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杜坂東の事情 作者:おかつ
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佐藤光輝の事情 ~進路~

【作者より】
このお話は『杜坂東の事情』のサイドストーリー、小話的なものです。
読まなくても大体の話は分かりますが、読んでおくと物語がより楽しめる……かもしれません。

本文は以下から始まります。

-----------------------

「あと少し遅かったら、榊恵久美は『悪霊』側になっていたかもしれんな」
――榊先生の件が解決した翌日の放課後、俺が『坂杜様』に会いに行くと、会ってそうそう『坂杜様』はそう言った。
「確かに、俺が『榊先生は自殺したと思ってた』って言った後の榊先生、すげー様子がおかしかったな」
「あれが『悪霊』になる一歩手前の段階だ。熊谷が来るのがもう1日2日遅かったら、熊谷は榊に殺されていたかもしれん。……貴様等の行動が熊谷を決心させたのなら、まあ、よくやった方ではないか?」
「なんだよその微妙な褒め方……。褒められてんのか褒められてねえのか分かんねえよ……」
俺が呆れ顔でそういうと、『坂杜様』は「一応褒めておるのだがな」といつもの怪しげな笑みで言った。

――仮に。もしも。榊先生が『悪霊』になっていたら、熊谷先生は今頃死んでいたかもしれない。
熊谷先生が、もしもずっと決心がつかずにいたら、もしかしたら俺や銀河、真梨恵の誰かが……。そう考えるとぞっとする。
全てを打ち明け、罪を償う事を決心してくれた熊谷先生には、感謝しかない。……できれば、卒業まで見守ってほしかったのだけれど。
熊谷先生に告げられた判決は『終身刑』。俺が毎朝見ているニュース番組で聞いた。
……榊先生が許しても、神様や仏様は許してくれなかったらしい。
熊谷先生の幸せを、榊先生は祈ってくれていたのに。
……俺も、願っていたのに。

「時に」
色んな事を考えていると、『坂杜様』が口を開いた。
「貴様、進路は考えておるのか?」
「……なんでお前に教えなきゃなんないんだよ」
俺がそう言うと、『坂杜様』は「興味本位だ」と返した。
「興味本位だが大切な事だぞ。貴様とて、いつまでも松伏や丑満時と一緒にいるわけにはいくまい」
――そうだ。
『坂杜様』の一言で、俺はハッとした。
そうだ。いつまでも、銀河や真梨恵と一緒なわけじゃない。真梨恵は市内の通信制高校に通う心算だと言っている。銀河は杜坂高校普通科が第一志望らしい。……俺は。
「……都内のエリート校に行けって、親が」
俺がそう言うと、『坂杜様』は「なんと」と驚いた表情で言った。
「驚いた。貴様頭は良い方だったのだな。てっきり運動だけが得意なただの脳筋野郎かと」
「うっわすげえ失礼な事言われた!? これでも学年二位だっつーの! 銀河には勝てねーけど!」
俺がそう返すと、『坂杜様』に「貴様がか!?」と更に驚かれた。こいつすげえ失礼だわ。
だがその後、『坂杜様』は「しかし」と真顔になって言った。
「それは貴様の親の意思であって、貴様自身の意思で決めたわけではないのだろう? 本当にそれでいいのか?」
……確かに、俺の意思じゃない。
俺自身は、都内のエリート校に行きたいなんて思っていない。本当は地元に残りたい。地元にだってエリート校はあるはずだ。
だが、父親はともかく、母親が俺の意見を聞いてくれるはずがない。
俺の母親はかなり頭が良く、都内のエリート校に通っていたらしい。大学も超有名な所に通っていたと聞いた事がある。それ故か、勉強の事になるとかなり厳しかった。部活だって本当は反対されていたが、父親の説得でなんとか許してもらえたのだ。……だが、進路となると恐らくそうもいかないだろう。
「……『坂杜様』にはわかんねえよ、俺の家庭の事情なんて」
俺はそう言って「じゃ、俺帰るから」と『坂杜様』に背を向けた。
「待て佐藤」
「なんだよ。まだ何かあんのかよ」
「貴様の家庭の事情は知らん。そんな物私の知った事ではない。……が、あくまで決めるのは貴様だ。貴様が都内のエリート校に行きたいならそれでいい。だがそうではないのなら……。……後悔しない方を選べ」
『坂杜様』のその言葉に、俺は何も返さず、そのままその場を後にした。

――『後悔しない方を選べ』。

「……分かってんだよ、そんな事」
だが、あの母親を相手に、どうすればいいんだ。俺が説得しても、父親が説得しても、多分無理だ。
「……どうすりゃいいってんだよ」
そんな問いを呟いてみても、答えてくれる人は、いない。


【佐藤光輝の事情 ~進路~ 完】
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