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杜坂東の事情 作者:おかつ
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第3話 前編

「つーかさー、『青ひげ』って結構どす黒い内容なんだなー」
図書室で借りてきたグリム童話集の『青ひげ』の部分を読んで、俺はそう言った。
過去に脚本の経験が何度かある俺は、満場一致で脚本担当にされた。だが、正直に言って実際に存在する物語から台詞だけの台本を作るのは結構難しい。大方の動きも組み込まなければならないのだから尚更だ。
と、いう訳だから。
「うーん、でも決まっちゃったから仕方ないよねー。……あっこれ多分この台詞よりこうの方が良いかも」
過去に脚本も演出も経験がある真梨恵に教えてもらいつつ進めていた。
だったら真梨恵がやればいいんじゃないかと思うかもしれないが、真梨恵は今回の劇の中では主役級の役を与えられている。彼女は負担をかけすぎると爆発してしまうタイプだから、できるなら自分の役に集中させてやりたい。
……だが、俺じゃどうしても分からない所も出てくる。そういう時だけ、真梨恵を呼んで助言を貰うのだ。
「……っし! 今日はここまでにしとくか。サンキュー。ごめんな真梨恵、自分の役でいっぱいいっぱいなのに」
「いーのいーの! 脚本考えるの楽しいし、佐藤君が困ってるんだもん。助けられる所は助けてあげないと!」
「……そっか。ありがとな」
俺がそう言うと、真梨恵は満面の笑みで「いいってお礼なんて!」と言った。
その後だった。
「何だ、劇の脚本か?」
「うぉっ!?」
後ろから聞こえたその声に驚き振り向くと、そこにいたのは『坂杜様』だった。
「ったくよー! いきなり後ろから出てくんのやめろよなー!」
「そんなの、いつ出てこようが私の勝手であろう。……ほう、『青ひげ』か。また物凄い内容を選んだものだな」
「『坂杜様』、『青ひげ』知ってるの?」
「大体はな。詳しくは私も知らぬが、何か物凄くドロドロとした物語だと記憶しておる」
……まあ、間違っちゃいないな。
俺がそう思っていると、『坂杜様』が「おっと」と言った。
「違う違う。私はそんな話をしに来たわけではないのだった」
「ハア? じゃあ何の話だ? また『霊』の話か?」
「関連しなくもない、が」
『坂杜様』は、俺の問いにそう返すと、真剣な表情で言った。

「……近々、『松伏銀河』に何かが起こるかもしれぬ」

「……松伏君に?」
真梨恵がそう聞くと、『坂杜様』は「そうだ」と返した。
……銀河に、何かが起こる? どういう事だ? 銀河が何をしたっていうんだ?
「詳しい事は私にも想像しかねるが、放っておくのは危険かもしれぬ」
「それは、『霊』にとり憑かれる的な意味でか?」
「……その意味でも、奴自身の精神的な意味でも、だ」
銀河の、『精神的な意味』?
一体どういう事だ? 実はいじめられていたとか? そんなまさか。だって、あいつは他人の事を心配できるような男だぞ。そんな奴が、まさか。
色々と、考えたくない事が浮かんでいく。そんな事、信じたくない。違うと信じたい。……けど。
そんな事を考えながら、俺はその場を離れた。

----------------------------

翌日。俺はいつものように真梨恵を迎えに行ってから、真梨恵と一緒に学校に向かった。
そして、いつものように銀河と合流し、学校の中に入る。が。
「……ん?」
何故か、学校掲示板の周りに人だかりが出来ていた。
「あれれー? 何かあったのかなー?」
真梨恵がそう言って、人だかりの中に入ろうとする。
俺も銀河もそれに続いたが、何人かが俺達に気づき、何かをひそひそと話しながら避けていく。
「おいおいーなんだよなんだよ、何があったっての?」
俺がそのまま進んでいくと、学校掲示板の前で真梨恵が固まっていた。
真梨恵が俺の声に気づいて振り向く。その顔は、いつもの真梨恵じゃなかった。
「ねえ、松伏君……。これ、どういう、事?」
そう言って、真梨恵は学校掲示板に貼ってある貼り紙を指差した。
俺も銀河も、その貼り紙を見る。

