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杜坂東の事情 作者:おかつ
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第2話 前編

かってうれしい はないちもんめ
まけてくやしい はないちもんめ
あのこがほしい
あのこじゃわからん
そうだんしましょ
そうしましょ

きまった

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「で、その『きーまった』って言われた時に目が合ったら異世界に連れてかれちゃうんだって!」
同じクラスのギャル系女子の話に、俺は「へー」とテキトーに返した。
その子は「ちょっと聞いてるー?」と何度もしつこく言ってきたが、とりあえず「聞いてる聞いてる」と軽く流していたら、「なんかつまんないからもういいやー」と他の人の方へと移動していった。

彼女が話していた内容はこうだ。
放課後、下校時間ぎりぎりになって帰ろうと、グラウンドを通って校門まで行くと、数人程度の子供が『花いちもんめ』という遊びをしている。無視してしまえばどうという事はないのだが、最後の『きーまった』の時に目が合ってしまったら、異世界という所に連れて行かれてしまうのだと。
……よくある作り話だ。そんな事を思っていたのだが、『坂杜様』の存在を知ってしまい、尚且つ先日の榊恵久美先生の件を思い返してしまうと、ひょっとしたらこの話も本当にあり得るのではと思ってしまう。
……だが子供っていくつくらいの子供だ? 小学生以下か? ここ中学だぞ?
そんな事を考えていると、後ろから肩を2回叩かれた。銀河だ。
「どうする? 確かめに行くか?」
「確かめるっつったってさあー……今日真梨恵いねえじゃん? 俺達二人だけじゃどうにもできねえって」
俺がそう言うと、銀河は「それもそうだな」と返した。
――そう。今日は『霊』が『視える』側である真梨恵がいない。
3ヶ月に1回行われるカウンセリングの為市内の病院まで行っており、今日はお休みなのだ。
俺は『霊』の声は聞こえるけど姿は白いモヤしか見えないし、銀河にいたっては『霊』の姿も見えないし『霊』の声も聞こえない。
「……とりあえず、『坂杜様』に言いに行くだけはしとこうぜ。なんかアドバイスくれるかもしれないし」
「そうだな。それくらいはしておいた方が、後が楽だろう」
それだけ話し、俺達は次の授業の準備をした。


――その日の放課後、俺達はクラスメイトから聞いた話をそのまま『坂杜様』に言った。
「『花いちもんめ』とは、また懐かしい遊びだな」
「なあ、なんか分かんねえか?」
俺がそう聞くと、『坂杜様』は「そうだな……」と暫く考え、その後「そういえば」と何かを思い出したように話し始めた。
「もう随分と昔の話だが、この中学校のすぐ隣に小学校があった」
「『あった』? なんで過去形?」
「その小学校はただの小学校じゃなくてな。親のいない子供達を集めて――『人体実験』をしていたのだ」
「『人体実験』!?」
あまりの衝撃的な単語に、俺と銀河がそう聞き返すと、『坂杜様』は「そうだ」と返した。
「今となっては当然法律違反だから、その小学校は閉校。関わっていた大人達は全員逮捕された。……その子供達は、おそらく『人体実験』が行われていたその小学校の子供達だろうな。『人体実験』のしすぎで亡くなってしまったんだろう」
「なんだか……、かわいそう、ですね」
銀河がそう言って俯く。誰にでも優しい銀河の事だ。今回の件は相当心を痛めているだろう。
なんだか銀河に申し訳なくて、俺は口を開いた。
「あー、ありがとな『坂杜様』! そこまで聞ければ充分だわ。んじゃ俺達帰るから! 帰ろうぜ銀河」
銀河が「そうだな」と返し、『坂杜様』に挨拶すると、『坂杜様』は「ちょっと待て」と俺達を呼び止めた。
そして――気になる事を言い出した。

「今回の件だが――『丑満時真梨恵』を絶対にグラウンドに出すな」

「ハ? なんでそこで真梨恵の名前が?」
俺がそう聞くと、『坂杜様』は俺の方を見て言った。
「それは、貴様が一番良く知っているはずだ」
「ハア? それってどういう……。……まさか」
俺がハッとした表情で『坂杜様』を見ると、『坂杜様』は「そういう事だ」と頷いた。
そうだ。今回の件、『人体実験をされ過ぎて死んだ、親のいない子供達』が原因。
そして――真梨恵には、両親が、いない。
「……分かった。下校時間ぎりぎりに、真梨恵をグラウンドに出さなきゃいいんだよな?」
「ああ。くれぐれも頼むぞ」
『坂杜様』の言葉に、俺も銀河も頷いた。


