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杜坂東の事情 作者:おかつ
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第2話 後編

目を開けると、そこはグラウンドだった。
周囲を見渡す。俺の後ろには、俺がよく知っている建物があった。杜坂東中だ。
そのまま目線を左に動かす、と。
「……あれって」
俺の知っている世界にはなかった建物が、そこにあった。
3階建ての木造校舎。恐らく、子供達の『人体実験』に使われていた『小学校』。
……そこで俺は再度認識できた。間違いなく、俺は『異世界』に来れたのだ。
「……つーか、妖力無くなってんじゃねえのかよ『坂杜様』」
そんな事を呟く。俺を『異世界』に飛ばすほどの妖力があるなら普通に霊を成仏させる事くらいは出来るんじゃないのか。
そんな事を考えていると、よく知ってる声が聞こえてきた。
「……佐藤君?」
声がする方を向くと、そこにいたのは確かに真梨恵だった。
真梨恵が俺の方に駆け寄ってくる。俺は真梨恵に声をかけた。――否、かけようとした。
――パチン!
一瞬、何が起こったのか分からなかった。右頬に痛みを感じた時、俺は何が起こったのか理解した。
人生で初めて、真梨恵に、ビンタされた。
「っ……何すんだ真梨……!?」
何か言い返そうと、俺は目線を真梨恵の方に向きなおす。
真梨恵は、怒っていた。これまで何回か癇癪を起こしたことはあったが、ここまで真剣に怒っているのは、初めてだ。
「なんで、来たの?」
「なんでって、真梨恵を助けに……」
「佐藤君まで死んじゃうかもしれないんだよ!?」
「じゃあなんでお前はここにいるんだよ!?」
俺がそう聞くと、真梨恵は一度深呼吸してから言った。
「……『呼ばれた』から」
「……『呼ばれた』?」
俺がそう聞き返すと、真梨恵は頷いた。
「あのね、家に居たら声が聞こえてきたの。『こちらにおいで』って。多分、大人の男の人の声。だから、私、来たの。死んじゃうかもしれないけど、『呼ばれた』から来なきゃって。……佐藤君を、巻き込みたくなかったのに」
俺は、何も言い返せなかった。
暫くの沈黙。風の音だけが妙に聞こえてくる。
……だが暫くすると。
「……ん?」
複数の子供の声が聞こえてきた。俺も真梨恵も声がする方を向くと、木造校舎の方にある道を、小さい子供達が走ってきているのが見えた。
全員、同じような白いTシャツを着ている。……否、よく見ると膝の丈まであるからTシャツというより簡易ワンピースって言ったところか。
そしてさらによく見ると、子供達の右胸の所には何か名札のような物がつけられていて、そこには名前ではなく『4桁の番号』が書かれていた。
「……あの子達も、実験されちゃったのかな」
真梨恵が隣でそう呟く。
「……お前、『知ってた』のか?」
「うん。中1の頃にね、何を思ったのか学校の歴史について調べたことがあったの。それで……知っちゃったの」
「……だから、『死んじゃうかも』って……」
俺がそう言うと、真梨恵は頷いた。
暫くして、一人の男の子がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。他の子達より身長は高めだった。恐らく小学校高学年くらいだろうか。
男の子は俺達の目の前で立ち止まると、不思議な顔をして聞いてきた。
「ねえ。お兄さん達誰?」
「ああー。俺、佐藤光輝。中学3年生」
「私、丑満時真梨恵! 佐藤君と同い年だよー! ……君は、あの建物に住んでる子?」
真梨恵がそう聞くと、男の子は「そうだよ」と返事をした。
「僕はNo.0123。覚えやすいでしょ? 皆からは『一二三ひふみ』って呼ばれてるんだ。10歳だよ」
「あー……一二三君な。これから、皆で何するんだ?」
「ああ。皆で遊ぶんだよ。大人たちは今会議中だから、皆で遊べるのは今の時間しかないんだ。……そうだ! 良かったら光輝も真梨恵もやろうよ、『はないちもんめ』」
――『はないちもんめ』。
成程。あの噂は単なる怖い物じゃなく、実際に子供達がここで遊んでいたんだ。
そんな事を考えていると、真梨恵がやけに明るい声で言った。
「楽しそー! やるやる! 佐藤君もやるでしょ?」
「えっ? ああー良いけど、俺ちゃんとルール分かんねえよ?」
「大丈夫だよ光輝。やっていればなんとなく分かるから」
俺も真梨恵も、一二三に手を引かれ、そのままあの子供達の輪の中に入って行った。


