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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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烈走の乙女

26話


 その後、第三師団によるトゥバーン攻略のため、魔王と師匠によって極秘の会議が行われたらしい。攻略を指揮する将も決まったらしく、俺も急に忙しくなってきた。
 トゥバーンから一番近いのが、俺たちがいるリューンハイトだ。だからこの街が、トゥバーン攻略軍の中継基地となる。


 俺は西門の森の手前で、犬人隊に建設作業の開始を命じた。
「行軍で疲れた兵士を休ませる場所だ、雨風だけはしのげるようにしておけ! 後はなんでもいい!」
 我ながら酷い言いぐさだとは思うが、資材と人手が足りないのだ。


 今回の主力部隊は、人馬族らしい。上半身が人で、下半身は馬。いわゆるケンタウロスだ。困った連中だ。
 何が困るって、馬小屋規格の宿舎が必要なことだ。街の中に入れても、泊まる場所がない。五百頭……いや五百人も来るからな。
 だから俺は慌てて、犬人の工兵たちに宿舎の建設を命じたのだ。


「よう、大将。そこにいたのか」
 俺を呼び止めたのが、人狼隊の鍛冶師・ジェリクだ。
 彼は半裸で駆け寄ってきて、俺に蹄鉄を見せた。
「人馬用のサイズだから、馬用のが使えなくてな。新しく作るしかなかったぜ。これでどうだ?」
「どうだと言われてもな……」
 手にとってみたが、俺にはわからない。
「お前の作る物に間違いはないだろ。任せる」
「よし、じゃあ急いで作るからな。俺のシフトに何も入れるなよ?」
「わかってるって」


 今度はファーンお姉ちゃんだ。
「ヴァイトくん、人馬族って何食べるの? 干し草?」
「いや上半身は人間だから、干し草は食わないんじゃないかな……」
 もしかしたら食べるかもしれないのが、魔族の恐ろしいところだ。
 一応、人馬兵一人につき人間の食事二人分を用意することになっている。人狼ほどではないが、やはりよく食うようだ。


「どうしよう、お肉そんなに用意できないよ」
「こんなに肉肉いうのは、俺たち人狼ぐらいだ。パンと干し果物でもつけとけばいいよ」
「わかった、手配してくるね」
 ファーンお姉ちゃんは慌ただしく駆け出していった。
 種族が違うと常識も生態も違うので、とにかく大仕事だ。


 そんなこんなで俺たちが苦労していると、犬人の警備兵が駆けつけてくる。
「南門になんか接近してます! 千五百ほど!」
「千五百?」
「騎兵っぽいです!」
 おかしい、人馬隊にしては数が合わない。
 俺はただちに設営作業の中止を命じて、犬人たちを西門から市内に退却させた。
 どうなってるんだ。


 俺は南門に駆けつけると、城門を閉じるよう命じた。遠吠えで部下たちを呼び寄せる。
 非常召集を受けて、人狼たちが南門に続々と集まってきた。
「ヴァイト、今日は援軍が来る日じゃないのか?」
「あっちから敵は来ないだろ?」
 口々に言う人狼たちに、俺は念のため警戒するよう伝える。トゥバーン義勇隊のときもそうだったのだ。


 接近してくるのは確かに騎兵のようだったが、徐々に姿がはっきり見えてきた。
 なんだ、やっぱり人馬族じゃないか。
 上半身は鎧を着た人間の戦士で、下半身はポニーぐらいの大きさの馬。なかなかに勇ましい外見だ。
 とはいえ、報告と違う規模なのは気になる。


 やがて人馬兵たちが城門前に整列すると、その中から少し小さめの人馬兵が進み出てきた。
 短槍に小盾という出で立ちの人馬は、槍をくるんくるん振り回しながら叫ぶ。
「やーやー我こそは魔王軍第三師団副官、『烈走』のフィルニール! 開門、かいもーん!」
 女の子の声だ。


 フィルニールという名前は聞いていた通りなので、俺は城壁から飛び降りて彼らを出迎えた。心配した人狼たちも、ぞろぞろついてくる。
「第三師団副官のヴァイトだ。初めまして、かな?」
 俺が名乗ると、人馬族の少女は嬉しげにうなずいた。
「うん、初めましてだね! ボクは魔術師じゃないけど、ゴモヴィロア様の弟子のつもりだよ! よろしく、センパイ!」
「お、おう」
 どうも調子が狂うな。


