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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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人狼流尋問

16話


 こうしてリューンハイト防衛戦はあっけなく終わったが、戦闘よりも戦後処理の方が厄介なのは相変わらずだ。
 住民の大半は何が起きたのか知らないが、外で戦闘があったことには薄々気づいているようだ。
 魔王軍と敵対している勢力といえば、もちろん人間である。
 俺たちが戦闘で人間を殺したことには、もちろん気づいているだろう。

 俺たちからしてみれば真っ当な戦争でも、市民感情としては「魔物が人間を殺している」ことに違いはない。人間同士の戦争とは、またちょっと意味が違う。
 さて、どうしたものか。


 部下たちが城壁の外に戦死者を合葬してくれたのを、俺は確認する。うん、なかなかいい墓だ。
 ただ、墓碑のひとつぐらいは作っておいて欲しかったな……。あまりにもそっけない。このへんは人狼と人間の差か。
 後で街の石工組合に相談しておこう。
 俺はさっきまで生きて戦っていた敵兵たちに手を合わせると、太守の館に向かった。
 おっと、そろそろ人間の姿に戻っておこう。


 太守の館に帰ったとたん、俺を呼ぶ怒号が轟いた。
「ヴァイトくん!」
 ガーニー兄弟を引きずりながら俺に詰め寄ってくるのは、ファーンお姉ちゃんだ。
 こんなに怒ってる彼女を見るのは、たぶん十年ぶりぐらいだろう。何があったんだ。
「ヴァイトくん、そこに座りなさい!」
 あ、俺が怒られてるのか。


 理由はわからないが、とにかくファーンお姉ちゃんには逆らえない。
 俺は言われた通り、椅子に座って彼女を見上げた。
「ど、どうした?」
「どうしたじゃないでしょう、どうしたじゃ!」
 ファーンお姉ちゃんは机をバンバン叩く。右手にしがみついていたガーニー兄が、一緒に振り回された。
「ヴァイトくん、さっきの戦闘で自分も敵の中に突っ込んだんだって!?」
「あ、ああ」
 俺はうなずく。
 とたんにファーンお姉ちゃんの眼光が俺を射抜いた。


「指揮官が乱戦に突入しちゃダメでしょ! だいたいヴァイトくんに何かあったら、骸骨兵は誰が動かすの!?」
 それもそうだ。兵を預かる身というのを、すっかり忘れていた。
 どうも人狼に転生して以来、戦いになると興奮しすぎる傾向があるようだ。
 前世の記憶は持っていても、この脳は人狼の脳だから、やっぱりアドレナリンみたいなのがドバドバでるんだろうか。興味深い。


「聞いてるの!?」
「あっ、はい、聞いてます!」
 背筋を伸ばし、思わず敬語で応えてしまう俺。
 ファーンお姉ちゃんは屈強なガーニー兄弟を左右に引きずったまま、俺に顔を近づけてきた。
「あなたはもう、近所のヴァイト坊やじゃないんだよ? 私たちのボスなんだから」
「ああ……確かにそうだ」
 完全に俺のミスだ。


 俺の顔を見て、ファーンお姉ちゃんは語気をやわらげる。
「ほんと、気をつけてね。ヴァイトくんだけが頼りなんだよ。私たちには、人間の扱い方はわからないから……」
 確かに俺がいなくなったら、今の占領方針を引き継ぐ者がいない。後はどうなるか容易に想像がつく。
 だから俺は改めて、ファーンお姉ちゃんに頭を下げた。


「すまない、ファーン。俺が軽率だった。以降は指揮に徹する」
「うん、戦うのは私たちに任せといてよ」
 ファーンお姉ちゃんは、やっと笑顔を見せてくれた。
 夏の太陽のように、眩しい笑顔だった。
 それにしても、責任者というのは厄介だな……。


 ファーン分隊長のお怒りが収まったようなので、俺は執務を再開する。急いで処理しないといけないことがあるのだ。
「えー……あれだ、捕まえた男たちは地下室か?」
 するとガーニー弟がうなずいた。
「ああ、全部で六人。言われた通り別々の部屋に閉じこめた」
「ありがとう。見張りは?」
「モンザ隊だよ」
 モンザなら絶対大丈夫だろう。もし俺が人狼秘密警察を作るとしたら、あいつを長官にする。そういうタイプだ。


 俺は立ち上がると、三人に指示を下した。
「よし、俺が尋問してくる。それまで太守を地下室に入れるなよ」
「それなら私の出番かな?」
 ファーンが大きく伸びをして、ガッツポーズをしてみせた。
「私は一応、ヴァイトくんの次に偉いって思われてるみたいだからね。適当にあしらっとくよ」
「お願いするよ」
 さて、地下室に向かおう。


「あ、隊長」
 地下室の階段に腰掛けていたモンザが、のんびりと俺を振り返った。
「尋問するの?」
「するぞ。記録係を頼む」
「いいよー」
 ここの見張りは残りの三人に任せて、俺たちは尋問に取りかかる。