いざ遊んでみると、なかなか楽しいものだ。
他の子供達の名前は、一二三が教えてくれた。殆どが、4桁の番号を語呂合わせで読んだものが多かった。
が、中には本名をそのまま呼んでいる子もいた。恐らく名前までは本当の親に付けてもらったものの、そこから何かしらの事情があって捨てられてしまったり、この施設に預けられてしまったのだろう。
――この後に、何があるのかも知らずに。
今はこうして楽しんでいるが、もしも、『その時』が来たら、この子達はどう思うのだろう。
そんな事を考えていると、一二三が「あっ」と遊びを止めた。
「一二三? どうした?」
「急に止めてごめんね。けど、もうおしまいの時間だから」
そう言って、一二三は時計を指差した。時刻は夕方5時を指していた。それが、遊ぶのをやめなきゃいけない時間なのだろう。そして、それは。
「おにーちゃんたち、ばいばーい!」
「またあそぼうねー!」
その声に、声の方を向く。俺は「おう!」と手を振る事しかできなかった。
――もう、一緒に遊べない事を知りながら。
グラウンドには、俺と真梨恵と一二三だけが残った。一二三は他の子供達が去って行くのを見守ると、再度俺達の方を向いて言った。
「ねえ、光輝達知ってる? あの施設がどんな所なのか」
――知っている。……とは、言えなかった。だが、どう返せばいいのかわからない。
俺も真梨恵も黙っていると、一二三は続けた。
「……あのね。あの施設、実は親のいない子供達を『人体実験』に使ってるんだ。何度も何度も実験されて、死んでいった子だっている。それでね、やりすぎて死んでしまった子達は、このグラウンドの中心部分に埋められるんだ。お墓も作られない。可哀想な子供達。報われない子供達。最期まで、辛い思いをしなきゃいけない、子供達。だけど、だからこそ、ちゃんと警告をしなくちゃいけなかったんだ。ちゃんと」
「それって、どういう……?」
真梨恵がそう聞くと、一二三は俺達を見つめながら、たった一言、言った。

「光輝達……特に真梨恵は、ここにきてはいけなかった」

「それって……俺達、二人とも『人体実験』されるって事か?」
「そうだよ。特に真梨恵。君、親いないでしょ?」
一二三の言葉に、真梨恵は驚いた様子だった。
「なんで分かったの!?」
「分かるんだよ。真梨恵さ、向こうの世界で大人の人に呼ばれなかった?」
「確かに、私大人の人に呼ばれてきたけど……」
一二三からの問いに真梨恵が答えると、一二三は「それだよ」と返した。
「それね、両親がいない人にしか聞こえないんだよ。その声に抗う事も出来たんだけど、残念ながら真梨恵は抗えなかったみたいだね」
「なあ、一二三。この世界から出る方法って……?」
俺が聞くと、一二三は「うーん」と考え、暫くして口を開いた。
「……ない事もないよ。待たないといけないけど」
「待つ……? 待つって?」
一二三からの返答に真梨恵がそう聞き返すと、一二三は再度口を開いた。
「……本当の世界で、誰かが僕等の骨を見つけてくれる事」
「そんなの、いつになるか分かんないじゃん……!」
「そうだよ。だから実質、この世界から逃げ出す事は……。……あっ」
そこまで言ったところで、一二三が何かに気づいた。
一二三と同じ目線の方を見ると、複数人の大人達が、俺達に近づいてきていた。白衣を着ている。間違いない。『研究員』だ。
ふと、俺の服の裾を誰かが握る気配がした。目線をそちらの方にやると、真梨恵が不安げな表情で大人達の事を見ていた。
――こういう時、『大丈夫だ』って言えたらどれだけ良かったか。
だが、そんな事を言える状況ではとてもなかった。
真梨恵を、守ってあげられることが出来たなら。……そんな思いとは裏腹に、足が、体が、動かない。
大人達が、俺達の目の前まで来ようとしている。何かを話しながら。
……が、暫くして。
「……! 光輝! 真梨恵! 後ろ!」
一二三がいきなり声を荒げる。後ろを振り向くと、グラウンドの中心にぽっかり穴が開いているのが見えた。
「なんだあれぇ!?」
「多分、元の世界に戻る為の穴だよ! もう考えてる暇はない! 早く行って!」
「でも、一二三君が……!」
「早く! 二度と戻れなくなるよ!!」
一二三の声に、漸く体を動かす事が出来た俺は、真梨恵の手を引いて穴の方に向かった。
後ろから大人達が追ってくる。足音が聞こえる。一二三の声も聞こえてきた。
「振り向かないで! 僕の事は良いから! 僕はもう死んでるから! だから、振り向かないで走って!」
一二三の声の通りに、俺達は振り向かずに走った。
そして、俺達はそのまま――穴の中へと落ちて行った。


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薄らと、俺達の事を呼ぶ声が聞こえてきた。
目を覚ますと、目線の先には銀河の顔があった。
銀河は、俺達が二人とも目を覚ましたのを確認すると、ホッとした表情で言った。
「よかった……間に合ったようだな」
「松伏君……? 松伏君も来てたの?」
「ああ。本当は佐藤が向こうの世界に言った後に帰ろうとしたんだが、『坂杜様』にアレを頼まれてな」
そう言って銀河が指差した方を見ると、そこには穴を掘った跡があり、その横には複数の人骨のようなものが置かれていた。
「……で、その『坂杜様』は?」
「……俺が掘っている最中に『飽きた』とか言って消えた」
「……あいつとことん自由かよ」
そう呆れながら、ふと見ると、真梨恵が骨に近づいてしゃがみこんでいた。
俺と銀河が顔を見合わせ、真梨恵の方に行く。……が、話しかける事は出来なかった。
――真梨恵は、泣いていたのだ。
俺がどうする事も出来ずにいると、松伏はすぐに真梨恵の傍に行って同じようにしゃがみ、そっと頭を撫でてやった。
――俺なんかより、松伏の方が、真梨恵の扱いに長けている。
その事に少し辛さを感じながらも、結局、どうする事も出来なかった。

ふと時計を見ると、時刻は既に夜の11時を指していた。

【第2話 後日談へ続く】
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