 どうやら問題なさそうなので、俺は彼らを西の森へと案内した。
「市内に入っても人馬族用の施設はないので、ここに陣を用意した。五百人分だが」
「えー、なんで五百人だけなの?」
 ふくれっ面のフィルニールに、俺は溜息をついて説明してやる。
「貴殿が正確な人数を報告しなかったからだ」
「いやー、五百人だけのつもりだったんだけど、みんなついてきたいって言うから……エヘヘ」
 エヘヘじゃない。


 しょうがないので、犬人隊に命じて天幕も張らせることにした。魔王軍の将兵を野宿させるのは忍びない。何とか足りそうだ。
「フィルニール殿」
「ボク後輩だし、呼び捨てでいいよ」
 ニパッと笑うフィルニール。無邪気でかわいいが、指揮官として本当に大丈夫なのか、こいつ。


「フィルニール、よく聞きたまえ。魔王軍は趣味の集まりでもないし、慈善団体でもない。報告は正確に行い、決められた通りに行動してくれないと困る」
 俺がたしなめると、フィルニールは背筋を伸ばして敬礼した。
「はい、以後気をつけます!」
 うん、なかなか素直じゃないか。
「だからもう怒ってないよね、センパイ?」
「その呼び方やめてくれないかな」


 俺は彼女を太守の館に招き、執務室に通した。蹄でカーペットがだいぶ傷むと思うが、太守のメイドたちには後で謝っておこう。
 さて、仕事の相談だ。
「人馬隊千五百と、メレーネ先輩からの屍蝋兵が三百。後は師匠が骸骨兵千と一緒に参戦だな?」
「センパイは?」
 だからその呼び方やめろ。
 なんかくすぐったくなるだろうが。


「人狼隊はリューンハイトの防衛があるからな……」
 リューンハイト衛兵隊が謀反を起こす可能性は限りなく低いが、だからといって留守にもできない。人狼隊は動かせない。
「センパイに骸骨兵を二千貸してるって、お師匠様が言ってたよ?」
「出さないぞ。リューンハイト防衛に使うからな」
 するとフィルニールは明るく笑った。
「大丈夫だよ、敵が来るとしてもトゥバーンの救援だって」


 俺は地図をじっと見つめる。
 リューンハイトは交易都市だから、近隣の都市とは全て交易路が通っている。攻め込むのに便利だが、敵に攻め込まれやすい場所でもある。
 ただ、ミラルディア同盟軍の主力は北部戦線で激戦を繰り広げていて、こちらに攻めてくる可能性は低い。


「しかし、油断する訳にはいかんしな」
 俺が渋っていると、フィルニールは身を乗り出してこう言った。
「センパイ、このトゥバーン攻略には南部戦線の……ううん、魔王軍の未来がかかってるんだよ。絶対に失敗できないんだ。だからお願い、兵を貸して」
 真剣なまなざしだった。俺は思わず、うなずいてしまう。
「そ、そうだな……」
「それにほら、トゥバーン陥落させたら、ミラルディア同盟軍はリューンハイトよりも先にトゥバーン奪還に来るよ? リューンハイト安泰にならない?」
 一転してまたお気楽な口調になるフィルニール。


 だが俺は、さっきのフィルニールの真剣なまなざしが脳裏に焼き付いていた。
 それに彼女の言い分は正しい。さすがに副師団長に取り立てられるだけのことはあって、戦況を見る目は確かだ。
「フィルニール。お前、骸骨兵動かせるか?」
「無理!」
「それじゃあ、どうしようもないな」
 俺は冷たく突き放す。
 しょげるフィルニール。


 俺は立ち上がると、彼女の背中をポンと叩いた。
「なので、俺が骸骨兵を連れていく。師匠に許可もらっとけよ」
 みるみるうちに彼女の表情が明るくなり、蹄を蹴立てて俺に抱きついてきた。
「ありがとう! ボク、センパイ大好き!」
 だからその呼び方やめろ。
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