表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/23

佐藤光輝の事情 ~進路~

【作者より】

このお話は『杜坂東の事情』のサイドストーリー、小話的なものです。

読まなくても大体の話は分かりますが、読んでおくと物語がより楽しめる……かもしれません。


本文は以下から始まります。


-----------------------


「あと少し遅かったら、榊恵久美は『悪霊』側になっていたかもしれんな」

――榊先生の件が解決した翌日の放課後、俺が『坂杜様』に会いに行くと、会ってそうそう『坂杜様』はそう言った。

「確かに、俺が『榊先生は自殺したと思ってた』って言った後の榊先生、すげー様子がおかしかったな」

「あれが『悪霊』になる一歩手前の段階だ。熊谷が来るのがもう1日2日遅かったら、熊谷は榊に殺されていたかもしれん。……貴様等の行動が熊谷を決心させたのなら、まあ、よくやった方ではないか?」

「なんだよその微妙な褒め方……。褒められてんのか褒められてねえのか分かんねえよ……」

俺が呆れ顔でそういうと、『坂杜様』は「一応褒めておるのだがな」といつもの怪しげな笑みで言った。


――仮に。もしも。榊先生が『悪霊』になっていたら、熊谷先生は今頃死んでいたかもしれない。

熊谷先生が、もしもずっと決心がつかずにいたら、もしかしたら俺や銀河、真梨恵の誰かが……。そう考えるとぞっとする。

全てを打ち明け、罪を償う事を決心してくれた熊谷先生には、感謝しかない。……できれば、卒業まで見守ってほしかったのだけれど。

熊谷先生に告げられた判決は『終身刑』。俺が毎朝見ているニュース番組で聞いた。

……榊先生が許しても、神様や仏様は許してくれなかったらしい。

熊谷先生の幸せを、榊先生は祈ってくれていたのに。

……俺も、願っていたのに。


「時に」

色んな事を考えていると、『坂杜様』が口を開いた。

「貴様、進路は考えておるのか?」

「……なんでお前に教えなきゃなんないんだよ」

俺がそう言うと、『坂杜様』は「興味本位だ」と返した。

「興味本位だが大切な事だぞ。貴様とて、いつまでも松伏や丑満時と一緒にいるわけにはいくまい」

――そうだ。

『坂杜様』の一言で、俺はハッとした。

そうだ。いつまでも、銀河や真梨恵と一緒なわけじゃない。真梨恵は市内の通信制高校に通う心算だと言っている。銀河は杜坂高校普通科が第一志望らしい。……俺は。

「……都内のエリート校に行けって、親が」

俺がそう言うと、『坂杜様』は「なんと」と驚いた表情で言った。

「驚いた。貴様頭は良い方だったのだな。てっきり運動だけが得意なただの脳筋野郎かと」

「うっわすげえ失礼な事言われた!? これでも学年二位だっつーの! 銀河には勝てねーけど!」

俺がそう返すと、『坂杜様』に「貴様がか!?」と更に驚かれた。こいつすげえ失礼だわ。

だがその後、『坂杜様』は「しかし」と真顔になって言った。

「それは貴様の親の意思であって、貴様自身の意思で決めたわけではないのだろう? 本当にそれでいいのか?」

……確かに、俺の意思じゃない。

俺自身は、都内のエリート校に行きたいなんて思っていない。本当は地元に残りたい。地元にだってエリート校はあるはずだ。

だが、父親はともかく、母親が俺の意見を聞いてくれるはずがない。

俺の母親はかなり頭が良く、都内のエリート校に通っていたらしい。大学も超有名な所に通っていたと聞いた事がある。それ故か、勉強の事になるとかなり厳しかった。部活だって本当は反対されていたが、父親の説得でなんとか許してもらえたのだ。……だが、進路となると恐らくそうもいかないだろう。

「……『坂杜様』にはわかんねえよ、俺の家庭の事情なんて」

俺はそう言って「じゃ、俺帰るから」と『坂杜様』に背を向けた。

「待て佐藤」

「なんだよ。まだ何かあんのかよ」

「貴様の家庭の事情は知らん。そんな物私の知った事ではない。……が、あくまで決めるのは貴様だ。貴様が都内のエリート校に行きたいならそれでいい。だがそうではないのなら……。……後悔しない方を選べ」

『坂杜様』のその言葉に、俺は何も返さず、そのままその場を後にした。


――『後悔しない方を選べ』。


「……分かってんだよ、そんな事」

だが、あの母親を相手に、どうすればいいんだ。俺が説得しても、父親が説得しても、多分無理だ。

「……どうすりゃいいってんだよ」

そんな問いを呟いてみても、答えてくれる人は、いない。



【佐藤光輝の事情 ~進路~ 完】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