 俺は六人の中で最年長の男を引っ張り出すと、地下の一室で尋問を開始した。
 四十代というところか。身なりはこざっぱりしていて、服の生地も贅沢ではないが上等だ。
「名前は?」
 返事はない。
 言いたくなければそれでもいい。この身なりなら、リューンハイトでそれなりにいい暮らしをしているはずだ。誰かに聞けばわかる。


「モンザ、こいつを街の広場に連れ出して晒し者にしたらわかるかな?」
 するとモンザは俺の意図を察したようで、ペンをくるくる回しながらのんびりと応えた。
「それよりこの人殺しちゃって、次の人に聞いてみたらどうかなあ? 時間がもったいないよ」
「ふむ」
 男は無表情だが、じんわりと汗の匂いがする。恐怖を感じている匂いだ。


 俺はもう少し脅すことにした。
「どうせ殺すなら、こいつの家族も調べてからにしよう」
 俺が言ったのはそれだけだが、男の顔色が目に見えて変わる。恐怖の匂いが急激に増した。
 前世で見た映画で、こんなシーンがあったな。まさか自分がやる羽目になるとは思わなかったが……。


 たっぷり怖がらせた後で、俺は静かに告げた。
「お前、人狼を殺すつもりだったのか? 答えなければここで殺す」
 これは脅しではない。譲歩しないのなら次の奴に聞くまでだ。
 男は苦悩の表情を浮かべたあと、口を開き、また閉じる。それからもう一度口を開いて、こう答えた。
「ち……違う」
「では何が目的だった? 答えなければここで殺す」
 また男は迷った末に、かろうじてこう答える。
「よ、様子を見に行っただけだ……」
「あたし、嘘つきってキライなんだ。殺しちゃおっか」
 モンザが最高のタイミングで呟き、男は怯えた表情になる。俺もモンザがだんだん怖くなってきた。


 モンザが悪役になってくれるなら、俺は善人を演じてもいいな。ちょうどいい頃合いだ。
「まあ待て、モンザ。こいつらはまだ、何もしていない。協力的な態度を取るのなら、殺す理由はないぞ」
「でも協力的じゃないしなあ……じゃあ、こいつの家族から殺しちゃえばどうかな?」
「落ち着け、それこそ理由がない」
 どこまで本気かわからないが、モンザの態度に男は怯えている。おそらく妻子がいるのだろう。自分の命より、そっちの方が大事なはずだ。


 俺は表情をやわらげながら、男に言った。
「お前は手紙の封を切る銀ナイフを持って、外の様子を見に行った。そうだな?」
「あ、ああ」
 男は俺の顔色をうかがいながらも、うなずくしかない。拘束時に、こいつ自身が言ったことだからだ。
 俺はにっこり笑う。


「それなら、名前を名乗らない理由はないだろう? 本当にそれだけのことなら、魔王軍はリューンハイト市民を殺したりせんぞ?」
 これでも名乗らないのなら、名乗れないようなことをしていたということだ。そう判断して処罰すればいい。
 男も馬鹿ではないらしく、重い口を開いた。
「コズン……ラフォール商会のコズンだ……に、西区で支店長をしている」
 ラフォール商会といえば、商工会の有力メンバーだな。あそこの雇われ店長か。
 よしよし、じゃあもう少し話してもらうとしよう。


 一度口を開けば、恐怖に負けた人間というのは脆いものだ。どこまでを黙っているべきか、判断が狂ってしまう。
「西区の店というと、あの黄色いとんがり屋根の輸入雑貨屋だろう? 良心的でいい店だと、隊商の犬人たちが褒めていたぞ」
「ど、どうも……」
 雑談をして、こいつの心を少しずつほぐしていく。
 俺の背後では、モンザが物騒な目つきをしているはずだ。男の表情でわかる。


「ラフォール商会は商工会で、リューンハイトの治安維持にずいぶん協力してくれている。感謝しているよ」
 お前の雇用主は俺の支配下だと、暗にほのめかす俺。雇われ店長なら、雇用主には刃向かえないだろう。
 俺は支配者としてのプレッシャーを十分に与えた後で、男に尋ねる。
「もう一度尋ねるが、本当に人狼を襲うつもりはなかったんだな?」
「な、ない! そんなつもりはなかった!」
 最初の沈黙はどこかに吹き飛んだらしく、男は慌ててうなずいた。


 俺はにっこり笑う。
「それなら魔王軍は、お前に何もしない。お前の家族や職場にもだ」
 逆に言えば、何か企んでいるのなら家族ごと殺すと脅しているようなものだが、それぐらいの脅迫は許されるだろう。俺たちは支配者なのだ。
 俺は笑顔のまま、こう続ける。
「そういうことなら、すぐにでも家に帰してやろう。単なる誤解で本当に良かったよ」
 まだ怯えた顔をしている男の肩を叩き、俺は尋問を終えることにした。


 最後に釘だけ刺しておこう。
「ああそうだ、銀のナイフも返してやる。大事な財産だからな。なくさないよう、あまり持ち歩かない方がいいぞ?」
 本当の意味はもちろん、「こんなもん持ってうろつくなよ」と言っている。男はすぐさま、コクコクとうなずいた。
 これで多少は懲りただろう。懲りてなければ、次は本当に殺すことになる。
 不本意だが、俺も悪役が板についてきたな……。
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