「……って言ったって、どう防げっていうんだろうなあ?」
その日の夜、俺は銀河に電話して、休み明けからの行動について話し合った。
真梨恵を、下校時間ぎりぎりにグラウンドに出してはいけない。……だがそれをどうやって防げばいいのだろうか?
俺や銀河は、委員会や部活を引退した後も『課外授業』という放課後の活動が来週から始まる。だが、真梨恵がいる『支援クラス』には、『課外授業』というものが存在しないのだ。帰る時間は当然バラバラになると思うだろうが、『坂杜様』との件があって以来、真梨恵は俺達が終わるまで待ち、それから共に活動するようになったのだ。という事は、『課外授業』が始まっても、真梨恵は俺達の『課外授業』が終わるまで待つだろう。
そして、その『課外授業』が終わるのは――下校時間ぎりぎりなのだ。
『下校するにはどうしてもグラウンドを通らなければならない。……理由をつけて丑満時を先に帰らせるか?』
「いやー無理だと思う。真梨恵の性格上、やるって言ったらやる奴だからな。多分何言っても待ってると思うぞ」
『……それもそうか。……むう、解決策が見当たらないな』
スマホの向こうで唸る声が聞こえる。おそらく考えているんだろう。
俺も必死で考えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「あ、ちょっとごめん」
俺がそう言ってスマホを置き、部屋のドアを開けると、そこにいたのは父親だった。
「ああ光輝。さっき白鳥さんが来てな」
「白鳥さんが?」
――『白鳥さん』というのは、真梨恵の親戚であり、真梨恵の育て親である。
心理カウンセラーをしており、真梨恵の事も色々考えてくれている。
……だが何故白鳥さんがうちに?
「なあ光輝。今日、真梨恵ちゃんと一緒じゃなかったか?」
「ハア? 今朝言ったろ? 真梨恵は今日カウンセリングで病院に行ってるから学校休みだって」
「そうか。……いや、実はな、カウンセリングから帰ってきた後、白鳥さん仕事で外出してたんだ。それで帰ってきたら、真梨恵ちゃんがいなくなってたらしくてな」
「……ハ?」
――今、なんつった?
真梨恵が、いなくなってた? いなくなった?
一人でもいつもちゃんと留守番出来ていた、あの真梨恵が?
俺は父親に「俺ちょっと探してくる!」と言って、置きっぱなしにしていたスマホを手に取り慌てて家を出た。
銀河との電話は繋がっている。俺は走りながらスマホを耳に当て銀河に言った。
「聞いたか銀河!? 真梨恵がいなくなった!」
『ああ聞いた。俺も今家を出た。……考えられるのは、あそこしかない』
「やっぱそうだよな! じゃああとで、『学校のグラウンド』!」
俺がそう言うと、『分かった』という声の後、電話は切れた。
――考えられるのはひとつ。真梨恵は、学校に行ったのだ。しかも、グラウンドに。
だが分からないのはその理由だ。何故真梨恵は学校のグラウンドに? 誰かに誘われたのか?
……もし間に合わなかったら? もしも、既に真梨恵が『異世界』に連れて行かれてしまっていたら? 二度と、真梨恵には会えなくなるのか?
「……間に合え」
頼む。どうか、間に合ってくれ。
そう願いながら、俺は学校のグラウンドに向かって走り続けた。


