 北部戦線が後退の一途をたどっている現在、南部戦線は前進を続けなければならない。魔王軍全体の士気にも影響する。魔族は強い者にしか従わない。
 魔王本人は半神ともいえるほどの強さを誇るが、魔王軍が強くなければ兵は離反していく。そういうものだ。
 師匠がそろそろ迎えに来る時間なので、今日も魔王に報告に行こう。


「まずいことに、また一都市奪還されてしまいました」
 報告を終えた後、俺はグルンシュタット城の幹部食堂で副官のバルツェと昼食を摂っていた。
 バルツェは困り果てた顔をしている。今日もバッタの香草炒めをつまみながら、溜息をついていた。
 第一師団でも精強無比を誇る蒼鱗騎士団の団長が、何とも情けないありさまだ。
 まあここなら兵士に見つかる心配はないから、これが彼の素顔なのだろう。


「第二師団は種族間の連携がとれておらず、各隊が手柄を求めて個別に進軍しています。補給線も維持しないため、孤立して撃破される部隊が続出しているのです」
 魔王は合理的で近代的な兵站を整えて軍を動かしている。
 しかし前線までは指示が行き渡らないため、戦況が進むにつれて第二師団には勝手な行動が目立つようになっていた。
 獣鬼隊のドッグみたいな馬鹿でも、第二師団では知将扱いらしいからな……。
「第二師団は戦線の維持に手一杯で、報告に戻れる将がいないようです。私が代わりに魔王陛下に御報告しているのですが、情けない書状を読み上げるのもつらくて……」


 バルツェは食後に小さな布袋を取り出し、錠剤のような小さな石を飲み込んだ。
「ああ、これですか? 胃が痛くて、軍医から薬用胃石をもらいました。あまり効いていませんが」
 胃薬みたいな代物のようだ。
「……ご心労、お察しします」
 顔はトカゲみたいだけど、俺はこの人にどんどん親しみを覚えてくる。


 苦労性の同僚のためにも、ここは俺が頑張らなくては。
「南部戦線は、我々第三師団が責任を持って攻略しています。リューンハイトも落ち着いてきましたし、トゥバーン攻略に私も協力させてください」
 するとバルツェがテーブル越しに俺の手を握りしめた。
「ヴァイト殿には陛下も期待しておられます。どうか魔王様のお気持ちが楽になるような報告を、ぜひお願いします」
 本当に大変だな、この人も。
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