『松伏銀河は 本当は女だ』

「何、だよ、コレ……」
俺は、貼り紙を見て固まった。真梨恵は、じっと銀河の方を見ている。
周りからひそひそと声が聞こえてくる。
すると、銀河が掲示板の貼り紙に近づき、それを破くかのようにはがした。
そして、周りに集まっている生徒の方を見て、叫んだ。
「この貼り紙を貼ったのは誰だ!? 犯人がいるなら名乗り出ろ! 今なら拳一発で許してやる!!」
……返事はない。やはり素直に名乗り出ないものだろう。
すると銀河は、とある一人の女子生徒の方を見て形相を変えて近づき、生徒の胸倉をつかんだ。
「お前か!? お前が貼り紙を貼ったのか、柳崎由乃!!」
『柳崎由乃』と呼ばれたその生徒からの返事はなかった。それでも銀河は問いただす事をやめなかった。それどころか、言い方が徐々にエスカレートしていく。
「どうせお前が貼ったんだろ!? 正直に言え! 言うんだ! さもなくば……!」
流石に止めなければ。そう思い俺と真梨恵が近づこうとした、その時だった。
「いい加減にしてください!!」
俺とも、真梨恵とも違う声が聞こえてきた。
声の方を、その場にいた全員が振り向く。そこにいたのは、白い杖を持った男子生徒だった。
「……後藤?」
どうやら、銀河は彼の事も知っているようだった。
後藤は、銀河の方に近づくと、話を続けた。
「松伏先輩、この間、僕の事を助けてくれましたよね? その時、松伏先輩は凄く良い人だと思ってました。このイヤな事だらけの学校に、そんな優しい人がいるなんてって。……正直、幻滅しました。松伏先輩も、所詮、ここにいるであろう醜い心を持った人達の内の一人にすぎないんですね」
「後藤、違う、俺は……」
「違うなら、今由乃さんに掴みかかっている手を離してください」
暫くの沈黙の後、銀河は由乃から手を離した。
由乃は銀河の事を一瞬睨むと、その場を走り去った。
その後、真梨恵が銀河に近づいて言った。
「……正直、私も後藤君と同じ事思ってた。今のは流石に、最低だよ」
「丑満時……」
銀河がそう呼ぶ声を無視するかのように、真梨恵は後藤の事を支えながらその場を去って行った。
その後、徐々に生徒達もその場を離れ、その場に残ったのは俺と銀河だけになった。
銀河は俺の方を向いて言った。
「……お前も、幻滅したか?」
――何も、答えられなかった。
暫く沈黙が続いた後、銀河は一つため息をついて言った。
「……少し頭を冷やしてくる。新見先生には、少し遅れると言っておいてくれ。……お前も早く行かないと遅れるぞ」
その後、銀河はその場を離れた。続いて俺もその場を離れる。
……ふと、『坂杜様』の言葉が蘇ってくる。
――『松伏銀河』に、何かが起こる。
「……大丈夫かな、あいつ」
そう呟くが、もはや解決策は、見当たらない。

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(松伏視点)
――やってしまった。
音楽室の中にある物置部屋の中で、俺は頭を抱えた。
あんな貼り紙に取り乱し、後藤に、丑満時に、佐藤に、その場にいた生徒全員に、幻滅された。
何故あんな取り乱し方をしてしまったんだろうか。あんな貼り紙に。
……昨日の柳崎とのあの会話があったからか? いや、それにしてもだ。
「……今までいじめられていた分が、爆発してしまったのか?」
俺は、自分自身に問いかけるようにそう言った。
……が、その直後だった。

――辛いのかい?

何処かから声が聞こえてきた。
「……誰だ?」
聞いた事のない声に、俺は周囲を見渡した。どうやら物置部屋にはいないらしい。
物置部屋から出て音楽室に戻る。すると。
「……ん?」
窓際に、男子生徒が一人立っていた。
彼は俺の方をじっと見ている。
「……お前は?」
俺がそう聞いても、俺の問いには答えず、彼は俺に問い続けた。
『辛いのかい?』
「辛いって、何がだ?」
『いじめられて、隠していた事を晒されて、取り乱した結果周りに幻滅される。……君は辛いかい?』
「……俺は」
『辛いのかい?』
彼は、俺に同じ事を何度も問い続ける。
俺は、何も考えず、彼からの問いに答えた。
「……辛い。辛いんだ、凄く。……ひとりに、なりたくない」
『……そう』
――次の瞬間。
「!?」
身体がいきなり動かなくなった。息が苦しい。何だこれは。叫ぼうとするが、声が出せない。どうする事も出来ない。
結局、そのまま俺は、意識を失った。


【第3話 後編へ続く】
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