グラウンドに着く。銀河は……まだ到着していないようだ。
「真梨恵……真梨恵は……!」
真梨恵の名前を呼びながらグラウンドを見回す。何度も。何度も。何度……も?
「……!」
ふと、グラウンドの中心に黒く長い髪の女子が立っているのが見えた。
服は制服じゃなかったが、間違いない。見間違えるはずがなかった。
「真梨恵!!」
――その少女は、真梨恵だった。
俺が名前を呼ぶと、真梨恵はこちらに気づいたような仕草を見せた。……そして。
「来ちゃダメ!!!!!!!!」
その言葉を最後に――俺の目の前で、消えた。
間に合わなかった。間に合わなかったのだ。真梨恵が、俺の目の前で、消えた。
「佐藤!」
後ろから銀河の声が聞こえたが、振り向く事が出来ない。
銀河の足音が近づいてきて、俺の隣で止まった。そして、銀河は何かを覚ったように聞いてきた。
「……佐藤。まさか……間に合わなかった、のか?」
――俺は、ゆっくり、一回だけ頷いた。
暫くの沈黙。怖いくらい静かだ。……だが、数十秒後。
「何だなんだ。珍しいではないか」
『坂杜様』の声が聞こえてきた。
「どうしたどうした? そんな死んだ魚のような眼をして」
「……丑満時が、異世界に連れて行かれた」
『坂杜様』からの問いに答えたのは銀河だった。……が、『坂杜様』は「なんだ」と返した。
「そんな事で落ち込んでいたのか」
「そんな事って……! 真梨恵は俺達の大事な……!」
「阿呆。そんな事くらい知っておるわ」
「じゃあなんで……!」
俺がそう聞くと、『坂杜様』はとんでもない事を言い出した。

「そんなの、異世界に行けば良いのだ」

「……そんな事、出来るんですか?」
銀河がそう聞くと、『坂杜様』は「私の力を使えば出来ない事もない」と返した。
「だが、私が異世界に送れるのは佐藤か松伏、どちらか一方だけだ。貴様等二人とも連れて行くには力が足りぬ」
『坂杜様』のその言葉に、俺は迷う事なく返事をした。
「だったら、俺が行く。真梨恵が目の前にいたのに助けられなかったんだ。絶対、俺が連れて帰る」
『坂杜様』は「ふむ」と言って銀河の方を見た。
「……それで良いか、松伏?」
「ええ。丑満時の事は、俺より佐藤の方がよく知っていると思うので」
『坂杜様』は「そうか」と返事をして、再度俺の方を見て言った。
「なら佐藤、ひとつだけ忠告しておく。向こうの世界に行ったら、『白衣を着た大人達』に気を付けろ。そやつらが謂わば『研究員』だ」
「……分かった」
俺が返事をすると、『坂杜様』は俺の方に手を翳した。
すると。
「!?」
『坂杜様』の手が光ったと同時に、俺自身も光り出した。俺は眩しくて目を瞑った。


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(松伏視点)

「……どうなっているんだ」
俺は、思わず自らの目を疑った。
佐藤自身と『坂杜様』の手が光ったかと思えば、数秒後には、俺の目の前で佐藤が消えたのだ。
あまりに非現実的な事が起こりすぎて、思考が追い付かなかった。
「……とりあえず、俺は今回出番はないようだな」
そう言って帰ろうとすると、『坂杜様』に引き止められた。
「待て。貴様何処に行く?」
「何処って、帰るんですよ。だって今回俺の出番ないでしょう」
俺がそう言うと、『坂杜様』は「何を言う」と返した。
「貴様にはこれから、この世界でやってほしい事があるのだ」
「やってほしい事?」
「そうだ」
『坂杜様』はそう返事をすると、俺に一枚の紙を渡してきた。
見ると、それは地図のようだった。……だが一体どこの地図だ?
「あの、『坂杜様』。これは……?」
俺がそう聞くと、『坂杜様』が地図を指さしながら説明した。
「その地図は、この杜坂東中学校の昔の地図だ。これが昔の中学校、こっちが小学校だ。これがグラウンドで……その中央にバツ印がついているのだが、そこには実験で死んでいった子供達が埋められた」
「埋められた……!? という事は、ここを掘ると……!」
「そう。子供達の骨がゴロゴロ出てくる」
『坂杜様』はそこまで話した所で、何処から出したのかスコップを俺に渡してきた。
「これ」
「……まさか、俺にバツ印の所を『掘れ』と?」
俺がそう聞くと、『坂杜様』は「当たり前だ」と返した。
「体力ならあるだろう? それに、無惨に殺されていった子供達の為だ。掘り返さなければならない。そうでなければ、彼等は報われぬ」
――そんな事を言われてしまっては、断れない。
俺は『坂杜様』からスコップを受け取り、バツ印と同じ場所に行き、そこを掘り始めた。
「……彼等を、見つけてやらなければ」
俺は、そう呟いた。


【第2話 後編へ続く】
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